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第一章 精霊王、冒険者になる
9 もう一度迷宮に
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1・
少ししょぼくれてベッドに入り、眠っていたらすぐ翌日になっていた。
朝の食事としてスープを持って見舞いに来てくれたタロートに、色々と考えた事の中から、いくつか質問してみた。
「俺の前世の精霊王って、迷宮に入ってましたか?」
「確か、先代の精霊王様に限らず、迷宮に入ることを好んだ方はおられないようです。ただし問題があれば、迷宮だろうがエルフや人の王宮だろうが、突撃されていたようです」
「え……じゃあ魔物を狩った事もありますよね?」
「ないという可能性はとても低いです。言い伝えられている歴史的事実として、大森林を守護するために優れた魔術で敵をあまた倒しておりますので」
タロートの言葉通り、何となく感じる自分自身の過去において、俺が決して勇敢じゃなかった時など無いように感じる。
実際はあるとしても、それ以上の多くの場面で勇敢だったんだろう。塗りつぶされている感覚がある。
とすれば昨日の同情は……日本人の平和ボケ感性が炸裂しただけなのか。恥ずかしい。
でも、迷宮に挑むからって、完全に冷徹で無慈悲な存在になって殺戮を繰り返したくはない。迷宮に挑んだのは、何か楽しい思い出ができると思ったからで……。
他の冒険者たちのように、日々の路銀を集めたいからでなく、人々の食料を確保したいからでもない。俺はただ、楽しみたいんだ。
「うーん……」
出かけられたのは楽しいし、色んな人と出会えたのも楽しい。自分の能力を確認できるのも楽しい。
しかし殺戮はしたくない。
俺は、壁に立てかけてある鉄の棒を見た。あれを引き抜けなかったのは悔しいが、ゲットできて嬉しかった。
「よし、タロートさん、今日から路線変更で行きます。迷宮に宝石を採取しに行きます」
「確かに、精霊王様といえども先立つ物は必要ですね」
「……」
そういえば俺の財産はゼロだった。俺がもう少し成長すれば、このお城からも、いつか出て行かないといけないだろうし。
大森林内で土地を確保して家を建てるとしたら、大工さんに宝石や金銀でお礼せねばならないだろう。
何だ、俺も他の冒険者と同じで、お金が必要な身の上だった。笑える。
苦笑いしていると、タンジェリンが通常モードでやって来た。
彼が保管してくれていた獲物を売り払ってきたからと、机の上に人間達の国の硬貨を置いてくれた。
俺はやっぱり魔物も倒そうと思いつつ、硬貨を貰っておいた。
2・
二度目のブロンズ迷宮に入ってすぐ、タンジェリンが申し出てきた。
「散策したいという要望が無ければ、昨日の到達地点まで瞬間移動で行きますか?」
俺は少し悩んだものの、奥に行かないと宝石どころか鉄もない。魔物のいない鉱山迷宮の方は冒険者たちが持ち出す荷物の半額を税金で持って行かれた上に全てが国に買い上げられるそうだが、ブロンズ迷宮なら店で売り払う時に一割の税金徴収で許される。
あと、一度売り払われた後の鉱物の税金は取り引き時に二割の税金を支払わないといけないそうで、ブロンズ迷宮で穫れた宝石などは門のある検問所に提出して、ここで産出したばかりという証明書の交付をしてもらう。そうしなけりゃ普通は損をするから、迷宮外に持ち出す時に密輸する意味がない。
それに加え、産出国との直接的な取り引き時には出自がはっきりしている鉱物の税金が免除となるシステムもあるそうで、商人による国外への大量の無断売却も出来る限り抑える方向性だとか。
まあつまり、永遠に栄える文明の維持のために、地産地消を基本的にモットーにしているということだ。
貴重な魔物の部位や貴金属の一部は例外になるだろうが、とにかくその政策で人民が飢えない世界がこうして何千年も維持出来ているんだから、良策ってことなんだろう。
で、少しばかり悩んだ後で、手っ取り早く宝石を見つけたかったから地下四階に降りたばかりの地点まで、瞬間移動させてもらった。
昨日の冒険者たちが抜いていった鉄棒のあった場所には、ぽつぽつと少しだけ鉄らしき盛り上がりがあった。
タケノコ並の早さで生える訳ではなさそうと思いつつ、横を通過して奥へ向かった。
