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イフィム伯爵の養子となったアリーチェは、そこで3ヶ月間何もせずにのんびりと過ごした。
それはアリーチェが初めて感じる『暇』という時間だった。
そして3ヶ月が過ぎるとアリーチェは隣国へと旅立った。
ムルダは一年くらいのんびりしたらいいじゃないかとアリーチェを引き止めたが、物心ついた頃からずっと何かをしていたから何かをしていないと落ち着かないとアリーチェが困ったように笑うので、それ以上の説得はできなかった。
アリーチェが苦労しないようにと、伝を頼って隣国での家庭教師の仕事を見つけてくれた義父となったムルダに、アリーチェは心の底から感謝した。
侯爵家の当主となるはずだったアリーチェの存在は大きく、幼少期からの勉強漬により身に付けた知識も豊富で多岐にわたり、家を出たのも彼女に問題があっての事ではないことから、職場となる家からは歓迎された。
初めての教え子は侯爵家に嫁入り予定の気弱な伯爵令嬢だった。アリーチェはその子とすぐに仲良くなれた。
そこから順調に家庭教師の仕事を熟していったアリーチェは、その国で出会った男性と恋に落ち、熱烈に口説かれて結婚した。
愛され、守られ、自分も心から信じて全てを委ねられる存在に……アリーチェはやっと出会うことができたのだった……
そして母親は。
自らの行いで誰も信じられなくなったサバサは、ただただ部屋に引きこもってみんなを恨んだ。
頑張ってきたサバサのことを誰も認めてくれない。サバサが悪いという目で見てくる。アリーチェは謝りにも来ない。ルナリアは母を慰めにも来てくれない。ロッチェンは時々来てくれるが、そんな彼もサバサを責めるような言葉を言ったりする。
サバサは何も悪いことしてないのに……っ!
みんな酷いわ……みんな酷いの……
世の中を恨んでサバサは泣いた。
そんな精神状態ではまともな生活はできずに、サバサはどんどんと弱っていった。
食が細くなり、まともに眠れなくなった……部屋から出ないから体力が衰え、人と接しない所為でどんどん自分の考えだけに沈んでいく……
もうそれが妄想なのか幻覚なのか現実なのかも、サバサには分かってはいなかった。
世界中の人がサバサの不貞を疑っている。サバサを不倫女だと後ろ指を指してくる。サバサが暴漢に襲われた傷物だと嘲笑う。娘を虐待した異常な母親だと罵ってくる。アリーチェが暴言を吐いてくる。ルナリアが嫌いだ汚いと逃げていく。ロッチェンがお前なんかと結婚するんじゃなかったと後悔している。兄がサバサを存在しない者として扱ってくる。両親がゴミを生んだと泣いている。ヤーナがこちらを馬鹿にして笑っている。
みんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわ
「……ひどいわ……」
ベッドに寝たきりになったサバサの口からはそうなってもまだ、一度も謝罪の言葉が出てくることはなかった。
しかしそれでも、ロッチェンはサバサに寄り添い、その枝のようになった手を握った。
「……すまない……」
「ひどいわ………」
「私が……理解してやらねばならなかったのだよな……」
「………、……」
「お前の罪も、私が背負おう……
そんなお前でも……私は好きだったよ……」
「……あ……な、た………………」
「私が……謝り続けるからな…………」
ロッチェンに手を握られながら、サバサは死んだ。
一度も謝罪することなく……
一度も反省することはなく……
何故こうなってしまったのかも分からずに……
サバサは死んだ。
それが彼女という人物だったのだ…………──
「そう……
あの方やっぱり逃げたんですね……
罪と向き合う勇気もない、可哀想な人……」
サバサの死を隣国で聞いたアリーチェは、感情の抜け落ちたような表情でそう言った。
今更、あの人のことを聞いたところで、アリーチェには関係がない。
