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四章 魔界を駆け抜けて
十一 魔法学園パレスにて
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1・
目的地の学園都市パレスまで、予定より少し遅れて到着した。
その旅の間に繰り返した訓練とあの火災事件のおかげで、麒麟の持つ性質の一つ、血の縛りについて理解を深めることができた。
例えるならば、海で溺れる人を助けに行く人が海に飛び込んだ時に、低い海水温だったりまとわりつく海水の重さだったりで不快に感じるのと同じ事。
助けたい誰かがいる場合、冷たい海に飛び込んでショックを受けるだろうけれど、それ以上の気力で泳いで助けに行くだろう。そのうち、冷たいことなど忘れるかもしれない。
つまり、解決方法は問題に対する集中力にある。泳いでいる間にまず自分が溺れないように冷静に判断し、溺れる人に近づけば、その者と共に沈まないように警戒し、岸に戻る時も手を離さないように決して気を抜かない。
同じように、血を見ても感情に流されずに冷静に対処すれば、助けたい人を助けられる。
カイさんが気のせいと言っていたのも、あながち間違いじゃなかった。
この理解を手にして終えた飛行艇の旅は、結果としてとても楽しかった。
ハルサイスさんや他の乗務員さんたちとも仲良くなれたし、魔界のことを色々と教えてもらえるのも楽しかった。
それでも、ハルサイスさんにはナイジェル様から下された仕事があるとのことで、学園都市の入り口を入ってすぐのところでお別れした。
周囲の人々に僕たちを連れてきたのが本命の任務と悟らせて悪目立ちさせないように、配慮してくれたのかも知れない。
魔界にはいい人も沢山いると嬉しくなり、上機嫌で学園都市の受付作業全般の業務をこなすという事務所に向かった。
この学園で行いたいのは時空召喚士の資料があれば調べることと、魔法障壁のある運動場を借りて思い存分に魔法の訓練をすること。
前もってナイジェル様から頂いた紹介状を受付に持っていけばいいだけなので、これほど楽な事はない。このままトントン拍子で元の世界まで帰れそうだ。
その意味でも上機嫌で歩いていると、何だか視線を感じるようになってきた。
周囲には、まだ路上なのに思った以上の生徒らしき制服姿の若者たちかおり、興味津々に目を光らせて僕らを見ている。
学園と言うからには人間がいても襲われないかもしれないと思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
彼らは、僕が気付いた様子を見せると、素早くこちらに近づいてきた。
僕はソヨンさんを護るため、振り向いて彼女に向けて手を伸ばした。
「ソヨンさん、助け――」
ますと言おうとした時に、僕は女子九割男子一割の集団に取り囲まれた。
胴体にしがみつかれ首や腕にもぶら下がられ、ソヨンさんに向けた手も三人ぐらいに握られた。
「て、下さい」
僕は、沈みがちに頼んだ。
みんな残念そうな笑顔を見せ、地味な方の姿をしている陸君だけは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
その顔を見てようやく、陸君は僕がモテるのが嫌いなんだと気付いた。
しかしこれは受け身なので、改善しようがない。
「どうして、封印を解いたのにこうなんですか!」
たくさんに言い寄られている僕の叫びに、とりあえず人を押し退けて助けようとしてくれているウィリアムさんが答えてくれた。
「封印の力は、元々優秀だった素質の強化を行っていました。封印が解けた今、強化はされていませんが、普通のカリスマ能力は残ったのでしょう」
「普通って何? ああもう……」
物凄くカオスな状況に、姫の事を思い出した。あの通りに対応するしかないと決め、くっついている人たちに事務所の場所を聞いた。
彼女らは、とても愛想良く教えてくれた。
害ではないと諦めて彼女たちも引き連れて道を行くと、当たり前だがとても目立った。事務所の前に到着できた時には、取り巻きの数も増えていた。
陸君助けてと目配せしたが、彼は本気で無視してくれた。
