精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第一章 精霊王、冒険者になる

3 冒険の始まり

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1・

「ところで……」

一応の話が終わったので、俺は金髪の青年の方を見た。

耳の尖った金髪長髪の青い目のイケメンって、エルフぽい。

「その、この世界にエルフ族……っているんでしょうか?」

「ええ、おりますよ。やはり気になられますか?」

「え、やはりって?」

そう返すと、金髪の青年とタロートは顔を見合わせた。そしてタロートが言った。

「精霊たちは人間と魔術的な繋がりでもって契約して、共に迷宮に挑みます。人間ではなく、エルフ族の者とも契約することがあるのです。唯一の例外は、歴代の精霊王の契約者は常にエルフの王族と決まっている事です」

「へえ、そうなんですか! じゃあ俺も、エルフの王族と契約しないといけないんですか?」

「いえいえ、決まっているというのは、歴代の精霊王様たちご本人のこだわりであった、というだけの意味でしかありません。無理に誰かと契約しないといけない訳ではありませんし、そもそも迷宮に挑まれなくても良いと思います」

「えっ、いやでも、王様だから率先して戦ったり……はしなくても良いんですか?」

「お好きにどうぞ。精霊王様には、このカルゼア大森林の守護者としての任務があられますし、精霊の転生システムである世界樹の管理の仕事もあられます」

「何それ。聞いてないです」

「守護者の任務は緊急時のみの招集になります。転生システムの管理については、それを研究されるおつもりがあれば、すれば良いという程度の緩さの任務です」

「えーと、そんなに緩くて良いんですか?」

「世界樹の世話係の幾人かが学者として研究しておりますので、必要とあれば知恵と力を借りれば良いのです」

「……なるほど」

緩い立場と職場だから、昨日の若者たちに敬われなかったんだなと気付いた。

王じゃなくても強ければ大森林の守護はできるし、賢ければ世界樹の研究もできる。王の有難みが無い。

「じゃあ俺……何をすれば?」

「お好きにどうぞ」

もう一度念を押された。好きにするっていうのが一番難しい時もある。

でも、本当に好きにして良いなら……こんな世の中だ。やっぱり冒険してみたい。日本で引きこもったのは、何となく人と合わなかったからだ。でも、本当は冒険が好きだ。親しんできたゲームも小説も漫画も、ファンタジー冒険物ばっかりだったし。

「お、俺は、迷宮に行ってみたいです」

思い切って言うと、金髪の青年が頷いた。

「ではご案内いたしましょうか? ここから一番近い迷宮なら、すぐにでも向かえます」

「マジっすか! じゃあお願いします! 俺、行きたいです!」

「お任せ下さい。向こうの町で、装備も整えてみましょうか」

「やった! ありがとう、その、えっと──」

「私はタンジェリンといいます」

「タンジェリンさん、よろしくお願いしま─す!」

戦闘力がありそうな保護者を獲得できて、俺は物凄くはしゃいだ。安全が確保された上でファンタジーな町に観光に行けるなんて、楽しすぎるじゃないか!

2・


北部大陸の西側を覆い尽くすカルゼア大森林から、どうやって最寄りの人間の国に行くのかと思ったら、タンジェリンの瞬間移動能力でだった。

合間の旅はなかったものの、灰色の石造りの城塞都市オゼロの内部に立てた時は本気で感動した。

文化的な発展具合は中世ヨーロッパ風で、出歩いている人間たちの格好も、中世ヨーロッパの文化をそんなに知っている訳ではないものの、何となくそんな風だ。

そしてこの城塞都市の隣に迷宮の一つがあるということで、威勢の良さそうな若者たちが身にまとっているのは革や鉱物でできた鎧兜だ。

これから出勤だろう人々は数人でワイワイしながら歩いていて、帰って来たんだろう人々は格好が少しヨレヨレになっているものの、実入りが良かったのか嬉しそうにしながらお店の人たちと談笑している。