ただ、自分は子供たちと、何があってもちゃんと一人ひとりに向き合って、ちゃんとその体を抱きしめて愛していこうと改めて思った。
子供に差などつけない。
全員が愛する子……
そんなアリーチェを夫が優しく抱きしめた。温かい体温にアリーチェは安堵する。
そして夫は優しくアリーチェに言った。
「きっともっと歳をとったら、今の気持ちにも整理がつくよ。
そしたら……お義母さんの墓参りに行こう……」
その言葉に、
初めてアリーチェは母の事で泣いた。
大嫌いな、大嫌いな人……
幼心にただ純粋にその手を求めて、その温もりを求めて……その愛を求めた人…………
──さようなら……──
アリーチェの中で、やっと何かが消えて無くなった気がした…………
──……それから十年以上も経った頃……
自分たちの子供に囲まれながら、
姉妹は戸惑いながらも柔らかく笑いあった…………
[完]
───────
※サバサの思い描いていた未来は、
自分が寿命を全うする時、ベッドの側には年をとっても美しいルナリアが居て、サバサに向かって「お母様のお陰で素晴らしい人生になりましたわ。お母様は誰よりも素晴らしい人でした」って悲しみの涙を浮かべながら微笑んでいて、その後ろには薄汚れた仕事しか生き甲斐のない死人みたいなアリーチェが居て、サバサに向かって「ごめんなさい、お母様。駄目な娘でごめんなさい」って謝っていて、自分のベッドの周りにはルナリアが生んだ美しい子供たちが自分の死を悲しみながら見送ってくれていて、そんな中で自分は安らかに天国に行くことでした。
それがサバサの夢見た『姉に完全勝利した妹の姿』でした。
※もしかして伝わってない?と思ったので書きますが、『グリドを選んだのはサバサで、サバサは最初からグリドをルナリアとくっつける予定でアリーチェと婚約させました。だからルナリアには婚約者がいなかったし、アリーチェとの相性も合ったもんじゃありませんでした』。ルナリアに婚約者が居なかった事、サバサが姉の婚約者に失恋している事、グリド回でのやりとり、で、伝わると思ったんですが……😅伝わりづらかったら申し訳ないです。
※最後まで読んでいただいて、
本当にありがとうございました!!!
イフィム伯爵の養子となったアリーチェは、そこで3ヶ月間何もせずにのんびりと過ごした。
それはアリーチェが初めて感じる『暇』という時間だった。
そして3ヶ月が過ぎるとアリーチェは隣国へと旅立った。
ムルダは一年くらいのんびりしたらいいじゃないかとアリーチェを引き止めたが、物心ついた頃からずっと何かをしていたから何かをしていないと落ち着かないとアリーチェが困ったように笑うので、それ以上の説得はできなかった。
アリーチェが苦労しないようにと、伝を頼って隣国での家庭教師の仕事を見つけてくれた義父となったムルダに、アリーチェは心の底から感謝した。
侯爵家の当主となるはずだったアリーチェの存在は大きく、幼少期からの勉強漬により身に付けた知識も豊富で多岐にわたり、家を出たのも彼女に問題があっての事ではないことから、職場となる家からは歓迎された。
初めての教え子は侯爵家に嫁入り予定の気弱な伯爵令嬢だった。アリーチェはその子とすぐに仲良くなれた。
そこから順調に家庭教師の仕事を熟していったアリーチェは、その国で出会った男性と恋に落ち、熱烈に口説かれて結婚した。
愛され、守られ、自分も心から信じて全てを委ねられる存在に……アリーチェはやっと出会うことができたのだった……
そして母親は。
自らの行いで誰も信じられなくなったサバサは、ただただ部屋に引きこもってみんなを恨んだ。
頑張ってきたサバサのことを誰も認めてくれない。サバサが悪いという目で見てくる。アリーチェは謝りにも来ない。ルナリアは母を慰めにも来てくれない。ロッチェンは時々来てくれるが、そんな彼もサバサを責めるような言葉を言ったりする。
サバサは何も悪いことしてないのに……っ!
