町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

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閑話 モートン枢機卿の過去と闇の胎動

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モートン枢機卿の過去と闇の胎動

ヴァルシア王国は表面上穏やかな時を迎えていたが、王都ルミエールの裏では暗雲が広がっていた。魔獣の襲撃が辺境で頻発し、闇市場での奴隷売買が横行する中、ミリス教の頂点に立つモートン枢機卿、クロヴィス・モートンが静かに暗躍していた。彼の心には、かつての聖人としての輝きはなく、欲望と憎悪が渦巻いていた。クロヴィスの過去と、ヴァルドール家への深い恨みが、魔王復活の計画を加速させ、ヴァルシア王国を危機に導く。

クロヴィスの若き日々
聖人と英雄の影

クロヴィス・モートンは、30年前、ヴァルシア王国のミリス教の若き神官として名を馳せた男だった。金髪に青い瞳、穏やかな微笑みと清廉な雰囲気を持つ彼は、神聖魔法の天才として知られ、特に回復魔法の腕は他の追随を許さなかった。魔獣大戦が王国を揺さぶった時代、クロヴィスは戦場の最前線で負傷した兵士たちを癒し、絶望する民衆を鼓舞する姿で「ミリスの聖人」と称された。瀕死の騎士を一瞬で回復させ、魔獣の毒に侵された村人を救う彼の姿は、希望の光そのものだった。

しかし、戦場の英雄として民衆の心を掴んだのは、ルシアン・ヴァルドールの父ギデオン・ヴァルドールと祖父バルドリック・ヴァルドールだった。ギデオンは剣聖と呼ばれるほどの剣技で魔獣を斬り伏せ、バルドリックはソードマスターの豪快な戦いぶりで敵を圧倒した。彼らの活躍は吟遊詩人の歌にまでなり、民衆の喝采を浴びた。クロヴィスは戦場で無数の命を救いながらも、ギデオンやバルドリックの華々しい武勇の前にその功績が霞みがちだった。村人たちは「ギデオンの剣が魔獣を討ち、バルドリックの斧が道を開いた」と語り、クロヴィスの癒しの魔法は「必要だが地味」と囁かれた。

クロヴィスは表向き穏やかな微笑みを崩さなかったが、心の奥では苛立ちと嫉妬が芽生えていた。「なぜ俺の力が認められぬ? 命を救うのは俺だ。なのに、なぜヴァルドールばかりが…」彼のプライドは傷つき、聖人としての清らかさが徐々に曇り始めた。戦場で兵士を癒しながら、クロヴィスはヴァルドール家の名声に苛立ちを募らせ、いつしか彼らの輝きを憎むようになっていた。

エリシアとの出会いと裏切り

クロヴィスの心に決定的な暗い火が灯ったのは、ギデオン・ヴァルドールがエリシアと結婚した時だった。エリシアはミリス教の神官であり、クロヴィスと同じく神聖魔法の使い手として戦場で活躍した女性だった。柔らかな銀髪と優しい笑顔、強い意志を秘めた瞳を持つ彼女は、クロヴィスの心を強く惹きつけた。クロヴィスはエリシアに密かな想いを寄せ、戦場の合間に彼女と語り合う時間を宝物のように大切にしていた。「エリシア、君の魔法は民を救う。俺と一緒に、ミリス教を導こう」と語ったこともあった。エリシアは微笑みながら、「クロヴィス、あなたの力は素晴らしい。でも、私の心は戦場で民を守る者に惹かれる」と答えた。

その言葉が現実となったのは、魔獣大戦の終盤、ギデオンがエリシアを救った戦いだった。魔獣の群れに囲まれた村で、エリシアは子供たちを守るために魔力を尽くし、倒れそうになっていた。そこに駆けつけたギデオンが剣を振るい、魔獣を一掃。エリシアを背に守り、彼女に「大丈夫、俺がいる」と笑いかけた。その瞬間、エリシアの瞳に映ったのはギデオンの誠実さと揺るぎない強さだった。二人は戦場での絆を深め、やがて愛を誓い合った。クロヴィスはその光景を遠くから見つめ、胸に焼けるような嫉妬を感じた。「なぜギデオンなのか‥俺の魔法は、俺の心は、彼女に届かなかったのか‥」

