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本編
閑話 王族対抗歌合戦 8 闊歩する夫婦はメインストリートで
『メインストリート』
の文字が、夜空、星が瞬く中、ふんわりと消えていく。
うっすら明るくなりつつある空は、まだ星が見えるほどには暗いが、もう、パシフィストの山際、王宮の影、藍が一線、生まれたてのお日様の兆し、クリームイエローみを帯びてきている。
ちかり、ちかり、星に月。
人生の始まりと終わりを思わせるような混沌、曲、歌声がもったり、絡みつかれたもやをかき混ぜ響き出す。
ポール•ゴーギャンの3つの問いをテーマに、「誕生」「現世の営み」「老いと死」を描いた絵画を思わせる歌詞は、哲学的で深く、心に刺さる。
ハルサ王の、ちょっとだけ外れた歌声が、♪~。
そこに被さるように、マルグリット王妃の、大人の女性の、低くはないが高すぎもしない響き。とても上手い。元々のこの歌、個性的な歌手たちには負けるけれど、特徴のある聞きやすい声が乗る。
男女の息の合った。
パン!
と街中、商店街、メインストリートが一点焦点を真ん中に映る。曲調がショーの始まり、賑やかに変わる。
伊達男なハルサ王、装飾のちょうど、多くも少なくもない、男性的でありながら流麗な白スーツに短い腰までのマント翻し、ハットまで小粋で。
立ち姿。
お洒落なマルグリット王妃、この国で良くあるウエストマークしたドレスではなく、ストレートで活動的なワンピース。けれどガウン風のはためく上着やその布デザインで、泳ぐ布の中、きちんと上品に女性らしくシルエットがやんわり伝わり、また華やかな。
立ち姿。
~♪
歌いながら、闊歩する。
カメラに向かって、道が真っ直ぐ伸びている。どんどんと、手前に、カメラも滑るように引いていき、同時にハルサ王、マルグリット王妃が歩いてくる。
商店街は明けの様相、2人には自然なライトが当たって、たん、たん、たん、とメインストリートをどんどん歩く。
弾んで、歌にのって、たん、たん、たん。
商店街のみんなは様々客引き、道の両脇から、ハイホゥ!と声ならぬ威勢で賑やかに囃す。魔道具ランプの灯りが、輝きを失いながらも、きらきら。
りんごの樽、食べ物屋台、野菜の八百屋、小間物屋。
顔の真ん中と耳が黒い白猫が横切り、尻尾がくねる。
犬が前足を交差させ、伏せてくわあと欠伸する。
まだねむねむな子供が、空樽に乗って足をぶらぶら、目を擦る。
そこを、猫を避けたりしながら、ニコニコと2人、ハルサ王とマルグリット王妃は真っ直ぐ画面に向かって歩いていく。
~♪~~~♪
歌は続く。
メインストリートに出ていこう。
生まれてから死ぬまでの間、パンと胸張って、メインストリートを歩いていこう。
道を真っ直ぐ、こちらに向かって歩くだけのMVなのに、それはリズム、生きているリズム。弾んでわくわくと、踊る心地で。
ショータイムは佳境!
~♪
曲調がまた、しっとりと変わる。
人生のやるせない時も、あるよね、だけど、それもまた。
正しく持って、メインストリートへ。
2人の斜めアップと大きな空、色が明けてゆく。顔に朝日の光、星が一つ流れて、輝きが空気に広がってゆく。
美しく瞳に光、パーッとアップから引いてメインストリートの全景、商店街の人たちもわーっと盛り上がって真ん中に王と王妃。腕を開いて、バン!さあどうだ、メインストリートへ!!!