みんな酷いわ……みんな酷いの……
世の中を恨んでサバサは泣いた。
そんな精神状態ではまともな生活はできずに、サバサはどんどんと弱っていった。
食が細くなり、まともに眠れなくなった……部屋から出ないから体力が衰え、人と接しない所為でどんどん自分の考えだけに沈んでいく……
もうそれが妄想なのか幻覚なのか現実なのかも、サバサには分かってはいなかった。
世界中の人がサバサの不貞を疑っている。サバサを不倫女だと後ろ指を指してくる。サバサが暴漢に襲われた傷物だと嘲笑う。娘を虐待した異常な母親だと罵ってくる。アリーチェが暴言を吐いてくる。ルナリアが嫌いだ汚いと逃げていく。ロッチェンがお前なんかと結婚するんじゃなかったと後悔している。兄がサバサを存在しない者として扱ってくる。両親がゴミを生んだと泣いている。ヤーナがこちらを馬鹿にして笑っている。
みんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわみんなひどいわ
「……ひどいわ……」
ベッドに寝たきりになったサバサの口からはそうなってもまだ、一度も謝罪の言葉が出てくることはなかった。
しかしそれでも、ロッチェンはサバサに寄り添い、その枝のようになった手を握った。
「……すまない……」
「ひどいわ………」
「私が……理解してやらねばならなかったのだよな……」
「………、……」
「お前の罪も、私が背負おう……
そんなお前でも……私は好きだったよ……」
「……あ……な、た………………」
「私が……謝り続けるからな…………」
ロッチェンに手を握られながら、サバサは死んだ。
一度も謝罪することなく……
一度も反省することはなく……
何故こうなってしまったのかも分からずに……
サバサは死んだ。
それが彼女という人物だったのだ…………──
「そう……
あの方やっぱり逃げたんですね……
罪と向き合う勇気もない、可哀想な人……」
サバサの死を隣国で聞いたアリーチェは、感情の抜け落ちたような表情でそう言った。
今更、あの人のことを聞いたところで、アリーチェには関係がない。
ただ、自分は子供たちと、何があってもちゃんと一人ひとりに向き合って、ちゃんとその体を抱きしめて愛していこうと改めて思った。
子供に差などつけない。
全員が愛する子……
そんなアリーチェを夫が優しく抱きしめた。温かい体温にアリーチェは安堵する。
そして夫は優しくアリーチェに言った。
「きっともっと歳をとったら、今の気持ちにも整理がつくよ。
そしたら……お義母さんの墓参りに行こう……」
その言葉に、
初めてアリーチェは母の事で泣いた。
大嫌いな、大嫌いな人……
幼心にただ純粋にその手を求めて、その温もりを求めて……その愛を求めた人…………
──さようなら……──
アリーチェの中で、やっと何かが消えて無くなった気がした…………
──……それから十年以上も経った頃……
自分たちの子供に囲まれながら、
姉妹は戸惑いながらも柔らかく笑いあった…………
[完]
───────
※サバサの思い描いていた未来は、
自分が寿命を全うする時、ベッドの側には年をとっても美しいルナリアが居て、サバサに向かって「お母様のお陰で素晴らしい人生になりましたわ。お母様は誰よりも素晴らしい人でした」って悲しみの涙を浮かべながら微笑んでいて、その後ろには薄汚れた仕事しか生き甲斐のない死人みたいなアリーチェが居て、サバサに向かって「ごめんなさい、お母様。駄目な娘でごめんなさい」って謝っていて、自分のベッドの周りにはルナリアが生んだ美しい子供たちが自分の死を悲しみながら見送ってくれていて、そんな中で自分は安らかに天国に行くことでした。
それがサバサの夢見た『姉に完全勝利した妹の姿』でした。
※もしかして伝わってない?と思ったので書きますが、『グリドを選んだのはサバサで、サバサは最初からグリドをルナリアとくっつける予定でアリーチェと婚約させました。だからルナリアには婚約者がいなかったし、アリーチェとの相性も合ったもんじゃありませんでした』。ルナリアに婚約者が居なかった事、サバサが姉の婚約者に失恋している事、グリド回でのやりとり、で、伝わると思ったんですが……😅伝わりづらかったら申し訳ないです。
※最後まで読んでいただいて、
本当にありがとうございました!!!
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読んで頂きありがとうございます^^
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読んで頂きありがとうございます^^
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