精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第一章 精霊王、冒険者になる

6 ひとりで冒険!

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1・

きっと今後数百年間は子供の化身の姿だという現実を噛みしめ、枕を濡らした翌日。

それでも俺は魔力の優秀さに自信を持っているので、ひとりで外出する道を選んだ。

タロートは無謀だと止めた。タンジェリンは、こっそりついて行っていいですかと許可を得ようとした。

それはこっそりじゃないと思ったけれど、不安要素がてんこ盛りなので許可を出した。

そのおかげで外出も許可された。そうして、見てくれだけはひとりでの冒険に出発してみた。

外出先に選んだのは、唯一知っている人間の国の城塞都市オゼロだ。

過去の精霊王の世界情勢に関する記憶はうっすらあるものの、前任者が死んでから千年もの空白があるために、実際は今現在の世界情勢などほぼ知らない状態だ。

本当に知らない都市に行けば、魔法世界自体の記憶にアクセスして情報を検索するしかないというややこしい作業のオンパレードになりそうなので、ちょっとだけでも知っているここを選んだ。

それに俺を半霊人……だったっけ。一部の冒険者たちが精霊と人間のハーフの者と勘違いして受け入れてくれているから、純粋で貴重な高位の精霊として出歩く危険性を少しは減らせているだろうし。

そういうことで、冒険者ギルド支部の建物前に俺の力で瞬間移動して、ひとりで立った。あくまでひとりで。

周囲には、立派な装備に身を包んだ背の高い人間の大人たちが沢山いる。

俺だって大人になれば同じ背丈になると憤りつつ支部の中に突撃して、壁際と人の居ない場所を選んで通過して、時間をかけて受付カウンターに近付いてみた。

しかし、どうやれば冒険者ギルドに加入できるか分からない。それを受付カウンターで質問しても良いのだろうけれど、引きこもりで人見知りスキルが発動してしまい、なかなか物陰から出て受付カウンターまで行けない。

でも日本で引きこもりだった時、少しはどうにかしたいと思っていた。人との関係を断つのは、やっぱり寂しいもんだ。

だからここで、人生をやり直したい。

勇気を振り絞った俺は、受付カウンターに人が居なくなった時を見計らい、物陰から出て突撃していった。

受付カウンター内の美人お姉さんは、俺にニッコリ笑いかけてくれた。

俺は素直にギルドに加入したいと相談した。そうしたらすんなりと書類を出してもらえた。

書類の文字は最初読めないものだった。けれども見つめつつ脳裏で検索してみると、世界の情報が流れ込んできて理解できるようになった。便利だ。

名前はトーマ。種族は半霊人。出身地はカルゼア大森林と書いた。得意技術の欄に、風の魔法と書いた。

生年月日は正直に言える訳がないから、年齢を十五歳とだけ書いた。この世界の一日が二十四時間なのか一年が三百六十五日なのかは知らないけれども、今ここに質問できる人が居ないので適当で良いだろう。

不自然な事があれば突っ込んでくれるだろうから、そこで修正すればいい。ウィネリア魔法世界の情報を読み取れる力があっても、日本の暦や時間の情報が物理的にも知識的にも無いので比較検討ができないし。

受付のお姉さんは、そうして出来上がった俺の書類を受け取ってくれた。俺がタンジェリンに持たされていた登録料も出すと、それらを持って一度奥に引っ込んだ。

しばらくして、お姉さんは別の通路から戻ってきて俺の名を呼んだ。きっとこれから実技試験なんだろう。

通路の奥に行こうとすると、彼女は言った。

「保護者の方も入っていいわよ」

「……保護者はいません」

「え? でも」

「保護者はいません」

お姉さんには何かが見えているかも知れないが、俺はひとりなのだ。

なのでひとりで通路の奥に行き、試験会場なのだろう屋内運動場に到着した。

ギルド職員の百戦錬磨の戦士ぽいおっさんが話しかけてきて、魔法の試験をすると言った。やはりか。

運動場の片隅に、木の棒と板で人間の形を表現した人形がいくつか立てられている。

日本のファンタジー小説や漫画だったら、ここで派手に吹っ飛ばしてチート能力を存分に発揮するのが普通だろう。

俺もマジでチート出来そうだと思ったのだが、そこでギルド職員のおっさんは言った。

「分かってると思うが、いくら実力があろうが全部ぶっ飛ばすんじゃないぞ。ここでは魔法を操る技術力の有無を見る。もしお前が建物ごとぶっ飛ばしても失格にして弁償させて、刑務所送りにしてやる」