MVが終わって、ブラックアウトした画面に、パッ、パッ、と出演した商店街のエキストラ(猫ちゃんと犬っこの名前もちゃんと載っている)撮影したスタッフ名が文字、ズラズラリ。
最後にハルサ王とマルグリット王妃の名前が真ん中に。
そして、ラインアートのパシフィストの国旗がサラッとデザインされて真ん中に。
ふわっと消えてゆく。
カメラは王宮内のスタジオに切り替わって、アップでお人形が映る。
それは、おこたの背景、棚セットに鎮座する、幼児の樹脂人形で、裸っぺでお腹がぷっくりしている。おむつならぬ、ガーゼ布、白かぼちゃパンツのおちり。
お口はアヒル口、ムニュんとしたのが可愛くて、ちまっとした微笑み顔が、こちらに愛嬌を振りまいている。
何の意図か分からない、幼い人形の立ち姿アップから、その後ろ、ぼんやり見えていたパシフィスト王族勢にカメラがパッと切り替わって。
「おぉおお~!メインストリート!ハルサ王様とマルグリット王妃様、それから商店街のみんなでした~!」
パチパチパチ!
竜樹とパージュさんも拍手で盛り上げるが、パシフィスト王家勢も、皆で、うわぁ!と賑やかに2人を褒めている。
「ハルサ、なかなか様になっているじゃないか!」
オール先王様が、にこにこ。
「本当ねえ、歌はちょっと個性的なところもあったけど、ものすごく格好良くできてましたわ!夫婦で素敵ね!」
スフェール王太后様。
わあわあ、ヤーと賛辞、賛辞。
3王子も、お父様、お母様、すご~い!とキャッキャイお手てをパチパチする。オランネージュのお膝には、茶白ハチワレの猫ちゃんが、若干迷惑そうにホールドされ、お尻尾をくねくねしている。
収音ブースから竜樹。
「ハルサ王様、こちら、資料がございまして。パシフィストの商店街のメインストリートで、ずーっとほぼワンカット、長回しで撮られたんですね。大変でしたでしょう。」
「そうなのだよ、一発勝負と言われてね、大変に緊張したのだけど、どんなに失敗しても、誤魔化して下さいね!使いますからね!って言われていてねえ。もう、こうなれば度胸だな、と楽しんでやる事にしたんだ。」
ハルサ王が、照れ照れ、ほっぺを片方さすって、ニヘヘと笑う。
「そうなのですよ~!私も、ハルサ様に、楽しんじゃおう!って言われて、ハプニングも全部、何だかウキウキして撮影しましたの。夜明けから朝焼けへ至る、本当に僅かの空の色変化を撮りたくて、お天気局の助けも借りて計算して、始まる時間終わる時間がきっちり決まっていたのよ。」
マルグリット王妃様が、うふ、と顔見合わせ、夫の腕に手をかける。
「ハプニングといえば、眠たい子供がりんごを落としてなあ。猫も斜めに横切ったし。マルゴーは上手く猫を避けたねえ。」
「ハルサ様こそ、歩きながら、りんごを拾って投げてあげたじゃないですか。あの子、上手く受け取れて良かったわ。あとでお母さんに、恐れ多い、でも良かった、なんて、ハラハラにメッされて撫でられていたわねえ。お母さんも驚いたわね、可愛い可哀想に、でも笑っちゃうの。」
子供の撮影については、テレビ局でこの時間帯には撮影できない、と基本的な決まり事があるが。
今回は、エキストラの商店街のお母さんとお父さんが、いつもこの時間、子供だけを留守番、家に置いておけなくて、連れてきているから。
と事情があってのこと。
まだテレビ事業、始めたてでおおらかなパシフィストテレビでは問題視されず、子供にはお昼寝をさせてね、として、彼にも出演料を幾ばくか払っている。
「なるほどなるほど、もう一度その場面、お、おお~確かに、りんご拾った!あんなに眠そうなのに、おとととと、りんご、受け取れました!猫も堂々と歩いてますね、アハハハ!」
画面が分割され、おこたでぬくぬくハルサ王のニコニコアップの横で、その場面が映し出されて、皆が、あーあー、うんうん、している。
猫ちゃん!と叫んだのはオランネージュ王子。あの猫ちゃんもかわいいねぇ~、と、うふうふだ。
ニリヤ王子は、りんごを落としたところで、ピャ、と肩が跳ねた。受け取って、うんうんうん。感情表現豊かである。
ネクター王子は、3王子の真ん中で、おこた布団を胸にもぐもぐしながら。横のニリヤのピャを見て、ニハハと笑った。
「この歌を選んだ理由は、格好良かったから。そして?」
パージュさんが促す。
「そう、そして、この国、パシフィストがメインストリートにパンと出て行く気持ちで、堂々と闊歩しながら、わくわくと賑やかに歩んでゆけるように。周りの人々に愛されて。そんな思いを込めて、こんなMVにしてみたのであるよ。」
「素敵なMVにしていただけて、とっても嬉しいですわ!」
夫婦の息もぴったり、コメントほっこり。
「素晴らしいMVをありがとうございました!ハルサ王様とマルグリット王妃様に、もう一度拍手を~!」
パチパチパチパチ!
