精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第五章 アーサーと異世界の少女

5 荒れ果てた大地

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1・

コボルトの迷宮から出た先の大地は、ほぼ精霊の自然の力を感じない荒れ果てた大地だった。

シルバー迷宮の一部やゴールド迷宮にあったような、ただ戦うだけのフィールドに見える。

それでも小川程度の流れを発見できたから、それの近くの高台にテントを張って休むことにした。

すぐに夜になった。非常用食料の果物や水をあげると、咲夜は全て平らげてから眠りだした。

荒れ地は凄く冷え込む。俺のためにタンジェリンたちが作って一式を持たせてくれたテントの中はとても温かい。咲夜は、明日にはもっと回復できているだろう。

俺はたき火を維持するために外にいて、見慣れない星空を眺めた。そして、今後を考えた。

俺自身も迷子だが、ユーリシエスが気付いて迎えに来てくれれば、一瞬で帰れる。咲夜もすぐに日本に帰れる。

今は精霊王が実ったばかりで忙しく、俺を探す暇はないだろう。それに色々とあって旅に出たと思われているかもしれない。そうなら、ユーリシエスはかなりの時間が経過しないと迎えに来ないだろう。

その間、ずっと迎えを待つだけなのは時間の無駄に思える。もし咲夜の力や他の方法で帰れるならば、そうした方がいい。だから今後は、その方法を探りつつ、食料を探そう。精霊の俺はいいとしても、咲夜にはしっかりした食事が一日三食必要だ。

あと、どれだけこの世の問題に関与するかに悩む。ウィネリア魔法世界でのことなら、コボルトたちの侵略行為を黙って見過ごせない。でも俺は、この異世界では帰ってしまう者でしかない。

エルフたちへの侵略だって止めたい。外見が似ているだけと言っても、放っておけない。

だけと俺はそのうち帰ってしまう。もし関与しても少し手助けするぐらいで、後はサッサと帰るしかない。

ユーリシエスに見つかれば、まだ子供の俺は連れ帰られるだろうし、前のとはいえ精霊王を捨てておいてはもらえないだろう。

この先どうなるかは分からない。でも一番優先すべきは咲夜を日本に送り返すこと。次に、自分が帰ること。

その二つ以外は、深入りしない方が良い。

そう決めて、闇夜の見張りを続けた。

それにしても、荒れ果てた大地を吹きすさぶ風には精霊の力、自然の力、魔力も殆ど感じない。死に絶える寸前の大地なのか。

このアルダリア世界は、ウィネリア魔法世界と違って滅びの一途を辿っているようだ。勇者を数名召喚して戦争に行かせたとしても、大地が死ねば人間の繁栄はありえない。全滅だ。

こんな状況の大地を見ても何も問題に思っていないなら、その者たちは滅ぶべき存在なのだ。

もう精霊王ではなく、プリムベラのように自然界の管理を一人でできる力もない。そんな俺には、どうしようもない存在だ。

ただ、大地のために祈ろう。

2・

翌朝がやって来た。

良く晴れたせいで放射冷却現象が起こったのか、周囲の地面一帯は霜に覆われて凍り付いた。俺はこんなでも、少し寒い程度で済む。咲夜や他の日本人たちなら、風邪を引いてしまうだろう。

その咲夜は、夜が明けて四時間程が経過してから、テントから出てきた。疲れていてまだ眠たそうだが、お腹が空いたようだ。

俺は彼女のためにフライパンを握り、少しだけ持っている小麦粉と、卵とバターに似た木の実を利用して、あとは果物とオレンジジャムと果物カスタードで、美味しそうなクレープを調理した。

咲夜は悲鳴を上げて喜び、温かいうちに全部食べ尽くして満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見ただけで、とても嬉しくなった。

美味しいフルーツティーも飲み、咲夜は再びテントに戻って行った。

今日は、移動は諦めることにした。

周囲には魔物の気配もないので、休む咲夜を置いておいて、少し遠くまで徒歩で偵察に出かけてみた。

しかし、小さなは虫類と昆虫、時折見かける鳥以外には何も出逢えない。植物も、それなりに強い風が吹き付ける時があるからか、西部劇に出てきそうなサボテンみたいなものと、とげのある低木の茂み、とても大きくて背の高い何の植物か分からないもっさりした固まりがあるだけだ。

