竜の子孫達

神部 大

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Chapter A

sec.6

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 日は完全に落ち辺りは薄暗い外灯がポツポツと灯るのみ、人も歩いてはおらず外は冷たい風が吹き抜けていた。


「おおぉ、寒いっ!」

 と思った頃には身体が既に温まっている。ソウイチはどうやら寒さとか暑さなど、そう言ったものをあまり感じない体だ。
 最初は気にもしていなかったが、こう言った寒いと言われる時期になると他の人との違いに首を傾げることが多々あり、自分はそういった体質なのだと知った。

 本人としては他の皆と同じように寒いと言いながら風情を感じてみたいと言うのもあるが、こればかりは生まれつきだから仕方無い事である。
 ソウイチはせめてもと外気の冷えた空気を体に吸い込みながら家路へと向かった。

 歩き慣れたフォーサイドの街はソウイチにとって今や例え暗がりだろうと呼吸をする様に歩ける。
 鉄製の扉が締まった商店、ガラス戸に閉店と張り紙がされた飲食店、それらを通りを抜け脇道に逸れると様々な店舗から出た廃品が集められたゴミ捨て場の脇を通り更に歩く。

 カイトの店を出てから20分程歩いただろうか……もうすぐマイホームだな等と思っていたそんな刹那、ある一点に見える人影を見つけソウイチはふと疑問を抱いた。


 黒だか灰色だかといったそんな外套に身を包む人間が今にも切れそうな街灯の奥に佇む。
 普通ではない、ソウイチは反射的にそう考えた。

 何故ならそれはこんな時間に人が歩いている事がおかしいからだ。
 言っても普通なら商店通りから近いこの道に人の一人や二人いてもおかしくはないだろう。
 だが今はワンサイドで祭り事があり、ここはグリゼル帝でもっとも人気の少ない荒れた町。ソウイチの経験がここにいる人間を異物と認識していた。


 とにかく帰ろうと再び歩みを進めるが、その人影は動くことなく立ち竦んでいるようだった。
 暗がりで良くは見えないが、なるべく関わらない様距離をおきながらその横を通り過ぎようとして──

「――君がソウイチ君か」


「んぉっ!?」

 そう声を放ったのは他でもない、暗闇に融ける様な外套に身を包んだソイツだった。



「君が噂のソウイチ君か……」

「……あんたは誰だ?」

 若干の狼狽えを見せても不味いと、ソウイチはまず名を名乗って貰おうと声を絞り出す。


「あぁそうだね……」と、そいつは呟いた筈だ。

「えっ……」

 筈だと思ったのは、目の前からそいつの姿が消え失せたから。

「なっ!?」

 刹那背後から先程の男であろう声が聞こえ、咄嗟に後ろを振り返る。
 瞬時の移動、考えられない程の早さにソウイチは術式の使い手かと判断した。
 術式には様々種類があるらしいが、ソウイチ自身は余り詳しい事は知らない。組合員にもそう言った術式が使える人間がいるらしいが、ここフォーサイドでは今までに出会した事はない。


「なっ、一体どうなって──んのぁ!!」


 男は突如細身の剣を抜き放ち、此方に向けて最短距離での一撃を繰り出したのだ。
 長剣スキル『一閃の煌』、組合員でも剣に覚えのあるクラスナイトA級レベルの剣技だ。
 ソウイチも持ち前の動体視力で咄嗟に慌てて胸のホルスターから銃を抜くが、男の剣を受ける準備をした所でその切っ先は寸前で静止していた。

 寸止め、クラスオールであるソウイチだが剣技は苦手、男は完全にソウイチを舐めていた。

「ふっ、ふざけん──」

「──へぇ……凄い反応だな、今のが見えたんだ」


 男はそんなソウイチなどお構い無しに言葉を遮って呟く。

「あまり調子に乗るなよ……おふざけもこの辺にしとくか」

 完全に喧嘩を売られたと判断したソウイチはそう呟くと、腰を落とし、半身の体制で男に相対した。
 即座に男の懐まで飛び込み、右に一歩踏み込む。そのまま瞬時に地面を蹴り、その足で相手の顔面を狙った。
 無手スキル『瞬撃闊歩』。だが、相手は下手をすれば自分より格上、手加減は無用とソウイチは判断し全力で男に追撃の蹴りをお見舞いする。

