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第一章 惑星クリスタにて
十一・分岐点の意味するところ
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1・
結局海に入らず、しんみりして終わってから数日間。
僕は自分の運命と、その分岐点について良く考えてみた。
しかし、今まで知れた情報だけでも、たくさんの仮説がある。どれが本当の僕の未来なのか、自分では判断がつかない。
唯一正解をくれるだろう箱入りガムも、当たりが三つ入りなので、あと一度当たりが出ればもう使えなくなる。
なので今まで、ガムを見つめるだけで過ごしてきた。ロックが要らないのかと持ち逃げしようとした時は、命懸けで阻止した。
けれど、よくよく考えればこれをくれたカシミア様がおられるのだから、いざとなったらまた尋ねたらいい。
宇宙規模でいうとポドールイ族のいる星とここクリスタは近くにあるらしいので、ロックを誘って一緒に旅行ができるかも知れない。
単独で宇宙に出るのはまだ怖いけれども、宇宙船で遠足は浪漫だと思う。ぜひ行ってみたい。
そういえば以前、ルーチェ姫が夢は海賊王になることと言っていた。あの漫画はこっちにもあるのかと思ってしまったが、別の話だった。しかも宇宙海賊だった。
宇宙に出たら色んな危険があるんだなと理解したが、行けるなら行きたい。他の星の文化を知りたいし、別の種族の人たちにも会いたい。冒険心がうずく。
大人になったら龍神のご本尊任務をするために外出できなくなるだろうから、きっと今がチャンスだ。
でも……運命がなあ! と僕は肩を落とした。
その場面を、今日も朝早くから出勤してきたクロフォードさんに見られた。
具合が悪いのかと過保護気味に心配されてしまい、違うと何度も繰り返す羽目になった。
本当にクロフォードさんは、僕のことを思ってくれている。そう感じた。
今日の学習に必要な本や道具を机に並べてくれているクロフォードさんの姿を眺め、ふと気付いた。
彼に全てを話し、相談してみたらどうだろうかと。
先に全てを話したカシミア様は傍に居らず、いざという時に頼れない。
どうしても分岐点から平和な道へ進みたいのに、やはり平凡な高校生の頭脳では考えつけることに限度がある。
三本の矢の教訓もあるのだから、ここはあとロックにもばらしてしまって、三人でこの先のことを考えよう。そうしたらきっと、答えが導き出されるに違いない。
僕は決心し、最後の質問をするためにガムの箱の前に立った。
普通にすれば、正否を聞けるのはあと一回。二人ともの質問をすると、片方が駄目な場合は片方が良くてもはずれが出る。当たりは一個しかないから、それをあてにすると二人同時の質問は無理だ。。
だったら、質問を逆にして間違いを言ってみれば、正解の時ははずれが出てくれる。
質問によっては当たりが出てしまう時もあるかも知れないものの、はずれのガムはまだ六個ある。当たりにすがるよりも良い。
「ロックは、何があろうと僕を信頼していない」
そう言って、ガム一個を手に取った。包み紙を開けてみるとはずれだった。
分かり易い方の質問を先にしてしまい、後にしておけば良かったと少し後悔した。
「クロフォードさんは、何があろうと僕を信頼していない」
ドキドキしながら手に取ったガムは、はずれだった。
それを見た瞬間、僕はもう黙っていることができなくなった。
クロフォードさんに飛び付いていき、勢いよく話し始めた。
クロフォードさんはとても驚いていたけれど、僕が自分の身の上を全て説明し終わるまで、口を挟まず聞いてくれた。
それで全部聞き終わったあと、しばらく考え込んで黙っていた。
「……それは、冗談ですか?」
「いえ、何度も言うように本当のことです。僕はノイエの願いを聞いて、この肉体に宿った別人なんです」
「けれど、証拠がありません」
「それなら、カシミア様はこの真実を知っておられるので、尋ねてみてください」
