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26>> お父様とわたくし
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お父様の右目から湧き出る涙や血までも操ってわたくしの魔力はお父様の右目の中で暴れます。きっと眼球内や目玉の周りの神経や毛細血管を巻き込んでグチャグチャになっている事でしょう。失明すればいいと思ってやりました。
わたくしにはもうお父様を父親と思って慕う気持ちなんてありませんもの。『お父様』という呼び方も、もうただの名称や記号と同じ意味でしかありません。この方はわたくしをただ支配して使うだけ。口先だけで愛情を口にして、その実一度も愛情をくれたことなどございませんわ。自分を『人』として扱ってくれない方に、わたくしも持つ『情』などありません。
お父様には痛みに悶えることしかできません。魔法を使うには冷静さが必要だとされています。痛みに苦しむお父様にはもう自慢の風魔法は使えません。
「ぐっ…、止め……なさい…………っ!」
右目を押えながらお父様は呻きます。
あんなに怖くて抵抗心すら一度も湧くことのなかったお父様が、今は弱く、とても矮小なものに思えます。
「お父様。
お願いです。
わたくしを、この家から勘当してください」
最後のお願いを、わたくしはお父様に伝えました。
腰を折り、頭を下げます。
お父様が机の上にあった紙を握ったのかグシャリと紙が潰れた音がしました。
「な、何故だ……
こんな力が、あるのなら……、
出ていくことはないではないか……!」
お父様が声を荒らげます。
本当にわたくしが、何故勘当されたがっているのか分からないのでしょう。
「何故と、聞かれる……
それこそが答えだと思います……
わたくしからすれば、何故“今まで虐げられていたわたくしが手に入れた力で反抗しないと思うのか”が、理解できませんわ」
「し、虐げられていた、などと……
今まで育ててもらっておいて! なんという言い草だ!!
お前がそのような立ち振舞ができるのも、私がお前をちゃんと侯爵家の娘として育ててやったからだろう!」
「えぇ、“使える道具”として、しっかり教育されましたし、“家の付属物”としてどこに見せても恥ずかしくないように育てていただけました。
お父様が周りから“欠陥品でも見捨てずに育てる心優しい父親”として褒められ一目置かれる為にわたくしが生かされた事は理解しています。
ですがわたくしは魂のない人形ではありません。
自分を否定し、わたくしの心を壊されてまでここに居たいとは思いません」
「何を言うかと思えば。
貴族として生まれた娘が“家の所有物”なのは当然だろう?
それが嫌なら貴族になど生まれなければいい。女になど生まれなければいい。
貴族の娘として生まれた時点でお前の命は当主である父親の物だ。
それに反抗するなど許されない」
「許されなければ……どうなるのですか?」
「…………お前は物分りが良く、欠陥品でなければ自慢の娘になっていたよ。
私はお前がただ、幸せな嫁入りをしてくれればそれでいいと思っていたのだ……それなのにその思いが何一つお前に伝わっていなかったのかと思うと悲しい……
お前をこんなにも愛している父を……お前は裏切るというのか?」
悲しみを顔に浮かべる父を、前世を思い出す前のわたくしが見たならばきっと心が揺れて、悲しい気持ちになっていたかもしれません。
自分に愛を訴えるお父様に、『その愛に気づかなかった自分』を責めたかもしれません。
何一つ、お父様との幸せな記憶などありませんが、弱者で劣等感しかなく愛に飢えていた以前のわたくしだったら、今のお父様の言葉を聞いて未来に期待をしたかもしれません。
……お父様から愛される未来を……
でも今は。
「裏切る、ですか?
その言葉は先に“信頼”や“期待”があってこそ成り立つものですよね?
一体どこにそんなものがあったのですか?」
首を傾げて問い返すわたくしに、お父様は憎しみの籠もった眼差しを返してきます。
「なんと薄情な娘だ!
