愛しておりますわ、“婚約者”様[完]

ラララキヲ

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2>> 婚約者の恋人

      
  
  
 
 
「その言葉、聞き飽きて逆にうぜぇんだよ」

 マリーナからの愛の言葉にリゼオンが返した言葉はそんな言葉だった。
 冷たい視線と共に紡がれたその言葉に、マリーナは困ったように眉尻を下げて笑った。

「ふふ、申し訳ありませんわ」

 そう言って紅茶を口に運ぶマリーナにリゼオンは忌々しげに鼻を鳴らす。
 リゼオンの時間を奪い、マリーナがリゼオンを側に置いて楽しむ・・・・・・・・・・・・・・・・・・為だけのこの“婚約者との交流”の時間がリゼオンには苦痛だった。愛を囁いているのはマリーナだけで、愛を囁いている事に酔いしれている・・・・・・・・・・・・・・マリーナの顔がリゼオンは嫌いだった。
 自分からは話題を何も提供せず、マリーナから何か聞かれれば適当に答える。リゼオンの視線は殆ど時計に向けられていたが、マリーナはその事を指摘する事はなく、リゼオンの横顔を微笑んで見ていた。

「……まだ何かあるのか?」

「いいえ。ございませんわ」

「なら今日はもう終わりだ。ここの支払いはいつもの様に俺がしておく。お前は帰れ」

「はい。いつもありがとうございます、リゼオン様」

「…………」

「それでは、また学園で。
 リゼオン様、愛しておりますわ」

 そう微笑んでマリーナは侍女を連れて個室を出ていく。その後ろ姿を見送る事なくリゼオンは目を閉じた。
 やっと苦痛な時間が終わった。
 これからやっと“俺”の時間だ……。



 個室を出たマリーナが店の出入り口に来た時、一人の令嬢が受付で店員とやりとりをしていた。

「待ち合わせなの。シーキアス侯爵令息様と」

 隠す気がさらさら感じられない音量で発せられた言葉がマリーナの耳まで届く。

「……その名前のお客様は居られませんね」

「あらごめんなさい! 違う名前だって言われてたのにっ! もう、わたくしったら! シス様のところに案内して」

 自分の間違いに気付いて恥ずかしそうに笑う令嬢は声を弾ませて別の名前を告げる。

「シス様のお連れ様ですね。どうぞこちらに」

 店員はにこやかに令嬢を個室へと誘導する。
 入る客と出る客が歩きやすいようにとそれぞれの動線の間に設置されていた衝立ついたてを挟んでマリーナが令嬢の横を通り過ぎる時、衝立ついたてで隠れる前に見えた令嬢の勝ち誇った目にマリーナ付きの侍女が気付いて内心青筋を立てたが、マリーナは伏せた目を上げることなく令嬢の存在を無視した。

「リゼ様ぁ~! 会いたかった~!」

 令嬢が個室に付いたのだろう。後ろから微かに聞こえてくる黄色い声を背にマリーナは店を出た。


「……あれ、わざとですよ」

 侍女が小声でマリーナに囁く。

「婚約者様には困ったものですわ」

 マリーナは左手を頬に当てて困った様に侍女に微笑みを返した。


 馬車置き場の側まで行くと直ぐに伯爵家の御者ぎょしゃが気付いてマリーナの元まで馬車を動かした。
 馬車置き場を見てもシーキアス侯爵家の馬車は無い。要はそういう事なのだ。

 いつもの事ながらマリーナはそれを確認して小さく溜め息を吐いた。
 
 
 
 
     
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