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本編
生きているというよろこび
しおりを挟む「次は音楽対決ですね。」
「なんか勝負の行方はなんとなく想像つきますが。」
どれだけバラン王兄殿下の音楽に負けず、それぞれの魅力を引き出せるか、が見どころですね。
解説の竜樹とミランの説明に、最初は王子達が、歌うための準備をはじめている。
会場の真ん中で、3人が並んで。チリが作った魔石を使った、採音と拡声のマイクをセットする侍従さん達。
そそそとはけて、準備が整いました。
「ぼくたちは」
「アンパンのヒーローの歌を」
「歌います!」
アンパン?
この世界にアンパンは無いのである。が。
ささ~っと、駅弁売りの立ち売り箱を持った売り子さんが、荒い、ざら紙袋に入ったアンパンを売り出した。
「アンパンが何か分からないひとのために」
「会場で、試しに安く売っているので」
「たべてみてください!あまくて、おいしい、おまめのぱんだよ。」
アンパン、竜樹の発案で、料理長主導で完成した。
小豆に似た豆は、小さくてあまり好まれず、ちょっとクセがあるとして、庶民のお豆と呼ばれ、スープなどに使われるくらいだった。
スマホで、渋切りをした、あんこの作り方を検索して、料理長と作り。お鍋についたあんこを王子達が匙でこそいで食べている、あるあるイベントの横で、あんこに合うパンとは!と試行錯誤したのである。
結果、食べ慣れている全粒粉の、しかし柔らかめの、ひらぺったくて丸い、粒あん入りパンが完成した。
粒あんがいいかこしあんがいいかで、試作を沢山作ったのだが、手間がかかるこしあんの前に、粒あんで一旦普及させよう、となった。
「アンパン食べながら聞いてください。」
♪チャラ チャラ チャラリラリラ
ピッポコピッポ ピラピラピー♪
ネクターは、ラプタで前奏から吹く。
ニリヤとオランネージュは、ふん ふん と頭を揺らし、手を前後に振って、歌い出す。
深い歌詞を、まだ子供の王子達が歌う。まだ子供だからこそ、沁みる歌詞を歌う。
歌い終わると、会場が一斉に拍手をした。鳴り止まない拍手に、礼をした王子達が、ふりふりと手を振る。
「俺、昔は、この歌、嫌いだったんです。」
「え!?では何故、王子達に!?アンパンのヒーローの番組も見せてたじゃないですか?」
ミランが驚いて竜樹に問う。
「それがね。俺、養子で育ったんだけど、その前に、ちょうどアンパンの番組を観ていた年齢の頃ですね。両親から要らないって言われて、そういう親のいない子ばっかりがいる施設にいたんですよね。」
「はい、はい。」
会場は、次のセッティングでゴタゴタしている。ミランは、竜樹の話を、ゆっくり聞く。
「そこでは、最低限生きていくのがやっとの子供達ばっかりだった。毎日、ご飯が食べられる、それだけで、生きているかいがある。そんな中で、生きるのは何のためか、なんて、重すぎるでしょ。生きるだけで精一杯だよ、そこに意味なんかない。普通に生きる、それすらできなくて、施設の中では、仕事でやってる施設の職員さんから、少しでも愛情と信頼を得たくて、でも信用はでききらなくて、みんなどこか痛んでいたと思う。」
「はい•••。」
「でもね。」
時間がたって分かった。
生きていることに、喜びを感じる瞬間。
それが例え1度でもあれば、生まれたかいは、あったんじゃないかって。
何も、この歌は、夢を絶対持ちなさいとか、何かの為に生きなさいとか、決めつけて言っている訳じゃない。
自分が、何かを見つけられたら、この汚い所も綺麗な所もある世界を、そのどこかを好きになる事ができるでしょ。
「そういうふうに思えたって事は、俺は少しは大人になったのかな、って思いました。」
「はい•••。」
「歌の解釈は、人それぞれだけど、今、食べて生きていくだけで精一杯な人も、どうか生き延びて欲しいと思う。そして、できる事ならば、生まれて良かったな、と一度でいいから思えて欲しい。人は一人で生きられないから、そうして自分の力はほんの少しだから、出来ることだけ、できればみんなで、ちょっとずつ、したいと思ってるよ。それが自分にも良いことになるように。自分が辛い事って、続かないからね。」
そういう、希望、みたいなものを、王子達に歌ってもらいました。
王子達は、アンパンのヒーローが大好きになったから、歌いたかったみたいです。
生中継で、広場大画面を、じっと見つめる人々の中で、見窄らしいボロボロの服で鼻をすする子供達、親のいない、街の中の最下層の子供達が、竜樹の話を黙って聞いていた。
子供達のリーダーをやっている、一人の子が、ギラギラと目を光らせて竜樹を睨む。
周りの子供達が、ポツポツと喋り出す。
「生まれて、良かったこと•••。これから、あるかなぁ。」
「よせよ。あいつら、食べるのに困ってない奴らが言う事なんて。」
そうだ。毎日、生きるので精一杯だ。あんな奴、俺たちに関係ない。
なのに何故、こんなにチクチクと痛い気持ちがするのか。
「アイツ、気に入らねぇ。」
リーダーは、言ったが、広場大画面のテレビからは目を逸らさずに。その後も子供達は、画面をじっと見つめていた。
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