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クールな彼(嘘)女の百合日常
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───────もう勘弁してください…
閑静な住宅街に囲まれた学校で繰り広げられる激戦!?冬の寒さも忘れるような熱さだ。
そんな中、打ち出したサーブは、コートに入ること無くネットにかかった。これでダブルフォルトとなり、今までの激戦が嘘のように静まり返る。
「ゲームセット!!汐那菜月ペアの勝ち!!」
「よっしゃー!!初めて勝った!!」
「やったね!菜月」
「どうだー!!末唯!」
「ハイハイ!負けましたよ。」
「(そりゃ…あんなの見たら…ね?)」
「負け惜しみかぁ?だらしないぞぉ!」
「まぁまぁ。そのくらいにしておいてね。菜月。初めて勝てて嬉しいのは分かるんだけどね…程々に程々に。」
「べ、別にそういう訳じゃないし!今までは手加減してやって…」
「ごめんね!末唯ちゃん。末唯ちゃん達に勝つために菜月、色々作戦練り続けてたから…」
「汐那ー!!そういうのは言わなくていいんだってばー!!恥ずかしいだろ!」
「アハハ…ごめんね。言っちゃった…」
申し訳なさそうに舌を出して平謝りをする。
『絶対!わざと言っただろー!!』なんて大声を出して言ってるけど、ホントに申し訳ない。今、頭の中はテニスよりも…
「大丈夫?末唯ちゃん?」
「(何か?私の右腕を覆う柔らかいものが…ってこ、これは!!)」
「ヒャッ!か、加奈!ど、どしたの?」
「(変な声出た!めっちゃ恥ずかしいんだけども!で、でも、誰だってね!女の子のお胸で腕を挟まれたら…こんな声が…って自分も女の子なんですけども!)」
「最近ね?末唯ちゃんの調子が悪い気がしてね…もしかして私が邪魔しちゃってるんじゃないかなって思って…?聴きたかっただけだよ?」
「(テニスだと冬でも手袋をしてやるのは、感覚が変わってやりづらくなるからしない人の方が多いのは知っている。だからって…萌え袖にして!ラケットを腕に抱えて!両手を口元に置いておくポーズは可愛すぎるんじゃないか!!?)」
「い、いや!そんなことはないよ。ちょっと寒くて私の動きが悪かっただけだよ。気にしないで大丈夫!!私がサーブの時の前はあんなふうに…動いてくれれば……」
「末唯ちゃん?なんか少し顔が赤くなってるけど…?体調は大丈夫?」
「だ、大丈夫!大丈夫!寒くて赤くなっちゃったのかなぁ?アハハ……」
「(言えない…絶対言えない。前で加奈が構えてる時に、すぐ動けるように、前傾姿勢でこっちにお尻を突き出すように構えていて、左右に動いてるから、誘ってるようにしか見えなくてテニスに集中出来てませんなんて!絶対に!!言えない!!!)」
「はい!じゃーこの辺で部活は終わりにしようかな?居残り練習したい子はいる?」
「部長!私はもう少し練習したいです。」
「菜月ちゃんが残るのであれば私も残りたいです。」
「別に、無理しなくていいんだぞ!」
「そんなこと言って!1人じゃろくな練習出来ないでしょ!あと、片付けだって2人の方が、早く終わるからね?」
「オーケー!分かったわ!藤宮先生の方には私の方から伝えておくから、鍵の方頼むわね」
「了解です。部長!」
「(凄いやる気…ダブルスになった時のここのペアとは、あんまりやりたくないんだよなぁ。普通に強いし息ピッタリだし。加奈に迷惑かけるし…)」
「私達も残る…?今日のミスのところ修正した方がいいかも?かな?」
「(首傾げた姿っていうですか?もう最高です。文句なし今日イチ可愛いです。私の心のボルテージは有頂天!!使い方合ってるか分からないけども!)」
「いや…今日は辞めておくよ。良くない調子の時にやっても意味無い気がするし。明日やろうかな?それでいい?」
「末唯ちゃんがそう言うなら…私はそれでいいけど…」
「それじゃ!私は先に更衣室行ってるから。」
「うん。分かった…。私は少し残って練習するね!!」
「オーケー。じゃあね。」
「(よし!自然に…自然に!会話出来ていただろうか?いや!出来ていた!パーフェクトだよ。末唯!!
でも、これだと素っ気ない言い方しかできないんだよなぁ。でも、実際テニスだって、全然集中出来てなくて迷惑かけてしまっている始末だし…)」
「おぉ!?加奈も残っていくのか?」
「うん。少しやり残した感があってね…」
「あれでも?末唯ちゃんは?」
「今日はやめておくって言ってた。」
「なんだあいつ!!ウチに負けてしょげてんのかぁ?」
「またそんなこと言って!次負けちゃうよ?」
「なんだよ!別に次も勝てるし!!」
「でもね!私はここで少しでも!末唯ちゃんに近づけるように頑張らないと!!」
「加奈ちゃん…。そうね。私達もまた勝てるようにね!菜月ちゃん」
「うぇー…。なんだよいきなり"ちゃん"付けで呼ぶとか気持ち悪いな…」
冬の寒空の下、3人はお互いに残した課題を無くすために、練習を続けた。呼吸するたびにでる白い息。コートに響き渡る音。お互いに切磋琢磨し、目標のために練習を続けた。
「(私の天使が可愛すぎる!盗み聞きは、悪いのは知っていますが、『私に近づくために頑張る』とか!可愛すぎるでしょ!?
