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第二章 カルゼア大森林とエルフたち
4 翼ある者の長と来訪者
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1・
次にすべきは、後回しにしたエルフ王国への訪問だ。ユーリシエスに渡されたリスト内のあと数個を、そこで調査したいと思う。
大森林内の問題と同じ原因であれば、俺が生息地に赴いて数日待てば問題は解決するだろう。生えまくるんだから。
しかし問題があるのを忘れてはいない。先代精霊王が死んだ時のエピソードのせいで、精霊たちは俺がエルフ王国に行くのにとても神経質だ。
俺の真の名前が残っている可能性がある限り、千年前の問題だからといって楽観視できない。かつ、精霊たちがエルフたちを嫌って縁遠くなったのもあり、きちんと対応して貰えるかも分からない。
向こうもこっちを嫌っていて、精霊王としても個人的感情だけで害しようとしてくる者もいるかも。と、お城にいる世話係の面々が心配そうに言う。
俺としてはお互いの誤解を解いて、仲直りを推奨したい。だから俺は、いつかは行かないといけない。自分の遺した問題は、自分の手で解決したい。
なので俺は反対意見を受けつつもエルフ王国にいく意志をハッキリさせ、明日にでも行くか~っと発言した……その翌日。
朝早くからお客様があり、心地よい気候の中、窓辺のカーテンから洩れる穏やかな日光が部屋を照らし始めた頃に目覚めたら、ベッドの横に仁王立ちしていた。
俺は驚いたが、向こうはそんなに驚いていない。精霊たちは、寝起きに突撃されても怒らない性質なのか?
俺の誕生を見物しに来た内の一人だと覚えている彼女は、俺の事を厳しい視線で見下ろしている。
真っ直ぐ伸びた茶色い髪は、つややかで美しい。外見上は二十歳ぐらいのとても美人で、大きな胸をあまり包み隠していない魅力的な衣装を身にまとい、背中には所々に茶色い斑紋のある白い翼を一対持っている。
「精霊王様、少しお時間よろしいですか?」
「あ、はい、どうぞ」
取りあえずベッドの上で起き上がった。
「エルフの国に行かれるとか。危険を承知で赴かれるのでしょうが、しかしそれでもお薦めいたしかねます。他の者を派遣なさって下さい」
「えーと、それはですね……」
俺は、分かってもらえるかどうか分からないが、エルフ達との誤解を解く為にどうしても自分が行きたいと説明した。彼女は、頷いてはくれた。
「しかし誤解が存在している今は、長自らが赴かれるのは危険です」
「ええまあ、そうですね。ですから優秀な部下と共に行きます」
「あの者たちだけでは足りません。我らの配下の者もお連れ下さい」
よく見たら部屋の隅っこでタンジェリンとタロートが立っていて、申し訳なさげに微笑んでいる。
「それは、その、他の世話係の者も連れて行こうと思っていたので、大丈夫です」
戸惑いながらそう言うと、彼女の目が物理的に光った。
「世話係など、レベルが低い者の手など借りても意味はありません! 貴方様は、我ら翼ある者たちの長であります! その御身に何かあられたならば、我ら鳥族の滅びすら招きかねないのです! どうか、我らの精鋭をお連れ下さい!」
怒る美人のど迫力の説得で、俺は若干怯えながら頷いた。
朝食までに、彼女が何者か教えてもらった。
もう分かっているが鳥仲間の、俺が生まれるまでの長だったベルリアナさん(千四百歳)。俺ほどじゃないが、本体は巨大な鳥の精霊だそうだ。
今まで突撃してこなかったのは、他の勢力の動きを観察する為と、俺が呼ばなかったからだという。
そういえば翼ある者の長という称号を知っていたのに、全く興味が無くて突き詰めて考えていなかった。俺のせいで、彼女らは今までとてもヤキモキしていたようだ。申し訳ない。
申し訳ないので、ようやく固形物を許されるようになった俺と一緒のメニューだが、朝食に招いた。
大人の精霊はあまり食事をしないというが、ベルリアナは少し機嫌を直して一緒にテーブルについてくれた。
ほぼ野菜と果物中心のメニューで、一個だけ卵を使っていそうなプリンに似たデザートがある。
俺の知っているプリンと少し風味が違うものの、甘くて美味しいので好きだが……ん? 卵?
「ええと、これってまさか、卵が入ってます?」
今さらだが、控えてくれているタンジェリンの方を見て聞いた。
「いいえ、卵は……鳥も魚も爬虫類も両生類も昆虫の物も入っておりません」
昆虫! 卵まで喰うのか!