昨日の探検は主に俺が先頭で、風の魔法を駆使して魔物を退治していた。
今日は露払い、盾の役目のアタッカー二人に前に出てもらい、俺はその後ろをついて行きつつ周辺の地面と壁を見回して確認する係になった。
まだ若者のタンジェリンはともかく、膝に古傷があるから杖をついて歩いているご老人のタロートが戦えるのかと不安に思った。
だけどその杖は仕込み杖で、敵が来たらタンジェリンと同じぐらいのスピードで剣を抜いて魔物を一刀両断した。
俺は彼らについて、特に何も心配しなくていいやと理解した。
地下四階を通り抜け、同じく洞窟のような造りの地下五階に降りても戦いは二人に任せて鉱物を探してみた。
でもまだちらほらと姿が見える他の冒険者たちも通っている場所だからか、全く何も生えていない。昨日の鉄は、二束三文だから奥へ行く冒険者たちが見逃してあっただけなのかも。
より地下に行こうと決めて、二人に話を聞いた。
今いる地下五階には複数の下層への階段があって、それぞれ別の用途の異空間に繋がっていると教えてもらった。
一番の人気はやはり、国民の食料を維持するための食肉用魔物の群れがいる場所だという。湖もあり、漁もできるらしい。
引き続いて穀物と野菜と色んな虫が多い場所も人気らしい。皆さん虫も食べるしね……。
そして迷宮の最奥に続くメインの通路には、素材用に優れた魔物が多くたむろしていて、一番難易度の低いブロンズ迷宮の敵といっても、注意して対応しないと命の危険があるという。
俺の狙いたい貴金属は、そのメインの通路の奥で時折見かけるのだとか。
「じゃあ……貴金属目当てでメインのルートに行きたいと思います。タンジェリンさんにタロートさん、これからも戦闘を頼んで良いですか?」
「ええ勿論です。ブロンズ迷宮の敵など、我らに取り赤子同然ですので、お気遣いなく」
満面の笑みでタンジェリンが答えてくれて、ホッとした。
頼りっぱなしで悪い気がするんだけど、彼らは無償でも精霊王の俺に付き従ってくれる。本当、頭が上がらなくなってきた。
愛想笑いを浮かべつつ、メインのルートに向かって歩き出そうとして……動きを止めた。
かすかに誰かの声が聞こえる。タンジェリンもタロートも聞こえているようで、ある方向に鋭い視線をやっている。
「地下六階から逃げてきたようです」
タンジェリンの囁きに、俺は驚いた。
「それって、敗走って意味……いや、ああ、分かる。今まだ追われてるんだ」
ゾッとして、どうしようか迷った。でも聞こえてくる悲鳴が女性か子供の声に思えて、咄嗟に走り出していた。
すぐタンジェリンが前に出て、道案内を買って出てくれた。俺はその後を必死になって追いかけていき、一キロメートルほどは走ったと思える場所で立ち止まった。
すぐそこの通路で、空を飛ぶ何かと戦う人の影が見えた。
さっきまで聞こえていた悲鳴がもう聞こえない。
「彼らを護って!」
俺は今の自分のできる唯一の事として叫び、二人が先に通路の奥に進んでから、同じ場所に駆け込んだ。
少し広めの洞窟のような場所で、先程までいた筈の魔物……複数の巨大な蜂が舞い散るように全て地面に落ちた瞬間を見た。
次に、追われていた冒険者たちを確認して驚いた。僕がパーティーに入れてと頼んだ、あの初心者の子供たちだったから。
みんな疲れ切り、血を流している。二人いた女の子は両方が倒れていて、装甲の薄いフード付きの布の服をまとっている彼女が、意識がないようだ。
一斉に蜂に襲われて、噛み付かれたり刺されたりしたんだろう。切り傷は深くて流血が酷い上に、毒を受けた場所が青黒く盛り上がっている。とても酷い状態だ。
「だ、誰か、治せる人は?」
俺は戸惑いつつも、最後まで戦っていたリーダーに聞いた。彼自身も毒を受けて辛そうに顔を歪めて、倒れる彼女を見た。
彼女が回復魔法を使えるんだろう。じゃあまさか、他に手の施しようがないのか。
「タンジェリンさん、タロートさん?」
俺は彼らなら何とかしてくれると期待して名を呼んだ。タロートは、首を横に振った。
「トーマ様」
タンジェリンが強い眼差しをくれて、傍まで来て俺の左手を取りギュッと握りしめた。
「落ち着いて下さい。冷静に、慎重に力を行使するのです」
俺が使えるんだと知った。
意識のない女の子の傍に膝をつき、傷に手を当てて思い出せ思い出せと自分に言い聞かせた。