って流石にストーカーみたいだから辞めておこう…でも、いつからだろうか?こんなにも加奈を《好き》になったのは───────)」
加奈とは小学校からの幼馴染みで、親友だった。昔から、他人を気遣う優しくて暖かい子だった。クラスでも、分け隔てなく会話をしてくれていた。私は、自分から話すことが苦手でよく1人でいた所を加奈の優しさに救って貰った1人だった。
それからは、よく話すようになり色々な話をするようになった。勉強の話、テニスの話。そして、恋愛の相談まで…
その頃から、男子から告白されるようになっていた。でも、テニスを第一に考えていた私には『恋愛』よく分からなかった。
私は、男子に告白される度に加奈に相談した。相談は、いつの間にか忘れていつもの日常会話に変わっていく…私は、心の中では相談よりも加奈との会話を求めていたのかもしれないと今は思う。
『恋愛』なんてものは、テニスをする脳では1番遠くて、テニスを1番に優先していた私には遠い話…だけどそんなことはなかった。それを口実に、『加奈が好き』という事を認めたくなかっただけかかもしれない…
「末唯。加奈とは何かあったの?あんまりプレーが上手くいってないみたいだけど…?」
「大丈夫ですよ…部長。私が寒くて動けてないだけなんです。どうも調子が上がらなくて…」
「そうなのね。でもね、そんな時こそペアの会話は必要よ。特に、加奈はあなたのことには心配してるんだから。そのへん気をつけなさいよね?」
「そうですよね…ありがとうございます…」
「そうね。次の試合までもまだ──────」
「(知ってますよ…加奈が私のとこをよく気遣ってくれるのは。)」
いつしか、私の目線は…意識はコートで打っている《加奈》を向いていた。
「(…ですけどね… その優しさが、私には暖かすぎるんですよ。)」
心はもう嘘を付けなくなっていた。『女の子同士の恋愛』をしている自分に。それは、不思議なほどに抑制でき無くなっていく。まるで、蟻地獄のようにもがけばもがく程沈んでいく…
会話しているのが楽しくて、一緒にいるのが楽しい。でも、こんな恋愛間違ってる。関係が崩れてしまうかもしれない。漫画の世界ならきっと、巻を追うごとに愛は深まっていくのかもしれない。でも、それは本の世界。架空の出来事。現実は?そんなの分かってる…試練を乗り越える度に奮闘する主人公と乗り越えられないと勝手に決めつけ、全てを諦めている私との違いなんだって…そんなことは、自分が1番理解してる。
《そんなのは分かってるんだよ。それでも…》
そんなことを思い続ける。そんな自分がたまらなく嫌だった。
「───────っておーい?聴いてるかー?」
「えっ!?すいません。あんまり聞いてなかったです。なんの話でしたっけ?」
「全くそういう所よ!私の話よりも"加奈"ちゃんばかり見てたけども!!そんなに大切ならちゃんと伝えなさいよ!!」
「えっ…!?!?そ、そんなこと!!?」
「何!顔赤くしてんのよ?遠くから見てるだけなら、教えてあげればいいのに?
あんた上手いんだから!!」
「いや!?み、見てなんか!?」
「はいはい。そういうのはいいからあんたも練習練習!私の方から先生には延長するって伝えてくるから来るから。ほら、行った行った!!」
「あ、はぁ…。分かりました」
「分かればよろしい!」
「それじゃ。先生の方にはよろしくお願いします」
「はいはい。藤宮先生には言っておくわ」
流石は部長だ。よく周りを見ている。1クラス分ほどいる部活を仕切っている部長だからね。とはいえ、何を考えているかよく分からない所もある。よく先生と一緒にいる所をよく見るが…まぁ部活も一緒だからなのかな?
「初々しい!!あんなに顔赤くして反応しなくてもいいのに。可愛いわね。お互いに初心なのもまたいいわ!亜紀ちゃんにも話そうっと…」
彼女は微笑みながら、校舎に向かっていく。
何もない道をまるでサーカスに行くかのように楽しそうに……
「そんな事言われても……」
もう一度加奈を見る。懸命にボールを追いかけ頑張る姿は、健気でなんとも可愛い。
私だって一緒にテニスはしたい。だけども、あんな姿をずっと見てしまったら集中なんて出来ない。一生懸命に頑張っている彼女に対して、私はそんな不誠実な気持ちでなんて合わせる顔なんてない。
「だってそうでしょ?こんなのおかしいって分かってるのに……」
彼女を…加奈を避けようとすればするだけ、それとは裏腹に心は私を離してくれない。もう、心が苦しくてたまらない。
「今日はやめて帰って休もう。」
そう、雨の降りそうな冬の鉛雲に呟くと更衣室へと歩き始める。部長には、申し訳ないがこんな状態でテニスはできるわけが無い。
《また逃げるの?自分の気持ちにまた嘘をつくだけでしょ?》
そんな真っ当な正論なんて分かってるんだよ!!でも、それがわかったところでどうにかなるの?そんな分かりきった未来なんて見るより、私からしてみれば、加奈と離せなくなる事の方が
───────何よりも怖いのだから
決意するように、更衣室のドアを開ける。
「(誰だってそうだと思う。好きな人と居れなくなることは辛いことだから。だったら私は嘘をつき続ける)」
「私は、加奈が『嫌い』…」
そう呟きかけたと同時にドアが活き良いよく開く。
「末唯ちゃん……私のこと嫌い…なの?」
「なにゃ!んでここに!!」
唐突に現れた想い人の登場に、またしても声が裏返る。さっきまでコートでラリーしていたはずなのに。更衣室が凍りついた気がした。
「(どっ、どうしてここに?いや、さっきまでテニスコートに…いたんじゃ…??)」
「練習してたら、部長さんと話してる末唯ちゃんが話し終わった後には、こっちに来るのかなって思ってたんだけど…やっぱり更衣室の方に……向かっちゃったから……どうしようと思ったら2人が行ってきなって…言ってくれたから走ってきたんだ……」
「(どうりで、息が上がっているということか…
私には会うために、走ってきてくれるなんてなんて健気!!って今さっき決めたばかりなのに…揺れるな私の心!!)」
「そ、そうだったんだ…。な、なんかごめん…」
「そんなことないよ!!私が話したくて勝手来ただけだから…それだけだから……それだけ」
徐々に小さくなっていく声のトーンに意識がいく。更衣室が狭くなっていく……
「(不味い!!これはとてつもなくまずいですよ!?)」
「あのー?加奈さん…?」
「さっきの話って…ホントですか?」
「あぁ。いやー。それは…」
距離感が分からなり敬語になってしまっている彼女の言葉に返す言葉が見つからず、言葉が詰まる。
「(言えない。言えるはずがない。あなたの事が好きで好きで堪らないけど、そんな恋愛おかしいからって貴方の事を『嫌い』になります。なんて言えるはずが──────ない!!)」
「ご、ごめんね。気づかなくて…色々迷惑だったよね?テニスも初心者で。それなのに、末唯ちゃんと組ませてもらって。全然出来なくて…足引っ張ってばかりだし、お節介だったから、当然だよね……?」
「い、いや、そんなこと───────」
「(違うんだよ。違うって言うんだよ!私!!
