精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第四章 真実に立ち向かう者達

7 エルフ王レオンと世界を破滅させる呪い

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1・

世界大戦を平定したエルフ王レオンは、後にカルゼア大森林と呼ばれるエルフの森に帰還した。

戦いが全て終わった後の、平和で緩い時間の中、レオンはもう人々に嘘をつかなくて良いと安心していた。

森とその周辺の復興作業は上手い具合に進み、農産物は豊作で、良い流れしかない。

しかしレオンは、眠るごとに見る悪夢に苛まれていた。悪夢の中でレオンは異形の魔王となり、武器を振りかざす人々に攻撃されて討伐される。

自分は魔王ではなく、魔王になるつもりもない。唯一、人を利用しても少ししか痛まない胸があるだけ。なのに見る夢に、レオンは不安になる。

ある日、共に世界大戦を終結させた仲間の内の一人から手紙が届いた。

人間たちの中に、レオンとその仲間を魔王と断罪して、世界を破滅から救う為に皆殺しにすべきと訴える預言者集団があった。その彼らが、大勢の人を生贄として強い呪術を発動させて、魔王の息の根を止める儀式を行うらしいという報せだ。

レオンはもう二度と戦いたくないと思っていたが、さすがに愚かな人間たちをこれ以上放置しておく気になれなかった。

呪いの儀式を阻止すべく、森の部下たちを集めてこの計画を教えた。共に討伐に出るという命令に、レオンを慕う部下たちは喜んで従うと誓った。

しかし、レオンの決意は遅すぎた。

預言者集団はわざと外に漏らした計画実行日より一ヶ月早く、大勢の罪なき者達を生贄として最強の呪いを発動させた。

発動したとレオンが知ったのは、突然に己の身に多くの悪意と闇が流れ込んできた時だ。

レオンの正気を押し流し、魂を闇に染め体が異形の物と変化するさなか。

苦しみ悶えるレオンを、彼を慕う部下たちの手と想いが引き止めた。レオンが生かした民衆たちだけでなく、森を守るべく身を盾にして死んだ者たちの感謝と尊敬の念が、レオンの魂に光を与え続けた。

そして彼の姿を目の当たりにした事のある大勢の民は、この世の物と思えない程に美しいレオンは善にして聖なる神の生まれ代わりだと本気で信じていた。

全ての光が折り混ざり、とうとう呪いに打ち勝ったレオンは、その身を名前にちなんだ大獅子の神に変化させていた。

しかし、打ち勝ったのはレオンのみだった。

他の七人の英雄たちは闇に堕とされて魔王となり、復興の始まったばかりの大地を破壊し始めた。

レオンはそれを止めるべく魔王と成り果てた仲間全ての討伐を決意した。しかし当時はレオン以外の精霊が一人もおらず、世界大戦を生き残ったエルフと人間、竜たちだけでは到底叶わなかった。

レオンは自分が戦いの中で死ねば、残った魔王たちに世界の全てが滅ぼされると理解した。

そのため、祈った事など一度もなかった創造神ウィネリアに、何度も何度も祈りを捧げた。

そして手遅れになる前に、ウィネリアから祝福が与えられた。

ウィネリアから与えられたのは、レオンの封印能力を生かして魔王たちを閉じ込めるシステム。

闇魔法の部類と言われている空間魔法を制御する宝玉を与えられたレオンは、自身の能力を組み合わせて魔王を封印する目的で迷宮を生み出した。

いつしか戦力が揃えば魔王を討伐するまでの時間稼ぎに。

そうして世界に七つある魔王たちを封じた迷宮は、魔王の居城と呼ばれるようになった。

しかし、次の問題が発生した。

神として精霊化したレオンでも、殺されれば死ぬし寿命もある。

レオンが死ねば魔王に勝てる存在が無くなったと同じ事で、世界も死に、その果てにウィネリア自身も死ぬ運命となる。

生きる為にウィネリアの考え出した打開策は、レオンの力を死んでも維持する方法と、レオン以外の戦力となる精霊たちを生み出すためのシステムの構築だった。

それは元から世界に存在していた、エルフや竜、人間以外の動物の霊的な転生システムである世界樹を、レオンの戦力としての新たな精霊を生み出す道具として改造したこと。

後のカルゼア大森林の中央となる場所に生えた世界樹の魂管理システムに、レオンを慕う人間とエルフたちの魂も志願して混ざり込んだ。

そしてそれまでは実を生らせる事もなかった世界樹から、実が発生し始めた。そこから、人と獣の姿をした精霊が生み出される事になった。

その二つが揃い、仮ながら再びの平穏が訪れた世界。

しかし世界大戦の後で魔王により襲撃を受けた事で、人類と動物の数は劇的に減り、下手をすれば魔王復活を待たずに世界が滅びる可能性があるとレオンは気付いた。

そして自分の生み出す迷宮を、天候に左右されない食料生産庫として利用する案を思いついた。

迷宮は異空間や亜空間を封印により切り取り、つなぎ合わせた特殊な世界。レオンはウィネリアに願い、知恵を借りてそこに魂の宿らない肉体を持つ動物を発生させる方法も編み出した。