なんで前世の記憶を受け取らないかったと悔やんでも仕方ないけれど、自分の馬鹿が憎くてしょうが無い。
それでも意識を集中し、落ち着こうと努力する中で、自分の能力が魔法世界を流れる根源の力の操作であると思い出した。
そう、だから、根源の力、命の源である魔力を与えればいい。冷静に、慎重に。
俺の周囲が真白く輝いた。手になじむ魔力を少しずつ彼女に与えると、少しだけ与えたと思えない早さで傷口が閉じて、毒にやられた部分も瞬時に消え去った。
もう大丈夫と手を離してから、離れた位置にいる怪我をした子供たちにも遠隔操作で同じように力を与えた。
泣き顔の彼らは、一瞬のちに驚き、そして叫んだ。
意識のなかった彼女が起き上がり、不思議そうな表情をした。
俺もだけれど、子供たちは今度は嬉し涙を流して喜び合った。
落ち着いてから、事情を聞かせてもらった。
子供たちのパーティーは、野菜が沢山ある階層に降りていき、どんな場所かと様子を見ようとした。そしてほんの少し歩いた場所で、不運にも地中にある蜂の巣を踏みつけて、追われてしまったのだという。
自分たちの不注意だと反省した彼らは、瞬間移動で送ろうと申し出た俺たちの提案を蹴り、帰りはきちんと自分たちの足で帰ると言った。散在な冒険だけれど彼らの初めての冒険だから、その足で戻りたいんだそうだ。
俺は、そういうのは格好いいよなと思った。
彼らがもう一度、同じメンバーで迷宮に潜るかどうかは分からない。しかし故郷に帰るにも、お金が必要だろう。
だからここで退治した蜂の全てを彼らに持たせただけでなく、せっかくなので蜂の巣まで戻って、残りの蜂と蜂の子とハチミツ、それに蜂の巣も地中から掘り起こしてゲットして渡した。
ほぼ全ての蜂を退治したのはタンジェリンとタロートながら、ここは遠慮せずに受け取ってもらった。
俺たちはハチミツを大きな瓶に一つだけいただいて、それで満足した。
しかし……。
子供たちと笑顔で別れた後、自分の手に付いたハチミツを舐めようとして、サッと動いたタンジェリンに先にハンカチで拭かれてしまった。
「うえっ、別に舐めてもいいでしょうに」
「駄目ですよ。ハチミツは消化しにくい食べ物ですので、これから一ヶ月ほどは辛抱してください。お腹を下します」
「ええーっ、そりゃないよ!」
めっちゃめちゃ美味しそうなのに食べられないとは。生後四日目なのが悔やまれる……。
少ししょぼくれてベッドに入り、眠っていたらすぐ翌日になっていた。
朝の食事としてスープを持って見舞いに来てくれたタロートに、色々と考えた事の中から、いくつか質問してみた。
「俺の前世の精霊王って、迷宮に入ってましたか?」
「確か、先代の精霊王様に限らず、迷宮に入ることを好んだ方はおられないようです。ただし問題があれば、迷宮だろうがエルフや人の王宮だろうが、突撃されていたようです」
「え……じゃあ魔物を狩った事もありますよね?」
「ないという可能性はとても低いです。言い伝えられている歴史的事実として、大森林を守護するために優れた魔術で敵をあまた倒しておりますので」
タロートの言葉通り、何となく感じる自分自身の過去において、俺が決して勇敢じゃなかった時など無いように感じる。
実際はあるとしても、それ以上の多くの場面で勇敢だったんだろう。塗りつぶされている感覚がある。
とすれば昨日の同情は……日本人の平和ボケ感性が炸裂しただけなのか。恥ずかしい。
でも、迷宮に挑むからって、完全に冷徹で無慈悲な存在になって殺戮を繰り返したくはない。迷宮に挑んだのは、何か楽しい思い出ができると思ったからで……。
他の冒険者たちのように、日々の路銀を集めたいからでなく、人々の食料を確保したいからでもない。俺はただ、楽しみたいんだ。
「うーん……」
出かけられたのは楽しいし、色んな人と出会えたのも楽しい。自分の能力を確認できるのも楽しい。
しかし殺戮はしたくない。
俺は、壁に立てかけてある鉄の棒を見た。あれを引き抜けなかったのは悔しいが、ゲットできて嬉しかった。
「よし、タロートさん、今日から路線変更で行きます。迷宮に宝石を採取しに行きます」
「確かに、精霊王様といえども先立つ物は必要ですね」
「……」
そういえば俺の財産はゼロだった。俺がもう少し成長すれば、このお城からも、いつか出て行かないといけないだろうし。
大森林内で土地を確保して家を建てるとしたら、大工さんに宝石や金銀でお礼せねばならないだろう。