「なんだって」
クロフォードさんの気配が一瞬で、戸惑いから……怒りに変化した。表情が豹変した。
「まさか、そんな……それじゃあ、お前は、龍神様を冒涜している」
「えっ。いえ、そんなつもりは――」
「この偽物が! 何が理由であろうと、龍神様に成り代わるなど、断じて許されない!」
クロフォードさんは怒鳴り、僕の肩を掴んで思い切り力を込めた。
僕は逃げられないでただ呆然と、痛む肩と強い憎しみを込めた視線を認識し続けた。
あの浜辺で見せた怒りと同じだと気付いた。僕も確かに偽物で、成り代わった者。クロフォードさんにとり大事なのは僕じゃなく、本物の龍神様なんだ。
僕はここで殺されてしまうかもしれないと感じた。それほど、クロフォードさんは怒っている。
なのにしばらくして、彼は僕の肩を離して視線を逸らした。
「決してゆるさない。お前など受け入れられない。消えろ」
クロフォードさんはそう言い残し、音を立てて部屋から出て行った。
残された僕は、どういうことなのか分からず、ガムの箱の前に戻った。そして箱を掴んで床に叩き落とした。
「なんで、どうして! 僕を信じてるって出たじゃないか!」
大粒の涙が、絨毯に染みを作っていく。
誰かがやって来て僕を捕まえるかもしれないと思うのに、そんな気力も出ずにただ泣いた。
泣きながらも、なぜ僕を信じてる筈のクロフォードさんがああなったのか、考えてみた。
なぜ結果が変化したのか……それは、もしかしたら、僕の立場が変わったからか。
まだ話す前のクロフォードさんは、僕を龍神と思うから忠誠を誓っていた。でも当たり前ながら、偽物の僕なんて信じない。
人の意見は、立場によって変わる。だから、もっときちっとした質問で確かめれば……いや、違う。人の気持ちを、こんなもので推し量ったら駄目なんだ。
疑ってなければ、あんな質問なんかできない。僕が彼らを一つも信じてなかった。
自業自得の僕は泣き止み、沙汰を待つためにこの部屋に居続けることに決めた。
緩い動きで椅子に座ろうとしたが、床に散らばるガムに目をやり、その傍に座り込んだ。
「僕は分岐点の上にいる」
拾ったガムは、はずれだった。僕の分岐点を形作っていたものは、僕が偽物とばれるかどうか、それだったんだろう。
残るガムを見て力無く笑い、もう一度手を伸ばした。
「僕は一生の間、今いる友人たちもこれから出来る友人たちも、心から信じる」
これはもう正否をかけたものでなく、自分の誓いだ。
拾ったガムは当たりだった。少しの後押しをしてくれたことを感謝し、もし殺されるとしても誰も恨まずにいようと決めた。
夕方になり、心配している神官さんたちになにを話しかけられても椅子に座りただじっとしている僕を、アレンデール様が尋ねてきた。
アレンデール様は神官さんたちだけでなく、神官長と神殿の警備を担当する神殿兵長、それにクロフォードさんも連れてきた。
もう終わりだと思った僕を、アレンデール様は困った表情で見下ろした。
「一体、なにがあったんだ? クロフォードが家庭教師の辞退を申し出てきた」
「え……」
てっきり、報告してしまったんだと思っていた。クロフォードさんは今も憎しみを込めた目をして、僕を睨んでいるのに。
「クロフォードは理由を話してくれない」
「は……い。良ければ、クロフォードさんの好きにさせて下さい。これは僕が悪いのです。どうか、お願いします」
僕はもう龍神のつもりじゃなく、成り代わった賊と思っていたから、席を立ってアレンデール様の足元に跪いて、頭を下げようとした。
当たり前ながら、大勢に止められてしまった。もう僕は、その扱いに耐えられなかった。
「僕は龍神じゃないんです! なりすましているだけなんです! ノイエが死んだ時、この体を乗っ取った別人です!」
僕が涙を流して訴えた言葉は、誰も信じない訳にいかない力があったようだ。
詳しく説明した訳じゃないのに、それ以上の追求はなく、やって来た神殿兵たちに捕縛された。
連れて行かれようとしてクロフォードさんの傍を通る時、彼が戸惑う表情をしているのを見た。