「はい了解しました。済みません」

まだ何もしてないが、謝っておいた。

実際、地下迷宮で他の冒険者たちと働くのに、魔法の強さだけ優れていても役立たずになるだろう。限られた空間に人が複数いる場合、技術力がなけりゃ出現した魔物じゃなくて人をどうにかしちゃう。

そういう事態を防ぐためか。技術力のテストは、教官が指定した人形の部位に言われた通りの強さの魔法を、十メートル離れた場所から打ち込むものだった。

昨日ちゃんと訓練? をした俺の実力ならば、簡単にクリアできる難易度だ。

2・

無事にテストが終わった後、俺には茶色い冒険者ギルドカードが発行された。

タンジェリンのが金ぴかだったのは、それだけ過去に良い成果を上げた冒険者だからだろう。

俺もすぐ追いつくと決めたから、狙い目の獲物情報掲示板を確認してから即座に迷宮に行こうとした。しかし支部の玄関で、教官が引き止めてきた。

「ブロンズカードの初心者が一人で迷宮に行くな! 行っても入り口で跳ねられるぞ!」

「じゃあ仲間を探します! 仲間募集の掲示板とかないですか?」

「いやそれより、ちゃんと保護者に連れて行ってもらえよ」

「俺には保護者などいません」

「昨日お前を護った者が斜め後方に見えるんだが、喧嘩でもしたのか」

「それは幻です」

「怖いこと言うなよ。ゴールドカード持ちは強いんだから、素直に頼れ。二人もいるんだしさ」

「二人?」

思わず、斜め後方を振り向いて見てしまった。

タンジェリンと一緒にタロートもいる。

「……分かりました」

俺は折れた。ただし入り口に入るまでと心に決めて。

都市の近くにあるといっても、多頭引きの乗り合い馬車に乗って二時間かかる距離にある。基本的に迷宮の内部に湧く魔物は外には出てこないらしいが、それでも管理せず長年放っておくと最終的に溢れ出てくるらしい。

どこの迷宮にもその危険性があるので、適度に離れた場所に住居を構えるのがこの世の常識だという。

馬車に乗っている間にそれを話して聞かせてくれたタンジェリンは、俺が色々と検索すれば済む事ながら、検索しないで突撃するとでも思っているのか別のことも話してくれた。

「迷宮にも格がありまして、ギルドカードと同じくブロンズとシルバーとゴールドです。ブロンズは子供や初心者でも安全性が認められた緩い迷宮でして、ここには魔物の湧かない鉱山迷宮も含まれます」

鉱山迷宮というのを脳裏で検索してみた。いま目に見えている馬車内部の映像に、パソコン画面にあるような感じの白くて少し光ってるっぽい文字が重なって出現した。もちろん、俺にだけ見えている文字だ。

鉱山迷宮とは文字通り、鉱物資源が地面から生えている迷宮らしい。普通の迷宮にも鉱物資源はあるようながら、鉱山迷宮の方はレアメタルとされる金銀プラチナや高価な宝石類、そしてオリハルコンやアダマンタイトのような伝説的鉱物資源は出にくく、ゴールド迷宮の最深部ぐらいにしかないらしい。

レア度には劣るが鉱山迷宮の鉱物資源は豊富にあり、人族の都市の建築や日常に必要な道具を作成する量に十分足りるだけの採掘量があるという。本当、よくできたシステムだ。

タンジェリンの話は続く。

「オゼロの迷宮は鉱山迷宮とブロンズ迷宮、そしてシルバー迷宮があります。ブロンズカードの保持者はパーティを組んだ状態でブロンズ迷宮に立ち入れます。一人ですと、鉱夫として鉱山迷宮にしか入れません」

ドヤ顔のタンジェリンは嬉しそうだ。俺は悔しい。

なのでそれからの話の返事を全部『む~?』で返していると、そのうち同乗者の冒険者たちにクスクス笑われだした。

冒険者たちといえば初日のおっさんのせいもあって硬派なイメージがあったんだけど、彼らも普通の人なんだ。

同乗している知らない精霊たちも緊張せずゆったり構えているし、ここにいる人たちは良い冒険者たちなんだろう。

迷宮内部で困ったら、こっそり頼れるっぽい。
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