何だ、俺も他の冒険者と同じで、お金が必要な身の上だった。笑える。
苦笑いしていると、タンジェリンが通常モードでやって来た。
彼が保管してくれていた獲物を売り払ってきたからと、机の上に人間達の国の硬貨を置いてくれた。
俺はやっぱり魔物も倒そうと思いつつ、硬貨を貰っておいた。
2・
二度目のブロンズ迷宮に入ってすぐ、タンジェリンが申し出てきた。
「散策したいという要望が無ければ、昨日の到達地点まで瞬間移動で行きますか?」
俺は少し悩んだものの、奥に行かないと宝石どころか鉄もない。魔物のいない鉱山迷宮の方は冒険者たちが持ち出す荷物の半額を税金で持って行かれた上に全てが国に買い上げられるそうだが、ブロンズ迷宮なら店で売り払う時に一割の税金徴収で許される。
あと、一度売り払われた後の鉱物の税金は取り引き時に二割の税金を支払わないといけないそうで、ブロンズ迷宮で穫れた宝石などは門のある検問所に提出して、ここで産出したばかりという証明書の交付をしてもらう。そうしなけりゃ普通は損をするから、迷宮外に持ち出す時に密輸する意味がない。
それに加え、産出国との直接的な取り引き時には出自がはっきりしている鉱物の税金が免除となるシステムもあるそうで、商人による国外への大量の無断売却も出来る限り抑える方向性だとか。
まあつまり、永遠に栄える文明の維持のために、地産地消を基本的にモットーにしているということだ。
貴重な魔物の部位や貴金属の一部は例外になるだろうが、とにかくその政策で人民が飢えない世界がこうして何千年も維持出来ているんだから、良策ってことなんだろう。
で、少しばかり悩んだ後で、手っ取り早く宝石を見つけたかったから地下四階に降りたばかりの地点まで、瞬間移動させてもらった。
昨日の冒険者たちが抜いていった鉄棒のあった場所には、ぽつぽつと少しだけ鉄らしき盛り上がりがあった。
タケノコ並の早さで生える訳ではなさそうと思いつつ、横を通過して奥へ向かった。
昨日の探検は主に俺が先頭で、風の魔法を駆使して魔物を退治していた。
今日は露払い、盾の役目のアタッカー二人に前に出てもらい、俺はその後ろをついて行きつつ周辺の地面と壁を見回して確認する係になった。
まだ若者のタンジェリンはともかく、膝に古傷があるから杖をついて歩いているご老人のタロートが戦えるのかと不安に思った。
だけどその杖は仕込み杖で、敵が来たらタンジェリンと同じぐらいのスピードで剣を抜いて魔物を一刀両断した。
俺は彼らについて、特に何も心配しなくていいやと理解した。
地下四階を通り抜け、同じく洞窟のような造りの地下五階に降りても戦いは二人に任せて鉱物を探してみた。
でもまだちらほらと姿が見える他の冒険者たちも通っている場所だからか、全く何も生えていない。昨日の鉄は、二束三文だから奥へ行く冒険者たちが見逃してあっただけなのかも。
より地下に行こうと決めて、二人に話を聞いた。
今いる地下五階には複数の下層への階段があって、それぞれ別の用途の異空間に繋がっていると教えてもらった。
一番の人気はやはり、国民の食料を維持するための食肉用魔物の群れがいる場所だという。湖もあり、漁もできるらしい。
引き続いて穀物と野菜と色んな虫が多い場所も人気らしい。皆さん虫も食べるしね……。
そして迷宮の最奥に続くメインの通路には、素材用に優れた魔物が多くたむろしていて、一番難易度の低いブロンズ迷宮の敵といっても、注意して対応しないと命の危険があるという。
俺の狙いたい貴金属は、そのメインの通路の奥で時折見かけるのだとか。
「じゃあ……貴金属目当てでメインのルートに行きたいと思います。タンジェリンさんにタロートさん、これからも戦闘を頼んで良いですか?」
「ええ勿論です。ブロンズ迷宮の敵など、我らに取り赤子同然ですので、お気遣いなく」
満面の笑みでタンジェリンが答えてくれて、ホッとした。
頼りっぱなしで悪い気がするんだけど、彼らは無償でも精霊王の俺に付き従ってくれる。本当、頭が上がらなくなってきた。
愛想笑いを浮かべつつ、メインのルートに向かって歩き出そうとして……動きを止めた。
かすかに誰かの声が聞こえる。タンジェリンもタロートも聞こえているようで、ある方向に鋭い視線をやっている。
「地下六階から逃げてきたようです」
タンジェリンの囁きに、俺は驚いた。