「それは木の実の蒸し物です。少しばかり甘味料を加えてデザートにします」
「た、タンジェリンさん? まさか知らない間に、俺は昆虫を食べていたりは?」
「いいえ、精霊王様は菜食主義者であられますから、お出ししておりません」
助かった。でもその菜食主義者って、以前の俺はってことだろう。
よく考えたら大森林内の住民たちは動物の姿を持っているから、肉を食べると共食いなんだよな。そうならなさそうな昆虫は、個人的にノーサンキューだ。魚……魚介類は、いけるかもしれない。
「部下の間では、昆虫は好んで食される人気食材です」
ベルリアナが、プリンを食べつつ教えてくれた。だってそりゃ鳥だもんね。
「俺は、好きじゃなくて」
「はい。我らのような特上の精霊は、肉食を好みませんからね。神に近しい精神体の維持のため、物欲主義の最たる肉食を本能的に避けるのです」
「へえ……そうだったんですか」
当たり前だけど、知らないことばっかりだ。そういえばベルリアナは、前の俺の事を知っていそうな年齢だが。
「ベルリアナさんは──」
「主様、配下の者のことは呼び捨てで構いません」
「あ……ベルリアナは、前の俺のことを知っているんですよね? どういう存在でした?」
そう聞くと、ベルリアナは俺を見て目をパチパチした。
「先代精霊王様がご存命の時、私はまだ若輩者でありました。そして当時、先代精霊王様の種族が馬族であった為に縁遠く、直接お会いした事はないのです」
「……馬族、でしたねえ」
ネット検索能力を入手してすぐ、俺で十二人目の精霊王たちの基礎的情報を仕入れたことがある。その時、確かに種族が違っていた。そんなものかとしか思わなかったものの、気になる。
「その、どうして精霊王という存在は、転生するごとに種族を変化させるんでしょうか?」
「先代までの精霊王様のお話では、そうして多種族に転生して様々な力を得て、魂の研鑽を積んでいるという事のようです」
「なるほど……ああ、あの、まだ俺は、前の自分の事を思い出していないのです」
「はい。そう伝え聞いております。精霊王様は未だに無力な赤子です。ですので、我らの精鋭がお守り致します。それでよろしいですね?」
そう持ってきたかと驚きつつも、本気で真剣な睨みを至近距離から効かされるので、俺はもう受け入れた。
2・
色々と準備をして、エルフ王国グラファリアに行く予定時刻になった。
俺の部屋のハト時計が十回鳴いてくれた頃にお城にやって来た鳥族の精鋭たちは、城の前庭にある広場で待っていた。
俺のイメージとしては、精鋭というと五人ぐらいかと思う。でも武器と防具をしっかり装備している鳥族の戦士が二十人オーバーもいるのを見て、頭の中が沸騰しそうになった。
「これ、どう見ても戦争仕掛ける気満々っしょ! 一緒に行けませんよ!」
城の表玄関から出てすぐのところで思わずタンジェリンに感情をぶつけると、彼は朝から引き続いて苦笑いして言った。
「まあ、それだけトーマ様の身の安全を心から願っているのですよ。ご当主……ベルリアナ様までついてこられないだけ、まともな状況かと思います」
「それ言われると、納得しちゃいます。一応は遠慮してくれたという事ですか」
「そう思われます」
「でも、さすがにこれは連れて行けないですよ。ここでリストラしましょう」
「トーマ様にお出来になりますか?」
「……」
俺がするんだなと、ゾッとした。中身の年齢が三十路といってもアルバイトしか経験したことないのに、いきなり会社社長で人事をしなきゃいけなくなった。どんな苦行だよ、もう。
で、リストラするぞと覚悟して彼らに真っ直ぐ歩み寄って行った。すると彼らは気付いて整列して、ビシッとした動きで敬礼してくれた。俺、脂汗が出てきた。
「あ、あの……今日は、お世話になります。よろしくお願いします」
まず挨拶だと思い、ここは普通に発言した。すると兵士たちを統率するオレンジ色の短い髪の青年が、声を張ってハキハキと喋り始めた。
「私どもは、母なるベルリアナに変わり、新たなる長に就任されたトーマ様に同行せんと、こうして各地から集って参りました。我ら全員、心からの忠誠を誓います!」
母なる……。
「べ、ベルリアナ……さんのご家族ですか?」
「実の子と、その孫やひ孫、玄孫もおりますが、全ての者が上位レベルの猛者であります。例えエルフ王国で何があろうが、全て返り討ちにしてみせましょう!」
物凄く誇らしげな様子で、代表者の彼が意気込む。
リストラするとして、もし子供だけ連れて行きたいと言ってみても、何人残るか分からない。玄孫を残すという手もある。でも普通は、玄孫の方が多いのか? いや、どうだろうか。レベルが高い集団というくくりだから、子供の方が多い可能性もある。
「トーマ様」
考えすぎて固まっていると、タンジェリンが囁いてくれた。
「あ、うん?」
「今日の目的地であるグラファリア王国の最南端の村サリーンには、トーマ様が赴かれる事を既に伝えております。その地点まで、大森林内の視察をかねて飛んで行かれる予定が組まれております」
「そうなんですか?」
「私とタロートは先に瞬間移動して現場でお待ちしておりますので、どうぞトーマ様は、彼らと共に空路でいらして下さい。彼らならば、思い切りスピードを出しても遅れる事はありませんよ」
「……確かに」
これは、あれか。思い切りスピードを出して振り払ってこいという提案か。フル装備の兵士二十人以上が一気に到着したらエルフたちと戦闘開始しそうだが、マラソンゴール的に待っていればぽつぽつ到着してくれる筈だ。エルフたちも応援してくれるかもしれないぞ。
ただし、俺が本気を出さなければ作戦は成功しない!