でも、どう言えば…)」
正直に言ってしまえば、この関係はボロボロに崩れ去ってしまう。きっとそうなる…
この彼女との距離が永久に遠く。遠くなっていく……そんな気がした。
「(でも、誤解は何としても解かないと!!)」
「そんなことはないよ。さっきのは言葉の綾というか…なんというか…」
「いいんだよ…。大丈夫だから。」
俯く彼女の目は悲しそうだった。そうさせたのは紛れもない私だ。そんな顔は見たくない。そう思うと体は動いていた。自分の想像を超えるような、いつもでは考えつかないような大胆な行動を───────
「好きだよ。加奈。」
俯く彼女を包み込むように抱き寄せる。そう耳元で囁く。彼女が驚き、声が出ずに体を震えさせていたがそれを無視して、できるだけ強く抱きつく、この鼓動が加奈に聞こえる程に。
『ここで言わなきゃ後悔する』
そんな心の声が聞えたんだ。それだけ
加奈の事を思った結果だった。
「(それにしては……わ、私!大胆すぎないか!!?)」
「ま、末唯ちゃん!!?ど、どうしたの??」
「加奈のことこれだけ好きだって知って欲しかったんだ。嫌いなんて思うはずないよ。大好きだよ。加奈。ただそれだけは伝えたかったんだ。」
「(な!何を淡々と!!平然な顔で恥ずかしいことを言うなー私ー!!)」
「あ、ありがとう。良かった…。『友達』にこんなに好きって言ってもらって…なんか安心しちゃった。でも、少し苦しいよ!?末唯ちゃん!?」
そう腕から離れていきながら微笑むうちの天使はとてつもなく可愛い
だが、忘れてはならなかった!?
「うん?今なんと?」
「うん?何を?」
「友達…として?」
「『友達』にこんなに好きって言ってもらって安心したって…って言ったよ?それがどうしたの?」
「(忘れていた…心配そうに首を傾げる彼女は何も理解してないわけだ。そうだよね?君!ド天然だもんね!!)」
「そ、そうだね…友達ね…」
でも、良かった。これで良かったんだ。
少し焦ったがこれでまだいれる。
君の近くに。そばにいられる。
《それで終わりでいいの?》
──────そんな心の声が反響する
「(そうだよ!!ここまで 言えたんだ!
覚悟決めろ!私!!
踏ん張れ!怖い?そんなの分かってる
それでも伝えるんだ!思いを!!)」
「その好きは友達としてじゃないって言ったら?どうする?」
「え?それってどういう事…?」
ハッとした様子で私を見ていた。
流石に天然な彼女でも理解出来たのかもしれない。
その瞬間、全ての音が消えた。
ただ、自分の鼓動だけが張り裂けそうにリズムを刻む。
「私は──────
加奈と付き合いたいです……」
部屋に静けさが訪れる。
言ったことに対する恥ずかしさと言われたことに対する驚きで両者とも声を出せなくなっていた。
「(い、言ってしまったぁー!!
し、心臓出てきそう…)」
心臓の音が加奈にも聞こえているのではないかと思うほどに、拍動している。
こんなにも『告白』とは緊張するものなんだと理解した。今まで告白してきてくれた男子を尊敬する程に
「(き、緊張した!!でも!伝えられた。伝えたいこときちんと言えた。もしかしたら───────)」
そんな甘い理想は脆く音を立てて崩れていく見上げた先の光景は残酷だ。
なぜなら"彼女の目には涙が浮かんでいた。"
«終わった…最悪。取り返しつかないことをしてしまった»
壊れていく私。音を立てて崩れていく関係。
少しでもいけると思った私を殺したい。
こんなの間違っているって知っていた。
女の子を好きになるなんて。初めから間違っていたんだ。
分かっていたのに。知っていたのに。
この思いはどこまでも傲慢で私を惑わせたんだ。
幻想を夢見させて…私を狂わせた。
「ごめん。そうだよね?こんなのおかしいよね?
