精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第六章 世界と仲間を救うために

十三 南の平原での決戦に備える

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1・

地上部分が一部崩壊したものの、ナーガと俺たちは、そうして無事にコボルトたちの居住地を奪還することができた。

トレシス王国の兵士たちが残した武器や防具、食料などはそのまま頂いた。

そしてその全ての報酬を差し出した俺と咲夜は、コボルトたちに頭を垂れて自分たちの所業を謝罪した。

コボルトの戦士の大半が戦死して、居住地はこれからも人間たちに狙われる状況にある。

それでも新たなコボルトの長となった者は、俺と咲夜を許してくれた。

その代わり、バルネラの予言を完遂しろと頼まれた。俺はその願いを受け入れた。

戦いがあった日の夜。解放されたコボルトたちの居住地の一角を借りられたので、そこで休憩した。

窓のない石の部屋の中、魔道具の小さな灯りが一個だけある。

持参したクッションの上に座る俺の横で、いつも通りに俺のテントで眠る咲夜の寝息が聞こえる。

とても疲れたんだろう。寝息というか……イビキが。

その規則正しく繰り返されるイビキを聞きながら、今後の作戦を考えた。

あと一つ、南の平原にいる魔物退治を行えば、神石の全てが揃って新たな守護神を誕生させることができる。

しかし倒すべき魔物は、ウィネリア魔法世界でいうところのゴールド迷宮の魔王並の強さを持っている。かつ、鈴掛さんの言う通りならば飛行艇団と天空都市同盟軍が横やりを入れに来る筈だ。

その時に勇者たち四人がこちらの戦力になってくれるとしても、魔物だけを相手にしても、全員が無事で済むかどうか分からない。

十日後という決戦の日までに、もしユーリシエスが俺に会いに来てくれたら、亜人たちに手を貸してもらわなくても良さそうだが。

ユーリシエスがいつ来るか分からないんだから、そんなものはあてにできない。俺もユリアヌスもアルスノバの助力がなければ、単独でウィネリア魔法世界には帰れない。本当に、こちらの世界の戦力だけで勝てる作戦を考えなくてはいけない。

なので、亜人たちの戦力に頼るしかない。彼らの戦力は個人差があるから、過酷な戦争に巻き込めば必ず死者が出る。それが分かっていても、崩壊しつつあるアルダリア世界を救うには、戦いに出るしかない。

魔物が最後の神石を持っておらず、どこかに落ちているのを探すだけで良かったなら簡単なんだが、そうもいかない。

これで最後だと自分に言い聞かせて、腹をくくった。

ちょうどその時。外に見回りに出ていたユリアヌスが、カーテンより短めの古びた布だけがかかっている唯一の出入り口から、布を押しのけて入ってきた。

「アーサー、まだ寝てなかったのか。もう寝た方がいいぞ」

「ユリアヌス、話がある」

「……俺もある」

ユリアヌスが俺の前まで来たから、空間収納からエリス母さんお手製のクッションを一個取り出して差し出した。ユリアヌスは黙って受け取り、俺の横でそれを敷いて床に座った。

「十日後の戦いには、エルフとナーガとコボルトたちに助力を請う事にする。エスタルドラにも連絡を入れられるなら、頼りたいと思う」

「エスタルドラの民は放っておいても来るように思うがな。他はまあ、頼むしかない状況だから、そうすべきだ」

「うん。明日以降に頼んでみる。それで、そっちの話ってなに?」

ユリアヌスはほの明るい灯りの中で、視線を床に落とした。

「誰が新しい守護神になるか、ここで決めておくべきだ。少なくとも、アーサーは駄目だ」

「ええ? ここでも駄目出しかよ。もういい加減、それ止めて」

「本当に子供のくせに、止められる訳がないだろう。いいか、神石を使うのは俺だ。それでいいな?」

「……」

いきなりで驚いた。うっすらと、彼なら言い出す可能性があるかもと思っていたものの、現実になると思考が追いつかない。

「えっと、それで守護神になるユリアヌスは、消えそうなタロートを助けてアルダリア世界を護るのか?」

「ああ。俺に相応しい役目だ」

「だけど、一度は神と同等の存在だった俺の方が良くないか? すぐに力を行使できそうだ」

「魔王だった俺にもできるぞ」

「でもさ──」

言い返そうとしたら、ユリアヌスが片手を伸ばしてきて俺の髪の毛をグシャグシャとかき回した。

「この赤ん坊め。早く父さんと母さんの家に帰るんだ」

「それは──」

「お前、本気で気付いてないんだな」

ユリアヌスが真剣な口調で強めに言ったから、俺は一度黙った。

「……何に?」

質問した。

ユリアヌスは少し間を置いてから答えた。

「ウィネリア魔法世界のカルゼア大森林には、俺の居場所はない。人間たちの国でもそうだ。一度は世界を滅ぼしかけた魔王の俺は、お前の家族とユーリシエス以外には受け入れられていない。無邪気な子供のお前は、その俺への扱いに全く気付いていないんだな」