そしてそんな冒険者たちに寄り添うのは、身体の一部にどこか獣の部分を持つ精霊たち。しかし人の姿を取る精霊たちよりも、完全に獣の姿をした精霊の方が、圧倒的に多い。

そういうのを見物しながら町中を適当に歩いたところで、タンジェリンが市場の屋台の果物ジュースを買ってくれた。

ありがたく頂きつつ、道端にある適度に壊れたベンチっぽい木切れに座って休憩した。

「冒険者一人につき、精霊が一人ついている訳じゃないんですね」

行き交う人々を眺めながらタンジェリンに聞くと、彼はどこか嬉しそうに頷いた。

「有能な者には、多数の精霊たちが自ら売り込みに行きます。しかし人間の方に魔術的才能が無ければ、契約はできません。それは数の問題ではなく、契約する精霊の強さの合算と、契約者の魔術的許容量で決められているようです」

「はあ、なるほど。同じ人でも、弱い精霊なら大勢と契約できるけれど、強い精霊なら一人だけとかですか」

「ええ。ですので、その事情もあって、歴代の精霊王様方は魔術的許容量が格段に多いエルフの王族と契約されていたんです」

「納得しました」

歴代の精霊王の好みって何だろうと思ってたけど、好みじゃなく事情だったか。普通の一般人は、精霊王と契約できる魔力なんてないんだろう。

じゃあやっぱり自分も……と思ったけど、犬程度と言われたことを思い出した。

「タンジェリンさん、今の俺はどれぐらいの戦闘力があるんでしょうか」

「実際に戦ってみたいのですか?」

「いやその前に、訓練したいです」

「ではまず、冒険者ギルド管轄の訓練施設に行ってみましょう。見物だけでも楽しいと思いますよ」

「行きます!」

とりあえず、他の人の戦闘能力が知りたくなった。

3・

冒険者ギルドなるものがあるという設定でも燃えるのに、その訓練施設の一部は民間にも解放されていて、冒険者たちの訓練を間近で見物することが可能になっていた。

石造りの円形コロシアム風の建物の観客席には、まだ冒険するには早い子供たちがいて、キャッキャしながら楽しげに大人たちの繰り出す技を眺めている。

こうやって冒険者を身近に感じつつ憧れた子供たちが、次の世代になっていくんだろう。

上手いシステムだと思いつつ俺たちも観客席に座って、武器の熟練度を上げようと運動する冒険者たちや、その相方の精霊たちが魔法を使って支援訓練をしているのを眺めた。

「俺もここで訓練できませんか?」

無理かもしれないが、一応タンジェリンに聞いてみた。

「今は止された方が良いかと。もしうっかり貴方様……トーマ様が本来の姿に変身してしまえば、このコロシアムだけでなく、周囲の一区画ほどが綺麗に全壊するかもしれませんので」

「え……いやその、俺ってそんなに強いんですか?」

タンジェリンは、ちょっとだけ苦笑した。

「我らの王ですからね。もし妖精王の称号がないとしても、翼ある者の長という立場は揺らぎません。貴方様が本気になれば、一区画どころかこの都市そのものが、夕暮れまでに全て滅びるでしょう」

「……」

俺は青い空を仰ぎ見た。まだ夕暮れの気配はないけれども、もう太陽は……この星が恩恵を受ける恒星の位置は低い。

「精霊王の称号が無くなることってあるんですか?」

「いいえ、決してありません。先ほどのは例えです。精霊王は精霊王として生まれ出て、死んでゆくものです。その実は黄金と七色に光り輝き、他の精霊たちと一線を画す魔力を保有します。ですので、貴方様に組み敷かれたくない者達も、ああして精霊王の実の誕生を見届けに来たのです。誰が今の 精霊王であるのか、確認をして記憶するために」

とすれば、犬程度という言葉は単なる侮辱だったのか。あの紫色の髪の彼は、よほど精霊王が嫌いなんだろう。

俺が黙っている間に、タンジェリンは続けた。

「けれど……今の貴方様は、力を出す経験が足りません。蛇口のひねり方を知らないので、本能的に力を暴走させる以外は、弱い精霊たち程度の力しか出せないと思います」

「うえっ、ああうん、そうなんですか……」

馬鹿にされたんじゃなかったと苦々しく思った。

とりあえず、俺は先に誰もいない場所で訓練すべきだとは理解した。

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