精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第四章 真実に立ち向かう者達

十三 二人とみんなの勝利

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1・

恐怖と緊張のあまり、手も体も震える。

俺は宙に浮くユリアヌスの魂を前に、これからの作戦についてみんなに向けて全ての説明をすることにした。

「先に説明した通り、ユリアヌスの魂に光を集めて浄化する作業を開始します。以前から送るように頼んでいた仲間たちからの光の念と、若干量の民間の人々からの光、そして今ここで我らがユリアヌスを勇者と認めて帰還を促す光の念の全てを、精霊王の力で私が取りまとめて魂に込めます」

俺が喋っている間に、戦闘終了の知らせを受けたのか、他の階にいた仲間たちの一部が様子を見に来てくれた。

俺はその彼らを前に、絶対に言いたくないと考え続けてきた問題点を、それでも口にした。

「基本は、その作戦です。しかし惜しいことに、今の状況ではユリアヌスの魂を完全に光の中に連れ戻すための力が足りていません。彼の素晴らしさを個人的に知り、命を賭けても救いたいと願う部下や友人は、もう私しか残っていないからです」

足りない分の光の集め方は……創造神ウィネリア様に見せられて知った。それを今、俺は自分の手で行わないといけない。

俺がみんなの視線を一身に受けて緊張して震えているのに気付いたのか、タンジェリンが傍まで来て俺の肩に触れてきた。

俺はもう辛抱できず、タンジェリンの目をしっかりと見据えた。

「足りない分の光の供給源として、ユリアヌスを主人とする精霊との契約をさせます。精霊との契約とは、魂の一部を同じくするものですので、その方法でユリアヌスの魂に直接光を注ぎ込むのです。ただし、失敗すれば精霊の命も闇に捕らえられ、魔王の中に消え去るでしょう」

タンジェリンの目に、何かを悟った動きを見た。

「いえ、本当は、この作戦が成功しても、ユリアヌスの方が魂として強い存在ですので、彼に存在を喰われて精霊そのものは消え果てる可能性がとても高いのです。私の中に、かつての部下のイヴァンがいるようにです」

物凄く辛くてしょうが無いけれど、俺は俺の個人的事情で精霊王たる任務の放棄をしてはいけない。そうすれば、魔王がいつか世界を滅ぼす未来しか残らないのだから。

「しかし、魔王を完全に消去する手段は、今はこれしかありません。最初の一度は、どうしても犠牲を必要とします。ですので、皆さん、どうかその犠牲になる者の為にも祈り、彼にも光をお与え下さい。世界を滅びから救う、その偉大なる一歩の為に」

俺はタンジェリンから視線を逸らし、振り向いた。

全てを教えたのに笑顔で受け入れ、ここに来てくれたタロートを見た。

タロートは今も俺の為に微笑んでくれつつ、進み出てくれた。

「トーマ様」

タンジェリンが俺から手を離して、焦り気味に言う。

「何故私ではないのですか? 私の方が格上です」

「タンジェリンさんは、やんちゃでしょう? 今は、何よりも穏やかさという光が必要なのです。それに万が一、失敗してユリアヌスが魔王として復活してしまうような事態になっても、中位の中レベルのタロートが融合させられた方が、被害が少なくて済むからです」

俺がこう言うと、タンジェリンは悔しそうながら、もう何も言わなくなった。タロートが傍に来て手を差し出すと、ゆっくりとだが握手を交わした。

それからタロートは、俺を抱き締めてくれた。そのせいで辛抱していた涙がボロボロとこぼれた。

「タロートさん、ユリアヌスの魂の前に立って下さい。よろしくお願いします」

「了解しました。お任せ下さい」

タロートは俺に一礼して、何事もないかのように歩いて行った。

その姿を見て、レオンの記憶が蘇る。

精霊王となったレオンがまず魔王退治に挑んだ相手は、ユリアヌスだった。

かつての親友を、せめて自分の手で滅ぼそうと考えていた。

しかし結果は惨敗。まだ人間だったイヴァンや他の部下たちを、この地で全て失った。

一人で逃げ帰ったレオン……俺は、自分の無力さや運命の残酷さを呪い、復讐しようにも相手が無実の友では憎みきれず、ぶつける相手もいない激怒に身を焦がした。

そこから始まった魔王封印の長い旅。四万年を経た今、ユリアヌスに対する悪い気持ちは一つもない。早く救ってあげたい。

もう、こんな馬鹿げた演劇を終わらせてしまいたい。

それしか考えられない。

その為の、犠牲の一人。今の俺にとり養父となってくれた人だから、大好きになれた彼の為に最大限の膨大な光を送ることができる。

本当は、ユリアヌスもタロートも両方とも──

「トーマ様!」

タンジェリンが強めに俺を呼び肩を揺さぶってくれたから、正気に戻れた。

ユリアヌスの魂の前に立つタロートが、いつもの笑顔をくれる。

タンジェリンが、俺の腕を掴んで支えてくれている。

これ以上、大事な二人に無様な姿を見せたくない。能天気に始めた三人での楽しい冒険は、ここで終わりだけれど。

「どうか、ユリアヌスを世界解放の英雄と讃え、タロートの偽りなき忠義に賞賛を!」

俺は声を張り上げてみんなに伝え、振り絞った勇気でユリアヌスとタロートの奴隷契約を結んだ。

ユリアヌスの魂は黒い稲妻となりタロートに落ち、タロートはよろめきその場に倒れた。

2・

間髪入れずに、ユリアヌスに向かう世界中の光を集め、タロートの身に注ぎ込んだ。俺自身の友を思う気持ちと父を慕う気持ちも、どれだけ注げば良いかと思うほどに彼に与えた。