「それって、敗走って意味……いや、ああ、分かる。今まだ追われてるんだ」
ゾッとして、どうしようか迷った。でも聞こえてくる悲鳴が女性か子供の声に思えて、咄嗟に走り出していた。
すぐタンジェリンが前に出て、道案内を買って出てくれた。俺はその後を必死になって追いかけていき、一キロメートルほどは走ったと思える場所で立ち止まった。
すぐそこの通路で、空を飛ぶ何かと戦う人の影が見えた。
さっきまで聞こえていた悲鳴がもう聞こえない。
「彼らを護って!」
俺は今の自分のできる唯一の事として叫び、二人が先に通路の奥に進んでから、同じ場所に駆け込んだ。
少し広めの洞窟のような場所で、先程までいた筈の魔物……複数の巨大な蜂が舞い散るように全て地面に落ちた瞬間を見た。
次に、追われていた冒険者たちを確認して驚いた。僕がパーティーに入れてと頼んだ、あの初心者の子供たちだったから。
みんな疲れ切り、血を流している。二人いた女の子は両方が倒れていて、装甲の薄いフード付きの布の服をまとっている彼女が、意識がないようだ。
一斉に蜂に襲われて、噛み付かれたり刺されたりしたんだろう。切り傷は深くて流血が酷い上に、毒を受けた場所が青黒く盛り上がっている。とても酷い状態だ。
「だ、誰か、治せる人は?」
俺は戸惑いつつも、最後まで戦っていたリーダーに聞いた。彼自身も毒を受けて辛そうに顔を歪めて、倒れる彼女を見た。
彼女が回復魔法を使えるんだろう。じゃあまさか、他に手の施しようがないのか。
「タンジェリンさん、タロートさん?」
俺は彼らなら何とかしてくれると期待して名を呼んだ。タロートは、首を横に振った。
「トーマ様」
タンジェリンが強い眼差しをくれて、傍まで来て俺の左手を取りギュッと握りしめた。
「落ち着いて下さい。冷静に、慎重に力を行使するのです」
俺が使えるんだと知った。
意識のない女の子の傍に膝をつき、傷に手を当てて思い出せ思い出せと自分に言い聞かせた。
なんで前世の記憶を受け取らないかったと悔やんでも仕方ないけれど、自分の馬鹿が憎くてしょうが無い。
それでも意識を集中し、落ち着こうと努力する中で、自分の能力が魔法世界を流れる根源の力の操作であると思い出した。
そう、だから、根源の力、命の源である魔力を与えればいい。冷静に、慎重に。
俺の周囲が真白く輝いた。手になじむ魔力を少しずつ彼女に与えると、少しだけ与えたと思えない早さで傷口が閉じて、毒にやられた部分も瞬時に消え去った。
もう大丈夫と手を離してから、離れた位置にいる怪我をした子供たちにも遠隔操作で同じように力を与えた。
泣き顔の彼らは、一瞬のちに驚き、そして叫んだ。
意識のなかった彼女が起き上がり、不思議そうな表情をした。
俺もだけれど、子供たちは今度は嬉し涙を流して喜び合った。
落ち着いてから、事情を聞かせてもらった。
子供たちのパーティーは、野菜が沢山ある階層に降りていき、どんな場所かと様子を見ようとした。そしてほんの少し歩いた場所で、不運にも地中にある蜂の巣を踏みつけて、追われてしまったのだという。
自分たちの不注意だと反省した彼らは、瞬間移動で送ろうと申し出た俺たちの提案を蹴り、帰りはきちんと自分たちの足で帰ると言った。散在な冒険だけれど彼らの初めての冒険だから、その足で戻りたいんだそうだ。
俺は、そういうのは格好いいよなと思った。
彼らがもう一度、同じメンバーで迷宮に潜るかどうかは分からない。しかし故郷に帰るにも、お金が必要だろう。
だからここで退治した蜂の全てを彼らに持たせただけでなく、せっかくなので蜂の巣まで戻って、残りの蜂と蜂の子とハチミツ、それに蜂の巣も地中から掘り起こしてゲットして渡した。
ほぼ全ての蜂を退治したのはタンジェリンとタロートながら、ここは遠慮せずに受け取ってもらった。
俺たちはハチミツを大きな瓶に一つだけいただいて、それで満足した。
しかし……。
子供たちと笑顔で別れた後、自分の手に付いたハチミツを舐めようとして、サッと動いたタンジェリンに先にハンカチで拭かれてしまった。
「うえっ、別に舐めてもいいでしょうに」
「駄目ですよ。ハチミツは消化しにくい食べ物ですので、これから一ヶ月ほどは辛抱してください。お腹を下します」
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