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第五章 私たちの選ぶ未来

十五 僕の帰る場所

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世界は重苦しくなくなり、素敵な星々が輝く時空世界が戻ってきた。

闇の神は既におらず、メレディアナ様の手を取る光の魂のクリミア様がいるだけだ。

彼は晴れ晴れとした表情で涙ぐみ、僕に向けて一礼した。

僕の目からも、嬉しさの涙がこぼれ落ちた。

「終わったか。マジ疲れた」

フリッツベルクさんがため息と共に呟き、その場にしゃがみ込んだ。

「でもまだ、現実世界の時空獣退治が残ってるな。休んでられない」

「それなら、助っ人を呼んでおいたよ」

オズ君が得意げな表情で言う。

助っ人とは誰だろうと不思議になった僕は、見えるかもしれないと思い視点を変更してみた。

闇の神の同調はないけれど、僕の力だけでもある程度は現実世界の様子が見える。

疲れ果てたみんなの代わりに戦場に出て主力で戦い始めたうちの一人に、見覚えがある。

二対の翼を持つ鎧姿の金髪の青年。イツキと仲良く戦った門番さんだ。

そうすると、他にもいる凄腕メンバーたちは全員が神様……かもしれない。

それに、ラスベイから十日はかかる筈の航路をどうしたのか、宇宙と星々の空にはユールレムと国連軍の戦艦の姿がある。

クリフパレスの戦艦はファルクスとアデンにいる。そちらにも、おおよそ人間らしくない実力の新顔さんたちがいる。

「僕はクリスタに帰ります」

安心していい状況かもしれないけれど、僕は僕の任務をこなさなくてはいけない。キビキビ働くべきだ。

決心して言うと、みんな頷いてくれた。

イツズミもオズ君もフリッツベルクさんも、光のクリミア様もメレディアナ様も。そして、クリミア様の隣にいる僕……僕!

「えっ! いやあの、僕がいる!」

僕が叫んで指さすと、全員が二人目の僕に注目した。

「はーい、僕でーす」

「いやに明るい!」

「あはは、私は君のハイアーセルフだよ。表現するなれば、リュンの部分だ。レリクスのリュンが、君の魂の核なんだ。この間、ショーン君の中で世話になったのは私の欠けらで、今の私はあの子よりもう少し陽気な部分なんだ」

「えっ……」

不思議な感覚だけれど、僕と同じ気配がしすぎて、彼の気配をあまり感じない。ジュースに同じ種類で同じ甘さのジュースが入っても、同じ味のような感じ。

光エネルギーが僕よりしっかりしていてかなり強いのは分かるんだけれど、透明でそこに誰もいないようにも感じる。

みんなの顔を見たら、僕だなあっていう感情が読み取れた。僕のようだ。

「それで……なぜここに? しかももう一人の僕って?」

「クリミア様と同じように、誰だって同じ場所に複数存在できるものなんだ。ただややこしくなるから、頻繁に出現するのはお勧めしない。私がここに来たのは、クリミア様を迎えに来たからだ」

「……頼みます」

クリミア様はとても悪びれつつ、僕……リュンに頭を下げた。

「私は罪を犯し過ぎました。のうのうと、あの宇宙では暮らして行けません」

「そんな」

僕は焦った。

「クリミア様、仕方のない事情がありましたし、こうして更生されました。どうぞ、僕らの宇宙にお帰り下さい」

罪を償う必要があるとは思うものの、それは追放の罰では補わせない。もう悲しいことは一つとして増やしたくないから、彼とも和解したい。

クリミア様は、必死に訴えた僕に微笑んでくれた。

「このような罪人でも受け入れてくれてありがとうございます。心から感謝します。けれど、私には行くべきところがあります。神々の集う都市があり、私はそこで裁かれなくてはいけません」

「え……神々の、ですか?」

「はい。貴方もいつか、あの都市に行けるようになるでしょう。本来は、神々は孤独なものではありません。集える場所があり、同じレベルで交流できる者たちは大勢います。ただ、仲が良いか悪いかは別問題ですが」

