精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

文字の大きさ
70 / 78
第六章 世界と仲間を救うために

9 罠の迷宮での償い

しおりを挟む
1・

ナーガたちと出会った広場から、徒歩で一時間ほど移動した。

遺跡群の中にある、雑木林ぽい雰囲気の場所を通過してすぐの場所に、彼らが言う遺跡迷宮というものがあった。

地上部分は白い石造りの広場で、その一角に地下に続く階段がある。

階段には鉄製だろう両開きの黒い扉が取り付けられているが、それは錆びておらず片方だけ開いている。

ナーガたちにまず内部を観察してくれと言われたから、彼らと共に扉から入り、階段の終わる場所まで降りていった。

そこからは灰色の石造りの通路が、闇の中に真っ直ぐ続いている。

「我らは、この通路すら通過できない。幾人もの犠牲者を出した」

ナーガが言う。

見た限りでは、何の変哲もない石造りの通路だ。

ご親切にも魔石による照明が等間隔で取り付けられていて、照明を持ち込まずとも普通に歩く分には困らない明るさが維持されている。

しかし薄ら寒い風が吹いていて、床が妙に薄汚れている。

血の臭いがする。

集中してみると、通路の途中の空間や壁や床に見えない罠魔法が仕掛けられているのが分かった。俺を困らせたのと全く同じものだと思える。

しかし、問題はそれじゃない予感がヒシヒシと伝わってくる。

ユリアヌスも同じ気持ちなのか、俺より一歩だけ前に出た。そして足で軽く床を蹴った。

その瞬間、俺たちから五メートルほど離れた場所に、床と天上の両方から鋭く巨大な刃物がせり出してきて、その場所を一閃してから床に引っ込んだ。

「物理的な罠と罠魔法の両方があるのか」

思わず呟くと、ナーガの代表者が軽く肯いた。

「女王を攫った奴らの仕掛けた罠魔法だけならば、我らでもいくらか対処のしようがある。だが三百年ほど前に悪意ある人間たちが作ったこの遺跡迷宮の罠は、どういう造りなのか全く分からない。そこの巨大刃を通過できても、次から次に出現する即死させる罠が、我らの勇敢なる同胞を皆殺しにした」

その声を聞きながら、明かりの差し込んでいない通路の遠くの方に視線をやった。

床に何かの影がある。奥に行きすぎると死体の回収も無理なようだ。

「アーサー、物理的な罠なら俺が対応できる。見えない罠は、お前が遠距離で潰せるだろう?」

ユリアヌスが聞いてきた。

「ああ。でも見落としがなく全部を確実に潰せるかと言われたら、百パーセントじゃないと言うしかない。見えない罠魔法も、パターン変化があるかも知れないし」

「そうか。ならどうする? 不利でも二人で破壊しながら突っ切るか?」

「いや……咲夜を呼びたい。彼女は鑑定魔法が使える。罠の場所と種類を見分けられるかもしれない」

それに、ナーガたちは予言の勇者と神がここに来ると人間たちに聞かされた。この迷宮を攻略するには、まずその基本を押さえるべきと思う。

敵の予言した事だが、俺たちがここに来る理由があったこと、つまりこの迷宮に神石があることを察知している分は信頼できる。

ナーガたちの言葉で疑い、そして自分で実際に気配を感知できて確信した。この地下には、確実に神石がある。

しかしここまでの動きを考えれば、人間たちは予言者が味方にいるのに神石の存在を知らないように思える。

俺たちがここに来た原因が何か知らないのに、特定してこの遺跡に置き忘れられた神石を持ち去るより、罠を張って待ち構える作戦を採用した。だからその分、引っかかったらナーガの教えてくれたとおりに即死できるだろうが。

行かないという選択肢はない。

俺たちは一度地上に戻った。ユリアヌスに残っていてもらい、俺は咲夜に会いにクリムゾンレッドの岩山に瞬間移動した。

咲夜は村の被害が出た場所の片付けをして、復興の手助けしていた。それでも俺が手を振って呼ぶと、すぐに飛んで来てくれた。

岩山の陰で並んで立ち、西の遺跡群で何があったか説明した。それから、死ぬかもしれない遺跡に潜りたいか聞いてみた。

「そりゃあ、行くに決まってるわ」

コボルトたちの名を出すと表情を強ばらせた咲夜ながら、その複雑な思いは足かせにはなっていないようだ。

「咲夜、コボルトたちを助けたいのは俺も同じだ。でももう一度冷静に考えてもらいたい。自分たちが罠にかかって死ぬかもしれないし、目の前でコボルトやナーガが死ぬかもしれない。そして女王を助けられず、ナーガたちに責任を追及されるかもしれない。それでも?」

「うん。私は行くわ。それで……私自身の罪の償いをするの。こんな風に償えるチャンスがあるのは奇跡的よ。永遠に償えない可能性もあったのに」

咲夜の苦痛は、俺自身も感じるもの。そして咲夜の気持ち自体も、俺の契約主としてある繋がりを通じて感じる。

俺も咲夜も、コボルトたちに償いをしたい。死の待つ迷宮に行くとしてもだ。

俺は俺自身と咲夜の本心を同じく理解して、咲夜の手を取り西の遺跡群へと戻った。

2・

白い石の広場に戻り、咲夜が勇者であることをナーガたちに説明した。

ナーガたちは俺に対してもそうだが、咲夜がまだ子供に見えることに驚いているような素振りを見せた。しかしだからといって、迷宮に潜らないでいいとは言わない。

再び遺跡迷宮に入り、階段を最後まで降りた。

「咲夜、この通過を鑑定してみたらどう見える?」

「うんとね……沢山の罠があるのが表示されてるわ。ええと、設置型の罠が見えてるだけで四つあって、魔法型の罠が五つあるの」

俺が感知できている罠魔法の数も五つなので、きっとお互いが間違っていない可能性が高い。安心できた。

問題は設置されている罠の方で、咲夜が教えてくれた発動場所とスイッチの両方に警戒しなくてはいけない。

だが、それは普通ならばだ。

普通じゃない方法の持ち主ユリアヌスは、俺が先に罠魔法を遠隔で排除してから、咲夜に教えてもらえた設置型の罠の前に立った。

ユリアヌスは元々、魔力を乗せた大型の武器による広範囲の破壊行為を得意とする存在。その上、憑依したタロートは土属性の精霊で、破壊行為の対象となる武器や防具、建物や土地そのものの変化を可能にする能力の保持者だ。