変だよね?女の子を好きになるなんて……
そうだよね?」
もう遅い。後の祭りだ。
もういれない。入れる権利は剥奪さ、たった一瞬で世界が一変した気分だった
「(こうなることなんて分かっていたのに、どうして私は……なんて馬鹿なんだろう)」
「忘れてくれて構わないから。迷惑かけたね?疲れてるのかなぁー?私?さぁ。帰ろっと…」
忘れれるはずなんてない。言ってしまった言葉は消すことなんてできない。
だからこそ彼女からの次の言葉が来る前に逃げようとしている。荷物を素早くまとめ現実からも立ち去ろうとしている。
こんなことになるのだったら、もう『消えてしまいたい』そんなことすら思っていた
「(こんな気持ちにならなければ…
こんなにも好きにならな───────)」
「───────嬉しい………」
それは、唐突だった。両手で涙を拭いながら加奈の震える声で答えてくれた。
世界はまた動き始めてくれた
「い、今なんて…?」
「……嬉しいよ……ごめんね。
嬉しくって返事するのが遅くなっちゃった…」
「(なにがどうなってるんだ?
頭の処理が間に合わないぞ。
何かの間違いなのか?
幻聴か?いや、そんなことは無い!!
確かにこの耳で聞こえたんだ。『嬉しい』って!!)」
「え?ちょ、ちょっと待って!?!?
なっ何がどうなってるの?う、嬉しいってどういう意味!?」
「そ、そんなに!末唯ちゃん!ち、近づかれたら…!?」
思わず帰ろうとしたドアから驚きで加奈の方へと方向転換。
距離を間違えてギリギリでぶつかりそうになる!
「ご、ごめん!?でも!今のって!?」
「嬉しいよ!!心の底から嬉しい!!」
「ほ、ホントに?」
「ホントだよ!本気の本気だよ!末唯ちゃん!」
ほっぺを抓ってみる。
右頬に刺激が走る。
「(イタイ。現実だ。
今のが?ホントに?
ありえないでしょ?)」
「私、女の子だよ?気持ち悪くないの?」
そうだ。私は女。彼女も女。
そんな恋愛。きっと間違っている。
「そうだよ??だからどうしたの?
だって!!そんなの関係ないよ!
全然気持ち悪くなんてないよ!?」
「ど、どうして?だって普通じゃないんだよ?」
「それって!!たまたま好きな人が女の子だったって話ってだけなんだよ?
なんにも間違ってなんかないよ!?だって好きになることに間違いなんてないんだから!!」
身振り手振りを交えながら、涙が残るクシャクシャな笑顔で懸命に彼女は言ってくれた。
「(これはもう天使!!いい子すぎるよ!!
慈愛を感じる!!もう大好き!!)」
「でも、ずっとそういう目で加奈を見てたんだよ?それでも気持ち悪くない?テニスだって?加奈に見蕩れてて、出来なくなってて…」
「うんうん。全然そんなこと思わない!
少し恥ずかしいけど嬉しいし、今やっと分かったんだよ…
───────私も末唯ちゃんが『好き』なんだって」
そう一呼吸置いて彼女が言った言葉に、私は惹き付けられた。何よりも嬉しいその言葉に
「え?」
「(ナンダッテ?
ワタシノコトガスキ?)」
恥ずかしさに身を震わせながら、
顔を紅させ、恐る恐る覗き込むように見るその彼女の姿があった
「(可愛い。可愛すぎるでしょ?何この子?
これ以上もう言えないくらいに可愛い!)」
「ずっとね?かっこよかったんだ。憧れだったんだ。末唯ちゃんが!!
その何か一つに頑張ってる姿が……
私にはそんなもの無くてね?周りの目ばかり気にしてた。でも、そんな時に末唯ちゃんに出会って色々話するようになって、少しずついる時間が楽しくなって。愛おしくなっていったんだ。もっとお話したいって。そばにいたいって思うようになったんだ…」
私と一緒だった……
ずっと同じことを思っていたのかもしれない
それがたまらなく嬉しかった。
思いが通じたんだって、心から思えた。
霧が晴れていく。そんなふう感じた。
「今、末唯ちゃんの思いを聞いてやっとわかったんだ!本当の気持ちが!!!
私も末唯ちゃんが好きなんだって!」
「もしかして、高校からテニス部に入ったのもって?」
「そうなんだ!入ったら末唯ちゃんと今よりもっと話せるかなって思ってたの!!
気づいてないだけで私も末唯ちゃんのことよく見てたんだよ!テニスしてる時の末唯ちゃんが凄くカッコよくて見蕩れてたから…
なんか少し照れ臭いけど…?」
彼女は微笑みながら、手で顔を隠すように恥ずかしそうにする。
「(そ、そんな恥ずかしそうに言われたら!!いやいや、私もよく見てました!
もしかして、天使!もう天使!昇天する!
なんでもいいから、とにかく可愛い!!)」
「へ、返事って……?よろしいですか…?」
「あ、はい……
───────こちらこそお願いします」
「(ヤッター!!日本語おかしかったけど!!
もうパーティー!脳内パーティーだ!!
