青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

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天使と悪魔と精霊とがごちゃまぜになる偶然

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 「そうなんだ。じゃあ、しょうがないなぁ。その世界なら、うちの国で でかい顔しているドラゴンの親子を引き取ってもらえるかなって思ったんだけどな。今なら銀の鈴があるから、あんたに頼めば一発でできるっしょ?」

 「はは、そうですね。できるかもしれません…。」

 「そっかそっか。まあ、あんたのお母さんの様子を見にいったときにちらっと見ればいいことだしね。」

 そう言って私も馬車に入った。思わずだけど母親のことを口にしてしまって、お母さん思いのミラクがどんな顔をしているか見たいとは思えなかった。ミラクもずいぶんと気を遣うから、普通の顔をしようとするだろうけど、そんな顔は上っ面だけを取り繕っているようにしか見えない。誰もいなくなれば、そんな取り繕いしなくてもいいでしょうに。疲れることはしないが一番。

 「お嬢ちゃん、お前さんはほんと、土足でズカズカと踏み込むねぇ…。」

 「何も言わないの!それよりほら!馬、元気になった?見てきてよ。」

 馬車の中にいたジョジさんを外に追い出すと、私はシートに寄りかかって頭を抱えた。こっちはこっちで、取り繕おうにもどうにもできないなんかよくわからない問題がどっかんと生まれてる。

 うちの家は、アイオリアで代々続いてきた商家のグランスマイル家だ。お父様にしてもお母様にしても、どちらも人間で何か特別な力とかはない。アイオリアは四方を深い山々に囲まれていて、外国の人が来ることも、海外へ行く人も、長いこと絶えて久しいとヨホ・マノジは言っていた。

 グランスマイル家は百年を超える家系を持っている。他にもグランパラネル家やグランサイレス家などが隆興し、その始祖をたどると、グラン家という氏族にたどり着くそうだ。グラン家はその昔、アイオリアをつくった王のもとで、ともに戦い、ともに国家を築き、ともに発展してきたと聞いた。

 グラン家が仕えた王の名は、今に伝わっていないという。それでも金髪碧眼の美しい一族で、茶髪や赤毛の混じるグラン家の者にとっては憧れだったと伝わっている。…全部、ヨホ・マノジの受け売りだけど…。

 「はぁ…ここへ来て私も人間じゃあないかも疑惑?というか私達の住んでたところが『たそがれの世界』だってこと?そうしたら何?従兄のジケイもそうなの?!あのトラブルメーカーがもしそうなら、なんとなくそうかもしれないって思っちゃってる私がいる。だけどねぇ、私やマニちゃんがそんな、魔物だとか言わないよね。お母様だってそんなはずないし。あー、やっぱないない。全部ない。…っていうか、ミラクは何で隠し事なしに話そうとしないのよ。そもそも嘘つくのが下手すぎるんだから、つかなきゃいいのに最初っから。幼く見えてもそう言うところは男だわ。まったく。…けどどうしよう、この気分…。」

 めっちゃ落ちた気分。かといって外でミラクとかベントスとかと顔を合わせたい気分でもない。ジョジさんに至ってはもちろん論外。

 なんかものすごく面倒な話になってきたわ。

 「そろそろ、出るそうです。」

 ミラクがそう言いながら馬車に乗り込んできた。ものすごく難しい顔をしている。まあ、あんたの気持ちになればそうかもしれない。全部をポロポロと悪気もなく話したベントスは、ミラクの肩にとまっている。嘘がつけなきゃつけないで面倒くさい。

 「肩ノリ猫っていいわね。なんか憧れるぅ。」

 皮肉を交えてそう言ったら、ベントスがひょいっと飛び移ってきた。自分があけすけで素直だと他人の皮肉なんかは通じないってことね。

 「ああ、かわいいぃ!これこれこれこれ!やっぱかわいいは一番だよね!」

 面倒なので私もいろんな気持ちを棚上げにして、今思ったままの行動に出ることにした。するとミラクが、ようやく難しい顔がとけて少しだけクスッと笑った。

 「キャー!ミラクくん、もう一回笑って!その顔、その顔、チョーかわいいぃぃぃ!!」

 思わずぎゅっと抱きしめてしまった。なんか子供って体温高くてやっこいよね。

 私は私でまた問題を先送りしていく。そもそも、それを問題だと思うから対処しなきゃいけない。だったらいっそ問題なんてないって言い張っちゃえば、案外それでもうまくいくんじゃないのかなぁ。なんてことさえも思いはじめている。

 たぶんそんなことを言ったら、ヨホ・マジノがまた鞭で手の甲をビシッと叩くんだろうな。それを見てジケイが大笑いして、お母さんもお父さんもその話で盛り上がってくれて…。たぶんだけど、そうなんだろうなぁ。

 ミラクをぎゅっと抱きしめながら、肩にとまっているベントスにほおずりをする。それだけでなんだか色々なことがたいした問題じゃないって思えてくる。こういうのがあるから、何があったって頑張れるんだ。なかったらすっかり何もかも台無しじゃない。

 「レイミリアさん、ちょっとだけ苦しくて、顔が骨にあたって痛いです。なんの骨ですかこれ?」

 ぎゅっと抱きしめていたミラクがそう言って私の胸のあたりを触ってきた。…骨って、何よ。

 「骨…。」

 ムカッときた私は、更に力をこめて思いっきりミラクを抱きしめる。ほっぺがとってもモチモチしてて、何日もたつのに髪がすっごくいい匂い。何かの花の香りに似ているな…。

 「そろそろ出すぞ~。何かにつかまってろよ~!」

 ジョジさんの間延びした声が聞こえて、そうして再び馬車が走り出した。

 後になって思えば、この時ここで馬車を降りて私が銀鈴を使っていたら、この後のことを見ない知らないで済んだんだろうな。そうすればまた、何も思わないで、毎日が楽しく暮らせていたかもしれない。このときここで降りなかったのは、見目麗しいミラクとベントスをもっと見ていたいと思ったからだ。見た目に騙されて馬鹿を見る。女子ならわりとよくあること。たぶんだけど、誰だって一回ぐらいはそんな目にあっていると思う。
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