龍神じゃない僕も、少しは信じていてくれたんだと気付いて、また涙が出た。
2・
バンハムーバ中央宇宙港南ロビーの椅子に座り、俯いて不気味になにか呟くクロフォードの隣に、カルラは腰掛けた。
「ご機嫌悪いようですが、雑談でもしませんか? 通りすがりのポドールイ政府職員です」
そうは言っても職員は二人しかいないけど、とカルラは思った。
ポドールイ政府と聞いて反応したクロフォードは、顔を上げると突然にカルラの胸ぐらに掴みかかった。
「この……お前たちは、何故あんなことができるんだ! 私を、試したな…!」
「試したもなにも、あなたが選んで行動したんでしょ?」
「私は、この口からは罪を伝えなかった! 私の行動で生死が決定すると、お前たちの王は私にそう言ったんだぞ! 何故逮捕された!」
「知りません。俺、そこまで優秀じゃないんで」
「役立たずが!」
クロフォードはカルラから手を離し、再び俯いた。
カルラは服を整え、ため息をついた。
「いや本当は、あんたは話すと思ってた」
「私をなんだと思っている。もう黙れ」
「じゃあ耳を塞げばいいでしょ」
クロフォードは、しっかり両手で両耳を塞いだ……かに見せて、指の間をそっと開いた。
「これじゃあ、間に合うかどうか分かりませんねえ。ノイエ君の言うとおり、星が半壊しちゃうかもね」
「……何が間に合うと?」
「処刑にですよ。耳、離せばどうです」
「何が、と聞いている」
「あんまりハッキリ言うと後で王様に叱られるんで、勘弁してください」
「…………」
クロフォードはできる限り素早く、頭の中身を回転させた。
「……いやしかし、彼は偽物でしかない」
「本物のノイエ君の願いを聞いた、良い子ちゃんですねえ。自分が死んで家族を悲しませたくないという、本物の龍神様の役に立ちたいだけの」
クロフォードは、悔しげに耳から手を離した。
「一体どうしてこんなことに」
クロフォードはイラつきつつ立ち上がり、カルラの前から走り去った。
残ったカルラは自分の財布を取り出して中身を確認し、ニヤついた。
結局海に入らず、しんみりして終わってから数日間。
僕は自分の運命と、その分岐点について良く考えてみた。
しかし、今まで知れた情報だけでも、たくさんの仮説がある。どれが本当の僕の未来なのか、自分では判断がつかない。
唯一正解をくれるだろう箱入りガムも、当たりが三つ入りなので、あと一度当たりが出ればもう使えなくなる。
なので今まで、ガムを見つめるだけで過ごしてきた。ロックが要らないのかと持ち逃げしようとした時は、命懸けで阻止した。
けれど、よくよく考えればこれをくれたカシミア様がおられるのだから、いざとなったらまた尋ねたらいい。
宇宙規模でいうとポドールイ族のいる星とここクリスタは近くにあるらしいので、ロックを誘って一緒に旅行ができるかも知れない。
単独で宇宙に出るのはまだ怖いけれども、宇宙船で遠足は浪漫だと思う。ぜひ行ってみたい。
そういえば以前、ルーチェ姫が夢は海賊王になることと言っていた。あの漫画はこっちにもあるのかと思ってしまったが、別の話だった。しかも宇宙海賊だった。
宇宙に出たら色んな危険があるんだなと理解したが、行けるなら行きたい。他の星の文化を知りたいし、別の種族の人たちにも会いたい。冒険心がうずく。
大人になったら龍神のご本尊任務をするために外出できなくなるだろうから、きっと今がチャンスだ。
でも……運命がなあ! と僕は肩を落とした。
その場面を、今日も朝早くから出勤してきたクロフォードさんに見られた。
具合が悪いのかと過保護気味に心配されてしまい、違うと何度も繰り返す羽目になった。
本当にクロフォードさんは、僕のことを思ってくれている。そう感じた。
今日の学習に必要な本や道具を机に並べてくれているクロフォードさんの姿を眺め、ふと気付いた。
彼に全てを話し、相談してみたらどうだろうかと。
先に全てを話したカシミア様は傍に居らず、いざという時に頼れない。