嬉しい。嬉しすぎる!!)」
「よろしくお願いします!!」
「なんで、敬語になってるの私たち!?」
「なんでだろうね?不思議だ!?」
そう言い合いながら、笑い合う。
そんなくだらないことでも愛おしく思えてくる。冬なのが嘘なんじゃないかと言うほどあたたさが部屋に充満していた。
「(本当に良かった。試練を超える勇気があって。ナイスアシスト脳内自分!!ナイス私!!)」
「あ!!忘れてた!!この後、シングルスの試合するんだった!!」
「それは行かないと!」
「末唯ちゃんも行こう?」
そうだされた手を掴む。勇気を出さなかったら掴めなかった手───────
「行こうかな?私をシングルスやりたいしね!!」
「やった!!練習お願いします!!」
「いいよ!!」
「あと、末唯ちゃん───────!!」
ドアを開けると外は先程の曇りとはうってかわり、美しい青空が広がったいた。
その太陽の日を浴び煌めく彼女は息を呑むほどにキレイだった。
「大好き!!」
───────もう勘弁してください。
こちらこそだよ……加奈
閑静な住宅街に囲まれた学校で繰り広げられる激戦!?冬の寒さも忘れるような熱さだ。
そんな中、打ち出したサーブは、コートに入ること無くネットにかかった。これでダブルフォルトとなり、今までの激戦が嘘のように静まり返る。
「ゲームセット!!汐那菜月ペアの勝ち!!」
「よっしゃー!!初めて勝った!!」
「やったね!菜月」
「どうだー!!末唯!」
「ハイハイ!負けましたよ。」
「(そりゃ…あんなの見たら…ね?)」
「負け惜しみかぁ?だらしないぞぉ!」
「まぁまぁ。そのくらいにしておいてね。菜月。初めて勝てて嬉しいのは分かるんだけどね…程々に程々に。」
「べ、別にそういう訳じゃないし!今までは手加減してやって…」
「ごめんね!末唯ちゃん。末唯ちゃん達に勝つために菜月、色々作戦練り続けてたから…」
「汐那ー!!そういうのは言わなくていいんだってばー!!恥ずかしいだろ!」
「アハハ…ごめんね。言っちゃった…」
申し訳なさそうに舌を出して平謝りをする。
『絶対!わざと言っただろー!!』なんて大声を出して言ってるけど、ホントに申し訳ない。今、頭の中はテニスよりも…
「大丈夫?末唯ちゃん?」
「(何か?私の右腕を覆う柔らかいものが…ってこ、これは!!)」
「ヒャッ!か、加奈!ど、どしたの?」
「(変な声出た!めっちゃ恥ずかしいんだけども!で、でも、誰だってね!女の子のお胸で腕を挟まれたら…こんな声が…って自分も女の子なんですけども!)」
「最近ね?末唯ちゃんの調子が悪い気がしてね…もしかして私が邪魔しちゃってるんじゃないかなって思って…?聴きたかっただけだよ?」
「(テニスだと冬でも手袋をしてやるのは、感覚が変わってやりづらくなるからしない人の方が多いのは知っている。だからって…萌え袖にして!ラケットを腕に抱えて!両手を口元に置いておくポーズは可愛すぎるんじゃないか!!?)」
「い、いや!そんなことはないよ。ちょっと寒くて私の動きが悪かっただけだよ。気にしないで大丈夫!!私がサーブの時の前はあんなふうに…動いてくれれば……」
「末唯ちゃん?なんか少し顔が赤くなってるけど…?体調は大丈夫?」
「だ、大丈夫!大丈夫!寒くて赤くなっちゃったのかなぁ?アハハ……」
「(言えない…絶対言えない。前で加奈が構えてる時に、すぐ動けるように、前傾姿勢でこっちにお尻を突き出すように構えていて、左右に動いてるから、誘ってるようにしか見えなくてテニスに集中出来てませんなんて!絶対に!!言えない!!!)」
「はい!じゃーこの辺で部活は終わりにしようかな?居残り練習したい子はいる?」
「部長!私はもう少し練習したいです。」
「菜月ちゃんが残るのであれば私も残りたいです。」
「別に、無理しなくていいんだぞ!」
「そんなこと言って!1人じゃろくな練習出来ないでしょ!あと、片付けだって2人の方が、早く終わるからね?」
「オーケー!分かったわ!藤宮先生の方には私の方から伝えておくから、鍵の方頼むわね」
「了解です。部長!」
「(凄いやる気…ダブルスになった時のここのペアとは、あんまりやりたくないんだよなぁ。普通に強いし息ピッタリだし。加奈に迷惑かけるし…)」
「私達も残る…?今日のミスのところ修正した方がいいかも?かな?」
「(首傾げた姿っていうですか?もう最高です。文句なし今日イチ可愛いです。私の心のボルテージは有頂天!!使い方合ってるか分からないけども!)」
「いや…今日は辞めておくよ。良くない調子の時にやっても意味無い気がするし。明日やろうかな?それでいい?」
「末唯ちゃんがそう言うなら…私はそれでいいけど…」
「それじゃ!私は先に更衣室行ってるから。」
「うん。分かった…。私は少し残って練習するね!!」
「オーケー。じゃあね。」
「(よし!自然に…自然に!会話出来ていただろうか?いや!出来ていた!パーフェクトだよ。末唯!!
でも、これだと素っ気ない言い方しかできないんだよなぁ。でも、実際テニスだって、全然集中出来てなくて迷惑かけてしまっている始末だし…)」
「おぉ!?加奈も残っていくのか?」
「うん。少しやり残した感があってね…」
「あれでも?末唯ちゃんは?」
「今日はやめておくって言ってた。」
「なんだあいつ!!ウチに負けてしょげてんのかぁ?」
「またそんなこと言って!次負けちゃうよ?」
「なんだよ!別に次も勝てるし!!」
「でもね!私はここで少しでも!末唯ちゃんに近づけるように頑張らないと!!」
「加奈ちゃん…。そうね。私達もまた勝てるようにね!菜月ちゃん」
「うぇー…。なんだよいきなり"ちゃん"付けで呼ぶとか気持ち悪いな…」
冬の寒空の下、3人はお互いに残した課題を無くすために、練習を続けた。呼吸するたびにでる白い息。コートに響き渡る音。お互いに切磋琢磨し、目標のために練習を続けた。
「(私の天使が可愛すぎる!盗み聞きは、悪いのは知っていますが、『私に近づくために頑張る』とか!可愛すぎるでしょ!?
