124 / 139
Natrium
第百二十一話 開幕、魔大戦
しおりを挟む「クソっ!離せっ、武力で抑えようとするならば武を以って正すのみ!」
「ぐほぁ」
「く、この女……何者だ!?おいそこの端兵!手練だ、城内から応援を呼べっ!!」
魔力機の街灯が照らす薄暗い都の城門前には一人の女騎士が複数の警備兵に囲まれていた。
銀色のフルプレートアーマーに身を包む女剣士、一見何処ぞの荒れくれ者のようだがその主張は正しく民の代表とも思える発言だった。
しかしそんな一般国民の言葉をおいそれと受け入れるような国の兵士はここに一人としていはしない。
力づくでその蛮女を取り押さえようとする兵士達、それをまた力づくで振りほどこうとする女剣士。
城門前はいつしか、それを見学する為に集まった人だかりに満ちていた。
「お前らはそれでも国の騎士か……民は苦しんでいるぞ。あまつさえ歳いった者を死刑などと許せるものか!国王を出せ!今すぐだ」
「応援はまだかっ!突破されるぞ!」
籠城のリヴァイバル王国。
国王は国民から吸い上げた税を貯めこみ、いつかの戦の為にただひたすらその身を潜めていると言う。
その上でリヴァイバル王国は国民の士気を僅かな税の還元以外で保つ為、自分達よりも立場の低い奴隷と言う制度を採用した。
当然ながら奴隷にするのは専ら人間ではない種族である。
未だその発生区域こそ判明してはいないが、リヴァイバル国内には獣族と言う亜人の集落があった。獣族は成人すると人間の数倍の運動能力を発揮し危険と言われるが、知能は低く幼い内から躾を施せば従順な下僕となるのだった。
それを上手く利用し、国民を宥めるように助言したのは他でもないファンデル王国第三王子ダルネシオン=ファンデルである。
現在も秘密裏にそんな奴隷確保をリヴァイバルの人間と共に行い、働けなくなった年寄りを一掃して少しでも国出を減らす案を出したのもまたダルネシオンその人だ。
最早今のリヴァイバル王国はダルネシオンの支配下と言っても過言ではなかった。だがそれは何れファンデル王国をその手中に収める為だと現リヴァイバル国王もそんなダルネシオンの言葉を呑むしかなかったのだろう。
「騒がしいですねぇ……何の騒ぎかと思えばこんな所で何を暴れているのです?」
「シャペ元帥っ!?」
「い、いえ……この者が城内へ侵入を」
「貴様がこの国の兵士を纏める者か!国王に会わせろっ、物申す!」
黒髪の長髪はべたついた艶により街灯に反射する。細身の体躯は兵士を纏める者というより最早死に体の老人のようであったが、シャペ元帥と呼ばれたその男の兵装は他の兵士とは違う装飾の施された、明らかに上階級のもの。
シャペ元帥は現国王より前の先代国王の時からこの国にその側近として君臨しているが、それがいつからかと言うのは今のリヴァイバルで知る者はいない。
「国王に?ほほ、それはそれは豪胆な……しかし国王は今お休み中なのですよ。此処の取り仕切りは代役の私がさせて頂いております。して、ご用件は?」
「しらばっくれるな、貴様ら!この国の民を何だと思っている!税を毟り取り、獣族の子供を奴隷だと?あまつさえ年寄りを死刑にする法などあってたまるか!」
「ほぅほぅ……何かと思えば、下らない。貴方達もこの程度の者を捕らえられないとは何とも情けない話」
「もっ、申し訳ありませんっっ!」
シャペ元帥は微笑みながらも呆れ、辺りに倒れた兵士に侮蔑の目を向ける。だがその言葉は女剣士、レヴィーナを逆撫でさせるのに十分のものだった。
「下らない……だと?」
「えぇ、下らないです。そんな話等どうでもいい。それに見た所貴女、この国の人間ではありませんねぇ。ノルランドでしょうか?そういえばあそこの国もここと同じような法がありませんでしたか?まぁどうでもいい話ですが……兎に角私は今忙しいのでこれ以――?」
レヴィーナが向けた切っ先、それはシャペ元帥の喉元にあった。
だがその状況にあってもシャペ元帥は微動だにしない。
「……どうするおつもりで?力で国を捻じ伏せられるとでも?」
「必要ならそう、させて貰う」
◆
レヴィーナ=レジベンス。
彼女はノルランドの第二都市で生まれ、育った。
他の都市に比べ規模は小さく、一つのアーコロジーとしては豊かとは言い難い都市。
だがそれでも両親と共に幸せに暮らしていた。両親も少し歳を重ねすぎたものの念願の子供に幸せを感じ、レヴィーナを可愛がった。
だが人一人の人生等、世界の決断一つであまりにも唐突に、あまりにも容易く変わる。
小さなアーコロジーの資源は限られていた。
それは大国ノルランドであろうとも、寧ろ外部との交戦を嫌う国だからこそ、自国の資源は貴重であった。
よって仕事の出来無いもの、資源を食い潰すような人間は国に不要だった。
