王子様を放送します

竹 美津

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本編

傷のない者など

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皆に上映会と番組放送、テレビとラジオのいいね消費は、次の通りだった。
クマの郷での上映会 無料だったからか、150いいね。
テレビの番組放送 CMも流さず間接的な料金をもらう事もなかったため無料扱い 600いいね。
ラジオ 同様にCMなしで350いいね。

合わせて1100いいねの払いとなった。頻繁には、竜樹の世界の物語を放送できないし、この世界の放送を作っていくためにも自重しなければならないが、どうしてものピンチに、良作をぽん太君にお願いする事は可能かもしれない。
ぽん太君を泣かせ、スペシャルマーベラスプレミアムパフェ、一体どんなパフェかは分からないが、プリンとかケーキとかフルーツとかアイスとか!一通りのスイーツが乗ってそうなえぐいそれを、対価にしたとしても。

闘神コンバトゥル様とランセ神様が、お戻りになられてから、クマの郷はワッと沸いた。
ブレイブ王様もラーヴ王妃様も、お酒を貰って、男衆女衆入り混じりお話。お酒が入ってしまったので、竜樹とアルト、レザン父ちゃんのボクシング講座は、ちびっ子限定とした。
やりたい子供達を集めて、まずはご挨拶。

「こんにちはー! ん?あれれ、ご挨拶のお声が、少ししか聞こえないよ? こんにちはー!!」
「「「こんにちはー!!」」」

「はーい素晴らしい!大きいお声でご挨拶、よくできました。皆にね、これからボクシングをちょっと、体験してもらいます。これはどんな格闘技を習う時でも同じだけど、強くなる、って、誰かをコテンパンにやっつける、って事じゃないんだよ。」
「えー、ちがうの?」
「たたかって、かちたいじゃん!」
子供達は正直である。

「勿論、闘いであるからには、勝ちを目指します。でも、何をしても良いから勝てば良い、それじゃあ、ただの、ケンカだよね。強い人はね。正々堂々と。負けを認めて努力する。弱いものをいじめない。礼儀正しく常識がある。これが備わってこそ、本当に身体も心も強い、って言えるんだ。ボクサーは拳が凶器だから、リング以外で戦わない。紳士なんだな。皆に、凄いな!って、認められてるんだぞ。」
ふわぁ~!カッコいい!と目がキラキラの子供達だ。
「さあ、皆も本当の強さを身につけよう!楽しく、ボクシング、やってみようね。それでは、基本の構えは~。」

などと構えてもらい、基本の構えとガードの仕方、パンチを何種類か、教えて、レザン父ちゃんに拳で体験、ミット打ちをやってみさせ。
あちこちでシャドウボクシングをやってる内に、ニュース番組も始まって、飽きて自分の父ちゃんや母ちゃんの所へ戻っては飲み物なんかを貰い、ゴロゴロし始め。

落ち着いて大人達が話が出来るようになったのは、その頃だろうか。
レザン父ちゃんとエタニテ母ちゃん、デュランが近くで、満腹になりお茶を飲んでいる。
ブレイブ王とラーヴ王妃が、男衆女衆入り混じり、ワインにポッと頬を赤らめて、のんびり談笑している。アルディ王子は、ラーヴ王妃のお膝で、お耳をひこひこ、ダラダラしている。
ニリヤとネクターは、竜樹に引っ付いて、コロンと寝転がり。
ファング王太子とオランネージュは、男衆の話をうんうんと、分かった感じの顔をして、聞いている。
リグレスとイリキュートは、真剣な顔で、けれど、どこかふと安心した表情で、皆の話を黙って聞いている。
クマの郷で採れる、炒ったナッツが美味い。

「へぇ、母子手帳。どんな事が記録できますの?」
ラーヴ王妃が竜樹に聞く。妊娠すると貰える、母子手帳なるものがどんなものか、女衆達は興味津々である。
「とにかく、あらゆるお母さんに向けて、妊娠が分かった時のお母さんの所見から、持病、日々の成長、体重変化、歯の状態ーー妊娠すると、栄養取られて歯に来るって言いますもんね。赤ちゃんのお父さんお母さんの名前も。基本ですね。産まれた赤ちゃんの生年月日、体重。うんちの状態。生まれてすぐどれくらいの感じか、重要な病気のサインに当てはまるかどうか、赤ちゃんの持病、3~4ヶ月でできるようになるだろう諸々の出来事のチェック、気になる育ちのための項目が順繰りに。電子で見本が見られますから、みなさんどうぞ、ほら見てみて。」