って流石にストーカーみたいだから辞めておこう…でも、いつからだろうか?こんなにも加奈を《好き》になったのは───────)」
加奈とは小学校からの幼馴染みで、親友だった。昔から、他人を気遣う優しくて暖かい子だった。クラスでも、分け隔てなく会話をしてくれていた。私は、自分から話すことが苦手でよく1人でいた所を加奈の優しさに救って貰った1人だった。
それからは、よく話すようになり色々な話をするようになった。勉強の話、テニスの話。そして、恋愛の相談まで…
その頃から、男子から告白されるようになっていた。でも、テニスを第一に考えていた私には『恋愛』よく分からなかった。
私は、男子に告白される度に加奈に相談した。相談は、いつの間にか忘れていつもの日常会話に変わっていく…私は、心の中では相談よりも加奈との会話を求めていたのかもしれないと今は思う。
『恋愛』なんてものは、テニスをする脳では1番遠くて、テニスを1番に優先していた私には遠い話…だけどそんなことはなかった。それを口実に、『加奈が好き』という事を認めたくなかっただけかかもしれない…
「末唯。加奈とは何かあったの?あんまりプレーが上手くいってないみたいだけど…?」
「大丈夫ですよ…部長。私が寒くて動けてないだけなんです。どうも調子が上がらなくて…」
「そうなのね。でもね、そんな時こそペアの会話は必要よ。特に、加奈はあなたのことには心配してるんだから。そのへん気をつけなさいよね?」
「そうですよね…ありがとうございます…」
「そうね。次の試合までもまだ──────」
「(知ってますよ…加奈が私のとこをよく気遣ってくれるのは。)」
いつしか、私の目線は…意識はコートで打っている《加奈》を向いていた。
「(…ですけどね… その優しさが、私には暖かすぎるんですよ。)」
心はもう嘘を付けなくなっていた。『女の子同士の恋愛』をしている自分に。それは、不思議なほどに抑制でき無くなっていく。まるで、蟻地獄のようにもがけばもがく程沈んでいく…
会話しているのが楽しくて、一緒にいるのが楽しい。でも、こんな恋愛間違ってる。関係が崩れてしまうかもしれない。漫画の世界ならきっと、巻を追うごとに愛は深まっていくのかもしれない。でも、それは本の世界。架空の出来事。現実は?そんなの分かってる…試練を乗り越える度に奮闘する主人公と乗り越えられないと勝手に決めつけ、全てを諦めている私との違いなんだって…そんなことは、自分が1番理解してる。
《そんなのは分かってるんだよ。それでも…》
そんなことを思い続ける。そんな自分がたまらなく嫌だった。
「───────っておーい?聴いてるかー?」
「えっ!?すいません。あんまり聞いてなかったです。なんの話でしたっけ?」
「全くそういう所よ!私の話よりも"加奈"ちゃんばかり見てたけども!!そんなに大切ならちゃんと伝えなさいよ!!」
「えっ…!?!?そ、そんなこと!!?」
「何!顔赤くしてんのよ?遠くから見てるだけなら、教えてあげればいいのに?
あんた上手いんだから!!」
「いや!?み、見てなんか!?」
「はいはい。そういうのはいいからあんたも練習練習!私の方から先生には延長するって伝えてくるから来るから。ほら、行った行った!!」
「あ、はぁ…。分かりました」
「分かればよろしい!」
「それじゃ。先生の方にはよろしくお願いします」
「はいはい。藤宮先生には言っておくわ」
流石は部長だ。よく周りを見ている。1クラス分ほどいる部活を仕切っている部長だからね。とはいえ、何を考えているかよく分からない所もある。よく先生と一緒にいる所をよく見るが…まぁ部活も一緒だからなのかな?
「初々しい!!あんなに顔赤くして反応しなくてもいいのに。可愛いわね。お互いに初心なのもまたいいわ!亜紀ちゃんにも話そうっと…」
彼女は微笑みながら、校舎に向かっていく。
何もない道をまるでサーカスに行くかのように楽しそうに……
「そんな事言われても……」
もう一度加奈を見る。懸命にボールを追いかけ頑張る姿は、健気でなんとも可愛い。
私だって一緒にテニスはしたい。だけども、あんな姿をずっと見てしまったら集中なんて出来ない。一生懸命に頑張っている彼女に対して、私はそんな不誠実な気持ちでなんて合わせる顔なんてない。
「だってそうでしょ?こんなのおかしいって分かってるのに……」
彼女を…加奈を避けようとすればするだけ、それとは裏腹に心は私を離してくれない。もう、心が苦しくてたまらない。
「今日はやめて帰って休もう。」
そう、雨の降りそうな冬の鉛雲に呟くと更衣室へと歩き始める。部長には、申し訳ないがこんな状態でテニスはできるわけが無い。
《また逃げるの?自分の気持ちにまた嘘をつくだけでしょ?》
そんな真っ当な正論なんて分かってるんだよ!!でも、それがわかったところでどうにかなるの?そんな分かりきった未来なんて見るより、私からしてみれば、加奈と離せなくなる事の方が
───────何よりも怖いのだから
決意するように、更衣室のドアを開ける。
「(誰だってそうだと思う。好きな人と居れなくなることは辛いことだから。だったら私は嘘をつき続ける)」
「私は、加奈が『嫌い』…」
そう呟きかけたと同時にドアが活き良いよく開く。
「末唯ちゃん……私のこと嫌い…なの?」
「なにゃ!んでここに!!」
唐突に現れた想い人の登場に、またしても声が裏返る。さっきまでコートでラリーしていたはずなのに。更衣室が凍りついた気がした。
「(どっ、どうしてここに?いや、さっきまでテニスコートに…いたんじゃ…??)」
「練習してたら、部長さんと話してる末唯ちゃんが話し終わった後には、こっちに来るのかなって思ってたんだけど…やっぱり更衣室の方に……向かっちゃったから……どうしようと思ったら2人が行ってきなって…言ってくれたから走ってきたんだ……」
「(どうりで、息が上がっているということか…
私には会うために、走ってきてくれるなんてなんて健気!!って今さっき決めたばかりなのに…揺れるな私の心!!)」
「そ、そうだったんだ…。な、なんかごめん…」
「そんなことないよ!!私が話したくて勝手来ただけだから…それだけだから……それだけ」
徐々に小さくなっていく声のトーンに意識がいく。更衣室が狭くなっていく……
「(不味い!!これはとてつもなくまずいですよ!?)」
「あのー?加奈さん…?」
「さっきの話って…ホントですか?」
「あぁ。いやー。それは…」
距離感が分からなり敬語になってしまっている彼女の言葉に返す言葉が見つからず、言葉が詰まる。
「(言えない。言えるはずがない。あなたの事が好きで好きで堪らないけど、そんな恋愛おかしいからって貴方の事を『嫌い』になります。なんて言えるはずが──────ない!!)」
「ご、ごめんね。気づかなくて…色々迷惑だったよね?テニスも初心者で。それなのに、末唯ちゃんと組ませてもらって。全然出来なくて…足引っ張ってばかりだし、お節介だったから、当然だよね……?」
「い、いや、そんなこと───────」
「(違うんだよ。違うって言うんだよ!私!!