ノルランド皇国の皇帝は国内全土の、ある一定の年齢に達した者を皇国管理元に置く法を建てたのだ。
きっかりと、確実に国の為に働いてもらう為。
国の未来の為、役立つ貴重な人材になる若者達の負担にならぬよう。身体の不自由になりそうな歳の人間を国で強制的に管理し、使えなくなったら処分する。
これがノルランド皇国が新たに定めた絶対的な法であり、正義であった。
レヴィーナが20になる頃、レヴィーナの両親はその法に則り皇国の管理下へ連行された。
正義と言う大義名分、そして武力の前にレヴィーナは為す術も無かった。
婚約中であったレヴィーナ、幸せを前に人生の絶望を叩きつけられた瞬間であった。
レヴィーナは強くなる事を決意した。
大切な人間を奪った国に一人反抗する為、全てを投げ捨て、レヴィーナは冒険者となった。
強く、誰にも負けない武力こそが本当の正義を正せる唯一のものだと信じて。
◆
「武を以って自らの正義を押し付けますか……何とも人間らしい。ですがまぁ、貴女のような者は久しく見なかった。いいでしょう、お相手して差し上げますよ、このままでね」
「ふっ!」
シャペ元帥は微笑みを崩さないまま、レヴィーナの向けた剣先をすり抜けゼロ距離からの一蹴を見せた。レヴィーナはその動きに素早く反応し、バックステップと半身を捻る事でそれを躱す。
「温い!」
「は!?」
だがシャペ元帥の動きは異常であった。
殺気。次の一撃でレヴィーナは直感的に殺されると理解させられた。
長き旅、幾多の交戦、そしてA階級まで登り詰めた彼女だからこそ判る、本気でやらねば自分が殺られると言う半ば野生の勘にレヴィーナの身体は自然に動いていた。
――――ボッ
「きっ、貴っ様?!」
「こっ殺した!?」
「死、死罪、死罪だぁ!全兵を呼べぇぇ!!」
「しまっ……」
レヴィーナはシャペ元帥の首を、ただ反射的に、切り落としてしまったのだ。
そこまでするつもりではなかった。
峰打ちで終わらせるつもりだった。
そしてせめて国王と話したかっただけなのだ。
だがレヴィーナの身体は身の危険を感じ、極自然に、反射的に相手を、敵を、殺してしまった。
今までにレヴィーナは人間を殺した事は一度たりとも無い。
それは、それが自分の正義だと信じていたからだ。そして、それ程脅威となるような人間を相手に敵対した事が無いからとも言える。
だが今レヴィーナを見ながら宙を舞う首は、確かにレヴィーナが振り払った瞬速の剣により飛んだもので間違いは無かった。
「な、ころ……私は」
絶望。自らが起こした現実は正義に反するもの。レヴィーナは今までの怒りすら全て消える程の悪寒を感じ、真っ白になる思考のまま、今しがた人間を斬り殺してしまったその剣を取り落とす。
「正義とは、笑える」
「――っ!?」
だが次の瞬間、レヴィーナは腹部に違和感を感じ視線を僅かに下げる。そこには一つの腕。
伝ってみればその腕はシャペ元帥から伸びる長き一本の腕であった。
レヴィーナの腹部を確実に貫いたその腕、その長さは凡そ人間のものとは思えない程異常に、長くなっていた。
「ぐぅ……ぐ、ほ」
「お遊びはもう終わりですよ人間。どうやら先走った馬鹿どものせいで我等の戦いが始まってしまったようですからね」
見れば首のないシャペ元帥の元には一匹の蝙蝠が羽ばたいていた。
首無きシャペ元帥にまるで何か話しかけるように飛ぶ蝙蝠。
レヴィーナの思考が再び戻った時、その目には異様な光景が映っていた。
「ぐぎゃっ」
「シャ、シャペ元帥ぃぃ!?」
阿鼻叫喚、次々と伸びるシャペ元帥の腕によって引き千切られていく兵士達。
そして装飾の施された兵装を破きながら変貌していくシャペ元帥は黒紫色の体躯を現す。
レヴィーナが切り落とした筈の首からは再度、否新たな体躯と同色の不気味な顔が生えていたのだ。
「がっ……ガー、ゴイル、だと」
「ご苦労でした。ん、ああ、あの勇者の小僧が死にましたか。もう少し持てば使い道もあったと言うのに……まぁ仕方ないでしょう。少し早いが魔大戦を始めるとしますか。我ベルゼブブ率いる種ガーゴイルは前魔王セレスに仕えましょう。ここの人間も使い道があるかどうか、まあいい、下っ端のガーゴイル共、適当に此処を一掃しなさい」
レヴィーナには理解出来なかった。
今目の前で起こる事態が。
誰かに、これを伝えなければならない。そうは思うが、誰に。
ふと脳裏にシンと言うどこか不思議な男の顔が過ぎったが、その時既にレヴィーナはその生涯を終えていたのだった。
人の死、それは誰にも等しく訪れる。
その人間の悲しみや不幸、幸せの数等関係無く、唐突に、それはとても不平等で、だが平等な死だった。
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる