異世界初心者の冒険

海生まれのネコ

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第三章 冒険者たち

十三・約束の地

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1・

黒の魔力を消費して白の魔力の割合を増やす修行は、思った通りに体の痛みをともなった。

しかしバンハムーバでの事件の時、戦犯者のサークレットを装備した時ほどの激痛は感じない。というか、そこまで白を強める勇気がまだ出ない。

三日後の朝。

バティスタ様と連絡を取ってくれたスタインウェイさんが、とある惑星で待ち合わせが出来ると教えてくれた時にも、まだ黒の魔力の半分までしか削る練習をしていなかった。

なので、思い切ってスタインウェイさんに聞いてみた。

「黒の全ての魔力を失えば、私は死んでしまうかもしれません。なので、半分を削るまでで勘弁していただきたいです」

「……それほど、過酷な修行ですか?」

「そうですね。正直、やりたくないです」

「……分かりました。しかし麒麟の姿に変身出来ない麒麟など、説得力がないのです」

「麒麟に変身出来るとしたら、僕は死んでいます」

正直に告げてみた。

麒麟を首になるだろうかと思ったが、スタインウェイさんはしばらく普通に考え込んだだけだった。

「麒麟の力は片鱗だけでも出せましたか?」

「一応、それらしきものを扱えた感覚はあります」

「ならばそれで構いません。三日後、待ち合わせ場所に向かう船を出します。そして、お一人でお願いします。それで宜しいでしょうか」

「父さんは留守番ですか」

スタインウェイさんは、彼をじっと見つめている父さんを睨みつけた。

「話し合いの場で、あの者がいればややこしくなりますので」

「俺は物凄く嫌われてんだな。でもいいぜ。留守番してやる。その代わりーー」

「貴方に交渉の権利はありません」

「カート商会の船で送らせろ。行きだけでもな」

「会談の前に帰って頂けるなら、構いません。では、そちらで手配をお願いします。道案内は、私がいたします」

「……分かりました。お願いします」

僕は、何故父さんがカート商会の船で行くことを勧めたのか詳しくは分からない。でも、そうしなくてはいけないと思える。

母さんが既にバティスタ様の元にいる可能性もあるのだから、味方は傍に居たほうがいい。そういう意味なのだろうか。

とすれば、父さんはこの旅で僕が母さんに出会えると思っている事になる。なのに、スタインウェイさんがいるからか、そんな話は一切しない。

そして僕の目を見ることが無くなり、歯を食いしばり黙り込んでしまう時もあった。

何も言われなくても、その姿だけで理解できる。母を解放してと頼む僕は、かなり危険な立場に立たされることになるのだと。

もしそうだとしても、僕は母さんを助けたい。それが本音だ。

父さんも、僕のこの決意を尊重してくれている。だから、何も恐れず行こう。

そう決め、カート商会に連絡を取り、再び三日後を待った。

2・

イプシロンノヴァの宇宙港にて久しぶりに会ったアルベール船長は、前と違う気配を持っているように思えた。

なんだか、ポドールイ人の闇の気が多いような感覚。

それだけじゃなく、メリデスさんもクールベさんも、アイシャさんも似たような変化があった。

でもみんな、人当たりの良さは前と同じで、僕に笑顔をくれる。

ギリギリ別の仕事を終えて帰って来たばかりだと言うから、その仕事で何かあったのだろう。

けれど誰も話題にしないので、僕も聞かなかった。

これから僕らが行く惑星は、定期船の航路から外れ、惑星のエネルギーも枯渇しかかった荒れ果てた地。

バティスタ様はまだそこで暮らしている人々を助けるために、基地を設置して時折立ち寄っているとか。

麒麟の力による惑星のエネルギー回復を、数年かけて実施しているのだ。

自分もいつか同じような仕事をするなら、見ておいた方がいい現場だろう。バティスタ様との話し合い以上に、勉強になりそうだ。

なんだか懐かしいと思えるプラエスティテ号は、父さんとフロリメル様の見送りで出発した。父さんとはずっと一緒じゃないかと思っていたのに、窓から手を振ってただそれだけで別れてしまった。

