精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第一章 精霊王、冒険者になる

十一 地下十二階

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1・

あまり高価じゃないものの、念願の宝石を拾えたり鉱物も採掘したりしながら、予定通りに地下十一階まで進んだ。夜時間になった頃には、十二階に降りる階段のすぐ傍に到着できた。

今回は邪魔が入らないように、人の来ない奥の方でキャンプをした。食事はくたくたになるまで煮込んだ美味しい野菜スープで、味は良いものの何の野菜が入っているかは最後まで分からなかった。

野菜や果物と分かっているなら未知の物でも怖くないものの、肉は怖いよなと思う。

虫とか絶対に嫌と考えつつ眠り、少し悪夢を見てうなされて起きた翌日。

ろくに食事を取らないでも大人の精霊は平気だと説明を受けたものの、水以外飲んでなさそうなタンジェリンとタロートのことを気にしつつ、俺は青汁のようなものを頂いた。ありがたいことに、この世の青汁は甘くて美味しい!

これも新たな発見だと嬉しく思いつつ、改めて気合いを入れ直して地下十二階への階段に向かった。

降りる直前でタンジェリンが立ち止まり、周囲を見回した。

「他の冒険者の通った気配があります。ブロンズ迷宮といえども地下十二階に向かえる者は、魔物のみならず我らにとっても警戒すべき相手です。昨日の通りに回避して進みますが、もし出会った場合は、下手に相手にしてはなりませんよ」

「分かってます。前に助けた子供たちと違って、自分で自分の面倒を見られる人たちは、接触されるのを嫌うんですよね」

「はい、その通りです」

学校の先生と生徒の気分で、タンジェリンの言葉を素直に受け取った。

テントを奪った彼らのような者じゃなくて、外で会えば穏便に話せるだろう者たちでも、この命のかかった迷宮内では訳が違う。

性格が良い悪いの問題じゃない。深層まで到達して疲労がたまり、魔物の徘徊するさなかで気は休まらない。寝不足の頭で、少しでも良い獲物を欲して、本能に従おうとする。

ベテランであれば、そういう状態でも後の事を考えて他者と距離を取れるだろう。でも初めて奥まで来た者には、そんな余裕はない恐れがある。

俺たちのような純粋な精霊は少し違い、自分でも驚く程に非常に頑丈な造りをしている。人間だった時より子供で筋力は低いものの、生後一週間も経っていないのに、下手な大人以上の体力と持久力がある。睡眠も短くて良く、常に体の準備が出来ているというような快適さすらある。

これから出会う冒険者たちが、精霊か半霊人か人間なのか、ベテランなのか初心者か、どういう状況か分からない。だから俺は二人に少し待ってもらい、世界の情報にアクセスして、検索能力の脳内地図で地下十二階にいる人間と精霊たちの位置情報を割り出した。

精霊を含む複数人数の三つのパーティーがおり、広い十二階の中でお互いに意識して距離を保っているのか、現在位置がばらけている。

魔物たちの気配も同時に感知できた。ボスらしき存在がウロつく広間が、一番奥にある。

だけど自分の獲物の宝石と鉱物は検索しなかった。探し出す楽しみを味わいたいんだから。

冒険者たちと魔物の情報は二人に伝えて、それらを回避しつつ進むことにした。

狙うは高価な宝石だ。

2・

地下十二階は、それこそ迷宮という感じがある中世ヨーロッパのお城の建築物のような、石造りの人工的な通路と部屋で構成されている。

いくつかの通路を通過して部屋に入り、魔物がいた形跡と共に鉱石があったかも知れない窪みなども発見した。

でも先を越されたらしく、数カ所の部屋を巡っても、何一つとしてお宝がない。

一時休暇を取った部屋で、石の机に腰掛けた俺は落胆した。

「考えが甘かったです……」

「少し運が悪かったかもしれません」

タンジェリンは普通の調子で言った。

「他の冒険者たちの目当ても、宝石だったのでしょう。ボス部屋に向かうものかと思っていましたが」

「はあ、ボスって倒せばお金になるんですよね?」

「なりますとも。良い素材が沢山採れますからね。ここの迷宮の主はマンティコアで、肉は食用ではありませんが、魔力を多く含む皮などが高額取り引きされます」

「そうですか。それで気になるんですが、ボスを倒したら次にいつ出現するんですか?」

「一週間後ほどだと聞いています」

タンジェリンの話を聞いて、俺は悩んだ。宝石が得られない今、まだ残っているボスを狩るかどうかで。

うんうん唸ってしまうと、今度はタロートが話し始めた。

「同じ姿のマンティコアがボスとして復活するとしても、個体差があるといいます。弱かったり強かったり、体格が大きいか小さいかも別だといいます。よって、同じ存在が復活した者ではなく、新たな個体が生み出されたという説が有力です」

「はは……俺みたいに、同じ存在が何度も殺されに転生しているんじゃないんですね。って、俺も前世と姿が違うんでしたっけ? じゃあ、ボスの中身の魂は同じって可能性もありますね」