クリミア様は苦笑した。

「とにかく私は、大人しく裁きを受けます。そして過去の清算をします。それからはまた、別の話です」

「クリミア様……僕らの宇宙に住めなくても、いつか立ち寄って下さいね。お待ちしています」

「分かりました。その約束は守りましょう。ではまた、お会いいたしましょう」

クリミア様とメレディアナ様は、僕らに向けて笑顔で手を振った。

もう行ってしまうのかと思ったら、違う場所にクリミア様がもう一人増えた。

受ける感覚から、新しくやって来たクリミア様が、過去世界の塔で僕に色々と教えてくれたあの光の魂のクリミア様だと分かった。

二人のクリミア様は笑顔で握手して、気付いたら一人になっていた。

闇の神であった時の強さは失われているだろうけれど、神としての力は存分に残ったようだ。良かった。

「私たちの娘を頼みます」

突然に、メレディアナ様がそう言った。

僕は勘でしかなかったそれが正しいことと分かり、照れたけれども大きく頷いた。

「はい。私にお任せ下さい」

僕は自信満々に答えた。

次に、リュンが僕に言った。

「私はショーンが生きている間は、もう出現しない。そうしないと、君の冒険を邪魔してしまう。君は、自分の力で思う存分にあちこちを探検して、人生を最大限に楽しむべきだ」

「うん……分かった。僕は僕の力を信じる」

「頑張れ。でも最後に一つだけ言っておく。君の家族は君を愛している」

「……」

言い返せないでいると、彼ら三人の姿が消えた。神々の都市に行ってしまったんだろう。

「シャムルル様……帰りましょう」

イツズミが、僕の傍で手を差し出してくれた。

僕はイツズミの大きな手をギュッと握りしめ、勇気を振り絞って僕の家族に焦点を当てた。

少し前。故郷のコルトズにいる僕が不登校になり、クリスタに渡航すると決められた頃。

家の応接間で、両親は僕にクリスタに行くべきと話した。僕はショックだったけれど、ずっと閉じこもっているのも迷惑だと分かるから受け入れた。

立ち聞きしていた兄が、僕なんてどこに行っても変わらないから行く必要がないって怒り口調で言っている。

僕は……現実世界の僕は、家族に捨てられた酷い気持ちを抱えて、二階の自分の部屋に逃げて行った。

応接間に残った両親と兄。

「本当に行かせるのか? ショーンみたいな女々しくて弱い男なんて、この家にいさせるしか使い勝手がないだろうに」

兄の言葉に、何故か笑顔の母さんが答える。

「そうねえ。ショーンが父さんの仕事を手伝いたいと思ってるのは、私も知ってるけどね。ねえ父さん」

「……」

いつも無口な牛乳配達員の父さんは、ただ頷いた。

「だったら、どうしてクリスタに行かせるんだ! 勉強できないし運動神経もないし、女みたいに可愛いし、どこへ行ってもいじめられるだけだ! 高校になんか行かせるな! もう家の手伝いだけさせてろ!」

「んもう、素直じゃないお兄ちゃんねえ。貴方が家業を継げって言われないように、譲ってさっさと軍隊に入っちゃったこと、ショーンに言うわよ?」

「言うな! 第一、俺は牧場直送の新鮮な牛乳屋などという女々しい家業になんか興味はない! 俺は男らしく、強くなりたいんだ!」

「ショーンが幼稚園児の頃だったわよね。遠足で迷子になったショーンを貴方が一人で探しに行って、野犬と戦って重傷を負ったの」

「そんな事実はない」

「その後、無事に戻ってきたショーンが心配で病院を抜け出して、俺、男らしくなるって家の前で叫んでたよね。魔法治療の前で、まだ包帯でグルグル巻きだったのに」

「叫んでない!」

軍学校に所属する兄は、そこで応接間から走り出て行った。

母さんは、父さんにお茶を入れた。

「私は、不登校の事情が無くても、本当にクリスタに行ってもらいたいの。あの子は弱いように見えて、貴方に似て芯はとっても強い子よ。だから、新しい環境で新しい自分を見つけてもらいたいわ。その方が……一生、家から出ないで田舎の星の牛乳屋さんになるより、人生がより楽しいと思えるようになるでしょうし」

父さんはお茶のコップを手にして、母さんの言葉に頷いた。

「それでも駄目なら、私は残念だけど、父さんの手伝いをすればいいのよ。ここはショーンの家だもの。何があっても、いつだって帰ってきて良い場所なんだから」

母さんは笑い、父さんも少し笑った。

僕はもう見てられなくて、焦点を現場に戻した。

涙が溢れて、目の前のイツズミの姿すら、かすんで見える。

「帰るか」

フリッツベルクさんの声が聞こえた。僕は口に手を当てて頷いた。

一瞬で風景が変化した。中央神殿かと思ったけれど、内装が違う。

「ショーン君!」

名を呼ばれ、驚いた。

手で涙を拭いて見ると、いつも通りのミンスさんが満面の笑みで、僕に手を振ってくれている。

「無事だったのね。本当に良かったわ。お帰りなさい!」

喜んでいるミンスさんが、駆け寄って来てくれる。

嬉しくて、僕からも近付こうと一歩前に出た。

でも何故か力が入らず、そのまま倒れた。

何も分からなくなった……。
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