異世界初心者の冒険

海生まれのネコ

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第三章 冒険者たち

十二・戦いの序曲

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1・

すっかり暗くなった周辺に、街灯がいくつか薄ぼんやりと浮かび上がって見えている。

寮から近い広場に向かい、そういえば夜に訓練をした事がなかったと気付いた。

今ならこれまでで一番強い効果が出せるかもしれないと思いつつ、左手首の灰色の腕輪に意識を集中し、白の魔力を灰色の魔力に転換した。

数度の訓練により慣れた感覚よりも鋭く、世界に静かに沈み込み全てを見通せる。

僕は即座にユールレムの方々に意識を向け、精神集中した。

何かの大きな力がいくつも交差する場所で、アリアナの姿も確認できる。

宇宙の一角において、ユールレムの戦艦が巨大な時空獣と戦っている。

ユールレムの予想を越えた力で、時空獣が戦艦を破壊しようとしている。

被害者が数多く出て、戦艦は光を失い沈もうとしている。

そこに僕らもいて助けようとしているようだけれど、既に多くを失った後だ。

その悲惨な状況の中に、白ローブの青年の姿がかすかにある。麒麟のバティスタ様だ。

彼と僕は、そこで会う運命だ。

けれど、これは変化させるべき未来。

これらは、僕が何も気付かずに二週間が経過した時の運命と思える。

だからいま助言出来れば、兵力を増して挑んで貰えることで、被害は最低限に押さえられるだろう。

そこまで読んだところで、ユールレムの方々の宿舎の前に瞬間移動した。

玄関前に二人の護衛の方々がおり、僕が突然やって来た事で驚き、所持している銃に手をやった。

彼らは僕だと分かると、表面的な警戒は解いた。

「誰かと思えば、貴方ですか。何かご用ですか」

「夜分遅く失礼いたします。けれど今すぐにも、アルトリウス様にお取り次ぎ願いたいのです」

「明日にしていただけますか。もうお休みなのです」

彼らが頑ななのは、僕が一週間も無視し続けたせいだ。

悪いことをしたと思いつつも、僕は右手を挙げて手首の腕輪を彼らに見せた。

「ポドールイ王カシミアの代理として来ました。どうか、私の助言を届けさせて下さい」

クリスタの宇宙港でカシミア様に王の衣装の返還をした時、カシミア様はその中からこの腕輪を取り出し、僕に差し出した。

必要になるかもしれない。カシミア様はそう言われたが、この瞬間のことを指したのだろうか。

腕輪を見た彼らはポドールイ王の腕輪のことなど知らないようだが、しかし僕が誰で誰の代理と名乗ったかは理解してくれた。

それからは丁寧に対応してくれ、中へ案内してくれた。

まだ眠ってはいなかったアルトリウス様は、僕が来たことに驚いたものの、僕の言葉の全てを素直に受け入れてくれた。

彼ら自身、これからの戦いのことを知っており、不安に感じていたということで、僕の願い通りに戦力を補強すると言って貰えた。

その一つとして、すでにユールレム宇宙軍将軍の一人であるアルトリウス様自身が赴かれることになった。

僕はその決定を聞いた瞬間、この一週間親しくしていれば、今ここで同行しますと言えたのにと、残念に思った。

そうすれば彼ら自身の身の危険はなくなるのだけれど、でも今の僕では同行は許可されない。

申し訳ないと、僕は心で謝罪して悔いた。

こうしてもう出来ることのない僕の腕に、誰かが触れた。

見ると、アリアナだった。

「兄さん、私は彼らに同行するわ」

「アリアナさん……」

アルトリウス様の口調とアリアナの決意の言葉に、彼女がこの一週間、僕の代わりに親交を深めていたことを知った。

既にいつも通りほどに薄れたポドールイの力でも、二人の間に絆が見える。

「頼む」

僕は答えた。

この瞬間から、違う未来の欠片が見えるようになった。僕は右手を挙げて手首の腕輪を外し、アリアナに手渡した。

