王子様を放送します

竹 美津

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本編

半分こ

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ジェム達を新聞販売所への出勤、見送ると、残りは後から入った組と小ちゃい子組、王子チームとなり。それぞれ押し花のお仕事や、後から入った子組の中で大きい子達は、新聞販売所へ働きに出るための、お金の計算のお勉強や、文字、接客について反復学習を始めた。
その中でも、9歳の男の子、プーリュは、左手の親指が無いのだが、養ってくれていた片腕の情報屋、モルトゥと、先天的に喪失している腕指を、少しずつ作っていくお試し治療に。侍従のユミディテが引率に来て、連れていく予定で、そわそわしている。

「竜樹お父さん。指、ほ、ほんとにできる?治療にお金、使わせて、ご、ごめんなさい。」
プーリュは、ごめんなさいが口癖で•••いつも苦しい所にいて、周りの人に許して欲しい気持ちがあるから、どうしてもつい言ってしまう。
竜樹はプーリュの前にしゃがんで、ギュッと抱きしめてやり、ポンポン、と背中を叩いた。
「良いんだよプーリュ。指が治ったら、きっとプーリュも、不便が少し減るだろうよね。嬉しいよ。そうしたら、ありがとう、って言って、竜樹とーさに教えてね。さあ、ユミディテが来た。モルトゥとユミディテと行ってらっしゃい。(帰りに何か、内緒で美味しいものを食べといで!)」
銀貨を1枚、お小遣いに握らせて、ポポッと頬を赤らめて遠慮がるプーリュを促してやる。
モルトゥも、何となく照れくさそうに、もそもそやって来ると。
「じゃあな、竜樹様、行って来る。」
と一応、ペコンと頭を下げた。
ユミディテが、満々の笑顔で2人をお医者に連れて行く。

王子チームは、床にレポート用紙を置いて、自由に書ける大きめの用紙ももらって、まずはそれに、どうレポートの内容を攻めていくか、書き留めながら自由にディスカッションしていくらしい。ファング王太子は、腹ばいに寝転がって鉛筆と尻尾をふりふり。皆して円になっている。

元花街組、いや、もうその名前で呼ぶのは竜樹も遠慮している。これから6人は新しい生活を送っていくのだもの。
エステ組とヴィフアートは、押し花のお仕事を、ひとまずお手伝いする?と、ラフィネかーさ達と床に新聞紙や、材料のお花などを出して、準備していた。

もじもじ、としていたヴィフアートは、瑞々しいお花を、コロリ、と指先で弄りながら。

「竜樹様•••エルフのロテュス殿下って。」
「ん?」
なんだい?と聞く気持ちで。テレビ局の入社試験、撮影して応募された作品を評価する番組の、下準備を、長くしている竜樹は、道具をちゃぶ台に並べていたが、身体をちゃんと移動させてヴィフアートに向き直って。言ってごらん、と促した。

竜樹だって分かっている。
子供の頃、攫われて、それから碌な生育環境でなかったヴィフアートが。やっと頼れる安心できる場所で、見た目年齢よりも今はずっと幼く逆行していて、竜樹の元で育ちたいんだ、心を療養させて、栄養を貰って、傷だらけの心をふくふくになるまで、手を当てていて欲しいんだ、なんて事は。

「女性の方なんですか?テ、テレビでチラッと見た時は、あんまり女の子っぽくなかったけど。」

んん?とニリヤが竜樹とヴィフアートを気にしている。

ヴィフアートは、花街出身のラフィネ母さんと竜樹が恋仲なのは、嬉しかった。何だか、自分も許される気持ちがして。はっきり女性だし、お父さんは、お母さんと夫婦なものだ。ラフィネに、お母さんらしい、許されるような、ヴィフアートにも優しい包容力がある。
だけど、高貴な身分の、美しいという、瑕疵のない子供のエルフが竜樹の隣に立つ、というのは、何だか。
気持ちが、モヤっ、イライラッ、とするのである。