他のみんなも生温かい視線をくれる。彼らと同じように、少し慣れてもらえたら落ち着くと思っているのかもしれない。
とうとう瞬間移動で逃げようと決めたのに、それを実行する前に怒号が響いた。
「貴様、どこの誰だか知らんが、魔法でこれだけの女子の心を操作するとは、言語道断な奴め!」
声のした方を向くと、女子たちの壁の向こうに強そうな体格の男子生徒たちがいた。
「魔王は許しても俺は許さん! 決闘しろ!」
男子生徒の中の一人が言い放ち、手に持っていたハンカチを僕に向けて投げた。
力強い一投ながら、ハンカチという軽いもののせいで惜しいところで失速し、誰か知らない女子の頭の上に落ちた。
女子がそれを拾い、バトンリレーで僕のところまで届け、無理やり僕の手の中に押し込んだ。
「待ってくれ! 受けるとは言ってない!」
「構いません、遠慮なくやっつけちゃって下さい! 死にませんから!」
「あいつ、いつも女子に絡んできてしつこいんです!」
「絶対、貴方様なら負けませんよ!」
「私たちを解放して下さいませ!」
何か分からないノリで、僕は事務所に行けずに違う方に押されていった。
半時間後。
僕は三重の魔法障壁の張られた訓練場で、問題の男子生徒と対峙した。
素早く事務所に行って色々と許可を貰ったり聞いてきてくれたみんなは、円形の石造りの舞台を取り巻く芝生の上から僕を見上げる。
ついでに僕の味方だという女子達は、芝生の向こうの石造りの観客席に大勢押しかけてきていて、男子生徒の殺気を増大させている。
全然止めてくれないみんなに目をやると、ウィリアムさんが言った。
「良いですか。相手は竜魔人なので、まともに攻撃を受けてはいけませんよ。死にます」
「だったら、どうして止めてくれないんですか」
「彼が言い出さなければ、我々の誰かがあそこに立っていたんです。とても有難く思っています」
「マジで有難いです!」
カイさんが力強く付け加えた。ああ、なるほど。
味方の犠牲を思うと、それよりは良い対戦相手となると思い直し、本気で決闘することにした。
武器は、ナイジェル様が今後の為にと贈ってくれた一振りの剣がある。彼は竜も相手にできるなんて笑っていたが、まさかその言葉通りになってしまうとは。
散々、時空召喚士は身体的に優れない方の種族と聞かされてきた。それが魔界一の頑丈さを誇る竜魔人と戦うとすれば、機動力と魔法で勝つしかない。
そして他にも複数いる竜魔人の生徒たちを従えている存在なのだから、学生といえども実質的に大魔王と同じほどの攻撃力はあるだろう。
そう思うと、より真剣になれた。
決闘の開始のベルが鳴る。それと同時に、似たような長剣を持つ僕らは攻撃を開始した。
素早く複数の補助魔法をかけ、ギリギリのところで初手を避けた。
カウンターで剣を突き出してみたものの簡単に払われ、そのカウンターでまた切りつけられ、瞬間移動で避けた。
しかし彼も瞬間移動で追いかけてきて、再び斬りつけてきた。
引き続いて攻撃を受け、防御のみに徹するしかなくなった。
すべての攻撃が、一撃でも当たればただでは済まない素早さとパワーがある。
しかも持久力も耐久力もあるようで、どれだけ動いても息の乱れがない。
最初に使用できた魔法以外は使える暇が無く、このままではこちらが体勢を崩した瞬間にやられてしまうと思った。
ナイジェル様が教えてくれた竜魔人との対峙の方法は、先に策を練って勝つというものだ。だが今は、そんな暇がなかった。
このままでは負ける。でも負けたくない。
なのにとうとう、疲れもあり剣を弾き飛ばされた。
その衝撃が手を痺れさせた瞬間に麒麟の姿に変身し、霊的な存在として男子生徒の物理的攻撃を素通りさせた。
それでも彼の剣にかけられた魔法の衝撃が身を襲い、悲鳴を上げそうになりながら舞台の隅まで逃げた。
彼は僕の変身に驚いたようだが、変わらない速さと力で再び攻撃を仕掛けてきた。
けれどその速さは、麒麟にとり遅いものだった。幾度の攻撃も避けきることができ、かつ男子生徒が使ってきた魔法も避けたり抵抗しきれた。
僕はそうして避けることに徹しながらも三つの攻撃魔法の準備を同時に行い、最終的に一つに練り込んだ。
そして発動寸前に麒麟の姿から人の姿に戻り、飛びかかってこようとした男子生徒に向けて放った。
