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第六章 世界と仲間を救うために
9 罠の迷宮での償い
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1・
ナーガたちと出会った広場から、徒歩で一時間ほど移動した。
遺跡群の中にある、雑木林ぽい雰囲気の場所を通過してすぐの場所に、彼らが言う遺跡迷宮というものがあった。
地上部分は白い石造りの広場で、その一角に地下に続く階段がある。
階段には鉄製だろう両開きの黒い扉が取り付けられているが、それは錆びておらず片方だけ開いている。
ナーガたちにまず内部を観察してくれと言われたから、彼らと共に扉から入り、階段の終わる場所まで降りていった。
そこからは灰色の石造りの通路が、闇の中に真っ直ぐ続いている。
「我らは、この通路すら通過できない。幾人もの犠牲者を出した」
ナーガが言う。
見た限りでは、何の変哲もない石造りの通路だ。
ご親切にも魔石による照明が等間隔で取り付けられていて、照明を持ち込まずとも普通に歩く分には困らない明るさが維持されている。
しかし薄ら寒い風が吹いていて、床が妙に薄汚れている。
血の臭いがする。
集中してみると、通路の途中の空間や壁や床に見えない罠魔法が仕掛けられているのが分かった。俺を困らせたのと全く同じものだと思える。
しかし、問題はそれじゃない予感がヒシヒシと伝わってくる。
ユリアヌスも同じ気持ちなのか、俺より一歩だけ前に出た。そして足で軽く床を蹴った。
その瞬間、俺たちから五メートルほど離れた場所に、床と天上の両方から鋭く巨大な刃物がせり出してきて、その場所を一閃してから床に引っ込んだ。
「物理的な罠と罠魔法の両方があるのか」
思わず呟くと、ナーガの代表者が軽く肯いた。
「女王を攫った奴らの仕掛けた罠魔法だけならば、我らでもいくらか対処のしようがある。だが三百年ほど前に悪意ある人間たちが作ったこの遺跡迷宮の罠は、どういう造りなのか全く分からない。そこの巨大刃を通過できても、次から次に出現する即死させる罠が、我らの勇敢なる同胞を皆殺しにした」
その声を聞きながら、明かりの差し込んでいない通路の遠くの方に視線をやった。
床に何かの影がある。奥に行きすぎると死体の回収も無理なようだ。
「アーサー、物理的な罠なら俺が対応できる。見えない罠は、お前が遠距離で潰せるだろう?」
ユリアヌスが聞いてきた。
「ああ。でも見落としがなく全部を確実に潰せるかと言われたら、百パーセントじゃないと言うしかない。見えない罠魔法も、パターン変化があるかも知れないし」
「そうか。ならどうする? 不利でも二人で破壊しながら突っ切るか?」
「いや……咲夜を呼びたい。彼女は鑑定魔法が使える。罠の場所と種類を見分けられるかもしれない」
それに、ナーガたちは予言の勇者と神がここに来ると人間たちに聞かされた。この迷宮を攻略するには、まずその基本を押さえるべきと思う。
敵の予言した事だが、俺たちがここに来る理由があったこと、つまりこの迷宮に神石があることを察知している分は信頼できる。
ナーガたちの言葉で疑い、そして自分で実際に気配を感知できて確信した。この地下には、確実に神石がある。
しかしここまでの動きを考えれば、人間たちは予言者が味方にいるのに神石の存在を知らないように思える。
俺たちがここに来た原因が何か知らないのに、特定してこの遺跡に置き忘れられた神石を持ち去るより、罠を張って待ち構える作戦を採用した。だからその分、引っかかったらナーガの教えてくれたとおりに即死できるだろうが。
行かないという選択肢はない。
俺たちは一度地上に戻った。ユリアヌスに残っていてもらい、俺は咲夜に会いにクリムゾンレッドの岩山に瞬間移動した。
咲夜は村の被害が出た場所の片付けをして、復興の手助けしていた。それでも俺が手を振って呼ぶと、すぐに飛んで来てくれた。
岩山の陰で並んで立ち、西の遺跡群で何があったか説明した。それから、死ぬかもしれない遺跡に潜りたいか聞いてみた。
「そりゃあ、行くに決まってるわ」