「あの、これは親睦会のようなものです。挨拶代わりですので、早く到着できなくても全然構いませんからね!」
俺は思い切り愛想良く笑った。こういう時に、可愛らしい外見は有利だろうとも。
けれど、当たり前ながら彼らはザワつく。
「し、しかしトーマ様。それでは護衛の意味がありません。我らが先に村に入り、安全を確保した後にお越し下さい」
占領するつもりか?
「共に行けば良いでしょう? なにも全員が私から遅れて到着するとは思っていませんよ」
俺は笑顔で煽ってしまった。彼らは超本気の目付きをした。
「さ、さあ、では行きましょうか。私は巨大なので、皆よりも上空を飛びますね。はい出発~」
俺は、最初に変身してからは小鳥の方にしか変身してなかったというのに、この場をただどうにかしたくて必死で号令をかけた。
上空を睨み、遠くの方で本性たる鳳の姿に変身できてホッとしたのも束の間。
眼下の精霊王の城から、猛スピードで飛び立つ姿がいくつも見えた。思った以上にメッチャ早い!
ギャーッと心で叫びつつ、先に予習しておいたエルフ王国グラファリアのサリーン村に向かって必死に翼を羽ばたかせた。
次にすべきは、後回しにしたエルフ王国への訪問だ。ユーリシエスに渡されたリスト内のあと数個を、そこで調査したいと思う。
大森林内の問題と同じ原因であれば、俺が生息地に赴いて数日待てば問題は解決するだろう。生えまくるんだから。
しかし問題があるのを忘れてはいない。先代精霊王が死んだ時のエピソードのせいで、精霊たちは俺がエルフ王国に行くのにとても神経質だ。
俺の真の名前が残っている可能性がある限り、千年前の問題だからといって楽観視できない。かつ、精霊たちがエルフたちを嫌って縁遠くなったのもあり、きちんと対応して貰えるかも分からない。
向こうもこっちを嫌っていて、精霊王としても個人的感情だけで害しようとしてくる者もいるかも。と、お城にいる世話係の面々が心配そうに言う。
俺としてはお互いの誤解を解いて、仲直りを推奨したい。だから俺は、いつかは行かないといけない。自分の遺した問題は、自分の手で解決したい。
なので俺は反対意見を受けつつもエルフ王国にいく意志をハッキリさせ、明日にでも行くか~っと発言した……その翌日。
朝早くからお客様があり、心地よい気候の中、窓辺のカーテンから洩れる穏やかな日光が部屋を照らし始めた頃に目覚めたら、ベッドの横に仁王立ちしていた。
俺は驚いたが、向こうはそんなに驚いていない。精霊たちは、寝起きに突撃されても怒らない性質なのか?