魔法障壁がなければ周囲も吹き飛んだかもしれない爆発が発生し、僕も衝撃で倒れ込んだ。
すぐに、まさか殺しはしてないだろうと思いつつ起き上がり、爆風の消えゆく舞台上に目を凝らした。
煙が消え去ると、大怪我をして倒れている彼の姿が見えた。
驚いて飛びついていき、呻いている彼に全回復の力を使った。
周囲には、試合終了の鐘の音が響く。
男子生徒はまだ倒れたまま薄ら笑いを浮かべ、手を差し出してきた。
僕は握手に応じ、微笑み返した。
2・
セシリアは大魔王の城の中庭に佇み、未来ではバラ園になっている場所にある花壇の花々を眺めた。
ルビーにより、協力者となってくれるであろう時空召喚士と連絡が取れたということで、不自然はない場所での待ち合わせを行っている。
いつ来るか分からない者を待ちながら、ずっと心から消えないフラウに対する不安を思う。
セシリアは最初にフラウと出会ってから、彼女がどれだけこの城で嫌われているかを調べた。
一部の者、メイドや文官などはフラウを人間だとしても受け入れ、他と違いない様子で接している。
しかし兵士たちなどは人間への差別心が根強くあり、ルビーと同じく冷たい目を向ける。
いつか護ってもらえる者達に傷つけられるかもしれない。セシリアはそう思い、どうしても協力者に送り返してもらおうと決意を新たにした。
不意に優しい風が吹き、セシリアは一度両目をつむった。
「貴方は優しい人だ」
セシリアの知らぬ声が聞こえ、彼女は驚き目を開いた。
庭の小道から金髪碧眼の青年が現れ、セシリアに歩み寄った。
「自分が正妃になりたくてあの子を追い出すと言うが、それは彼女の身を案じての事だろう? そういう心は悟られやすい。セスに知られぬように、もう少し慎重に行動すべきだ」
セシリアは優しい笑顔の青年に見つめられ、震えて大粒の涙をこぼし始めた。
青年は驚き、自分がそれだけ悪い物言いをしたかと戸惑った。
セシリアは青年から差し出されたハンカチを受け取り、目に当てて俯いた。そして、心の中で多くの者に謝罪した。
自分はもう未来に帰らない。セスと結婚しなければ、フラウは救われない。
なのに、自分の運命は彼と共にあると信じてしまった。
セシリアはどうしたらいいか分からない現実を前に、ただ泣き続けた。
目的地の学園都市パレスまで、予定より少し遅れて到着した。
その旅の間に繰り返した訓練とあの火災事件のおかげで、麒麟の持つ性質の一つ、血の縛りについて理解を深めることができた。
例えるならば、海で溺れる人を助けに行く人が海に飛び込んだ時に、低い海水温だったりまとわりつく海水の重さだったりで不快に感じるのと同じ事。
助けたい誰かがいる場合、冷たい海に飛び込んでショックを受けるだろうけれど、それ以上の気力で泳いで助けに行くだろう。そのうち、冷たいことなど忘れるかもしれない。
つまり、解決方法は問題に対する集中力にある。泳いでいる間にまず自分が溺れないように冷静に判断し、溺れる人に近づけば、その者と共に沈まないように警戒し、岸に戻る時も手を離さないように決して気を抜かない。
同じように、血を見ても感情に流されずに冷静に対処すれば、助けたい人を助けられる。
カイさんが気のせいと言っていたのも、あながち間違いじゃなかった。
この理解を手にして終えた飛行艇の旅は、結果としてとても楽しかった。
ハルサイスさんや他の乗務員さんたちとも仲良くなれたし、魔界のことを色々と教えてもらえるのも楽しかった。
それでも、ハルサイスさんにはナイジェル様から下された仕事があるとのことで、学園都市の入り口を入ってすぐのところでお別れした。
周囲の人々に僕たちを連れてきたのが本命の任務と悟らせて悪目立ちさせないように、配慮してくれたのかも知れない。
魔界にはいい人も沢山いると嬉しくなり、上機嫌で学園都市の受付作業全般の業務をこなすという事務所に向かった。
この学園で行いたいのは時空召喚士の資料があれば調べることと、魔法障壁のある運動場を借りて思い存分に魔法の訓練をすること。
前もってナイジェル様から頂いた紹介状を受付に持っていけばいいだけなので、これほど楽な事はない。このままトントン拍子で元の世界まで帰れそうだ。