コボルトたちの名を出すと表情を強ばらせた咲夜ながら、その複雑な思いは足かせにはなっていないようだ。
「咲夜、コボルトたちを助けたいのは俺も同じだ。でももう一度冷静に考えてもらいたい。自分たちが罠にかかって死ぬかもしれないし、目の前でコボルトやナーガが死ぬかもしれない。そして女王を助けられず、ナーガたちに責任を追及されるかもしれない。それでも?」
「うん。私は行くわ。それで……私自身の罪の償いをするの。こんな風に償えるチャンスがあるのは奇跡的よ。永遠に償えない可能性もあったのに」
咲夜の苦痛は、俺自身も感じるもの。そして咲夜の気持ち自体も、俺の契約主としてある繋がりを通じて感じる。
俺も咲夜も、コボルトたちに償いをしたい。死の待つ迷宮に行くとしてもだ。
俺は俺自身と咲夜の本心を同じく理解して、咲夜の手を取り西の遺跡群へと戻った。
2・
白い石の広場に戻り、咲夜が勇者であることをナーガたちに説明した。
ナーガたちは俺に対してもそうだが、咲夜がまだ子供に見えることに驚いているような素振りを見せた。しかしだからといって、迷宮に潜らないでいいとは言わない。
再び遺跡迷宮に入り、階段を最後まで降りた。
「咲夜、この通過を鑑定してみたらどう見える?」
「うんとね……沢山の罠があるのが表示されてるわ。ええと、設置型の罠が見えてるだけで四つあって、魔法型の罠が五つあるの」
俺が感知できている罠魔法の数も五つなので、きっとお互いが間違っていない可能性が高い。安心できた。
問題は設置されている罠の方で、咲夜が教えてくれた発動場所とスイッチの両方に警戒しなくてはいけない。
だが、それは普通ならばだ。
普通じゃない方法の持ち主ユリアヌスは、俺が先に罠魔法を遠隔で排除してから、咲夜に教えてもらえた設置型の罠の前に立った。
ユリアヌスは元々、魔力を乗せた大型の武器による広範囲の破壊行為を得意とする存在。その上、憑依したタロートは土属性の精霊で、破壊行為の対象となる武器や防具、建物や土地そのものの変化を可能にする能力の保持者だ。
つまり、勢いのみで周辺全体の破壊行為をしていたユリアヌスに、破壊する範囲を指定できるという調整能力が組み合わさった。おかげで遺跡内部、地下ですら全体を崩すことなく破壊行為が可能になった。設置型の罠は、彼が望めばそこだけ壊れる。
俺たちが見つめている中で、ユリアヌスは手に持つハルバートの石突きの方で、石造りの廊下をガンガンと打ちすえた。
するとその振動が伝わったのだろう、設置された罠の刃や装置、石の部分がボロボロになり、壊れて崩れ落ちた。
ナーガたちがあれほど苦労させられた巨大刃の罠は、そうして呆気なく無くなった。
それからの罠も、咲夜が鑑定して位置と種類を特定して、俺かユリアヌスが壊すという方法で簡単に乗りきれた。
廊下一本ですら進めなかったナーガたちは複雑な心情だろうが、罠の破壊が倒れていたナーガの死体の場所まで及ぶと、その死体を回収して一言だけ感謝してくれた。
仲間を大事にする姿を見て、この世の人間たちよりナーガたちの方が情に厚くて信用できそうだと思った。
廊下の向こうは、本格的な迷宮が始まっていた。罠が発動しないのだろう小動物以外には魔物もいない、罠だけがある空間。
俺たちは咲夜のマッピング能力にも助けられ、一個ずつ確実に罠を潰し、迷うこともなく迷宮を進んで行けた。
時折、毒などの別の魔法が組み合わされた罠もあった。それらも咲夜が見抜いて報せてくれるから対処ができて、俺たちは一度も危険な目に遭わずに迷宮の奥に進むことができた。
そのうち、少し広めの部屋に到着できたので、罠を潰した後で休憩を取った。
俺は周囲を何気なく見回して、迷宮に入ってすぐに感じ始めた違和感の源をどうするか考えた。
ふと目が合ったユリアヌスも、俺と同じ気配を察知しているかのような居心地の悪そうな顔をしている。
何気ない感じで手話で俺の予想を伝えると、ユリアヌスも同意してくれた。
やっぱりこの感覚は──
「なにをしている」
ナーガ兵士の責任者に問われ、ハッとした。
「二人でコソコソと、何のやり取りをしていた? 我らに秘密にすべき事か」
「あ……」
手話という文化がこっちに無いと思って、安易に使ってしまったので怪しまれてしまったようだ。