さて、先ほどカメラ切り替えの時に映った樹脂の幼児人形であるが。
今は、スフェール王太后様のおこた板の前に、ちょん、と乗っている。
指先でなでなでしている彼女について、そして人形について、特にテレビで何も説明はしないが、この人形には意味がある。
マヨネーズのマークにもなっているお人形のことを、竜樹がスフェール王太后様にちょこっと、耳にこそこそ。
背中には鳥の羽みたいな、ぷくっとした盛り上がり。アヒル口。髪の毛はちょんとチョロロ、少しだけ色づき、本当に幼児。鳥の子か、天の御使いが幼児になった感じで。
スフェール王太后様の赤ちゃん。
バラン王兄の20日だけ先に生まれ、そして夭逝した兄、アシル王子。
「着せ替えの少女の樹脂人形を作ってらっしゃるでしょ。スフェール王太后様。少女人形も良いけれど、天使みたいな、そう、天に属する子供の樹脂人形を作って、マスコットにしても良いんじゃないですかね。名前は、アーちゃんで!」
アーちゃん。
アシルの、アーちゃん。
そして、ニリヤの亡くなった母様、リュビ妃のお腹の中で、一緒に逝ってしまった赤ちゃん。
アンジュちゃんの、アーちゃん。
王族が、3世代集まるのだもの。
そこに、彼らも、加えてあげたら、ちょっとだけ、嬉しいでしょう?
別に誰に説明しなくても、いいんです。可愛いな、なんだろ、あの人形。って思ってもらえたら。
竜樹の、そっと言い出したそんな提案に、スフェール王太后様は、すん、とした顔で、目をパチパチしたものだ。
「あー。ごめんなさい。デリケートなお話ですよね。傷つけてしまったら、ごめんなさい。忘れて下さい!」
焦る竜樹に、王太后様は。
お口をニンと微笑ませて、だけど、しみじみ、うるり、目を潤ませて。
「ありがとう。………ありがとう。あの子も、仲間に入れてくれるのね。そうね、そうね。アーちゃん人形、どんな子にしましょうかしら!」
忘れた事は、なかったの。
忘れた事は、なかった………。
どんなに幸せになろうとも。
母は、亡くした子供を、忘れる事はないのだ。
それからスフェール王太后様は、本気の本腰、アーちゃん人形を殊の外可愛く、そして、着せ替え人形としての遊び方ではなくても、ちょっとした、ちみっちゃい服などを、作って着せる遊びを出来るようにした。
同じく、子供を亡くしたお母さんが、愛しくそっと、可愛がれるように。
そうして、そういった悲しい出来事とは、関係のない、元気で溌剌とした若い子たちに。キャワイイな!って、お家に迎えてもらって、幸せを齎すアーちゃん人形として、静かに愛でてもらえるように。
カメラ切り替えの場で、なかなかの間をとって映されたアーちゃん人形は、カボチャパンツの布を、アシル王子が使った思い出の産着から作られている。
そんな事は微塵も感じさせない、盛り上がり、わーとパシフィスト王家。
「さて、次は、オランネージュ王子、ネクター王子、ニリヤ王子のMVなんだよね。歌は3王子が歌って入れているけど、映像にはオール先王様たちや、バラン王兄にマルサ王弟も、揃って出演しているとか!」
「楽しみですね!王子様方、MVについて、ほんのちょっと、教えて下さい!」
ムフ?
と3王子、はーいと元気よくお返事である。
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