でも、どう言えば…)」
正直に言ってしまえば、この関係はボロボロに崩れ去ってしまう。きっとそうなる…
この彼女との距離が永久に遠く。遠くなっていく……そんな気がした。
「(でも、誤解は何としても解かないと!!)」
「そんなことはないよ。さっきのは言葉の綾というか…なんというか…」
「いいんだよ…。大丈夫だから。」
俯く彼女の目は悲しそうだった。そうさせたのは紛れもない私だ。そんな顔は見たくない。そう思うと体は動いていた。自分の想像を超えるような、いつもでは考えつかないような大胆な行動を───────
「好きだよ。加奈。」
俯く彼女を包み込むように抱き寄せる。そう耳元で囁く。彼女が驚き、声が出ずに体を震えさせていたがそれを無視して、できるだけ強く抱きつく、この鼓動が加奈に聞こえる程に。
『ここで言わなきゃ後悔する』
そんな心の声が聞えたんだ。それだけ
加奈の事を思った結果だった。
「(それにしては……わ、私!大胆すぎないか!!?)」
「ま、末唯ちゃん!!?ど、どうしたの??」
「加奈のことこれだけ好きだって知って欲しかったんだ。嫌いなんて思うはずないよ。大好きだよ。加奈。ただそれだけは伝えたかったんだ。」
「(な!何を淡々と!!平然な顔で恥ずかしいことを言うなー私ー!!)」
「あ、ありがとう。良かった…。『友達』にこんなに好きって言ってもらって…なんか安心しちゃった。でも、少し苦しいよ!?末唯ちゃん!?」
そう腕から離れていきながら微笑むうちの天使はとてつもなく可愛い
だが、忘れてはならなかった!?
「うん?今なんと?」
「うん?何を?」
「友達…として?」
「『友達』にこんなに好きって言ってもらって安心したって…って言ったよ?それがどうしたの?」
「(忘れていた…心配そうに首を傾げる彼女は何も理解してないわけだ。そうだよね?君!ド天然だもんね!!)」
「そ、そうだね…友達ね…」
でも、良かった。これで良かったんだ。
少し焦ったがこれでまだいれる。
君の近くに。そばにいられる。
《それで終わりでいいの?》
──────そんな心の声が反響する
「(そうだよ!!ここまで 言えたんだ!
覚悟決めろ!私!!
踏ん張れ!怖い?そんなの分かってる
それでも伝えるんだ!思いを!!)」
「その好きは友達としてじゃないって言ったら?どうする?」
「え?それってどういう事…?」
ハッとした様子で私を見ていた。
流石に天然な彼女でも理解出来たのかもしれない。
その瞬間、全ての音が消えた。
ただ、自分の鼓動だけが張り裂けそうにリズムを刻む。
「私は──────
加奈と付き合いたいです……」
部屋に静けさが訪れる。
言ったことに対する恥ずかしさと言われたことに対する驚きで両者とも声を出せなくなっていた。
「(い、言ってしまったぁー!!
し、心臓出てきそう…)」
心臓の音が加奈にも聞こえているのではないかと思うほどに、拍動している。
こんなにも『告白』とは緊張するものなんだと理解した。今まで告白してきてくれた男子を尊敬する程に
「(き、緊張した!!でも!伝えられた。伝えたいこときちんと言えた。もしかしたら───────)」
そんな甘い理想は脆く音を立てて崩れていく見上げた先の光景は残酷だ。
なぜなら"彼女の目には涙が浮かんでいた。"
«終わった…最悪。取り返しつかないことをしてしまった»
壊れていく私。音を立てて崩れていく関係。
少しでもいけると思った私を殺したい。
こんなの間違っているって知っていた。
女の子を好きになるなんて。初めから間違っていたんだ。
分かっていたのに。知っていたのに。
この思いはどこまでも傲慢で私を惑わせたんだ。
幻想を夢見させて…私を狂わせた。
「ごめん。そうだよね?こんなのおかしいよね?