タブレットを出し、配布されている電子の母子手帳を見せる。
「思い出にもなりますが、お母さんはこれを書いて、赤ちゃんと自分の健康管理ができ、将来に伝えていくべき、病気ではないけどこんな個性があったよ、っていう遺伝的な特徴も次代に渡す事が出来ます。お母さんがいれば、娘に口で伝えられも出来ましょうが、忘れる事もあるだろうし、書いておけば、そうそう、そうだった、この子は大きくてーーなんてね。」
ふん、ふん、ふんふん!
フコッ、と鼻息も荒いのは、お産婆さんをやっている、おばあの女性焦茶クマである。
「私たちは、文字が読み書きできないから記憶頼りだけど、読み上げて貰った項目が継いでいけたら、確かに参考になるよ。」
「読み書きできる、って、便利なんだねえ。」
ですですよ。重要ですよ。
読み書きに頼らない、口伝の文化を、その力を、決して貶める訳ではないけれど。

イリキュートが、恐る恐る声を出す。
「私•••読み書き出来ません。リグレスも、少ししかよ。全部聞いた事、覚えてなくちゃかしら。」
ハンカチをモミモミ。

うん、うん。
竜樹はイリキュートに、ニコッと笑った。
「いい質問です。ねえ、イリキュートさん。こんな風に、聞いて、どうかしら?どうかしら?教えてもらえないですか?ってやっていけばいいんだよ、リーダー代理も。だってあなたは若くて、まだまだ知らない事が、沢山あるのだもの。周りはベテランの女衆の皆さん達。だよね?」

目を白黒させたイリキュートは、それでも、は、はい、と返事をした。

「読み書き出来ない問題には、音を記録する魔道具で対処できます。記録の基本的な録り方を、また後で練習しようね。それはそれとしてーーねえ、イリキュートさん。あなたは、エタニテお姉ちゃんみたいに、立派に、リーダーとして女衆を率いなきゃ、って思ってたでしょう。でも、出来なかった。」

ニリヤがごろん、と竜樹のお膝で寝転がり、とん、とん、とリズムをもって、お手てを腿に柔らかく叩いている。まだおねむには早いけれど、疲れているのかな?お口がもむもむして。
ネクターもだらんと竜樹の背中に背中をくっつけて、話を聞いている。

「あなたはあなたなんだから、お話上手なエタニテお姉ちゃんのやり方が、合わなくても、そりゃそういう事は、あるよね。それに、色々沢山の情報に当てられちゃう事は、誰でもある。処理するのが得意な人なら良いけど、考えて応えるのに時間もかかって、整理するのにも落ち着くにも、1人の時間、何かを集中して作る時間が必要で。だけど人の話を聞くのは好き。そんなイリキュートさん。それがあなたの人生を作っていく、彩りになる。」
女衆達が、のんびりお酒を飲みながら、そうねそうね、と頷く。
「エタニテの良い所、イリキュートの良い所、違うわよね。」

「私の、人生、彩りーーー。」
スカートを握りしめて竜樹をジッと見るイリキュートの横で、リグレスも、真剣に聞いている。

「それに、やっと気づいた、一人の時間が必要だ、ってこと。なんとかして、伝える事が出来たら良いよね。ミュリエルさんに、口添えしてもらうのでも良い。自分の口で、一生懸命伝えても、きっと気持ちが伝わるよ。って話題にする事で、ほら、皆に伝わったでしょ。どうしても伝えたい事は、とりあえず口にしてみる。大事だよ。」

うんうん。うんうん。それでイイノヨ。手伝うよ。
頼もしい女衆達に、イリキュートは、ほろりと涙。
すー、ふー、と深く息を吸って、吐いて。
「そ、それで、よかったんだぁ。」

うんうん。それで良かったんだよ。

「ふふ。イリキュートちゃんの、どんぐりのブローチ、素敵ね。こんなに素敵なものが作れる、それも生かしたいわね。」
ラーヴ王妃様が、ニコニコ聞いているエタニテ母ちゃんの胸のブローチを、つんつん、とつつく。
「エタニテは、聞き取りをした人にあげたら喜ばれる、って言っていたわねぇ。」
「素敵だワ。喜ぶワよ。」