どうしても分岐点から平和な道へ進みたいのに、やはり平凡な高校生の頭脳では考えつけることに限度がある。
三本の矢の教訓もあるのだから、ここはあとロックにもばらしてしまって、三人でこの先のことを考えよう。そうしたらきっと、答えが導き出されるに違いない。
僕は決心し、最後の質問をするためにガムの箱の前に立った。
普通にすれば、正否を聞けるのはあと一回。二人ともの質問をすると、片方が駄目な場合は片方が良くてもはずれが出る。当たりは一個しかないから、それをあてにすると二人同時の質問は無理だ。。
だったら、質問を逆にして間違いを言ってみれば、正解の時ははずれが出てくれる。
質問によっては当たりが出てしまう時もあるかも知れないものの、はずれのガムはまだ六個ある。当たりにすがるよりも良い。
「ロックは、何があろうと僕を信頼していない」
そう言って、ガム一個を手に取った。包み紙を開けてみるとはずれだった。
分かり易い方の質問を先にしてしまい、後にしておけば良かったと少し後悔した。
「クロフォードさんは、何があろうと僕を信頼していない」
ドキドキしながら手に取ったガムは、はずれだった。
それを見た瞬間、僕はもう黙っていることができなくなった。
クロフォードさんに飛び付いていき、勢いよく話し始めた。
クロフォードさんはとても驚いていたけれど、僕が自分の身の上を全て説明し終わるまで、口を挟まず聞いてくれた。
それで全部聞き終わったあと、しばらく考え込んで黙っていた。
「……それは、冗談ですか?」
「いえ、何度も言うように本当のことです。僕はノイエの願いを聞いて、この肉体に宿った別人なんです」
「けれど、証拠がありません」
「それなら、カシミア様はこの真実を知っておられるので、尋ねてみてください」
「なんだって」
クロフォードさんの気配が一瞬で、戸惑いから……怒りに変化した。表情が豹変した。
「まさか、そんな……それじゃあ、お前は、龍神様を冒涜している」
「えっ。いえ、そんなつもりは――」
「この偽物が! 何が理由であろうと、龍神様に成り代わるなど、断じて許されない!」
クロフォードさんは怒鳴り、僕の肩を掴んで思い切り力を込めた。
僕は逃げられないでただ呆然と、痛む肩と強い憎しみを込めた視線を認識し続けた。
あの浜辺で見せた怒りと同じだと気付いた。僕も確かに偽物で、成り代わった者。クロフォードさんにとり大事なのは僕じゃなく、本物の龍神様なんだ。
僕はここで殺されてしまうかもしれないと感じた。それほど、クロフォードさんは怒っている。
なのにしばらくして、彼は僕の肩を離して視線を逸らした。
「決してゆるさない。お前など受け入れられない。消えろ」
クロフォードさんはそう言い残し、音を立てて部屋から出て行った。
残された僕は、どういうことなのか分からず、ガムの箱の前に戻った。そして箱を掴んで床に叩き落とした。
「なんで、どうして! 僕を信じてるって出たじゃないか!」
大粒の涙が、絨毯に染みを作っていく。
誰かがやって来て僕を捕まえるかもしれないと思うのに、そんな気力も出ずにただ泣いた。
泣きながらも、なぜ僕を信じてる筈のクロフォードさんがああなったのか、考えてみた。
なぜ結果が変化したのか……それは、もしかしたら、僕の立場が変わったからか。
まだ話す前のクロフォードさんは、僕を龍神と思うから忠誠を誓っていた。でも当たり前ながら、偽物の僕なんて信じない。
人の意見は、立場によって変わる。だから、もっときちっとした質問で確かめれば……いや、違う。人の気持ちを、こんなもので推し量ったら駄目なんだ。
疑ってなければ、あんな質問なんかできない。僕が彼らを一つも信じてなかった。
自業自得の僕は泣き止み、沙汰を待つためにこの部屋に居続けることに決めた。
緩い動きで椅子に座ろうとしたが、床に散らばるガムに目をやり、その傍に座り込んだ。
「僕は分岐点の上にいる」
拾ったガムは、はずれだった。僕の分岐点を形作っていたものは、僕が偽物とばれるかどうか、それだったんだろう。