食べられそうもないので、諦めて帰った。

そして、咲夜がテントにいないのに気付いた。

名を呼び周囲を探すと、そのうち岩陰から恥ずかしげに出てきた。

「トイレよ!」

「うわっ、ああごめん!」

俺は彼女に、何にでも使えそうな紙きれと綿、包帯や三角巾やハンカチなどの救護用品一式が入ったカバンを進呈した。それで許してもらえた。

こんな荒野で女の子が暮らすのは至難の業だ。やはり人間の都市か、エルフの国を頼る以外にないだろう。

しかも今日中に行った方がいい。

だから咲夜と話し合った。

「俺が鳥に変身して、近くにある人里を探してくる。しばらく……数時間はいないけれど、夕方には帰る。一応お昼と夜の分の果物と水とジュースを置いていく」

「うん。私、待ってるわ。このテントは温かいし、まだ眠れそうだし、平気よ」

本当は不安げだけど、咲夜は辛抱してくれた。

すぐ日本に返してあげたいと不憫に思いつつ、俺は出かけた。

3・

テントの上空にスッと飛んでいき、高度を上げた状態で地平線までの地形を確認してみた。

その後で円を徐々に広げて描くように飛んでいき、四方をしっかり確認してテントの位置をきちんと覚えた。

この世界の恒星の日の出の位置から適当に東西南北を割り振って考えてみると、テントから南には平原と少しの水場とそして山地、北はコボルトたちの迷宮があった荒れ地。西は砂漠化している地域と地上に残っている遺跡群、東は低めの山の連なりと草原、森がある。

人が生きられる場所に行くとしたら森の方だろう。しかし南の空に、巨大な黒い物体が飛んでいるのが見える。

咲夜の言っていた天空都市の一つかと思って近づいてみた。しかしそれはそこまでは巨大ではなく、動いて東へ向かおうとしている。

日本では漫画やゲームでお馴染みの、飛空艇だ。浮遊用の動力に何を使っているか見ただけでは分からないものの、船体に取り付けられたプロペラはあちこちに複数あるといえ少数で、体勢維持や方向転換の時に必要になるものと思える。

プロペラが浮遊用動力じゃないなら、後方に排気口などが見当たらない事も考えて、大きな鉄の塊を空に浮かばせるのは魔力だと思える。

この自然界には魔力が殆ど残っていないのに、どこからひねり出したものなのだろうか。

個人所有物とは思えないから、乗っているのは十中八九、人間の兵士たちだろう。今は避けた方がいいと思える。

飛空艇から遠ざかり、それが目指している東に今は行くのを諦めた。

西の遺跡群の方に向かい、砂漠に一部飲み込まれているかつての町だろう周辺を探ってみた。

遺跡群を利用して、新しい入居者が生活圏を確保していないか期待したものの、単純に水辺がないからか人影どころか動物や魔物の姿も少ない。

空を渡れる鳥の姿も大型の肉食ぽいものしかいない。西は近付かない方が良いと思える。

次に、飛空艇が立ち去った後の南の空に向かい、低木ながら木の生える平原と水場、そして山地を遠巻きにだが眺めた。

地上だけを見れば人が街を作ってもおかしくない地形だが、人が作る道がない。少しはあるのかもしれないが、上空から見る限りでは文明を感じさせるような幅のようなものはない。

地上の崩壊から千年の歳月が過ぎてようやく、人間たちは地上に降りる決意をしたということか。

もしくはそこまで侵攻を遅らせていたのは、単純に手強い対抗勢力がいたからと考えるべきか。日本人たちは迷宮攻略のために呼ばれたのではなく、そちらの関係で呼ばれたのかもしれない。

迷宮は、日本人たちのレベルアップの場所でしかないのかも。

俺は空を飛びつつ、可能性のあることを色々と考えた。そうして考えていかないと、咲夜にとって本当に安全な場所が分からない。

今、一番優先して行きたいのは東だ。そちらには飛空艇が向かった。既に街があるのか、侵攻対象がいるか、どちらかの問題があるだろう。

どっちにしろ問題はあるが、文明があり咲夜を紛れ込ませるのに最適な環境だ。

もう飛空艇の姿がないから、東の山と草原と森に行ってみた。

少し近づくと、もっと東の方に険しい山地が存在するのが見えてきた。そこから川が生み出され、近隣一帯を潤しているようだ。

森を空から確認してみたら、通常の魔力の流れに近いものを感じた。しっかり自然が根付く場所には、それ相応の力もみなぎって当然なんだろう。でもウィネリア魔法世界最大の魔力集積地のカルゼア大森林と比べたら、天と地の差だ。子供と大人ぐらいの気の強弱がある。

かといって、この世界では貴重な自然だ。東に向かった方が良いだろう。

とりあえず方針を決めたから、一度テントに戻ることにした。

少し早めに帰れたと思いつつ、テントが見える位置まで飛んだ。

そしてまず、消した筈のたき火から煙が上がっているのに気付いた。

そしてその周辺に、複数の人影がある。

ゾッとして、その場まで瞬間移動して短剣を構えた。
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