精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

文字の大きさ
13 / 78
第一章 精霊王、冒険者になる

十一 地下十二階

しおりを挟む
1・

あまり高価じゃないものの、念願の宝石を拾えたり鉱物も採掘したりしながら、予定通りに地下十一階まで進んだ。夜時間になった頃には、十二階に降りる階段のすぐ傍に到着できた。

今回は邪魔が入らないように、人の来ない奥の方でキャンプをした。食事はくたくたになるまで煮込んだ美味しい野菜スープで、味は良いものの何の野菜が入っているかは最後まで分からなかった。

野菜や果物と分かっているなら未知の物でも怖くないものの、肉は怖いよなと思う。

虫とか絶対に嫌と考えつつ眠り、少し悪夢を見てうなされて起きた翌日。

ろくに食事を取らないでも大人の精霊は平気だと説明を受けたものの、水以外飲んでなさそうなタンジェリンとタロートのことを気にしつつ、俺は青汁のようなものを頂いた。ありがたいことに、この世の青汁は甘くて美味しい!

これも新たな発見だと嬉しく思いつつ、改めて気合いを入れ直して地下十二階への階段に向かった。

降りる直前でタンジェリンが立ち止まり、周囲を見回した。

「他の冒険者の通った気配があります。ブロンズ迷宮といえども地下十二階に向かえる者は、魔物のみならず我らにとっても警戒すべき相手です。昨日の通りに回避して進みますが、もし出会った場合は、下手に相手にしてはなりませんよ」

「分かってます。前に助けた子供たちと違って、自分で自分の面倒を見られる人たちは、接触されるのを嫌うんですよね」

「はい、その通りです」

学校の先生と生徒の気分で、タンジェリンの言葉を素直に受け取った。

テントを奪った彼らのような者じゃなくて、外で会えば穏便に話せるだろう者たちでも、この命のかかった迷宮内では訳が違う。

性格が良い悪いの問題じゃない。深層まで到達して疲労がたまり、魔物の徘徊するさなかで気は休まらない。寝不足の頭で、少しでも良い獲物を欲して、本能に従おうとする。

ベテランであれば、そういう状態でも後の事を考えて他者と距離を取れるだろう。でも初めて奥まで来た者には、そんな余裕はない恐れがある。

俺たちのような純粋な精霊は少し違い、自分でも驚く程に非常に頑丈な造りをしている。人間だった時より子供で筋力は低いものの、生後一週間も経っていないのに、下手な大人以上の体力と持久力がある。睡眠も短くて良く、常に体の準備が出来ているというような快適さすらある。

これから出会う冒険者たちが、精霊か半霊人か人間なのか、ベテランなのか初心者か、どういう状況か分からない。だから俺は二人に少し待ってもらい、世界の情報にアクセスして、検索能力の脳内地図で地下十二階にいる人間と精霊たちの位置情報を割り出した。

精霊を含む複数人数の三つのパーティーがおり、広い十二階の中でお互いに意識して距離を保っているのか、現在位置がばらけている。

魔物たちの気配も同時に感知できた。ボスらしき存在がウロつく広間が、一番奥にある。

だけど自分の獲物の宝石と鉱物は検索しなかった。探し出す楽しみを味わいたいんだから。

冒険者たちと魔物の情報は二人に伝えて、それらを回避しつつ進むことにした。

狙うは高価な宝石だ。

2・

地下十二階は、それこそ迷宮という感じがある中世ヨーロッパのお城の建築物のような、石造りの人工的な通路と部屋で構成されている。

いくつかの通路を通過して部屋に入り、魔物がいた形跡と共に鉱石があったかも知れない窪みなども発見した。

でも先を越されたらしく、数カ所の部屋を巡っても、何一つとしてお宝がない。

一時休暇を取った部屋で、石の机に腰掛けた俺は落胆した。

「考えが甘かったです……」

「少し運が悪かったかもしれません」

タンジェリンは普通の調子で言った。

「他の冒険者たちの目当ても、宝石だったのでしょう。ボス部屋に向かうものかと思っていましたが」

「はあ、ボスって倒せばお金になるんですよね?」

「なりますとも。良い素材が沢山採れますからね。ここの迷宮の主はマンティコアで、肉は食用ではありませんが、魔力を多く含む皮などが高額取り引きされます」

「そうですか。それで気になるんですが、ボスを倒したら次にいつ出現するんですか?」

「一週間後ほどだと聞いています」

タンジェリンの話を聞いて、俺は悩んだ。宝石が得られない今、まだ残っているボスを狩るかどうかで。

うんうん唸ってしまうと、今度はタロートが話し始めた。

「同じ姿のマンティコアがボスとして復活するとしても、個体差があるといいます。弱かったり強かったり、体格が大きいか小さいかも別だといいます。よって、同じ存在が復活した者ではなく、新たな個体が生み出されたという説が有力です」