一瞬、ユリアヌスが脱ぎ捨てた本来の体ほどに闇に染まったタロートの体は、ここにいるみんなや他の仲間たちからの光を受けて、徐々に色を取り戻し始めた。

タロートがどうなるかは、既に先に映像で見た。

その通り、ユリアヌスの魂が宿ったタロートの体は徐々に全身が光に包まれていき、闇という闇を振り払った。

そしてタロートは身じろぎして、ゆっくりと起き上がった。

俺は作業を止めた。タロートの周囲の光が消えた。

その姿が露わになり、みんなが一瞬うろたえた。

俺は知らないけれど、タロートの若い頃の姿なのだろうか。白髪混じりの黒髪が完全に艶やかな黒髪になり、肌に刻まれた歳月も消えて、若者らしい美しさのある切れ長の目が俺の方に向けられる。

彼は静かに立ち上がり、俺に向かって歩み寄ってきた。

ウィネリア様に見せられた映像の音声と同じなら、彼は名乗るだろう。俺はそこまで、ちゃんと確認をした。

「……レオン、俺の親友よ。俺はユリアヌスだ」

憔悴している彼は、それでもしっかりとそう言った。

「四万年もの間、俺を見捨てず助けてくれてありがとう。心から感謝する。それから……」

ユリアヌスは別の方に歩いて行った。

「ユーリシエス! たった一人残った俺の息子だ。彼も救ってくれてありがとう!」

ユリアヌスは、ユーリシエスがうろたえている間に強く抱き締めた。

タロートと奴隷契約を結んで得た記憶で、ユーリシエスの存在も名も、俺がエルフ王レオンだというのも知ったのだろう。

俺たちの作戦は成功して、こうして魔王を救出して英雄に戻せた。四万年ぶりに新鮮な空気を吸わせてあげられるユリアヌスのことを、本当に大事に思う。

でもどうしても、笑顔を作れない。笑顔で迎えてあげたいのに。

ユリアヌスは大勢がいるのに静かなこの場で唯一動き、また俺の前に戻ってきた。

そして手を上げて、タンジェリンが掴んでいない方の俺の腕をポンと叩いた。

「トーマ様、私もおりますよ。もしかしたら、今だけの猶予期間かもしれませんが」

「……えっ、タロート?」

先ほど、ユリアヌスの温かくはあるが鋭い目だと思ったそれが、タロートの俺を見守る優しい目に変化している。

「ええ? 魂は取り込まれなかったのか!」

「トーマ様や皆さんが、私という個人にもたくさん光を送って下さったからでしょうかね。ただ、主人であるユリアヌス様の許しがなければ、こうして話すことはできません」

「タロート! いやユリアヌス! 最高じゃん!」

俺は今度は喜びの涙を流し、男前になっちゃった青年タロートに飛び付いた。

周囲のみんなもようやく喜びはじめ、お祝いの言葉を沢山くれた。

だから物凄く嬉しくてしょうがなくなった俺は、大泣きし過ぎてタロートから離れたところで、思わず口を滑らせてしまった。

「ユリアヌスもタロートも、二人して運命に勝った! だったら俺だって運命に勝て──」

まずいと思って口を閉じた。

俺のこの台詞を聞いた数人の表情が、また真顔に戻った。

3・

ここで黙っていろと命じれば、精霊たちはもちろんのこと、人間たちも黙っておいてくれただろう。それに、俺に恩義を感じるユリアヌスまでも。

俺の悪友、リヒトーフェンという王子を除いては。

リヒトは真顔で俺に近づき、背が高いから十八歳平均の背の高さの俺でも見下ろしてきた。

「それだよ。それ。ここで話さなかったら、お前は最後まで秘密にしてひっそり立ち去るか、誰かに介錯させてこっそり死ぬだろうな。丁度良いから、ここで話そうぜ?」

「リヒト……フェン王子様? 何の話でしょうか?」

「とぼけるな。お前も退治されるべき魔王の一人だろうが!」

リヒトは俺を叱り飛ばす勢いで叫んだ。おかげで、ここにいる全員が騒ぎに気付いてしまった。

「それは……ええと、はいそうです」

子供なら確実に泣いている勢いを前に、もう認めるしかなくなった。

「で?」

「で……その、私は精霊王でありますが、元は魔王です。もしユリアヌスを救出した手順と逆に、闇の力が魂に注がれれば……私は再びというか、本来の魔王の姿に戻るでしょう。だから、世界に真の平和をもたらす為には、あと六人の魔王の魂を肉体から引き剥がして救出した後で、どんな形であれ私も滅びる必要があります」

小声で言ったものの、周囲が静かなのでみんなに聞こえただろう。

「よし、分かった」

リヒトは変わらぬ力強い声で言った。そして、周囲に向かって呼びかけた。

「聞いたと思うが、精霊王トーマはいずれ魔王として死ぬ定めだ。だから、彼の使命が終わる六人の魔王の救出作戦終了までに、トーマを救う方法をそれぞれが考えること。これは宿題だ。いいな?」

リヒトは手をパンパンと叩いた。みんなは、それぞれが驚きつつも片手を軽く上げたり返事をしてくれた。

戸惑う俺の手を、タンジェリンとタロート……ユリアヌスが取って、握りしめてくれた。

二人の変わらぬ笑顔に、俺も笑顔になってしまった。

みんなと一緒で、本当に良かった。

そして……六人の魔王の救出作戦を完全に終えることができた時には、それから一年の歳月が流れていた。
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