異世界初心者の冒険

海生まれのネコ

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第三章 冒険者たち

十四・麒麟のすべきこと

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1・

僕は見よう見まねながら、バティスタ様と共に麒麟の力を使い、母の体を傷つけずに時空獣から引き剥がすことに成功した。

出来る限り黒の力を削いでからの白の術の行使に、僕の体も精神力も激しく消耗した。

地面に座り込み肩で息をしたとしても、麒麟の護り人たちに助けられて連れて行かれる母さんを見ると、物凄く嬉しくて仕方がない。

涙を流して笑う僕の傍に、バティスタ様が立った。

「バティスタ様……母を保護してくださり、ありがとうございました。それに、僕だけでは助けられませんでした。心から、感謝いたします」

「ああ。けれどこれは麒麟として当然の行いだ。ノアも、これからはこのように、人々を助けるために働くんだ」

「はい、その通りに働きます。麒麟の姿に変身出来ない半端者ですが、出来る限りのことをします」

「よく言った。これからは私の盾と矛となり、一生仕えてくれ」

「はい。お任せ下さい」

人のために役立つ力を持つことは、とても嬉しいことだ。

何故僕は、この場で自分が死ぬような予感がしたのだろうか? 全くそんな流れじゃないのに。

けれど……まだ、その薄暗い気配はある。

僕は体の痛みをこらえて立ち上がり、未だ眠り続ける時空獣を見た。

バティスタ様も見て、一度頷いた。

「これはもう用済みだ。始末しろ」

バティスタ様が命じると、麒麟の護り人たちが動いて、既に仕込み済みだったのか小規模な爆発を即座に起こした。

時空獣は一瞬苦しむように動いたが、それだけで命を断たれた。

「バティスタ様」

「慣れるんだ。半分ポドールイ人の君には、容易いことだろう?」

「しかし、あの者も助けられたかも知れません」

「それは無い。あれほどの化け物に変化した者など、人に戻ることは無理だ。そもそも人でないかもしれないし、気にするには及ばない」

僕は、その言葉を聞いてゾッとした。

「バティスタ様、けれど――」

「君は、お人好しなのに気が強い。気の強さなど人助けに無用だ。捨てるんだ」

「けれど、非情になることは麒麟の心情として無理です。私は時空獣も救いたいのです」

バティスタ様は、僕を睨みつけてきた。

「時空獣やそれと同等の犯罪者どもが、どれだけ罪なき被害者を生み出してきたと思っているんだ。私は麒麟であるが故に、何も傷つけられず、幾度となく被害者を助けられずに見殺しにしてしまった! しかし君は違う。ポドールイの力で犯罪を防止できる。そして麒麟の力で癒やせる。その力を、間違った思いでゴミ箱に捨てるな」

「それは……」

確かに、そうだと思う。

バティスタ様の正義感は、本当は麒麟ではなく兵士や将軍に向いている。なのに自分が直接戦えないのは、辛いことだろう。

だからこそ、僕の力を強く欲していると分かる。

僕は多くの者を救いたい。けれど一人では、理想を語るにもほど遠い。力不足をバティスタ様の組織力で補ってもらえれば……。

考え込む僕に、バティスタ様は重ねて言った。

「君はまだ気付いてないだろうが、私には時空を越える力がある。その力で、君の助けたい者を助けることが出来るが、どうする?」

「……それは一体?」

「勘が鈍いな。ウルフィールのことに決まっている」

聞いて、喜びよりも運命をもてあそぶ恐怖を感じた。

「それは、他の助けたい人たちも、同じように過去におもむき助けられるという意味ですか?」

「そうだ。君にも麒麟として同じ力がある。私が手ほどきをするから、共に救うべき存在を救うんだ」

「では、時空獣になる前の人々を、先回りして救えるのではありませんか? 犯罪者も、犯罪に手をそめる前に、状況から変化させて踏みとどまらせることができます」

「君は頑固だな……確かに出来るが、それほどの価値がないものに貴重な時間をくれてやる訳にいかない。麒麟の我らとしても、寿命はあるのだぞ」

「それは、自分の興味が無い者を捨てるということですか」

「子供のような駄々をこねるな。君なら、有限の時間でも全ての者を救うことができるのか? そんなことは不可能だ。だから私は、出来る限り多くの者を救える方法を考えた。そして君を生み出した」