「はは……俺みたいに、同じ存在が何度も殺されに転生しているんじゃないんですね。って、俺も前世と姿が違うんでしたっけ? じゃあ、ボスの中身の魂は同じって可能性もありますね」

俺がこう言うと、タンジェリンが苦笑いした。

「精霊王様と迷宮のボスは全く違いますよ。いくらご本人と言えども、崇高なる存在と魔物を比べたりしないで下さいませ。魔物に魂は無いのです」

「えっと、はい」

俺も笑った。でもタロートは、真剣な様子を崩さないで言った。

「ここ最近の傾向として、迷宮の魔物の戦闘力が上がっているとか。私はしばらく迷宮に立ち入っておりませんでしたから、確かにこのブロンズ迷宮の魔物の強さが、我らが若手だった時よりも上がっているとはっきり感じました。タンジェリン殿も、そう感じられているのでは?」

「それは……」

タンジェリンは痛いところを突かれたような表情をして、俺をちらりと見た。

「確かに、以前より手強く感じます。この最下層は、以前のシルバー迷宮の中層上部ほどの難易度だと思います」

「ええっ……」

迷宮の魔物が強くなるって、日本のファンタジー物のお約束じゃあ、多くの魔物が迷宮から溢れ出る前兆だったりする筈。

だからそれじゃないのかと言ってみたら、二人ともキッパリ否定した。

それから、タンジェリンが説明してくれ始めた。

「現在、多くの冒険者たちが最下層まで頻繁に出入りして魔物を退治している状況で、この最下層の魔物の数も少なく維持されています。それは先ほど迷宮情報を調べられたトーマ様こそ、ご理解頂けるかと」

「それは、確かに」

「問題は数ではなく、魔物たち全体の力の底上げのようです。我らのような普通の精霊では、その原因が何かなんて見当すらつけられません」

「ああ、はい。俺、お城に帰ってから調べてみます」

「よろしくお願い致します」

本当に、迷宮から帰ったらしばらくお城に缶詰になる必要がありそうだ。

明日から仕事のサラリーマンの気分になった。でも今は楽しもうかなと、座っていた石の机から飛び降りた。

「そうだ。そのボスを、少し見に行けませんか? 倒すんじゃなくて、タンジェリンさんとタロートさんがそれぞれ倒した個体とどう違うか、見比べてもらいたいんです」

「ええ、構いませんよ。行きましょうか」

二人は快諾してくれた。

この迷宮のボスが手強くなっていても、この二人がいれば敵ではないだろう。ただ他の冒険者たちと鉢合わせしたくないから、さっと行って立ち去るべし。

そう決めて、三人で静かに歩いてボス部屋まで向かうことにした。

時折俺の検索能力で作った脳内地図で冒険者たちの現在位置を確認して、出くわさないようにボス部屋に近付いた。

魔物とは遭遇したものの、先に存在を理解して強襲できたおかげで、こちらの被害は一切無く倒せた。

倒したそれらを空間収納にしまい込みつつ進み……ボス部屋に近いある地点で検索した時に、一つの冒険者たちの動きが不都合な状況になっているのに気付いた。

「一個のパーティーが、ボス部屋の前にいます。これ、きっと退治するつもりですよ」

俺が残念そうに言うと、二人は顔を見合わせた。

「どうされますか? 戦いを少しばかり覗き見してみますか? その方が、単独パーティーで確認しに行くよりも安全ですが」

タンジェリンの言葉に、俺は頷いた。

「あと、五つ目のパーティーが十二階に降りてきました。こちらはまだ距離があるので、今は気にしないでいいと思いますが、階段の前に居座られたら帰りに鉢合わせするかも」

「帰りは地下一階まで瞬間移動しましょう」

タロートが提案してくた。残念だけど、厄介事の回避のためにそうすることにした。

高価な宝石が欲しかったと本当に残念に思いつつ、脳内地図を消そうとした。

この時、冒険者たちを示す光がボス部屋に侵入していった。

ああ行っちゃったなと思った次の瞬間、現実の通路の奥からボスの咆哮が響き渡ってきて、迷宮を揺らがせる地響きまで伝わってきた。

「これはまずいです」

タンジェリンが、まだ現場から離れているのに長剣を抜いて身構えつつ言った。その彼の姿に重なるように見えている脳内地図の冒険者たちの光が二つ、赤く弱々しい光となり動かなくなった。

「二人、一瞬でやられた」

俺が思わず呟いた言葉に、タンジェリンが反応した。

「昔のマンティコアは、それほど強くありませんでした。冒険者たちが初心者であった可能性があるものの、鉄の盾や鎧を通さない程度の攻撃しか出せなかった筈なんです」

「どうされますか」

タロートが、動揺する俺の肩に触れつつ言った。

俺たちなら助けられるだろう。でも彼らがそれを望むかは……。

「えーい、もうややこしい事情はいいや! 助けに行こう!」

既に犠牲が出ている。後で叱られるなら叱られればいい。

俺たちは、前に子供たちを助けた時と同じように素早く走って、問題の現場を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...