俺はナーガたちを信じているが、彼らが俺たちを信じている訳じゃない。うかつだった。
「え、いや、これは、あなた方を警戒している訳じゃないんだ。この迷宮、咲夜にはやっぱりキツイんじゃないかと思って、帰ってもらおうかと話し合っていただけだ」
「え?」
少し向こうにいた咲夜がこれを聞きつけてしまい、俺を睨み付けて迫ってきた。
「ちょっと、今さらなに言うのよ! 私はちゃんと役立ってるでしょ! 仲間外れにしないでよ!」
思った以上の勢いに、俺は素で押された。
「いや、でも、危険なのは危険だし。子供がいたらいけない場所だ」
「それなら、叔父さんもここにいれないでしょうが! 一緒に帰るって言うの!?」
激怒した咲夜は、俺の耳を掴んで思い切り引っ張った。俺はただ謝った。ナーガたちは傍観した。そしてユリアヌスは……静かに壁ぎわに移動して、壁の向こうにいる一つの気配に向けて壁ごと鋭い攻撃を加えた。
激しい破壊で舞い上がった土ぼこりや石は、防御魔法である程度は凌いだ。
壁が破壊され崩れ落ちたその向こうに、別の空間がある。
ユリアヌスは真っ先にその石造りの部屋に入っていき、崩れ落ちた壁の石材の下敷きになっている人物の確認をしに行った。そして咲夜に質問した。
「咲夜、こいつのステータス画面とやらは見抜けるか?」
「ええと……召喚された勇者の子孫って出てる。六代目だって」
「それ以外は?」
「罠魔法師で……普通の罠魔法と、罠魔法設置アイテム作成スキル持ってる」
こいつが問題の奴かと思うと同時に、咲夜の表情が強ばったのに気付いた。俺は咲夜に彼を見せないように、咲夜の前に立った。
「……それで、もう亡くなってる」
「うん」
やはり生死がかかると、咲夜は怖がってしまう。さっきは罠魔法師に不意打ちしたいから誤魔化す意味でネタにしたものの、本当に咲夜を帰したくなった。
「……叔父さん」
「うん?」
「私、大丈夫よ。もう覚悟決めたからね」
「……そうか、分かった」
まだまだ表情は強ばっているものの、強い意思を感じる。自分の人生を自分で歩むと決めた大人の決意だ。
ただ今はまだ一人にしたくないから、咲夜の手をギュッと握りしめてあげた。
咲夜はようやく緊張が解けて笑い、一緒に歩き出してくれた。
ナーガたちと出会った広場から、徒歩で一時間ほど移動した。
遺跡群の中にある、雑木林ぽい雰囲気の場所を通過してすぐの場所に、彼らが言う遺跡迷宮というものがあった。
地上部分は白い石造りの広場で、その一角に地下に続く階段がある。
階段には鉄製だろう両開きの黒い扉が取り付けられているが、それは錆びておらず片方だけ開いている。
ナーガたちにまず内部を観察してくれと言われたから、彼らと共に扉から入り、階段の終わる場所まで降りていった。
そこからは灰色の石造りの通路が、闇の中に真っ直ぐ続いている。
「我らは、この通路すら通過できない。幾人もの犠牲者を出した」
ナーガが言う。
見た限りでは、何の変哲もない石造りの通路だ。
ご親切にも魔石による照明が等間隔で取り付けられていて、照明を持ち込まずとも普通に歩く分には困らない明るさが維持されている。
しかし薄ら寒い風が吹いていて、床が妙に薄汚れている。
血の臭いがする。
集中してみると、通路の途中の空間や壁や床に見えない罠魔法が仕掛けられているのが分かった。俺を困らせたのと全く同じものだと思える。
しかし、問題はそれじゃない予感がヒシヒシと伝わってくる。
ユリアヌスも同じ気持ちなのか、俺より一歩だけ前に出た。そして足で軽く床を蹴った。
その瞬間、俺たちから五メートルほど離れた場所に、床と天上の両方から鋭く巨大な刃物がせり出してきて、その場所を一閃してから床に引っ込んだ。
「物理的な罠と罠魔法の両方があるのか」
思わず呟くと、ナーガの代表者が軽く肯いた。
「女王を攫った奴らの仕掛けた罠魔法だけならば、我らでもいくらか対処のしようがある。だが三百年ほど前に悪意ある人間たちが作ったこの遺跡迷宮の罠は、どういう造りなのか全く分からない。そこの巨大刃を通過できても、次から次に出現する即死させる罠が、我らの勇敢なる同胞を皆殺しにした」