つまり、勢いのみで周辺全体の破壊行為をしていたユリアヌスに、破壊する範囲を指定できるという調整能力が組み合わさった。おかげで遺跡内部、地下ですら全体を崩すことなく破壊行為が可能になった。設置型の罠は、彼が望めばそこだけ壊れる。

俺たちが見つめている中で、ユリアヌスは手に持つハルバートの石突きの方で、石造りの廊下をガンガンと打ちすえた。

するとその振動が伝わったのだろう、設置された罠の刃や装置、石の部分がボロボロになり、壊れて崩れ落ちた。

ナーガたちがあれほど苦労させられた巨大刃の罠は、そうして呆気なく無くなった。

それからの罠も、咲夜が鑑定して位置と種類を特定して、俺かユリアヌスが壊すという方法で簡単に乗りきれた。

廊下一本ですら進めなかったナーガたちは複雑な心情だろうが、罠の破壊が倒れていたナーガの死体の場所まで及ぶと、その死体を回収して一言だけ感謝してくれた。

仲間を大事にする姿を見て、この世の人間たちよりナーガたちの方が情に厚くて信用できそうだと思った。

廊下の向こうは、本格的な迷宮が始まっていた。罠が発動しないのだろう小動物以外には魔物もいない、罠だけがある空間。

俺たちは咲夜のマッピング能力にも助けられ、一個ずつ確実に罠を潰し、迷うこともなく迷宮を進んで行けた。

時折、毒などの別の魔法が組み合わされた罠もあった。それらも咲夜が見抜いて報せてくれるから対処ができて、俺たちは一度も危険な目に遭わずに迷宮の奥に進むことができた。

そのうち、少し広めの部屋に到着できたので、罠を潰した後で休憩を取った。

俺は周囲を何気なく見回して、迷宮に入ってすぐに感じ始めた違和感の源をどうするか考えた。

ふと目が合ったユリアヌスも、俺と同じ気配を察知しているかのような居心地の悪そうな顔をしている。

何気ない感じで手話で俺の予想を伝えると、ユリアヌスも同意してくれた。

やっぱりこの感覚は──

「なにをしている」

ナーガ兵士の責任者に問われ、ハッとした。

「二人でコソコソと、何のやり取りをしていた? 我らに秘密にすべき事か」

「あ……」

手話という文化がこっちに無いと思って、安易に使ってしまったので怪しまれてしまったようだ。

俺はナーガたちを信じているが、彼らが俺たちを信じている訳じゃない。うかつだった。

「え、いや、これは、あなた方を警戒している訳じゃないんだ。この迷宮、咲夜にはやっぱりキツイんじゃないかと思って、帰ってもらおうかと話し合っていただけだ」

「え?」

少し向こうにいた咲夜がこれを聞きつけてしまい、俺を睨み付けて迫ってきた。

「ちょっと、今さらなに言うのよ! 私はちゃんと役立ってるでしょ! 仲間外れにしないでよ!」

思った以上の勢いに、俺は素で押された。

「いや、でも、危険なのは危険だし。子供がいたらいけない場所だ」

「それなら、叔父さんもここにいれないでしょうが! 一緒に帰るって言うの!?」

激怒した咲夜は、俺の耳を掴んで思い切り引っ張った。俺はただ謝った。ナーガたちは傍観した。そしてユリアヌスは……静かに壁ぎわに移動して、壁の向こうにいる一つの気配に向けて壁ごと鋭い攻撃を加えた。

激しい破壊で舞い上がった土ぼこりや石は、防御魔法である程度は凌いだ。

壁が破壊され崩れ落ちたその向こうに、別の空間がある。

ユリアヌスは真っ先にその石造りの部屋に入っていき、崩れ落ちた壁の石材の下敷きになっている人物の確認をしに行った。そして咲夜に質問した。

「咲夜、こいつのステータス画面とやらは見抜けるか?」

「ええと……召喚された勇者の子孫って出てる。六代目だって」

「それ以外は?」

「罠魔法師で……普通の罠魔法と、罠魔法設置アイテム作成スキル持ってる」

こいつが問題の奴かと思うと同時に、咲夜の表情が強ばったのに気付いた。俺は咲夜に彼を見せないように、咲夜の前に立った。

「……それで、もう亡くなってる」

「うん」

やはり生死がかかると、咲夜は怖がってしまう。さっきは罠魔法師に不意打ちしたいから誤魔化す意味でネタにしたものの、本当に咲夜を帰したくなった。

「……叔父さん」

「うん?」

「私、大丈夫よ。もう覚悟決めたからね」

「……そうか、分かった」

まだまだ表情は強ばっているものの、強い意思を感じる。自分の人生を自分で歩むと決めた大人の決意だ。

ただ今はまだ一人にしたくないから、咲夜の手をギュッと握りしめてあげた。

咲夜はようやく緊張が解けて笑い、一緒に歩き出してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...