精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第四章 真実に立ち向かう者達

十 穏やかな時間

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1・

精霊王の城に帰還した後、俺と三人は奴隷契約を交わした。

実力が上がった三人との戦闘感覚を理解するため、魔王の居城以外のゴールド迷宮に三度挑み、迷宮主のボスを三度倒した。

その頃には、魔王ユリアヌスを解放する作戦の方針も全て決定して、仲間たちに報せて了解を得ていた。

討伐失敗と魔王解放作戦失敗防止のため、魔王ユリアヌス討伐は復活ありのままの迷宮にて行う。

戦闘に入ると拠点である地上六階から二階まで縦横無尽に移動するらしいユリアヌスと戦うには、全ての階にそれ相応の戦力を待機させて迎え撃つしかない。

その分の戦力は、リヒトと竜王のおかげもあり、今時点でちゃんと揃っている。後は、俺が最後の仕上げを準備する必要がある。

一人を犠牲にするしか生まれない、希望の未来の始まりのために。

俺は、三度目のゴールド迷宮制覇が終わった後の休日に、久しぶりにタロートを訪ねて行った。

タロートは世界樹の見える小さな村の片隅で過ごしていて、俺が会いに行くと前と同じ笑顔で出迎えてくれた。

立ち聞きする人もいない静かな泉の傍で地面に座って、まだ誰にも教えていないこれからのことを全て話して聞かせた。

タロートはそれを聞いても、全く動じない。

「そういう終わりもありますね」

既に隠居して死を覚悟して……半霊人ながら精霊として死に、世界樹の中でタロートという個人を失うことと前向きに付き合っている彼らしい言葉。俺は、自分が大げさに泣いた事が恥ずかしくなった。やっぱり三十路って、まだまだお子様だ。

「話せてスッキリしました。やっぱり俺は……弱いんですよねえ。厳しい状況を前に、一人だけで全てを抱えていられないんです。誰かと情報を共有したいんです」

「それが普通ですよ。それでいいんです。一緒に生きればいいんです」

タロートが笑顔で言ってくれる台詞が心に刺さる。俺は、みんなの為にも、この世の全ての人生と一緒に生きると覚悟を決めた。

「よし、じゃあ、俺は精霊王として立派に務めを果たします。これからの決戦は、全力を尽くして頑張ります」

「ご武運をお祈りします」

ニッコリ笑ってくれたタロートを、俺はしっかりと抱き締めた。

2・

その後、まだ周辺をぶらつきたい心地だったから、前々から気になっていた場所に瞬間移動で行くことにした。

オゼロのシルバー迷宮の、中層中部の村。

池の畔に咲いた花は今もあり、それから誕生した妖精たちがはしゃいだり戯れたりしてとてもノンビリ暮らしている。

村で休憩をする冒険者たちの心を、思う存分に癒している。

一人で膝を抱えて座って、昆虫の羽を持つ小さな妖精たちが傍に来てくれるのを眺めた。

この妖精たちは、世界樹の魂の管理システムから外れた存在。世界に魔王が出現する前からいる自然霊の一部なのだろう。

これから世界が呪いから解放されて平和になり、根本からの暮らしが変わった頃には、この妖精たちはもっと世界中に発生するようになると思う。

みんな、穏やかで良い暮らしをするに違いない。だから俺は、どんな犠牲を払おうが絶対に立ち止まれない。

俺が全ての荷物を背負ってやる。

最終的な覚悟を決めて、もうそろそろ帰ろうかと思った時、傍でアッという声がした。

そちらを見ると、プリムベラが立っていた。

「なにあんた。やっぱりストーカーなの!」

「ちょっと待って。それ本当に決定事項なのか?」

「私の休日に出現するなんて、ストーカー以外の何者でもないでしょうに!」

「いやいや、休日なのは俺もだよ。だって後で同じ作戦に参加するんだから、休暇の日取りが同じなのも当然だろ」

「……ま、そうだとしても、ここにいるのが納得できないわ!」

「それはこっちの台詞だ。なんでプリムベラは、一人でここに?」

「なんでって、何よ。あんたが私を妖精の女王にしたんじゃないの? 私はこの子たちが心配で見回りに来たのよ」

「ああそうか。優しい女王様なんだな」

正直に言ったのに、プリムベラはからかわれたと思ったのか怒った。

しかしピンク色の髪を風になびかせつつぷりぷり怒っても、遠くに行かない。

なので、今現在のレナードパーティーがどんな感じか質問してみた。

「リヒトーフェン王子様の直接指導もあって、ここ一ヶ月でゴールド迷宮での戦闘にも慣れてきたわ。それに勇者として名が売れてきて、とっても有名人になってるの」

プリムベラは嬉しそうに教えてくれる。

リヒトが作戦決行においてレナードたちに望んだ役回りは、世界中に影響力のある勇者になること。

レナードたちはその期待を運命として受け入れて、勇者として立派に振る舞っているとは聞いている。

今の時点ではまだ影響力は少ないものの、彼らの言動に感化されている人たちは既に存在している。

そしてレナードたちが語る、魔王ユリアヌスは元は光の英雄であり、呪いによって貶められた存在だという真実を信じてくれるようになった。

多くの者がユリアヌスを光ある者と認識することは、ユリアヌスを魔王の呪いから解放する確実な手段の一つだ。

エルフ王レオンが民衆の祝福で助けられたのと同じように、そう思ってもらえるだけでユリアヌスに光が届けられる。

その力の後押しは、一度魔王の解放が成功すれば、格段に威力を増すことになる。勇者が魔王の存在を消し去って英雄に戻したと世界中に知れ渡れば、次からの魔王解放は犠牲がなくても可能になるほどの光の祝福が大勢の民から集められる筈。

