水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ

文字の大きさ
26 / 29

26>> お父様とわたくし

-




 お父様の右目から湧き出る涙や血までも操ってわたくしの魔力はお父様の右目の中で暴れます。きっと眼球内や目玉の周りの神経や毛細血管を巻き込んでグチャグチャになっている事でしょう。失明すればいいと思ってやりました。
 わたくしにはもうお父様を父親と思って慕う気持ちなんてありませんもの。『お父様』という呼び方も、もうただの名称や記号と同じ意味でしかありません。この方はわたくしをただ支配して使うだけ。口先だけで愛情を口にして、その実一度も愛情をくれたことなどございませんわ。自分を『人』として扱ってくれない方に、わたくしも持つ『情』などありません。

 お父様には痛みに悶えることしかできません。魔法を使うには冷静さが必要だとされています。痛みに苦しむお父様にはもう自慢の風魔法は使えません。
 
「ぐっ…、止め……なさい…………っ!」

 右目を押えながらお父様はうめきます。
 あんなに怖くて抵抗心すら一度も湧くことのなかったお父様が、今は弱く、とても矮小わいしょうなものに思えます。

「お父様。
 お願いです。
 わたくしを、この家から勘当してください」

 を、わたくしはお父様に伝えました。
 腰を折り、頭を下げます。
 お父様が机の上にあった紙を握ったのかグシャリと紙が潰れた音がしました。

「な、何故だ……

 こんなちからが、あるのなら……、
 出ていくことはないではないか……!」

 お父様が声を荒らげます。
 本当にわたくしが、何故勘当されたがっているのか分からないのでしょう。

「何故と、聞かれる……
 それこそが答えだと思います……

 わたくしからすれば、何故“今まで虐げられていたわたくしが手に入れたちからで反抗しないと思うのか”が、理解できませんわ」

「し、虐げられていた、などと……
 今まで育ててもらっておいて! なんという言い草だ!!
 お前がそのような立ち振舞ができるのも、私がお前をちゃんと侯爵家の娘として育ててやったからだろう!」

「えぇ、“使える道具”として、しっかり教育されましたし、“家の付属物”としてどこに見せても恥ずかしくないように育てていただけました。
 お父様が周りから“欠陥品でも見捨てずに育てる心優しい父親”として褒められ一目置かれる為にわたくしが生かされた事は理解しています。

 ですがわたくしは魂のない人形ではありません。
 自分を否定し、わたくしの心を壊されてまでここに居たいとは思いません」

「何を言うかと思えば。
 貴族として生まれた娘が“家の所有物”なのは当然だろう?
 それが嫌なら貴族になど生まれなければいい。女になど生まれなければいい。
 貴族の娘として生まれた時点でお前の命は当主である父親わたしの物だ。
 それに反抗するなど許されない」

「許されなければ……どうなるのですか?」

「…………お前は物分りが良く、欠陥品でなければ自慢の娘になっていたよ。
 私はお前がただ、幸せな嫁入りをしてくれればそれでいいと思っていたのだ……それなのにその思いが何一つお前に伝わっていなかったのかと思うと悲しい……
 お前をこんなにも愛している父を……お前は裏切るというのか?」

 悲しみを顔に浮かべる父を、前世を思い出す前のわたくしが見たならばきっと心が揺れて、悲しい気持ちになっていたかもしれません。
 自分に愛を訴えるお父様に、『その愛に気づかなかった自分』を責めたかもしれません。
 何一つ、お父様との幸せな記憶などありませんが、弱者で劣等感しかなく愛に飢えていた以前のわたくしだったら、今のお父様の言葉を聞いて未来に期待をしたかもしれません。
 ……お父様から愛される未来を……

 でも今は。

「裏切る、ですか?
 その言葉は先に“信頼”や“期待”があってこそ成り立つものですよね?
 一体どこにそんなものがあったのですか?」

 首をかしげて問い返すわたくしに、お父様は憎しみの籠もった眼差しを返してきます。

「なんと薄情な娘だ!
 魔力を一つしか持たずに生まれた欠陥品の自分を棚に上げて、育ててもらった恩さえ感じていなかったとは!」

 お父様はわたくしを責めます。
 今のお父様にはそれしかできないからです。

 本当なら、怒りのままにわたくしを魔法で傷つけて、動けなくさせた後に人を呼んで地下牢にでも放り込みたいところでしょう。できるなら、わたくしをさっさと拘束してこの口を閉じさせたいでしょう。
 でも、できません。
 今のお父様には痛みに震えて、怒りに吠える事しかできないのです。

 フフ、立場が逆転するって、こういう事なんでしょうね。




-

あなたにおすすめの小説

醜い王女は己の役割を全うしたい。

ありま氷炎
ファンタジー
十歳の時に顔に火傷をおった王女マチルダ。 己の存在を証明するため、魔力を高め、 魔法剣士になった。 彼女の妹は、春の妖精のようで皆に愛されてる。 妹見るたびに、どす黒い感情が吹き出し、さらに己の醜さを自覚する。 騎士団で、魔獣狩りで名声をあげていた彼女だが、王命で地方鎮圧まで任されることになり……。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました

碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。 学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。 昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。

冤罪で国外追放される様なので反撃して生き地獄に落とします

富士山のぼり
ファンタジー
卒業パーティの日、聖女レティシアは婚約者である王太子から身に覚えのない罪で弾劾されて婚約破棄の上、国外追放の命令を下される。 怒りが頂点に来たレティシアは隠された自分の能力を使って反撃する事にした。 ※婚約破棄の前提を壊す身も蓋も無いお話です。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

虚無の器と呼ばれた私が、神々の力で奪われた運命を取り戻す

タマ マコト
ファンタジー
名門侯爵家の令嬢リュシエンヌは、“魔力ゼロ”と判定されたことで家族にも婚約者である王太子にも見放され、王都の夜会で公開の婚約破棄を突きつけられる。だがそれは単なる個人の冷酷さではなく、神殿と王家が結託し「異質な存在」を排除するために仕組んだ儀式だった。謹慎処分として隔離された旧離宮で、彼女は過去に同じように消された“測定不能者”の記録と、改竄された神託の痕跡に辿り着く。そこで初めて、自分が無能なのではなく“都合が悪い存在”だったと知る。絶望の底で彼女は、七柱の神と対峙し、力と引き換えに大きな代償を伴う契約を提示される。リュシエンヌは逃げることをやめ、「奪われた運命を取り戻す」と自ら選び、物語が動き出す。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。