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本編
生きたお金
しおりを挟むミランが、カメラを回している。
3王子にアルディ王子にジェム達。
きゃあわあ、騒いでいるところに、大きな箱から一つずつ、タカラから渡されるものは。
「これなぁに?ぴんくね。」
「猪かよ?何で?穴も開いてるし。」
ニリヤとジェムが、陶器のウリ坊な楕円形のものを、ひっくり返し、タシタシ叩いたりしながら。
撮影隊の寮、今は新聞少年達との合同寮の交流室で、みんなを前に竜樹は腰に手を当てた。
「それは、貯金箱っていいます。形は、豚さんだな。」
「豚!私知ってる、美味しいやつ。狩った猪じゃなくて、食べるために育てたお肉~。」
「すげぇ。高そう。食べた事ねぇ。オランネージュ様、そんなに美味いの?」
「うん、脂がのって、食べやすい味がするよ。」
たまにしか食べられないけどね、と、付け足す。
「さて、なぜこれは豚さん形なのでしょーうか?」
竜樹が、一つ余った豚貯金箱を持ち上げて、みんなに見せながら質問する。
はい、はい!とみんな手をあげる。
「高いから!」
「美味しいから!」
「ぴんくがきれいだから!」
ぶぶー。
あぁーぅ。残念、って声がみんなから漏れる。
「色んな説があるけど、豚さんは子沢山なんだ。繁栄や幸せの象徴だから、って説を、俺はとりたいね。縁起がいい方が、お金が貯まりそうでしょ?」
「お金貯めるの?これで?」
ネクターが、豚貯金箱の豚顔と目を合わせながら、聞いてくる。
「そう。みんな、お金についてどう思う?」
「たくさんほしい!」
「お金持ちだと、食べ物に困らないもんね。」
「かせぐの、大変。」
「ぼく、おかね、もったことない。」
「私も。ないー。」
「私もないな。」
お金に触れていて、厳しいジェム達と、何でも用意してもらえて王宮から出ない王子達。そこにアルディ王子が、
「私は、お父様と、お忍びで、お菓子を買った事がある!銅貨5枚の、パリッとして甘いやつだった!」
ふんす、と鼻息吐いて言った。
「ーー俺も、昔、父ちゃんが生きてた頃、屋台で肉を買ってもらったことあるもん。」
「俺、ないー。」
「•••いいなー。」
あ、とアルディ王子が、耳を垂らし、尻尾をダラリとする。失言、て感じだ。
うん、そうなんだよ。アルディ王子が、お父さんと仲良くした思い出があるのはいい事だ。
だけど、ジェム達は、親がいなくて、親の事を覚えている子達もいれば、うろ覚えの小さい子もいる。
気にするのがいいことか、それとも、気にしないのがいいことか。仲良くしていくのに、どうしていったらいいだろう、というのも、学びのうちだ。
う、うん。と咳払いをして、竜樹は。
「そうだなぁー。みんな、頑張ってるから、今度、俺がみんなに屋台で肉を食わせてやろう。おごっちゃう。」
「わーい、やったー!」
「お肉だー!」
「竜樹、甘いぜ。みんなになんて、いいのかよ。」
「子供に肉食わせるくらいの甲斐性は、たぶん、あるよ!」
あるよね、タカラ。と、お財布係のタカラに確認する。「もちろん、充分ございます」とタカラがにっこりした。
ジェムがニシシと笑う。
こういう甘い所と、食べたきゃ働け、っていう厳しさが、ヒョロっとしてるのに、全然似てないのに、父ちゃんみたいで、ジェムは竜樹が好きだ。
「話を戻すけど、お金って、大切だよね。王子達も、触った事なくても、生活の色んな所にお金はかかってるんだよ。知っていくといいね。だから、これから、王子達もだけど、俺のお手伝いをしてくれた事に応じて、お小遣いを出そうと思います。」
お小遣い!ふぉ!
みんなが、わっと盛り上がる。
アルディ王子も、ピピン!と尻尾と耳を立てた。
「それを、屋台とかで食べ物に使ってもいいけど、全部それだと、お金がいつまでも、たまらないよね。」
大人になった時、病気になったり、結婚したり、子供ができたり、お店をもったり、仕入れしたりーーーとにかく。
「急にお金が必要になる事、って、あるんだよ。そんな時、お金がなかったら、困っちゃうだろ?」
病気になっても、お医者に診てもらえない?結婚式できない?子供産むのに、お産婆さん呼べない?