竜樹の脳裏には、マタニティマークが思い浮かぶ。特に妊娠初期は、見かけだけでは妊娠しているなんて分からない。でも、本人の身体には変化が起こっていて、周囲が気を遣ってくれたら、嬉しい場面が幾つもあるだろう。
「どんぐりブローチ、妊娠した女性みんなにあげて、着けてもらうのはどうですか?このブローチをつけていたら、周りの皆も、私妊娠してるんです、だから今辛くて、なんて説明する手間が、一つ、省けます。周りもスマートに気遣ってあげられる。それにこの、大きなどんぐりに小ちゃなどんぐりが寄り添って、赤ちゃんみたいじゃない?可愛いし。」
まあ! ぱん!とラーヴ王妃が手を打った。
「それは良いですわ!使うのが、森に幾らでもあるどんぐり、って所も良いわよね。」
「森の動物達の、食料の分は残しておいてあげて下さいね。」
町に動物が降りてくるきっかけにもなるから、と竜樹が心配する。
「それなら、動物が食べない、渋いけど見栄えの良いどんぐりが、何種類かあるわよ。」
おばちゃん黒クマが、ジュースを注ぎながら教えてくれる。
「イリキュートに見本を作ってもらって、やり方を教えてもらえば、皆でやれるわね!ワイルドウルフ中の妊婦さんに届けたいわ!」
パシフィストでも真似して良いですか?と聞けば、イリキュートに視線がピッと集まった。
「え?え? あの?」
注目されるのが苦手なのか、イリキュートは焦る。

「意匠は同じじゃないだろうけれど、どんぐりを使う、って所のアイデアは、イリキュートさんのものなんだから、どうしたい、って言っていいんだよ。ゆっくり考えて、話してみて。」

どんぐり。どんぐりは自然のもの。
どこにでもある、木の実で、種。
使わないで、なんて、言いたくない。
妊婦さんみんなが、少し、楽になるなら。

「使ってください!」
フコッ!と鼻息荒く宣言したイリキュートに、竜樹はニッコリ、ありがとう、と言った。

どんぐりブローチは、腐るものではないから多めに作るとして、材料費や人件費も、もちろんかかる。大儲けするタチのものではないけれど、経費に輸送費、少しお小遣い程度には儲けたい。それに、ブローチを着けなきゃダメ!と強制もイヤだ。なるべく知られたくない人だって、いるだろう。
「それなりの対価をとって、欲しい人に幾らかで売るのが良いわね。聞き取りをした妊婦の人には、あげるにしても良いわ。」
ラーヴ王妃の肝入り事業として、クマの郷の女衆の手仕事が決まった。
イリキュートは、あわあわしていたけれど、あれよという間に。制作の指揮をとって、この秋、発情期に合わせて皆でブローチを作ってためておき、そのあれこれが終わってから、冬に支度を整えて、妊婦さんが出始めての頃、聞き取り旅へ出る事になった。
リグレスもその間、商売で外に出る者にちょくちょく着いて郷を出る旅の体験をしてみたりもし、鍛えてイリキュートを支えると決めた。

「竜樹様は、いつからこの采配をしようと思ったんですの?最初の案だと、レザン父ちゃんとエタニテ母ちゃんが、リーダーになって、妹ちゃん夫婦に代理を任せて、だけだったでしょう?」
ラーヴ王妃様が言えば、ん?とアルディ王子が、ラーヴ王妃のお膝から顔を上げて、竜樹を見た。

「それはですねぇ。」

社長の上には会長がいる。
社長は実務的な責任者だが、その上に大きなとこを見てくれる人がいる、ってのは安心でもあるだろう。その手の中で、如何様にも泳いで。
実務的なリーダー代理と、カリスマ的な象徴として、最終兵器なリーダーとがあったら良いな、と思っていたのだが。

「違和感があったんですよね。なあなあにしちゃって良いのかな、って。レザン父ちゃんとエタニテ母ちゃんは、受け入れてくれたけど、その苦労を知らないまま、罪を償わないまま、なるくまとめたら、ダメだ!って、レザン父ちゃんがリーダーを宣言した時思った。禊をして、罪が無くなる訳じゃない。だけど、知れば、それさえもこの後に生かせる糧となりましょう?今のこの人生は1度しかないから、間違えたらそこから、遡って知って行動していくしかない。それができて、きっと、リグレス君とイリキュートさんの間違いは、人生の傷でもあり治り痕でもあり、深みを増す印になるのだろう、って、後付けですけど、思いました。」

ラーヴ王妃様は、お膝の息子のアルディ王子の髪と狼お耳を撫でながら。
「そう、そうね。」
と微笑んだ。
人は後悔は、する。間違う生き物だもの。そうして、だから、どうする、なのだ。
リグレスとイリキュートは、目をまんまるくして、聞き入っている。

女衆達は、ゆったりとお酒やお茶を飲み、子供達をまとわり付かせて、のんびりと、ニコニコと、微笑んで頷き、聞いていた。
この場で、今までの人生で、傷の全くないものなど。誰一人として、いやしないのだから。
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