エリシアとギデオンの結婚は、クロヴィスの心を完全に闇に染めた。彼はミリス教の権力を利用し、汚い手段で枢機卿の座を奪取した。賄賂を贈り、対抗者を陥れる裏工作を重ね、若くしてミリス教の頂点に立った。国王レオニス・ヴァルシアの側近として権勢を振るう彼は、表向きは清廉な聖職者として振る舞いながら、裏では欲望のままに動いた。金と権力で女性たちを凌辱し、教会の清らかさを裏切る行為を繰り返した。彼の心には、かつての信仰の光はなく、ただギデオンとエリシア、そしてヴァルドール家への憎悪だけが燃えていた。

ハーシーへの冷酷な仕打ち

クロヴィスの冷たさは、息子のハーシー・モートンにも及んだ。ハーシーの母は彼が幼い頃に病で亡くなり、クロヴィスは息子に愛情を注ぐことなく、道具として扱った。「お前はモートン家の名を継ぐ者だ。弱さは許されん」と繰り返し、ハーシーに厳しい教育を課した。ハーシーは父の冷酷さと権力欲の中で育ち、歪んだ性格を形成していった。クロヴィスはハーシーの心を意図的に操り、憎悪と嫉妬を植え付けた。特に、セリア・フィオーレとの婚約破棄を命じた時、クロヴィスはハーシーの心をさらに闇に染めた。「傷物の女に価値はない。モートン家の誇りを守れ」と冷たく言い放ち、ハーシーの愛を踏みにじった。

ハーシーは父の命令に従いながらも、セリアへの執着を捨てきれず、それが歪んだ形で爆発。クロヴィスは息子のその感情を利用し、黒い水晶を通じて魔王の囁きを聞かせることで、ハーシーを魔王復活の器として育て上げようとした。クロヴィスにとって、ハーシーは単なる道具であり、愛情の欠片もなかった。「お前の憎悪は、魔王の力を呼び覚ます。私のために、ヴァルドール家を潰せ」と命じるクロヴィスの声は、冷たく響いた。

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#### クロヴィスの計画:闇の胎動

モートン邸の地下研究室では、燭台の薄暗い光が揺らめ、魔力石から漂う黒い霧が部屋を満たしていた。クロヴィスは黒いローブの男たちと密談し、テーブルの上に置かれた魔力石を手に取る。その石は脈打つように光り、触れる者に不気味な囁きを響かせる。「魔王の魔気を制御できれば、王国の秩序は我々の手に。奴隷も、魔獣も、全ては神の意志を体現する道具だ」とクロヴィスは低く言う。ローブの男の一人が「枢機卿、魔獣の実験は進むが、制御は不安定です。騎士団が魔王城に近づけば、計画が露見する恐れが‥」と進言。クロヴィスは冷笑し、「騎士団など、魔気の前に脆い。ハーシーが私の駒として完成すれば、ヴァルドール家も国王も潰れる」

クロヴィスの計画は、ヴァルドール家を陥れ、王国の権力を掌握することだった。闇市場を通じて奴隷交易の利益を拡大し、魔力石を大量に仕入れ、魔獣を操る魔術を完成させる。魔王の残滓を復活させ、その力を利用してヴァルシア王国を支配する――それが彼の最終目標だった。クロヴィスはかつての信仰を捨て、魔王の囁きに耳を傾けるようになった。ミリス教の礼拝堂で一人、祭壇の前に立つ彼は、かつての神聖な祈りではなく、暗い呪文を唱える。「ギデオン、エリシア‥お前たちの輝きは俺が消す。ヴァルドール家を潰し、王国を我が手に」

王都の暗部と民衆の不安

ルミエールの闇市場では、モートン枢機卿の部下が魔力石と奴隷を大量に仕入れている。衛兵隊長ラルフはモートン家の船を監視するが、証拠をつかめず苛立つ。「枢機卿の動きが怪しい。だが、ミリス教の権力は強すぎる」と部下に漏らす。市場の商人たちは「辺境の魔獣が王都に近づいてる」と囁き合い、パン屋の老婆は「昔の英雄みたいなのがいないと、魔獣は止まらんよ」と愚痴る。冒険者ギルドの依頼板は魔獣討伐の依頼で埋まり、受付嬢エマは「こんな数の依頼、初めてだ。ギルドも人手不足よ」と頭を抱える。

王宮では、国王レオニスと貴族の対立が続いていた。第一騎士団長オルウェンは魔王城の廃墟への調査隊を組織し、魔獣の異常な力の源を突き止めようとするが、モートン枢機卿の影響力が貴族の間に広がり、調査は難航していた。オルウェンは「魔王の残滓が蠢いている。ヴァルドール家の力を借りねば」と考えるが、クロヴィスの妨害がそれを阻む。
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