残るガムを見て力無く笑い、もう一度手を伸ばした。
「僕は一生の間、今いる友人たちもこれから出来る友人たちも、心から信じる」
これはもう正否をかけたものでなく、自分の誓いだ。
拾ったガムは当たりだった。少しの後押しをしてくれたことを感謝し、もし殺されるとしても誰も恨まずにいようと決めた。
夕方になり、心配している神官さんたちになにを話しかけられても椅子に座りただじっとしている僕を、アレンデール様が尋ねてきた。
アレンデール様は神官さんたちだけでなく、神官長と神殿の警備を担当する神殿兵長、それにクロフォードさんも連れてきた。
もう終わりだと思った僕を、アレンデール様は困った表情で見下ろした。
「一体、なにがあったんだ? クロフォードが家庭教師の辞退を申し出てきた」
「え……」
てっきり、報告してしまったんだと思っていた。クロフォードさんは今も憎しみを込めた目をして、僕を睨んでいるのに。
「クロフォードは理由を話してくれない」
「は……い。良ければ、クロフォードさんの好きにさせて下さい。これは僕が悪いのです。どうか、お願いします」
僕はもう龍神のつもりじゃなく、成り代わった賊と思っていたから、席を立ってアレンデール様の足元に跪いて、頭を下げようとした。
当たり前ながら、大勢に止められてしまった。もう僕は、その扱いに耐えられなかった。
「僕は龍神じゃないんです! なりすましているだけなんです! ノイエが死んだ時、この体を乗っ取った別人です!」
僕が涙を流して訴えた言葉は、誰も信じない訳にいかない力があったようだ。
詳しく説明した訳じゃないのに、それ以上の追求はなく、やって来た神殿兵たちに捕縛された。
連れて行かれようとしてクロフォードさんの傍を通る時、彼が戸惑う表情をしているのを見た。
龍神じゃない僕も、少しは信じていてくれたんだと気付いて、また涙が出た。
2・
バンハムーバ中央宇宙港南ロビーの椅子に座り、俯いて不気味になにか呟くクロフォードの隣に、カルラは腰掛けた。
「ご機嫌悪いようですが、雑談でもしませんか? 通りすがりのポドールイ政府職員です」
そうは言っても職員は二人しかいないけど、とカルラは思った。
ポドールイ政府と聞いて反応したクロフォードは、顔を上げると突然にカルラの胸ぐらに掴みかかった。
「この……お前たちは、何故あんなことができるんだ! 私を、試したな…!」
「試したもなにも、あなたが選んで行動したんでしょ?」
「私は、この口からは罪を伝えなかった! 私の行動で生死が決定すると、お前たちの王は私にそう言ったんだぞ! 何故逮捕された!」
「知りません。俺、そこまで優秀じゃないんで」
「役立たずが!」
クロフォードはカルラから手を離し、再び俯いた。
カルラは服を整え、ため息をついた。
「いや本当は、あんたは話すと思ってた」
「私をなんだと思っている。もう黙れ」
「じゃあ耳を塞げばいいでしょ」
クロフォードは、しっかり両手で両耳を塞いだ……かに見せて、指の間をそっと開いた。
「これじゃあ、間に合うかどうか分かりませんねえ。ノイエ君の言うとおり、星が半壊しちゃうかもね」
「……何が間に合うと?」
「処刑にですよ。耳、離せばどうです」
「何が、と聞いている」
「あんまりハッキリ言うと後で王様に叱られるんで、勘弁してください」
「…………」
クロフォードはできる限り素早く、頭の中身を回転させた。
「……いやしかし、彼は偽物でしかない」
「本物のノイエ君の願いを聞いた、良い子ちゃんですねえ。自分が死んで家族を悲しませたくないという、本物の龍神様の役に立ちたいだけの」
クロフォードは、悔しげに耳から手を離した。
「一体どうしてこんなことに」
クロフォードはイラつきつつ立ち上がり、カルラの前から走り去った。
残ったカルラは自分の財布を取り出して中身を確認し、ニヤついた。
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