その声を聞きながら、明かりの差し込んでいない通路の遠くの方に視線をやった。
床に何かの影がある。奥に行きすぎると死体の回収も無理なようだ。
「アーサー、物理的な罠なら俺が対応できる。見えない罠は、お前が遠距離で潰せるだろう?」
ユリアヌスが聞いてきた。
「ああ。でも見落としがなく全部を確実に潰せるかと言われたら、百パーセントじゃないと言うしかない。見えない罠魔法も、パターン変化があるかも知れないし」
「そうか。ならどうする? 不利でも二人で破壊しながら突っ切るか?」
「いや……咲夜を呼びたい。彼女は鑑定魔法が使える。罠の場所と種類を見分けられるかもしれない」
それに、ナーガたちは予言の勇者と神がここに来ると人間たちに聞かされた。この迷宮を攻略するには、まずその基本を押さえるべきと思う。
敵の予言した事だが、俺たちがここに来る理由があったこと、つまりこの迷宮に神石があることを察知している分は信頼できる。
ナーガたちの言葉で疑い、そして自分で実際に気配を感知できて確信した。この地下には、確実に神石がある。
しかしここまでの動きを考えれば、人間たちは予言者が味方にいるのに神石の存在を知らないように思える。
俺たちがここに来た原因が何か知らないのに、特定してこの遺跡に置き忘れられた神石を持ち去るより、罠を張って待ち構える作戦を採用した。だからその分、引っかかったらナーガの教えてくれたとおりに即死できるだろうが。
行かないという選択肢はない。
俺たちは一度地上に戻った。ユリアヌスに残っていてもらい、俺は咲夜に会いにクリムゾンレッドの岩山に瞬間移動した。
咲夜は村の被害が出た場所の片付けをして、復興の手助けしていた。それでも俺が手を振って呼ぶと、すぐに飛んで来てくれた。
岩山の陰で並んで立ち、西の遺跡群で何があったか説明した。それから、死ぬかもしれない遺跡に潜りたいか聞いてみた。
「そりゃあ、行くに決まってるわ」
コボルトたちの名を出すと表情を強ばらせた咲夜ながら、その複雑な思いは足かせにはなっていないようだ。
「咲夜、コボルトたちを助けたいのは俺も同じだ。でももう一度冷静に考えてもらいたい。自分たちが罠にかかって死ぬかもしれないし、目の前でコボルトやナーガが死ぬかもしれない。そして女王を助けられず、ナーガたちに責任を追及されるかもしれない。それでも?」
「うん。私は行くわ。それで……私自身の罪の償いをするの。こんな風に償えるチャンスがあるのは奇跡的よ。永遠に償えない可能性もあったのに」
咲夜の苦痛は、俺自身も感じるもの。そして咲夜の気持ち自体も、俺の契約主としてある繋がりを通じて感じる。
俺も咲夜も、コボルトたちに償いをしたい。死の待つ迷宮に行くとしてもだ。
俺は俺自身と咲夜の本心を同じく理解して、咲夜の手を取り西の遺跡群へと戻った。
2・
白い石の広場に戻り、咲夜が勇者であることをナーガたちに説明した。
ナーガたちは俺に対してもそうだが、咲夜がまだ子供に見えることに驚いているような素振りを見せた。しかしだからといって、迷宮に潜らないでいいとは言わない。
再び遺跡迷宮に入り、階段を最後まで降りた。
「咲夜、この通過を鑑定してみたらどう見える?」
「うんとね……沢山の罠があるのが表示されてるわ。ええと、設置型の罠が見えてるだけで四つあって、魔法型の罠が五つあるの」
俺が感知できている罠魔法の数も五つなので、きっとお互いが間違っていない可能性が高い。安心できた。
問題は設置されている罠の方で、咲夜が教えてくれた発動場所とスイッチの両方に警戒しなくてはいけない。
だが、それは普通ならばだ。
普通じゃない方法の持ち主ユリアヌスは、俺が先に罠魔法を遠隔で排除してから、咲夜に教えてもらえた設置型の罠の前に立った。
ユリアヌスは元々、魔力を乗せた大型の武器による広範囲の破壊行為を得意とする存在。その上、憑依したタロートは土属性の精霊で、破壊行為の対象となる武器や防具、建物や土地そのものの変化を可能にする能力の保持者だ。
つまり、勢いのみで周辺全体の破壊行為をしていたユリアヌスに、破壊する範囲を指定できるという調整能力が組み合わさった。おかげで遺跡内部、地下ですら全体を崩すことなく破壊行為が可能になった。設置型の罠は、彼が望めばそこだけ壊れる。