「生み出し……た」

僕は記憶のない場所に触れようとして、止めた。

いま思い出しても意味はない。それよりも、バティスタ様を説得しないと。

「バティスタ様、私とあなたの望みは同じです。けれど進むべき道が違います。ですので、協力はいたしかねます」

「馬鹿な」

「私は出来る限り、自分の目の前にいる者を助けます。あなたはその力で、大勢をお守り下さい」

「許さない。お前は私が作った麒麟だ。私の命令以外で動くことを許可しない」

「他にも麒麟はいます。私でなくとも――」

「お前は魔王だ! その魔力、決して逃がさない」

「落ち着かれて下さい。戦力ならば、麒麟の護り人だけでも充分です」

「分からない奴だな。麒麟が先頭にいなければ、国は動かないだろうが!」

「国……」

ようやく、気付いた。バティスタ様がミネットティオルの軍を動かし、どこかの国に戦争を仕掛けようとしているのだと。

「戦争など、止して下さい」

「かつての覇者のユールレムやバンハムーバは、すっかり毒気を抜かれて日和見主義だ。国連に属さず鎖国する星々を、見て見ぬふりをする。その中で、どれだけの犯罪が行われているのか、お前は知らないのか」

「知識のみでしたら、知っています。けれどそれも、国連軍が裏工作で入り込んでいると――」

「もう口答えをするな! 私は私のやり方でやる! いいか、私の命令を聞かねば――」

「バティスタ様! それは――」

「お前の母の命はないと思え!」

激情と共に吐き出された言葉は、瞬間的に周囲の世界に影を落とした。

僕は手遅れになった世界の中で、静かに告げた。

「それは、麒麟のすべきことではありません」

僕は麒麟の護り人たちに手を振り、撤退するように示した。

しかし彼らは主人の異変に目を奪われ、動かない。

「これは……」

バティスタ様は両手を前に差し出し、指の先から闇に染まって異形に変形するところを確認した

「あなたは闇落ちしました」

「なるほど、少しやり過ぎた。予定は違ったが……リュック」

「はい」

バティスタ様の傍にいるスタインウェイさんが、返事をした。

「あいつを私に会わせるな」

「了解しました」

物凄く悪い予感がした。

止めようとしたけれど、スタインウェイさんは僕など全く気にせず、銃を取り出し自分の胸に当てて引き金を引いた。

スタインウェイさんはその場に倒れ、銃は床に転がった。

「何を……一体、何を?」

僕は親しい人の死を前に、混乱しかかった。

血を浴びたバティスタ様の体がより変形し、周囲の地面を腐食し始めた。

「一体彼に何を命じた!」

叫んで聞いたが、既にバティスタ様の意識は闇に落ち込んだ。

他の麒麟の護り人たちが、ようやくバティスタ様から距離を置いた。

しかし麒麟の闇落ちは、星一つを腐らせる。この星のどこに逃げようと、捕まり殺されるだろう。

それを阻止するには、麒麟の力を使うしかない。けれど先ほど使用した事で減り、まだ回復していない。

そもそも、バティスタ様に勝てる麒麟の力など発揮できない。

それでも護り人たちを逃がすため、ポドールイの力で腐食を阻む防御壁を作った。

船に到着出来れば彼らは助かる。それまで耐えるだけでいい。

星は、このままでは救えないけれど……。

一瞬、意識が遠のいた。しかしはっと気付いて、防御壁を維持しつづけた。

自分の体が薄く感じられる。これは……まさか。

バティスタ様がスタインウェイさんに何を命じたか気付いた時、広間に一人走り込んできた。

「船まで逃げるんだ! 俺が足止めする!」

「船長、あなたじゃ出来ません! さがって下さい!」

「しかし――」

「時間はありません。これ以上、星を壊させません。だから行って下さい」

「ぼ……ノア、カシミア様から伝言だ。異世界の少年、と」

「了解です。理解できました。船長、他のみんなを頼みます」

「帰ってこい」

「ええ」

僕はアルベールさんに、笑顔で頷いてみせた。

アルベールさんは、悔しげに走って行った。

僕は倒れるスタインウェイさんの傍に落ちた銃を、念力で動かして傍に寄せた。

スタインウェイさんと同じように、それを胸につけて撃った。

意識が飛んだ。
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