だから、俺は心を鬼にする。

でもいま、なんだか怒っても可愛らしいプリムベラを見ていると、そんな覚悟の重苦しい部分が消えて無くなっていく。

ふと、彼女は俺の未来だと気付いた。

もしかしたらウィネリア様が、俺のために誕生させてくれた女神なのかも知れない。

「プリムベラ」

「なによ。呼び捨てにしないで」

「プリムベラさん。レナードとマリエルはどうなった?」

聞くと、プリムベラが何聞いてんのよコイツという凄みを効かせた睨みを送ってきた。

「あんた、知ってて聞いてんの! 私の御主人様は、幼なじみとよろしくやってんのよ!」

「いやその表現はちょっと──」

「どうせ私は当て馬だったのよ! 叶わぬ恋だったのよ! 人生甘くないわよねえ!」

大声で言い切ったプリムベラの勢いに、俺は悪いが吹き出して笑った。彼女にぐうで殴られた。

「本当、ごめん。許して。それでその、君に話したい事があるんだ。大事なことを」

プリムベラは怪訝そうな表情をして、一歩下がった。

「私に言い寄ろうっての……?」

「ん? そういう話だっけ?」

「とぼけないで。精霊王だか何だか知らないけど、私は妖精の女王様よ! たやすく引っかかると思わないで!」

物凄い勢いで主張されてしまい、もう俺は限界にきて大笑いした。また殴られた。

結局、プリムベラには作戦の後に何があるか説明できなかった。

3・

精霊王の城に戻っても、まだ日は暮れそうもない。

久しぶりに部屋でノンビリゴロゴロしようと決めてベッドで寝ていると、彼も休日の筈なのにタンジェリンがこっそりやって来た。

タンジェリンはこの一ヶ月、全てを知った後の俺の様子がおかしい事をとても気にしていた。

それがあり、転がっている俺の様子を見に来たんだろう。

俺が眠っておらず目が合って笑うと、タンジェリンも笑い返してくれた。

久しぶりに小さな机を挟んで椅子に座り、話をすることにした。

「もっと前に、こうしてお話したかったのですが」

タンジェリンが切り出した。

「精霊王様が元々エルフの王であり、彼の部下たちが世界樹の魂の循環システムに身を投じたと聞いて、私のこの化身の姿がエルフの姿であることに納得いたしました」

「ああ、そういえば確かに」

傍で暮らすエルフたちの影響を受けたのかと思っていたものの、そういう大雑把な原因じゃなかったか。

「しかし、私の中にはこの姿の元になっただろう存在の記憶はありません。その者は、長剣を使うことに長けていたのでしょうか」

「……うん、たぶん、そうだと思いますよ。見覚えはないので、レオンの親しい人じゃないと思いますけれど」

俺はこれからの戦いのために、色々と考えてみた。

「ええと、世界樹の転生システムに入れば、精霊たちは魂が寄り集まって出来た一つの全てとなる存在に溶け込み、個人の記憶を失うと言われてますよね? でも前世が無く生まれた筈のタンジェリンさんには、記憶が無くてもかつて存在した誰かの面影があります」

「ええ、確かにこの通りです」

「全ての中で溶けて一つになって個性を失うというのは、リサイクル的に言うと鉄やビニールを溶かして、次の全く違う何かに変化させることだと思っていたんですが──」

「リサイクル的?」

「あ、再生利用です。でも実際は、こうして過去からの繋がりが残ってくれています。全ての一部になるというのは個性を失う事や埋没じゃなくて、全ての中で全ての個性が永遠に記録されることなんでしょうね」

その多くの記録が混ざり合って、全く新しい魂が一つ生まれてくる。それが、精霊たちの転生の在り方なんだ。

俺は、俺の魂と同化してくれたかつての副官であり世話係であったイヴァンに想いを巡らせた。彼の記憶も経験も、俺の中で消えずに残っている。今はまだ、その記憶に触れないだけ。

物思いにふけろうとしたところで、タンジェリンが質問してきた。

「ところで……シルル様は、この事態を予測されていたのでしょうか」

「ん? ああ、ようやく反逆ののろしが上げられるという時の傍仕えに、エルフの姿をした者を配置したという意味ですか?」

「そうです」

「それは俺も何度か考えたんですが、シルルには幾ばくかの予知能力があったんだと思います。それで俺を日本人にして、タンジェリンさんとは繋がりを作るために、死んだ後に声をかけたんでしょうね。シルルよりもお人好しになった俺が、寂しく思わないように」

実際は、シルルの行動で距離を置いてしまったエルフたちと精霊たちの重要な橋渡し役だと思う。

それでも今は、祖国の仲間が傍にいてくれる事が単純に嬉しい。

「タンジェリンさん」

「はい?」

「俺が倒れそうな時、どうか俺を支えて下さい。あなたにしか頼めないのです」

視線を床にやって頼むと、タンジェリンが横から手を差し伸べてくれた。俺は顔を上げて、その手をギュッと握りしめた。

とても温かい。
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