俺たちが見つめている中で、ユリアヌスは手に持つハルバートの石突きの方で、石造りの廊下をガンガンと打ちすえた。
するとその振動が伝わったのだろう、設置された罠の刃や装置、石の部分がボロボロになり、壊れて崩れ落ちた。
ナーガたちがあれほど苦労させられた巨大刃の罠は、そうして呆気なく無くなった。
それからの罠も、咲夜が鑑定して位置と種類を特定して、俺かユリアヌスが壊すという方法で簡単に乗りきれた。
廊下一本ですら進めなかったナーガたちは複雑な心情だろうが、罠の破壊が倒れていたナーガの死体の場所まで及ぶと、その死体を回収して一言だけ感謝してくれた。
仲間を大事にする姿を見て、この世の人間たちよりナーガたちの方が情に厚くて信用できそうだと思った。
廊下の向こうは、本格的な迷宮が始まっていた。罠が発動しないのだろう小動物以外には魔物もいない、罠だけがある空間。
俺たちは咲夜のマッピング能力にも助けられ、一個ずつ確実に罠を潰し、迷うこともなく迷宮を進んで行けた。
時折、毒などの別の魔法が組み合わされた罠もあった。それらも咲夜が見抜いて報せてくれるから対処ができて、俺たちは一度も危険な目に遭わずに迷宮の奥に進むことができた。
そのうち、少し広めの部屋に到着できたので、罠を潰した後で休憩を取った。
俺は周囲を何気なく見回して、迷宮に入ってすぐに感じ始めた違和感の源をどうするか考えた。
ふと目が合ったユリアヌスも、俺と同じ気配を察知しているかのような居心地の悪そうな顔をしている。
何気ない感じで手話で俺の予想を伝えると、ユリアヌスも同意してくれた。
やっぱりこの感覚は──
「なにをしている」
ナーガ兵士の責任者に問われ、ハッとした。
「二人でコソコソと、何のやり取りをしていた? 我らに秘密にすべき事か」
「あ……」
手話という文化がこっちに無いと思って、安易に使ってしまったので怪しまれてしまったようだ。
俺はナーガたちを信じているが、彼らが俺たちを信じている訳じゃない。うかつだった。
「え、いや、これは、あなた方を警戒している訳じゃないんだ。この迷宮、咲夜にはやっぱりキツイんじゃないかと思って、帰ってもらおうかと話し合っていただけだ」
「え?」
少し向こうにいた咲夜がこれを聞きつけてしまい、俺を睨み付けて迫ってきた。
「ちょっと、今さらなに言うのよ! 私はちゃんと役立ってるでしょ! 仲間外れにしないでよ!」
思った以上の勢いに、俺は素で押された。
「いや、でも、危険なのは危険だし。子供がいたらいけない場所だ」
「それなら、叔父さんもここにいれないでしょうが! 一緒に帰るって言うの!?」
激怒した咲夜は、俺の耳を掴んで思い切り引っ張った。俺はただ謝った。ナーガたちは傍観した。そしてユリアヌスは……静かに壁ぎわに移動して、壁の向こうにいる一つの気配に向けて壁ごと鋭い攻撃を加えた。
激しい破壊で舞い上がった土ぼこりや石は、防御魔法である程度は凌いだ。
壁が破壊され崩れ落ちたその向こうに、別の空間がある。
ユリアヌスは真っ先にその石造りの部屋に入っていき、崩れ落ちた壁の石材の下敷きになっている人物の確認をしに行った。そして咲夜に質問した。
「咲夜、こいつのステータス画面とやらは見抜けるか?」
「ええと……召喚された勇者の子孫って出てる。六代目だって」
「それ以外は?」
「罠魔法師で……普通の罠魔法と、罠魔法設置アイテム作成スキル持ってる」
こいつが問題の奴かと思うと同時に、咲夜の表情が強ばったのに気付いた。俺は咲夜に彼を見せないように、咲夜の前に立った。
「……それで、もう亡くなってる」
「うん」
やはり生死がかかると、咲夜は怖がってしまう。さっきは罠魔法師に不意打ちしたいから誤魔化す意味でネタにしたものの、本当に咲夜を帰したくなった。
「……叔父さん」
「うん?」
「私、大丈夫よ。もう覚悟決めたからね」
「……そうか、分かった」
まだまだ表情は強ばっているものの、強い意思を感じる。自分の人生を自分で歩むと決めた大人の決意だ。
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