「……」

精霊の赤ん坊の俺は、体も心もまだまだ成長途中だ。しかし前世の記憶があるから、大人の観察力や判断力があると思い込んでいた。

俺がタロートに取り憑いたユリアヌスを大好きだから、俺を好きでいてくれるみんなも好きなんだろうと思っていた。でも。

「……精霊たちに、仲良くしてもらえてないのか?」

「ああ。アルスノバは俺の居場所がないことを察知したのもあって、こっちに連れ込んだんだろう。アーサーは帰るべきだが、俺は帰らなくてもいい存在だ。いや、いない方がいい存在だ。今でも、魔王として恐れられているんだからな」

「う」

俺はユリアヌスの真剣な言葉を聞いて、口ごもった。

四万年もかけてせっかく助けた親友が、自分の仲間に受け入れられていなかったなんて。ショックで何も言えない。

今の身になったユリアヌスには、他の魔王を解放する作戦で散々世話になったというのに。

「アーサー、タロートとこの世界のことは俺に任せろ。お前は自分の家族を護れ。そう約束してくれ」

ユリアヌスは俺に手を差し出した。俺は色々と考えてみたけれど、一つとして他の良い案が浮かばなかった。

だから、黙ってその手を握りしめた。

俺はしばらくすすり泣いた。

2・

翌日。俺が出した援助要請に、ナーガたちは引き続き応じてくれた。そしてコボルトたちも、戦力として劣るものの幾人かの参戦を約束してくれた。

心苦しいが、コボルトの戦士たちは戦いの中で早く亡くなるだろう。それでもコボルトたちの名誉を護るため、勝ち戦になるしか未来がないこの戦いに出てくるしかない。

新しく変わる世界の中で、これから生まれ出るコボルトの子供たちは参戦した英雄に憧れ続けるだろう。負けて蹂躙されただけの一族ではなく、勇敢に立ち向かった一族の一員として。

彼らのその選択を尊重しない訳にいかない。だからこれで良い。

そうして二つの種族の協力を約束できた後で、久しぶりにエルフ達に会いにクリムゾンレッドの岩山の集落に瞬間移動した。

すっかり前の戦闘の爪痕が片付いた集落では、以前より人の数が増えていた。そして新しい家屋の建築ラッシュを迎えていた。

事情を聞こうとアーガスを探して会いに行った。彼は仲間と共に集落から少し離れた森の中にいて、魔石を使って強化した魔法の練習をしていた。

アーガスはさすがエルフの王子様だという威力の、俺でもほれぼれする氷結魔法を使用している。漂ってくる冷気で、彼こそがこの間の襲撃事件で弓矢を扱う勇者の子孫を返り討ちにしたんだと気付いた。

水色がかった少し長めの金髪を風にたなびかせるアーガスは、俺たちが戻って来たのを見ると一瞬だけ年相応の若者ぽく喜び、一緒に岩山に戻ってお茶をごちそうしてくれた。

そしてエルフ達が増えているのは俺の気のせいじゃなく、人間の襲撃から逃げて消息不明になっていた幾人かが合流できたと教えてくれた。

合流できた中にはアーガスの家族の王族や彼並みの魔術師もいるということで、それを聞いた俺はとても嬉しくなった。

ただ、死地へ誘うのは気が引ける。それでも俺は、世界を新生する為の最後の戦いに参戦してくれるように頼んだ。

アーガスは全く動じず、微笑んで肯いてくれた。

「先に、エスタルドラから一通の手紙を受け取った。それを読み、参戦する者を選出して訓練を施していた。無論、この私も参戦する」

アーガスは話しながら、上着のポケットから茶色い紙切れを一枚取り出した。

そのエスタルドラから送られた手紙には、俺たちが九日後にどの地点で魔物と戦い、どこに飛行艇団が来て、天空都市同盟軍が遠くから自走砲で砲撃してくるという内容が記されているという。

俺たちはこちらの文字が上手く読めないので、アーガスに読み上げてもらった。

南の草原の魔物を狩りに出た俺たちに、後からやって来る飛行艇団と兵士たちが南西の方角から激しい砲撃を仕掛けてくるらしい。

人間たちに対応できなければ、俺たちはあっという間に魔物と戦えっこない状況に陥るだろう。

手紙には戦術をどうこうしろとは書いていないから、アーガスや他のエルフ達にも知恵を貸してもらいつつ作戦を考えた。

最終的に、総司令官は魔法使いでカリスマ性もあり、戦術にも長けているアーガスに決定した。

アーガス以下エルフ魔術師達は、俺とユリアヌスが前線に立つ魔物戦の後方支援役になってもらう。

咲夜はアーガスの傍にいてもらい、同じく後方支援をする。

飛行艇団については聖地を護るハヤブサに頼んで主戦力となってもらいつつ、空を渡る手段を持つエルフ戦士とナーガの術士に対応してもらう。

他のナーガたちとコボルトたちには、戦闘開始後にやって来る天空都市同盟軍の兵士たちの相手を頼む。

あと、きっとやって来てくれる勇者四人は、俺と一緒に魔物退治をしてもらう。

これが今の戦力で建てられる、精一杯の作戦だ。
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