クシャ、とヴィフアートの髪に手を入れて撫でながら、竜樹がのんびり応える。嘘もダメだし、誤魔化しもダメだ。そうして、ちゃんと、ヴィフアートを思ってるよ、大丈夫だよ、って安心をあげなければならない。
「ロテュス殿下はね。エルフで、まだ子供だから、男でも女でもないよ。将来、なりたい方になるんだって。まだ、俺と子供を作りたいか、パートナーになってバリバリ動きたいか、決めかねてるんだってさ。一応、王子って事にはなってるけどね。ヴィフアート、何か心配かい?」

男にも、女にも、なれる。
それは、やっぱり、完璧って事じゃないか?
私とは違う。私、私なんか、穢れた、身を売る、女でもない、とうのたった、価値のない、雑用係のーーー。

しゅーん。
頭を俯かせたヴィフアートに、どうしたどうした、と竜樹は寄って、胸に抱いて、ポンポン。
欠けた器に、傷に沁みて、それが盛り上がり、跡になり。痕跡は残ったとしても、愛情というものが、注いでもじゃあじゃあ穴から溢れなくなるまで、治るほどに。
今は、注意深く、ゆっくりと、手当て、愛を注いでやらなければいけないのだ。

ふにぃ、と鼻を鳴らして、ヴィフアートは頭を竜樹の胸に擦り付けた。
離れたくない。離れたくない。自分にその資格がなかったとしても、この胸の中から。

こんな時、後から入った子組や、小ちゃい子組達も、どこかで寂しい思いをしてきているから、大人なのに変なの!なーんて言わずに、ただ黙ってヴィフアートが甘えているのを見守る優しさがあった。
王子達も、分からないながら、自然にこの癒しの作業を見守る。
ニリヤが何か言いたそうだ。

ヒュン!
キラキラ!
と空間が光って、転移してきたのは、エルフのロテュス殿下と弟妹達。チームエルフである。

とう!
「おはようございま~す!皆さん!竜樹様、エステ事業の先頭に立ってくれる女性達は、どこですか?ロテュスが、ご挨拶と、お話に参りましたよ!」
「私たち、森の美容化粧品には、詳しいわよ。」
「今日は粗く話をして、こちらでも、中でも詳しいエルフと繋ぎますからね~。」
「わ、私もできる事があれば、何か。」
ロテュス殿下、ウィエ王女、エクラ王子、カリス王子。

ヴィフアートを、胸に抱いてポンポンしていた竜樹に、ロテュスは、全くその状況を気にせずーーだって、竜樹様は皆を癒す人じゃない?あるある!ーータタッと駆け寄り。
ウフッ、と片腕に手を絡ませて、邪魔はせずに頭を擦り寄せた。

ム、ムムムーッ!

ヴィフアートは、何でこんなに腹が立つものか、分からないけれど。
ムギュ!と竜樹に抱きついて、ギン!とロテュスを睨むと。
「お、お前!この、エルフ!ちょっと、う、美しいからって、良い気になるなよ!!」
ガガガオ!と噛みついた。

確かにロテュスは、人ならぬ美しさ、流石にエルフの中でもたおやかなヴェルテュー妃と、流麗なリュミエール王の間に生まれたエルフである。
んん?キョトン、としたロテュスは、怒りもせず。
「あ、ありがと?君も美しいね!」
と無邪気に笑った。

「褒めてねーんだよ!」
ぐぎぐぎぎぎ。
相手にされない、というのは、増して腹立つものである。
「俺は竜樹様に、や、優しくしてもらってるんだから!一生懸命に働いて、お助けするんだ!」
この間、竜樹は、どうしたもんかな、と思ったが、案外ロテュス王子が落ち着いているので、少し静観である。よしよし。ヴィフアートの背中を撫でて落ち着かせてやりつつ。

「ああ!そうだよね!」
ニコッ!とロテュス王子は笑う。
「何がだよ!」

「竜樹様は、とっても魅力的な方でしょう?あなたも、助けてもらって、きっと力になりたいんだね。分かる分かる!何となくそんな気持ちにさせちゃうんだ、竜樹様って。エルフ達もそうだもの。お気持ちが、でっかくって、優しいの。仲良くしようね、私はロテュス、竜樹様の、は、伴侶になるエルフだよ!」

ん、ん、ん、んもう!!!