俺の誕生を見物しに来た内の一人だと覚えている彼女は、俺の事を厳しい視線で見下ろしている。
真っ直ぐ伸びた茶色い髪は、つややかで美しい。外見上は二十歳ぐらいのとても美人で、大きな胸をあまり包み隠していない魅力的な衣装を身にまとい、背中には所々に茶色い斑紋のある白い翼を一対持っている。
「精霊王様、少しお時間よろしいですか?」
「あ、はい、どうぞ」
取りあえずベッドの上で起き上がった。
「エルフの国に行かれるとか。危険を承知で赴かれるのでしょうが、しかしそれでもお薦めいたしかねます。他の者を派遣なさって下さい」
「えーと、それはですね……」
俺は、分かってもらえるかどうか分からないが、エルフ達との誤解を解く為にどうしても自分が行きたいと説明した。彼女は、頷いてはくれた。
「しかし誤解が存在している今は、長自らが赴かれるのは危険です」
「ええまあ、そうですね。ですから優秀な部下と共に行きます」
「あの者たちだけでは足りません。我らの配下の者もお連れ下さい」
よく見たら部屋の隅っこでタンジェリンとタロートが立っていて、申し訳なさげに微笑んでいる。
「それは、その、他の世話係の者も連れて行こうと思っていたので、大丈夫です」
戸惑いながらそう言うと、彼女の目が物理的に光った。
「世話係など、レベルが低い者の手など借りても意味はありません! 貴方様は、我ら翼ある者たちの長であります! その御身に何かあられたならば、我ら鳥族の滅びすら招きかねないのです! どうか、我らの精鋭をお連れ下さい!」
怒る美人のど迫力の説得で、俺は若干怯えながら頷いた。
朝食までに、彼女が何者か教えてもらった。
もう分かっているが鳥仲間の、俺が生まれるまでの長だったベルリアナさん(千四百歳)。俺ほどじゃないが、本体は巨大な鳥の精霊だそうだ。
今まで突撃してこなかったのは、他の勢力の動きを観察する為と、俺が呼ばなかったからだという。
そういえば翼ある者の長という称号を知っていたのに、全く興味が無くて突き詰めて考えていなかった。俺のせいで、彼女らは今までとてもヤキモキしていたようだ。申し訳ない。
申し訳ないので、ようやく固形物を許されるようになった俺と一緒のメニューだが、朝食に招いた。
大人の精霊はあまり食事をしないというが、ベルリアナは少し機嫌を直して一緒にテーブルについてくれた。
ほぼ野菜と果物中心のメニューで、一個だけ卵を使っていそうなプリンに似たデザートがある。
俺の知っているプリンと少し風味が違うものの、甘くて美味しいので好きだが……ん? 卵?
「ええと、これってまさか、卵が入ってます?」
今さらだが、控えてくれているタンジェリンの方を見て聞いた。
「いいえ、卵は……鳥も魚も爬虫類も両生類も昆虫の物も入っておりません」
昆虫! 卵まで喰うのか!
「それは木の実の蒸し物です。少しばかり甘味料を加えてデザートにします」
「た、タンジェリンさん? まさか知らない間に、俺は昆虫を食べていたりは?」
「いいえ、精霊王様は菜食主義者であられますから、お出ししておりません」
助かった。でもその菜食主義者って、以前の俺はってことだろう。
よく考えたら大森林内の住民たちは動物の姿を持っているから、肉を食べると共食いなんだよな。そうならなさそうな昆虫は、個人的にノーサンキューだ。魚……魚介類は、いけるかもしれない。
「部下の間では、昆虫は好んで食される人気食材です」
ベルリアナが、プリンを食べつつ教えてくれた。だってそりゃ鳥だもんね。
「俺は、好きじゃなくて」
「はい。我らのような特上の精霊は、肉食を好みませんからね。神に近しい精神体の維持のため、物欲主義の最たる肉食を本能的に避けるのです」
「へえ……そうだったんですか」
当たり前だけど、知らないことばっかりだ。そういえばベルリアナは、前の俺の事を知っていそうな年齢だが。
「ベルリアナさんは──」
「主様、配下の者のことは呼び捨てで構いません」
「あ……ベルリアナは、前の俺のことを知っているんですよね? どういう存在でした?」
そう聞くと、ベルリアナは俺を見て目をパチパチした。
「先代精霊王様がご存命の時、私はまだ若輩者でありました。そして当時、先代精霊王様の種族が馬族であった為に縁遠く、直接お会いした事はないのです」
「……馬族、でしたねえ」
ネット検索能力を入手してすぐ、俺で十二人目の精霊王たちの基礎的情報を仕入れたことがある。その時、確かに種族が違っていた。そんなものかとしか思わなかったものの、気になる。
「その、どうして精霊王という存在は、転生するごとに種族を変化させるんでしょうか?」
「先代までの精霊王様のお話では、そうして多種族に転生して様々な力を得て、魂の研鑽を積んでいるという事のようです」