今のアリアナは少し嬉しげにほほ笑んだ。その笑顔に、未来の泣き顔が重なって見える。

僕らはそれから、あまり話さずに自分たちの寮に戻った。

2・

アリアナは翌日の早朝、手早く準備を終えてアルトリウス様たちと共に戦いに赴いた。

その姿を見送り、淋しくなった。

今日は授業に出たくないので、訓練場に向かった。

でも訓練せず、綺麗なガラス張りの建物を背にして芝生に座り、学園の様子と青い空を眺めた。

父さんは僕の隣に座り、スタインウェイさんは少し離れた場所で立ち、僕らを見ている。

「お前の名前は、カシミアの前の王様にあやかって付けたんだぞ。クイシャに、そう名付けてと頼んだんだ」

「そうだったんですか」

「ノヴァリスっていう、ポドールイ人らしからぬ強靱さと剣技を誇る、化け物みたいな王だった」

「化け物って」

「ポドールイ王としての力もカシミア以上にあって、本当に化け物だった」

「……それでも、退位されたんですね」

「ああ。カシミアに王位を譲って、すぐ地下に潜ったよ」

僕は、今はまだ見たことも無いポドールイ人の聖地であり墓地である場所に思いをはせた。

ポドールイ人は、怪我や病でも死ぬことはある。

しかしほとんどの者はその様な害から逃れる術を身につけているために、成人してからの不老の特徴を維持し続けてしまう。

人により時期は違うものの、もう生きていたくない、人生を終わらせたいと思った者は、ポドールイ人の聖地に潜る。

光の届かない闇の中で、その姿を闇の化け物に変化させ、ほぼ正気を失った状況で地下をうろつき回る。

狂気すら薄れて忘れて全てを闇に同化させたところで、その者の肉体は現世から消え、ようやく死にいたる。

それがポドールイ人、僕らの死に方。

優れた魔術師などが精神を病み、闇落ちして時空獣になっていく過程にとてもよく似ている。だから彼らのことを他人ごととは思えない。

それでも誰かを傷つけようとした者は、捨ててはおけない。どうあっても阻止する。

出来るならば、それ以前に説得したいけど。

「……アリアナが泣いてますね」

「うーん、まあ、色々とあるからなあ」

「でも、これで良かったと思います。アリアナの決めた道ですからね。意思は尊重しないと。それに正直、彼らと行ってもらえて嬉しいです」

「俺は複雑だ」

ため息をついた父さんを見て、辛抱しきれなくて抱きついた。

「僕はまだここにいますよ!」

「くすぐるな! このがきんちょめ!」

しばらく親子でくすぐり合いをして、馬鹿な時間を楽しんだ。

お互いが気が済んだところで、また話に戻った。

「僕も、僕の未来に向き合うべきですね」

「まだ少し、早いんじゃないのか?」

「どうでしょうかね。今まで幾度も自分の未来を確かめようとしても、見えないんです。麒麟のバティスタ様が僕の道を通せんぼして、その先を見せてくれないんです。背後に幾らかの道筋はあるように感じますが、彼が全てを握っています」

「上司だもんなあ。それにしても酷い。麒麟なのにブラックだ」

「もう就職しましたから、仕方ないですよ」

どれだけ使い回されるんだろうと覚悟しながら、立ち上がってスタインウェイさんを見た。

「スタインウェイさん、バティスタ様にお会いしたいのですが、可能でしょうか?」

「麒麟の力を、操作できるようになってからにして下さい」

「一度会ってから、またここに戻って修行しますよ。だから、構わないでしょう?」

スタインウェイさんは、否定しきれないと思ったようだ。つまりは、否定したいようだ。

「……連絡を入れます。バティスタ様がいまどこにおられるかで、会える日程も変わります。それまでは、麒麟の力を強める修行をするようにお願いします」

「分かりました」

まだ怖くて、一度も黒の力を削ぐ修行をしていない。けれど麒麟として生きることを選んだのだから、そうも言ってられない。

僕は意を決し、これから試してみるために訓練場に入った。
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