 だが、確かに当たった様に思われたソウイチの蹴り技に手応えはなかった。



「……おっと、流石はフォーサイドでクラスオールをやってるだけあるね、噂通りだ。君さ、僕らの仲間にならないかい?」

「仲間……だと?」



 突如現れ、ソウイチの名前を呼び、挙げ句に異常な程刃渡りの長い剣を向けたその男は全く見当も付かない言葉を口にした。

 ソウイチ自身この男が何を言ってるか米の粒ほども分からない。言うならばあまりの衝撃事態にショックを受けて脳系の病にかかったと感じてさえいたのだ。

「っと……そうだ、僕とした事が。名前も分からない奴に仲間にだなんて、不思議なのも当然だよね」


 黙り込むソウイチを見るなり何を思ったのか男は被っていたフードを取りながらそう呟く。
 フードを取ったその姿は、誰もが振り返るだろう金髪碧眼のイケメンだった。その端正な顔立ちは、声を聞かなければ女とも思えそうなレベルまでに達している。


「僕はゲート。これでも剣の扱いはそこそこの物だよ?」
「ぇあ!?」


 その男は自らをゲートと名乗るなりまたもや──消えた。

 そして今度は再び背後から姿を現すそのイケメン。ソウイチは思った、こいつはかなりハイグーレドな痴漢野郎だっ!……と。


「く……さ、さっきから何だってんだ。用がないならこれ以上関わらないでくれ」


 何となく自らの勘が警鐘を鳴らしている、そう感じてソウイチは早いとこ話を切り上げて人違いを装う事に決めた。



 手刀を切りながら痴漢イケメン野郎の前を通り抜けながらこの場を去ろうと考えたソウイチ。

「チョイチョイチョイットナ……」

「……こら」



 どうやらこのシナリオを避けて通ることは叶わない、そう思わせる程男の声は先程とうって変わり冷たく低い物になっていた。

 内心で少しの焦りを感じていた。
 仕事でそこそこの狩りや修羅場は経験した、喧嘩も殆んど負け知らず、だが目の前の男は訳のわからない技で突然消えることが出来、とてつもないスピードで剣を振るう。
 果して今ここでコイツと殺り合って勝てるのだろうか? ソウイチの頭の中はシャドウバトルで一杯だった。


「ちなみに君はこの世界にいる狂人の存在を知っているかい?」

 狂人。
 大陸中心部に位置する死の森に存在すると言う化け物だ。
 時としてそれは街を襲い、無き物にすると言う。
 この世界に生きるものなら一度は聞いたことのある、決して近付いてはいけない生き物。
 軍態を率いても未だその討伐には終わりが見えないと言う。
 死の森に入った軍隊は尽く帰らぬ者となっていた。

 だが狂人が街を襲うのは頻繁ではない。
 ごく希になんの前触れもなく街を襲う。クラスナイトA級の人間すら数人では下手に太刀打ち出来ないのだ。狂人が街に現れれば、半壊は覚悟しなければならない。

「今ジン帝では新たな軍を組織しようと試みていてね、僕の様な優秀なクラスナイトを集めた最強組織さ。それで人材集めをしている最中にたまたま立ち寄った此処で君の事を聞いたんでね、勧誘してみたのさ」


 ジン帝といえば先程カイトとの会話の中で何やら変な動きがあると言う様な事を言っていたのを思い出した。
 しかし自らを優秀と言う辺り、余程実力に自信があるようだ。だがそれは先程ソウイチも身を持って感じている。
 クラスナイトA級、他の地域にはこんな強者がゴロゴロしているのか。ソウイチは自信を無くし始めていた。


「そりゃぁ、期待はずれで悪かったな。どちらにしろ俺はここから動く気は無いんだ」


 この街の教会にはソウイチを慕ってなついてくる孤児達がいる。
 カイトの店も唯一無二の最高の空間、組合にも長々と世話になり、気心知れた奴等がいつも集まっている。
 あまり綺麗とは言えないこのフォーサイドの街だが、ソウイチにとって長年住んで愛着もある……そして何より俺を拾って育ててくれた神父を捨てる訳にはいかない。
 ソウイチは今後もこの街を出るつもりはなかった。

「君はなかなか優秀だよ、僕が少し強いだけさ。まぁ、こっちも人手不足らしくてね、まぁいいや。気が向いたらいつでもジン帝においでよ、取り合ってあげるからさ。じゃ、またねソウイチ君」

 ソウイチの覚悟はよもや何の意味も成さず。
 ゲートと呼ばれるイケメンは一人で勝手に話をまとめると、恐らくは何らかのスキルか術式を使い暗闇の中へ消えてしまった。


 「何だってんだよ、結局無駄に時間食っただけじゃねーか……しかしあれは、術式か」


 脇道に申し訳程度に設置された電灯が、さっきまで出来事を幻に思わせる。ソウイチは少しの間途方に暮れていたが、ふと気を取り戻すと自分の家はもうすぐ目の前だと言う事を思い出した。

「とりあえず帰るか……」

 ソウイチは寒空の下一人そう呟くと、家賃の滞納されたマイホームへと足を向けた。
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