「なるほど……ああ、あの、まだ俺は、前の自分の事を思い出していないのです」
「はい。そう伝え聞いております。精霊王様は未だに無力な赤子です。ですので、我らの精鋭がお守り致します。それでよろしいですね?」
そう持ってきたかと驚きつつも、本気で真剣な睨みを至近距離から効かされるので、俺はもう受け入れた。
2・
色々と準備をして、エルフ王国グラファリアに行く予定時刻になった。
俺の部屋のハト時計が十回鳴いてくれた頃にお城にやって来た鳥族の精鋭たちは、城の前庭にある広場で待っていた。
俺のイメージとしては、精鋭というと五人ぐらいかと思う。でも武器と防具をしっかり装備している鳥族の戦士が二十人オーバーもいるのを見て、頭の中が沸騰しそうになった。
「これ、どう見ても戦争仕掛ける気満々っしょ! 一緒に行けませんよ!」
城の表玄関から出てすぐのところで思わずタンジェリンに感情をぶつけると、彼は朝から引き続いて苦笑いして言った。
「まあ、それだけトーマ様の身の安全を心から願っているのですよ。ご当主……ベルリアナ様までついてこられないだけ、まともな状況かと思います」
「それ言われると、納得しちゃいます。一応は遠慮してくれたという事ですか」
「そう思われます」
「でも、さすがにこれは連れて行けないですよ。ここでリストラしましょう」
「トーマ様にお出来になりますか?」
「……」
俺がするんだなと、ゾッとした。中身の年齢が三十路といってもアルバイトしか経験したことないのに、いきなり会社社長で人事をしなきゃいけなくなった。どんな苦行だよ、もう。
で、リストラするぞと覚悟して彼らに真っ直ぐ歩み寄って行った。すると彼らは気付いて整列して、ビシッとした動きで敬礼してくれた。俺、脂汗が出てきた。
「あ、あの……今日は、お世話になります。よろしくお願いします」
まず挨拶だと思い、ここは普通に発言した。すると兵士たちを統率するオレンジ色の短い髪の青年が、声を張ってハキハキと喋り始めた。
「私どもは、母なるベルリアナに変わり、新たなる長に就任されたトーマ様に同行せんと、こうして各地から集って参りました。我ら全員、心からの忠誠を誓います!」
母なる……。
「べ、ベルリアナ……さんのご家族ですか?」
「実の子と、その孫やひ孫、玄孫もおりますが、全ての者が上位レベルの猛者であります。例えエルフ王国で何があろうが、全て返り討ちにしてみせましょう!」
物凄く誇らしげな様子で、代表者の彼が意気込む。
リストラするとして、もし子供だけ連れて行きたいと言ってみても、何人残るか分からない。玄孫を残すという手もある。でも普通は、玄孫の方が多いのか? いや、どうだろうか。レベルが高い集団というくくりだから、子供の方が多い可能性もある。
「トーマ様」
考えすぎて固まっていると、タンジェリンが囁いてくれた。
「あ、うん?」
「今日の目的地であるグラファリア王国の最南端の村サリーンには、トーマ様が赴かれる事を既に伝えております。その地点まで、大森林内の視察をかねて飛んで行かれる予定が組まれております」
「そうなんですか?」
「私とタロートは先に瞬間移動して現場でお待ちしておりますので、どうぞトーマ様は、彼らと共に空路でいらして下さい。彼らならば、思い切りスピードを出しても遅れる事はありませんよ」
「……確かに」
これは、あれか。思い切りスピードを出して振り払ってこいという提案か。フル装備の兵士二十人以上が一気に到着したらエルフたちと戦闘開始しそうだが、マラソンゴール的に待っていればぽつぽつ到着してくれる筈だ。エルフたちも応援してくれるかもしれないぞ。
ただし、俺が本気を出さなければ作戦は成功しない!
「あの、これは親睦会のようなものです。挨拶代わりですので、早く到着できなくても全然構いませんからね!」
俺は思い切り愛想良く笑った。こういう時に、可愛らしい外見は有利だろうとも。
けれど、当たり前ながら彼らはザワつく。
「し、しかしトーマ様。それでは護衛の意味がありません。我らが先に村に入り、安全を確保した後にお越し下さい」
占領するつもりか?
「共に行けば良いでしょう? なにも全員が私から遅れて到着するとは思っていませんよ」
俺は笑顔で煽ってしまった。彼らは超本気の目付きをした。
「さ、さあ、では行きましょうか。私は巨大なので、皆よりも上空を飛びますね。はい出発~」
俺は、最初に変身してからは小鳥の方にしか変身してなかったというのに、この場をただどうにかしたくて必死で号令をかけた。
上空を睨み、遠くの方で本性たる鳳の姿に変身できてホッとしたのも束の間。
眼下の精霊王の城から、猛スピードで飛び立つ姿がいくつも見えた。思った以上にメッチャ早い!
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