その意味でも上機嫌で歩いていると、何だか視線を感じるようになってきた。
周囲には、まだ路上なのに思った以上の生徒らしき制服姿の若者たちかおり、興味津々に目を光らせて僕らを見ている。
学園と言うからには人間がいても襲われないかもしれないと思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
彼らは、僕が気付いた様子を見せると、素早くこちらに近づいてきた。
僕はソヨンさんを護るため、振り向いて彼女に向けて手を伸ばした。
「ソヨンさん、助け――」
ますと言おうとした時に、僕は女子九割男子一割の集団に取り囲まれた。
胴体にしがみつかれ首や腕にもぶら下がられ、ソヨンさんに向けた手も三人ぐらいに握られた。
「て、下さい」
僕は、沈みがちに頼んだ。
みんな残念そうな笑顔を見せ、地味な方の姿をしている陸君だけは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
その顔を見てようやく、陸君は僕がモテるのが嫌いなんだと気付いた。
しかしこれは受け身なので、改善しようがない。
「どうして、封印を解いたのにこうなんですか!」
たくさんに言い寄られている僕の叫びに、とりあえず人を押し退けて助けようとしてくれているウィリアムさんが答えてくれた。
「封印の力は、元々優秀だった素質の強化を行っていました。封印が解けた今、強化はされていませんが、普通のカリスマ能力は残ったのでしょう」
「普通って何? ああもう……」
物凄くカオスな状況に、姫の事を思い出した。あの通りに対応するしかないと決め、くっついている人たちに事務所の場所を聞いた。
彼女らは、とても愛想良く教えてくれた。
害ではないと諦めて彼女たちも引き連れて道を行くと、当たり前だがとても目立った。事務所の前に到着できた時には、取り巻きの数も増えていた。
陸君助けてと目配せしたが、彼は本気で無視してくれた。
他のみんなも生温かい視線をくれる。彼らと同じように、少し慣れてもらえたら落ち着くと思っているのかもしれない。
とうとう瞬間移動で逃げようと決めたのに、それを実行する前に怒号が響いた。
「貴様、どこの誰だか知らんが、魔法でこれだけの女子の心を操作するとは、言語道断な奴め!」
声のした方を向くと、女子たちの壁の向こうに強そうな体格の男子生徒たちがいた。
「魔王は許しても俺は許さん! 決闘しろ!」
男子生徒の中の一人が言い放ち、手に持っていたハンカチを僕に向けて投げた。
力強い一投ながら、ハンカチという軽いもののせいで惜しいところで失速し、誰か知らない女子の頭の上に落ちた。
女子がそれを拾い、バトンリレーで僕のところまで届け、無理やり僕の手の中に押し込んだ。
「待ってくれ! 受けるとは言ってない!」
「構いません、遠慮なくやっつけちゃって下さい! 死にませんから!」
「あいつ、いつも女子に絡んできてしつこいんです!」
「絶対、貴方様なら負けませんよ!」
「私たちを解放して下さいませ!」
何か分からないノリで、僕は事務所に行けずに違う方に押されていった。
半時間後。
僕は三重の魔法障壁の張られた訓練場で、問題の男子生徒と対峙した。
素早く事務所に行って色々と許可を貰ったり聞いてきてくれたみんなは、円形の石造りの舞台を取り巻く芝生の上から僕を見上げる。
ついでに僕の味方だという女子達は、芝生の向こうの石造りの観客席に大勢押しかけてきていて、男子生徒の殺気を増大させている。
全然止めてくれないみんなに目をやると、ウィリアムさんが言った。
「良いですか。相手は竜魔人なので、まともに攻撃を受けてはいけませんよ。死にます」
「だったら、どうして止めてくれないんですか」
「彼が言い出さなければ、我々の誰かがあそこに立っていたんです。とても有難く思っています」
「マジで有難いです!」
カイさんが力強く付け加えた。ああ、なるほど。
味方の犠牲を思うと、それよりは良い対戦相手となると思い直し、本気で決闘することにした。
武器は、ナイジェル様が今後の為にと贈ってくれた一振りの剣がある。彼は竜も相手にできるなんて笑っていたが、まさかその言葉通りになってしまうとは。