変だよね?女の子を好きになるなんて……
そうだよね?」
もう遅い。後の祭りだ。
もういれない。入れる権利は剥奪さ、たった一瞬で世界が一変した気分だった
「(こうなることなんて分かっていたのに、どうして私は……なんて馬鹿なんだろう)」
「忘れてくれて構わないから。迷惑かけたね?疲れてるのかなぁー?私?さぁ。帰ろっと…」
忘れれるはずなんてない。言ってしまった言葉は消すことなんてできない。
だからこそ彼女からの次の言葉が来る前に逃げようとしている。荷物を素早くまとめ現実からも立ち去ろうとしている。
こんなことになるのだったら、もう『消えてしまいたい』そんなことすら思っていた
「(こんな気持ちにならなければ…
こんなにも好きにならな───────)」
「───────嬉しい………」
それは、唐突だった。両手で涙を拭いながら加奈の震える声で答えてくれた。
世界はまた動き始めてくれた
「い、今なんて…?」
「……嬉しいよ……ごめんね。
嬉しくって返事するのが遅くなっちゃった…」
「(なにがどうなってるんだ?
頭の処理が間に合わないぞ。
何かの間違いなのか?
幻聴か?いや、そんなことは無い!!
確かにこの耳で聞こえたんだ。『嬉しい』って!!)」
「え?ちょ、ちょっと待って!?!?
なっ何がどうなってるの?う、嬉しいってどういう意味!?」
「そ、そんなに!末唯ちゃん!ち、近づかれたら…!?」
思わず帰ろうとしたドアから驚きで加奈の方へと方向転換。
距離を間違えてギリギリでぶつかりそうになる!
「ご、ごめん!?でも!今のって!?」
「嬉しいよ!!心の底から嬉しい!!」
「ほ、ホントに?」
「ホントだよ!本気の本気だよ!末唯ちゃん!」
ほっぺを抓ってみる。
右頬に刺激が走る。
「(イタイ。現実だ。
今のが?ホントに?
ありえないでしょ?)」
「私、女の子だよ?気持ち悪くないの?」
そうだ。私は女。彼女も女。
そんな恋愛。きっと間違っている。
「そうだよ??だからどうしたの?
だって!!そんなの関係ないよ!
全然気持ち悪くなんてないよ!?」
「ど、どうして?だって普通じゃないんだよ?」
「それって!!たまたま好きな人が女の子だったって話ってだけなんだよ?
なんにも間違ってなんかないよ!?だって好きになることに間違いなんてないんだから!!」
身振り手振りを交えながら、涙が残るクシャクシャな笑顔で懸命に彼女は言ってくれた。
「(これはもう天使!!いい子すぎるよ!!
慈愛を感じる!!もう大好き!!)」
「でも、ずっとそういう目で加奈を見てたんだよ?それでも気持ち悪くない?テニスだって?加奈に見蕩れてて、出来なくなってて…」
「うんうん。全然そんなこと思わない!
少し恥ずかしいけど嬉しいし、今やっと分かったんだよ…
───────私も末唯ちゃんが『好き』なんだって」
そう一呼吸置いて彼女が言った言葉に、私は惹き付けられた。何よりも嬉しいその言葉に
「え?」
「(ナンダッテ?
ワタシノコトガスキ?)」
恥ずかしさに身を震わせながら、
顔を紅させ、恐る恐る覗き込むように見るその彼女の姿があった
「(可愛い。可愛すぎるでしょ?何この子?
これ以上もう言えないくらいに可愛い!)」
「ずっとね?かっこよかったんだ。憧れだったんだ。末唯ちゃんが!!
その何か一つに頑張ってる姿が……
私にはそんなもの無くてね?周りの目ばかり気にしてた。でも、そんな時に末唯ちゃんに出会って色々話するようになって、少しずついる時間が楽しくなって。愛おしくなっていったんだ。もっとお話したいって。そばにいたいって思うようになったんだ…」
私と一緒だった……
ずっと同じことを思っていたのかもしれない
それがたまらなく嬉しかった。
思いが通じたんだって、心から思えた。
霧が晴れていく。そんなふう感じた。
「今、末唯ちゃんの思いを聞いてやっとわかったんだ!本当の気持ちが!!!
私も末唯ちゃんが好きなんだって!」
「もしかして、高校からテニス部に入ったのもって?」
「そうなんだ!入ったら末唯ちゃんと今よりもっと話せるかなって思ってたの!!
気づいてないだけで私も末唯ちゃんのことよく見てたんだよ!テニスしてる時の末唯ちゃんが凄くカッコよくて見蕩れてたから…
なんか少し照れ臭いけど…?」
彼女は微笑みながら、手で顔を隠すように恥ずかしそうにする。
「(そ、そんな恥ずかしそうに言われたら!!いやいや、私もよく見てました!
もしかして、天使!もう天使!昇天する!
なんでもいいから、とにかく可愛い!!)」
「へ、返事って……?よろしいですか…?」
「あ、はい……
───────こちらこそお願いします」
「(ヤッター!!日本語おかしかったけど!!
もうパーティー!脳内パーティーだ!!
嬉しい。嬉しすぎる!!)」
「よろしくお願いします!!」
「なんで、敬語になってるの私たち!?」
「なんでだろうね?不思議だ!?」
そう言い合いながら、笑い合う。
そんなくだらないことでも愛おしく思えてくる。冬なのが嘘なんじゃないかと言うほどあたたさが部屋に充満していた。
「(本当に良かった。試練を超える勇気があって。ナイスアシスト脳内自分!!ナイス私!!)」
「あ!!忘れてた!!この後、シングルスの試合するんだった!!」
「それは行かないと!」
「末唯ちゃんも行こう?」
そうだされた手を掴む。勇気を出さなかったら掴めなかった手───────
「行こうかな?私をシングルスやりたいしね!!」
「やった!!練習お願いします!!」
「いいよ!!」
「あと、末唯ちゃん───────!!」
ドアを開けると外は先程の曇りとはうってかわり、美しい青空が広がったいた。
その太陽の日を浴び煌めく彼女は息を呑むほどにキレイだった。
「大好き!!」
───────もう勘弁してください。
こちらこそだよ……加奈
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