ヴィフアートはカリカリして。

そこへ、ニリヤが、腹ばいからスクっと立って、たかたか!と駆け寄ってきた。身振り手振りも大きく。

「アーにいちゃん、ししょうはね、ロテュスでんかがいないと、さびしいよ。だいじょぶ、はんぶんこ、だいじょぶよ。ししょうのおせわをするのは、とってもたいへんなの!みんなが、おてつだいするのよ?アーにいちゃん、おにいちゃんとして、ししょうのおせわ、とっても、きたいしてるから!ちからを、はんぶんこよ、かしてほしいの。ロテュスでんかと、アーにいちゃんで、なかよくはんぶんこの、ししょうよ!」

んんんん?

ブハッ!!と護衛で王弟のマルサが噴き出して、声もなく、うくくくくっ!と震えて笑っている。

『赤ちゃんも、お母さんがいないと、寂しいよ。大丈夫、半分こでも、赤ちゃんを育てるのは、とってもとっても大変!皆が手伝って、赤ちゃんは育つんだ。ツバメだって、そうだろ?ニリヤの事、お兄ちゃんとして、すごく期待してるから!力を、半分こ、貸して欲しいな?どうかな、ニリヤ。』

確かね、言いました。ニリヤが、ルゥちゃんを、自分の赤ちゃんなのに、コクリコお母さんに、とられちゃう!って思った、その時に。竜樹が、噛んで含めるように。
ニリヤよ•••まあ、何だ、大きく間違っちゃいないんだけどさ。

目を、くり!と大きくして驚くヴィフアートに、ロテュス王子は、くふん!と楽しそうに笑って。

「そうだね!半分こしよう。竜樹様はおっきいお方だから、お世話が大変なんだー!それがまた、嬉しいんだけど、君がお手伝いしてくれたら、もっと嬉しいよ。助かるなぁ。」
何とも。エルフの大らかさに、ヴィフアートが敵いっこないのである。
ラフィネも見守りつつ、くすす、と笑っている。

「アーにいちゃん!おにいちゃんは、いつまでも、おちこんではいられない!のよ!げんきだして、がんばろ!」
ニリヤの激励に。

むぐー。
何となく、そう、取られちゃうんじゃないか、って。ヴィフアートだって思ってたのだけれど。
この大らかなエルフと、胸のあったかい竜樹様は、半分こでも、充分にヴィフアートを温めるかもしれない。うん、かも。そうかも。
ちょっと面白くないけど。

「分かった•••ニリヤ殿下が、そうまで言うなら。半分こ、半分こな。よろしく、お願いします。」
おずおずと出す右手を、ロテュス王子は、ギュッと握って、ふりふり。
「よろしくね!」
笑顔で。

ああ~。
こういう子だから、竜樹様は側に置くんだし、ラフィネさんは許すんだし、複雑だけどさっぱりした、いい関係なんだわ。
ルーシェ達エステ組は、うんうん、うん、と納得して、ただただ、頷くのだ。

そして王弟マルサは笑いすぎである。
「竜樹のお世話、ひひっ、くくく、確かに大変!!俺も他の護衛達と、半分こしてるぜぇ、くふふっ!」
ひーひー、あー笑う!

もー、わらうなぁ!
とニリヤがマルサ叔父様へポカポカしに行って、ごめんごめん、なんて謝って。
ロテュス殿下との対面は、人となりも知れて、まずは和やかに始まりそうなのだった。

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