「こまるー。」
「おかね、たいせつ。」
「そう、何かを人に頼む時、お金がかかることはよくある。それに、お金を貯めて、良いもの買う、って事もできる。例えば、家とか。」
「家、ないとこまるー。」
「良いもの、何かなぁ。」
「みんなのお小遣いでは、家まではいかなくても、例えば貯めておいて、時々、好きな、ちょっと高いお店のお菓子、を買うこともできる。お金、貯めるだけで、使わないで、ずっといるのも、ちょっとつまらないよね。貯めただけで死んじゃう?そういう、お金を貯めておいたり、使ったりする、勉強をしようよ、と思うんだ。」
「「「はーい!」」」
そこで、これです。
豚さん貯金箱。
これ、上の穴は、コイン入れられるようになってるだろ。
「ほんとだ。あなだ。」
ニリヤが、豚さんの背中の穴を覗きながら言う。
これに、小銭を貯める。
「それで、豚さん貯金箱が、いっぱいになったら、底にコイン取り出せる穴があるから、ほら、コルクでしまってるだろ。取り出して、冒険者組合の口座を作ってやるから、そこに預けておこう。大金を手に持ってる、っておっかないからね。例えば、泥棒?もっと怖い、強盗?怖いねー。そうじゃなくても、持ってたら、つい、使っちゃうんじゃない?」
おお~。
みんな、口をとんがらせて、真剣に聞いている。
「じゃあ、名前を書いた札と、色んな色のリボンを、縛っておこう。誰のかわかるように。貯金箱、みんな、大事にしとくんだぞ。もし、どこに置いといたらいいか、わかんない子がいたら、俺の部屋に置いておくよ。」
竜樹の部屋、というのを、寮の中の一室に作ったのだ。
「俺の部屋は、鍵かけないから、もちろん、神の目で監視しておくからね。防犯だね。」
「「「はーい!」」」
わちゃわちゃしながら、リボンと名札をつける。赤、青、黄色に白、黒、緑色、色々みんな自分の好きな色を選んだ。竜樹やタカラは、上手く結べない子に、ゆっくり教えてやる。
「あと、これ。配るねー。」
これまた色んな色の表紙の、お小遣い帳。
竜樹が、夜なべして、刷ったやつを切って、整えて、糸で中綴じしたのだ。これは、売り出すつもりだが、まずは見本に。
「ちっちゃい子は、大人の人に、これだけもらったよ、使ったよ、って言って、書くの見てもらおうね。ジェム達は、書けるだろうから、説明するけど、使ったお金、の欄に、使った金額を書く。使った内容は、左の項目欄にな。お金をもらったら、入金、の所に書く。どこから入金したか、も書くんだよ。書いておくと、何に幾ら使ったか、後で見て考えられる。例えばー、屋台の肉に使いすぎちゃったな、とか、今月は、お金稼げたな、とか。合計のところに、上から足してって、計算したのを書くんだよ。」
今日から、これに書いていってもらいます。まずは名前書こうね。
ペンを渡して、見返しに名前を書かせる。
「さてー、早速、みんなに、まずは俺から、はじめてのお小遣いをあげます。試しに書いてみよう。銅貨2枚だよ。」
ワイワイきゃっきゃして、豚さんにコインをちゃりんと入れ、お小遣い帳に書いた。
みんなが、竜樹の部屋の、背が届く低い棚に、並べて豚さん貯金箱を置いた。
「いいねー。これから段々、お金増えるといいね。良いことに使えるといいね。それでは今日の俺の勉強は、おしまいです。夕飯まで、遊んでおいでー。」
はーい!
いいお返事で、みんな外に出ていく。ルルーもアルディ王子に着いて行って、場所を浄化するつもりだ。
残ったのは、大人のみ。
「ーーーこんなの、何の為になるんですかね。」
アルディ王子の警護に、この国に残った、狐系獣人のクルー。トースト色の耳尻尾に毛先が白の、ぱっちり黒目に目尻のほくろは一見チャラっとした青年だが、マルサに言わせれば、身のこなしはなかなか、とのこと。しかし、外に遊びに行ったアルディ王子に着いて行かなくて良いのだろうか。
「王子達って、ほぼ銅貨で買い物なんかしないでしょ。竜樹様が与えなきゃ、お金に触る事も一生なかったかもしれない。よきにはからえ、で済む人達なんだし。」
はっ、とバカにしたように息を吐く。
「そういう人に、国を任せて良いのかな?小さいお金を知って、大きいお金の効用を知る。高く、低く、広く、狭く。視点は自由に、そして生き生きと生きたお金を使ってもらいたい。難しい事だから、小さいうちから、手に取って勉強させたいと思うのは、間違ってるかな?」
竜樹は、気を悪くもせず、クルーに問いかける。
「この国の王子達は良いかもしれないけど、アルディ殿下は、たぶん臣下に降りて、ほどほどの身分で、死ぬまで金に困らないで生きていけますよ。余分に金のかかるお方ではあるから、質素倹約を教えるのは、有難い事ですけどね。」
ふふん、と、クルーは、アルディ王子をはっきりと金食い虫だと言った。
竜樹は、そうやってバカにしている子が、成果を出した時、この人はどうするんだろうな、と思った。
「俺の国には、ウサギと亀というお話がありまして。」
「は?」
君はウサギだね。
竜樹は、にまっ、と笑って、クルーに訝しがられた。
「私は狐獣人ですけど。」
「知ってます。アルディ王子を守りに行った方がいいのでは?」
ふんっ、と鼻息漏らして、クルーはタラタラと出て行った。
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