散々、時空召喚士は身体的に優れない方の種族と聞かされてきた。それが魔界一の頑丈さを誇る竜魔人と戦うとすれば、機動力と魔法で勝つしかない。
そして他にも複数いる竜魔人の生徒たちを従えている存在なのだから、学生といえども実質的に大魔王と同じほどの攻撃力はあるだろう。
そう思うと、より真剣になれた。
決闘の開始のベルが鳴る。それと同時に、似たような長剣を持つ僕らは攻撃を開始した。
素早く複数の補助魔法をかけ、ギリギリのところで初手を避けた。
カウンターで剣を突き出してみたものの簡単に払われ、そのカウンターでまた切りつけられ、瞬間移動で避けた。
しかし彼も瞬間移動で追いかけてきて、再び斬りつけてきた。
引き続いて攻撃を受け、防御のみに徹するしかなくなった。
すべての攻撃が、一撃でも当たればただでは済まない素早さとパワーがある。
しかも持久力も耐久力もあるようで、どれだけ動いても息の乱れがない。
最初に使用できた魔法以外は使える暇が無く、このままではこちらが体勢を崩した瞬間にやられてしまうと思った。
ナイジェル様が教えてくれた竜魔人との対峙の方法は、先に策を練って勝つというものだ。だが今は、そんな暇がなかった。
このままでは負ける。でも負けたくない。
なのにとうとう、疲れもあり剣を弾き飛ばされた。
その衝撃が手を痺れさせた瞬間に麒麟の姿に変身し、霊的な存在として男子生徒の物理的攻撃を素通りさせた。
それでも彼の剣にかけられた魔法の衝撃が身を襲い、悲鳴を上げそうになりながら舞台の隅まで逃げた。
彼は僕の変身に驚いたようだが、変わらない速さと力で再び攻撃を仕掛けてきた。
けれどその速さは、麒麟にとり遅いものだった。幾度の攻撃も避けきることができ、かつ男子生徒が使ってきた魔法も避けたり抵抗しきれた。
僕はそうして避けることに徹しながらも三つの攻撃魔法の準備を同時に行い、最終的に一つに練り込んだ。
そして発動寸前に麒麟の姿から人の姿に戻り、飛びかかってこようとした男子生徒に向けて放った。
魔法障壁がなければ周囲も吹き飛んだかもしれない爆発が発生し、僕も衝撃で倒れ込んだ。
すぐに、まさか殺しはしてないだろうと思いつつ起き上がり、爆風の消えゆく舞台上に目を凝らした。
煙が消え去ると、大怪我をして倒れている彼の姿が見えた。
驚いて飛びついていき、呻いている彼に全回復の力を使った。
周囲には、試合終了の鐘の音が響く。
男子生徒はまだ倒れたまま薄ら笑いを浮かべ、手を差し出してきた。
僕は握手に応じ、微笑み返した。
2・
セシリアは大魔王の城の中庭に佇み、未来ではバラ園になっている場所にある花壇の花々を眺めた。
ルビーにより、協力者となってくれるであろう時空召喚士と連絡が取れたということで、不自然はない場所での待ち合わせを行っている。
いつ来るか分からない者を待ちながら、ずっと心から消えないフラウに対する不安を思う。
セシリアは最初にフラウと出会ってから、彼女がどれだけこの城で嫌われているかを調べた。
一部の者、メイドや文官などはフラウを人間だとしても受け入れ、他と違いない様子で接している。
しかし兵士たちなどは人間への差別心が根強くあり、ルビーと同じく冷たい目を向ける。
いつか護ってもらえる者達に傷つけられるかもしれない。セシリアはそう思い、どうしても協力者に送り返してもらおうと決意を新たにした。
不意に優しい風が吹き、セシリアは一度両目をつむった。
「貴方は優しい人だ」
セシリアの知らぬ声が聞こえ、彼女は驚き目を開いた。
庭の小道から金髪碧眼の青年が現れ、セシリアに歩み寄った。
「自分が正妃になりたくてあの子を追い出すと言うが、それは彼女の身を案じての事だろう? そういう心は悟られやすい。セスに知られぬように、もう少し慎重に行動すべきだ」
セシリアは優しい笑顔の青年に見つめられ、震えて大粒の涙をこぼし始めた。
青年は驚き、自分がそれだけ悪い物言いをしたかと戸惑った。
セシリアは青年から差し出されたハンカチを受け取り、目に当てて俯いた。そして、心の中で多くの者に謝罪した。
自分はもう未来に帰らない。セスと結婚しなければ、フラウは救われない。
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