魔力を一つしか持たずに生まれた欠陥品の自分を棚に上げて、育ててもらった恩さえ感じていなかったとは!」
お父様はわたくしを責めます。
今のお父様にはそれしかできないからです。
本当なら、怒りのままにわたくしを魔法で傷つけて、動けなくさせた後に人を呼んで地下牢にでも放り込みたいところでしょう。できるなら、わたくしをさっさと拘束してこの口を閉じさせたいでしょう。
でも、できません。
今のお父様には痛みに震えて、怒りに吠える事しかできないのです。
フフ、立場が逆転するって、こういう事なんでしょうね。
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お父様の右目から湧き出る涙や血までも操ってわたくしの魔力はお父様の右目の中で暴れます。きっと眼球内や目玉の周りの神経や毛細血管を巻き込んでグチャグチャになっている事でしょう。失明すればいいと思ってやりました。
わたくしにはもうお父様を父親と思って慕う気持ちなんてありませんもの。『お父様』という呼び方も、もうただの名称や記号と同じ意味でしかありません。この方はわたくしをただ支配して使うだけ。口先だけで愛情を口にして、その実一度も愛情をくれたことなどございませんわ。自分を『人』として扱ってくれない方に、わたくしも持つ『情』などありません。
お父様には痛みに悶えることしかできません。魔法を使うには冷静さが必要だとされています。痛みに苦しむお父様にはもう自慢の風魔法は使えません。
「ぐっ…、止め……なさい…………っ!」
右目を押えながらお父様は呻きます。
あんなに怖くて抵抗心すら一度も湧くことのなかったお父様が、今は弱く、とても矮小なものに思えます。
「お父様。
お願いです。
わたくしを、この家から勘当してください」
最後のお願いを、わたくしはお父様に伝えました。
腰を折り、頭を下げます。
お父様が机の上にあった紙を握ったのかグシャリと紙が潰れた音がしました。
「な、何故だ……
こんな力が、あるのなら……、
出ていくことはないではないか……!」
お父様が声を荒らげます。
本当にわたくしが、何故勘当されたがっているのか分からないのでしょう。
「何故と、聞かれる……
それこそが答えだと思います……
わたくしからすれば、何故“今まで虐げられていたわたくしが手に入れた力で反抗しないと思うのか”が、理解できませんわ」
「し、虐げられていた、などと……
今まで育ててもらっておいて! なんという言い草だ!!
お前がそのような立ち振舞ができるのも、私がお前をちゃんと侯爵家の娘として育ててやったからだろう!」
「えぇ、“使える道具”として、しっかり教育されましたし、“家の付属物”としてどこに見せても恥ずかしくないように育てていただけました。
お父様が周りから“欠陥品でも見捨てずに育てる心優しい父親”として褒められ一目置かれる為にわたくしが生かされた事は理解しています。
ですがわたくしは魂のない人形ではありません。
自分を否定し、わたくしの心を壊されてまでここに居たいとは思いません」
「何を言うかと思えば。
貴族として生まれた娘が“家の所有物”なのは当然だろう?
それが嫌なら貴族になど生まれなければいい。女になど生まれなければいい。
貴族の娘として生まれた時点でお前の命は当主である父親の物だ。
それに反抗するなど許されない」
「許されなければ……どうなるのですか?」
「…………お前は物分りが良く、欠陥品でなければ自慢の娘になっていたよ。
私はお前がただ、幸せな嫁入りをしてくれればそれでいいと思っていたのだ……それなのにその思いが何一つお前に伝わっていなかったのかと思うと悲しい……
お前をこんなにも愛している父を……お前は裏切るというのか?」
悲しみを顔に浮かべる父を、前世を思い出す前のわたくしが見たならばきっと心が揺れて、悲しい気持ちになっていたかもしれません。
自分に愛を訴えるお父様に、『その愛に気づかなかった自分』を責めたかもしれません。
何一つ、お父様との幸せな記憶などありませんが、弱者で劣等感しかなく愛に飢えていた以前のわたくしだったら、今のお父様の言葉を聞いて未来に期待をしたかもしれません。
……お父様から愛される未来を……
でも今は。
「裏切る、ですか?
その言葉は先に“信頼”や“期待”があってこそ成り立つものですよね?
一体どこにそんなものがあったのですか?」
首を傾げて問い返すわたくしに、お父様は憎しみの籠もった眼差しを返してきます。
「なんと薄情な娘だ!
魔力を一つしか持たずに生まれた欠陥品の自分を棚に上げて、育ててもらった恩さえ感じていなかったとは!」
お父様はわたくしを責めます。
今のお父様にはそれしかできないからです。
本当なら、怒りのままにわたくしを魔法で傷つけて、動けなくさせた後に人を呼んで地下牢にでも放り込みたいところでしょう。できるなら、わたくしをさっさと拘束してこの口を閉じさせたいでしょう。
でも、できません。
今のお父様には痛みに震えて、怒りに吠える事しかできないのです。
フフ、立場が逆転するって、こういう事なんでしょうね。
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