目的地まで四日間の旅。僕は、宙に浮いているような感覚に捕らわれた。

アルベールさん達は同じように愛想が良い。

僕を見張るスタインウェイさんは、僕がバティスタ様と会うと決めてからずっと表情を強ばらせ、僕を威嚇するような目をしている。

父さんとアリアナが傍にいない。ここ三カ月しか一緒にいなかったのに、いないと調子が狂う。

変なもんだと思いつつ、暇つぶしにスマホでメールを打った。

留守番の父さんはスマホを持っていないのでヘレナ学園長に、見張りをお願いしますと打った。

返事は任せとけ、だった。

旅の間、比較的多くやり取りをしていたライジェル様とアッシュ父さんには他愛のない話をし、久しぶりのホルンには帰ったら会いに行くと伝えた。カシミア様とも会いたい。

ホルンの返事は、千年間クリスタの神殿を護っているのでいつでもお越しを、だった。気の長い話だ。

この間恥ずかしい目に遭ったロック様とシーマ様にも、麒麟の力を知るために宇宙に出てますと打った。

お二人とも、励ましの言葉を下さった。

アリアナにも送れば良かったのかもしれない。でももう、十分な会話をしてきたように思う。

なので、打たなかった。

こうして僕は、自分がみんなにさようならと伝えている事実を受け入れた。

3・

荒れ果てて、草木も生えない大地の中にある居住区。

大きな都市の片隅、残骸だろう場所に新しく建てられた幾つかの建物。

その一角に降り立ったプラエスティテ号は、予定通り僕とスタインウェイさんを降ろすと、すぐに宇宙に戻っていった。

アルベールさんは最後にがっちり握手をし、ご武運をと言ってくれた。

でも僕はきっと戦えない。話し合いしか出来ない。

船を見送り、僕は本当に一人になったなと実感した。

出迎えてくれた幾人かのエルフ種族の方々は、バティスタ様の配下である麒麟の護り人のようだった。

もちろんスタインウェイさんもその一人だけれど、僕はその背中を見て歩いた。

研究所のような建物を通過し、自然の洞窟を改造した薄暗い通路を使って、いつの間にか山の中腹に出ていた。

通路の先に、時空獣の気配がする。そしてもう一つ、懐かしい気配がある。

僕は走り出し、広間に出て現実を見た。

巨大な異形の時空獣が眠らされており、その体内に取り込まれかかっている母の姿がある。

母の前に立つバティスタ様を通り越し、母の傍に座り込んだ。

以前見た映像で拘束されていると思ったのは、肉に取り込まれかかっていたからだと分かった。

「母さん、母さん」

呼びかけ手を握ると、母さんは閉じていた目を開けた。

「ノア……来たのか」

「うん」

「私は……お前をおびき寄せるための、餌だ」

感情を失いかかった冷たい目で、母さんは言う。

僕は、振り向いてバティスタ様を見上げた。

バティスタ様はローブのフード部分を下げて、僕を見下ろして言った。

「君は自分で思い出すと言った。まだ思い出してないのかい?」

「え……」

僕は、ウルフィール様の事件の時、最初に出会った彼に既に見覚えがあった。それは認める。でもそれまでに、一度も会ったことはないはず。

僕が返せないでいると、バティスタ様は少し呆れ口調になった。

「まあいい。何も問題ではない。その、君の母についてだが」

「何故、こんな真似を?」

「麒麟が時空獣を作る訳がないだろう? 時空獣になりかかった君の母を保護し、ここにかくまった。消すには惜しい存在だから」

母さんは、僕の手を握り返して言った。

「それは、本当だ。私は、心を病みすぎた。けれど、お前の重荷には、なりたくない」

「重荷などにはなりません。バティスタ様、どうやったら母を救えますか?」

「麒麟の強い力で癒すのがいい。ただ私だけの力では、不安要素があった。なので君の助力に期待しているんだが」

「あ……」

僕は、何故彼らに麒麟の力を求められているのか、強く認識した。

それは、ただ人を助けるためなのだ。

僕は誤解していたかもしれない。

「ノア」

母さんが僕の手を揺さぶった

「駄目だ。聞くな」

「どうしてですか? 治療が怖いのですか?」

「違う。そいつは――」

母は言いかけ、呻いて気を失った。

意味が分からない状況。でも、母さんを助けたい。

「ノア。最大限に麒麟の力を使わなくていいが、できる限り貸してもらえるか? 身体的に辛いだろうが」

「構いませんよ」

僕はバティスタ様に返し、力を使う覚悟を決めた。
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