俺がこう言うと、タンジェリンが苦笑いした。

「精霊王様と迷宮のボスは全く違いますよ。いくらご本人と言えども、崇高なる存在と魔物を比べたりしないで下さいませ。魔物に魂は無いのです」

「えっと、はい」

俺も笑った。でもタロートは、真剣な様子を崩さないで言った。

「ここ最近の傾向として、迷宮の魔物の戦闘力が上がっているとか。私はしばらく迷宮に立ち入っておりませんでしたから、確かにこのブロンズ迷宮の魔物の強さが、我らが若手だった時よりも上がっているとはっきり感じました。タンジェリン殿も、そう感じられているのでは?」

「それは……」

タンジェリンは痛いところを突かれたような表情をして、俺をちらりと見た。

「確かに、以前より手強く感じます。この最下層は、以前のシルバー迷宮の中層上部ほどの難易度だと思います」

「ええっ……」

迷宮の魔物が強くなるって、日本のファンタジー物のお約束じゃあ、多くの魔物が迷宮から溢れ出る前兆だったりする筈。

だからそれじゃないのかと言ってみたら、二人ともキッパリ否定した。

それから、タンジェリンが説明してくれ始めた。

「現在、多くの冒険者たちが最下層まで頻繁に出入りして魔物を退治している状況で、この最下層の魔物の数も少なく維持されています。それは先ほど迷宮情報を調べられたトーマ様こそ、ご理解頂けるかと」

「それは、確かに」

「問題は数ではなく、魔物たち全体の力の底上げのようです。我らのような普通の精霊では、その原因が何かなんて見当すらつけられません」

「ああ、はい。俺、お城に帰ってから調べてみます」

「よろしくお願い致します」

本当に、迷宮から帰ったらしばらくお城に缶詰になる必要がありそうだ。

明日から仕事のサラリーマンの気分になった。でも今は楽しもうかなと、座っていた石の机から飛び降りた。

「そうだ。そのボスを、少し見に行けませんか? 倒すんじゃなくて、タンジェリンさんとタロートさんがそれぞれ倒した個体とどう違うか、見比べてもらいたいんです」

「ええ、構いませんよ。行きましょうか」

二人は快諾してくれた。

この迷宮のボスが手強くなっていても、この二人がいれば敵ではないだろう。ただ他の冒険者たちと鉢合わせしたくないから、さっと行って立ち去るべし。

そう決めて、三人で静かに歩いてボス部屋まで向かうことにした。

時折俺の検索能力で作った脳内地図で冒険者たちの現在位置を確認して、出くわさないようにボス部屋に近付いた。

魔物とは遭遇したものの、先に存在を理解して強襲できたおかげで、こちらの被害は一切無く倒せた。

倒したそれらを空間収納にしまい込みつつ進み……ボス部屋に近いある地点で検索した時に、一つの冒険者たちの動きが不都合な状況になっているのに気付いた。

「一個のパーティーが、ボス部屋の前にいます。これ、きっと退治するつもりですよ」

俺が残念そうに言うと、二人は顔を見合わせた。

「どうされますか? 戦いを少しばかり覗き見してみますか? その方が、単独パーティーで確認しに行くよりも安全ですが」

タンジェリンの言葉に、俺は頷いた。

「あと、五つ目のパーティーが十二階に降りてきました。こちらはまだ距離があるので、今は気にしないでいいと思いますが、階段の前に居座られたら帰りに鉢合わせするかも」

「帰りは地下一階まで瞬間移動しましょう」

タロートが提案してくた。残念だけど、厄介事の回避のためにそうすることにした。

高価な宝石が欲しかったと本当に残念に思いつつ、脳内地図を消そうとした。

この時、冒険者たちを示す光がボス部屋に侵入していった。

ああ行っちゃったなと思った次の瞬間、現実の通路の奥からボスの咆哮が響き渡ってきて、迷宮を揺らがせる地響きまで伝わってきた。

「これはまずいです」

タンジェリンが、まだ現場から離れているのに長剣を抜いて身構えつつ言った。その彼の姿に重なるように見えている脳内地図の冒険者たちの光が二つ、赤く弱々しい光となり動かなくなった。

「二人、一瞬でやられた」

俺が思わず呟いた言葉に、タンジェリンが反応した。

「昔のマンティコアは、それほど強くありませんでした。冒険者たちが初心者であった可能性があるものの、鉄の盾や鎧を通さない程度の攻撃しか出せなかった筈なんです」

「どうされますか」

タロートが、動揺する俺の肩に触れつつ言った。

俺たちなら助けられるだろう。でも彼らがそれを望むかは……。

「えーい、もうややこしい事情はいいや! 助けに行こう!」

既に犠牲が出ている。後で叱られるなら叱られればいい。

俺たちは、前に子供たちを助けた時と同じように素早く走って、問題の現場を目指した。
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