同時に、迷宮はいつかレオン以外の戦力を育てるための訓練施設としても生かされる事になった。

それから時は流れ、初代精霊王レオンは死んでも生き返り、その繰り返しの長き人生の中で世界を守り、人々が強く育つのを待ち、封印から逃れようとする魔王の恐怖からウィネリア魔法世界を解き放つ作戦を考え続けた。

2・

そして今。

人類は復興し、多くの英雄を生み出すまでに力をつけた。戦いをサポートする精霊たちの契約システムも多くの者が慣れ親しみ、安定化した。

本来なら恨まれるしかない竜たちの理解も、しっかり取り付けられている。

戦力としては、魔王を本気で倒す最初の作戦を決行しても良い頃だ。

しかし……俺は、本当に魔王と化した仲間を倒せるだろうか。

自分のかけた呪いだと表現した心の冷たさを、シルルがユーリシエスに命じて人間に転生させてもらった事で完全に除去できたと思う。そして得られた心の温かさが……かつての仲間の討伐を強く拒否する。

俺、なんの為に人間に生まれたか分からない。世界を滅びから救う為に、絶対に討伐しない訳にいかないのに。

ここまで考えてから、しんとした室内の中で顔を上げた。

俺の額にあった、レオンの封印の感覚がない。もう消えたようだ。

レオンの封印は、俺が精霊王たちの記憶にこだわることで、それ以前のエルフ王レオンの存在をなかなか思い出さない事態を回避する為のものだったのだろうか。レオンは俺に意地悪をしたのではなく、逆に力を貸してくれたんだ。

少し落ち着いた俺は竜の城の一室にいる全員に、全ての発端とレオンの長年に渡る計画を説明した。

竜王はある程度は把握していたようで、それほど驚いていない。

けれど俺の仲間たちと竜族のお偉方は、この真実に動揺した。

精霊たちが、元は動物と人類の魂の混合物であること。魔王の正体。迷宮の生まれた真実に、全てが隠蔽されていて自分たちが何も報されていなかったことに。

俺は、重要な事を説明した後も続けた。

「世界の歴史を歪めて伝えたのは、魔王の存在を下手に刺激する者を生み出さない為です。魔王は人間が作ったと知られれば、真似をする愚か者も出現するかもしれません。ただでさえ一人の魔王にも勝てないのに、増やすような事態はどうしても防ぎたかったのです。ですので、魔王が生まれた当時の世界そのものを無き物と流布させました」

なるほどと、多くの者が頷いた。

「しかし……何故、魔王を退治する筈の呪いが、魔王を生み出す羽目になったのでしょうか?」

竜の高官の一人が問う。俺は答えた。

「預言者集団が愚かだったからです。魔王などいなかった世界で魔王を退治するには、まず魔王を生み出す必要があります。呪いは誠実に威力を発揮して、退治する予定の魔王を生み出す事に力を使い果たし、そして肝心の退治の力を失ったようです」

聞いた全員が、この失敗について色々と考えた顔をした。

「しかし我々が本当に魔王であったとしても、闇の呪いの力など与えられては退治されるどころかパワーアップしかしませんけれどね」

考える度に虚しくなるので、この話題はもうここまでにしておいた。当時の預言者集団の面々は全て、お望み通りに出現した魔王たちに退治されたし。

「それで、精霊王殿はこれからどのように活動なさるのか?」

竜王が質問してきた。

「それは……まだ、ハッキリとした作戦を考えていません。けれど今この時が、魔王を消して世界を完全に救う好機であるとは理解しています。ですので竜王様、あなた方の未来の為にも、魔王討伐の作戦時に力をお貸し下さいませんか? 竜族たちは今や世界でトップの実力を誇る戦闘集団です。どうか、その偉大な力を私にお貸し下さい」

俺はここでも一度頭を下げた。さっきと違い、怯えたりせず真剣に。

竜王はこんな俺をとても気に入らないようなんだけど、渋々頷いてくれた。

「我らが世界でトップの戦闘集団であっても、単独で魔王たち全員を屠る事は難しい。精霊王殿の助力があれば、可能だろうが」

「では、よろしいのですね? 作戦決行の折りには、連絡を差し上げます。その時に、またよろしくお願い致します」

俺は席を立ち、竜王としっかり握手をした。笑っておいたが、手が物凄く痛かった。
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