11 / 154
11.降臨! 悪役令嬢
しおりを挟む「レイズ、ルセリナ、二人に今回の件での処分を言い渡す」
ハスター様のその言葉。私も観念、レイズ様も観念。
ここから助かるルートは存在しない。
「二人とも当面の間、無償でこの家の一切の仕事を行うこと。いいか――」
無償。ただ働きって事か。優しいハスター様のことだから衣食住は保証してくれるんだろうけど、ただ働きかー
ああ無償。
もちろんその言葉に、私ももう一人の罪人様も反論はしない。それなりのことをやったんだ。その辺は大人しく従うしかない。殺されるとか首になるとかそんなんじゃないだけマシだ。
さあて、これにてエンディングを迎えよ……
「お待ち下さい、お父様!」
おおっと突然割り込んできた待てとの要求。物言いイベント発生か。
でもこの声、レイズ様では無いようだ。
「どうしたアリーゼ」
アリーゼ様か。
クルックルの縦ロール、キュッとつりあがった目、バサバサの長いまつげ。そんないかにもな風貌をしたお嬢様こそレイズの姉アリーゼ様である。弟が悪役令息だとしたら、こちらは典型的な悪役令嬢。圧が強い。
ちなみにこちらも下手に関わると遠慮なく顔面に水をぶっかけられたりするので関わらない。
それでそんなお嬢さんが一体何の用だろう。
「この二人の処遇、これでいいのか疑問ですわ」
「疑問?」
「ええ。その処分、考え直した方がいいと思います」
これは驚いた。
今まで散々性格が悪いところをひけらかしていたはずのアリーゼ様が、ここに来ていきなりの身内擁護。善性が覚醒した……? あるいは異世界転生した悪役令嬢でも中に入ったか。
「うむ、しかしな流石に何も処分しないというわけには」
いやいやいいよ、今回は不問で。次回から心を入れ替えてきっちりと働くからさ。
「そうではありません」
え、違うの?
「アリス、いえアリスさんのような王族にゆかりのある方に失礼を働いたのです。この程度の処分では軽すぎるのではないかと言っているのです」
「えっ私は別にそんな」
「ああ、アリスさんは優しいのね。心のうちに王族ならではの品性を感じますわ。いいの、無理はしないで。辛かったでしょう、苦しかったでしょう。大丈夫、危険なものはこのアリーゼお姉さんがなんとかしてあげますわ」
「あ、えっと」
「そういう訳でお父様、私は今後万が一アリスさんが王族になった際にも示しがつけられるよう、二人の国外追放を要求します!」
は? 国外追放。いやちょっと待ってよ。
それって追放された奴が実はチート的な能力保持者で後に「ざまぁ」ってするために用意されてるルートじゃん。どこにでもいる凡庸メイドが陥っていいルートじゃないんですど。
「おい、アリーゼ姉……」
「ああなんて悲しいのかしら! レイズ、まさか私のたった一人の兄弟と永遠の別れになってしまうなんて! でも大丈夫、残ったお家のことは私が責任を持って守っていきますわ」
「……っ」
わー姉ちゃんに完全に縁切られたよこの人。姉弟なんてこんなもんかね。でもまあ、親はそんなこと無いでしょ。親は。
「ローザ」
いよいよ、状況に困ったハスター様が奥様に助けを求め出したぞ。
よーしいいぞ、ローザ様! さあそのぴっちぴちの若さと母性で私達を擁護してくれ。お願いします!
……あれ、なんか様子がおかしい。首を左右に振って……えっどうして、母性はどこローザ様!?
「私には今回の処遇に口を出す権利はありませんわ。ここは真の父親であるアナタが決めてあげてくださいな。私はどちらの判断を下してもアナタの味方ですわ」
「そうか、そうだな」
そうだなじゃないんだよ。ローザ様、なんで身を引くんだよ。もっと母性引き出そ……ん、そう言えば。
「シュタイン先輩、シュタイン先輩」
「……なんですか、小声とはいえあまり話しかけないで下さい」
「まーそう言わずに。レイズ様とアリーゼ様のお母さんってローザ様では無いんでしたっけ」
「はぁ」
うわ、明らかにため息ついたよ。馬鹿にしたよ、この先輩。
「最初に屋敷に勤めた際に一通り教えたはずですよ」
「すみません」
あまり興味がなかったもので。
「レイズ様とアリーゼ様が前妻セルシア様との間に生まれたお子様で」
ああ道理で母性は無かったわけだ。
「フェリクス様がローザ様との間に生まれたお子様ですよ」
「ああ、そうでしたね」
フェリクス。
嫌な名前を聞いてしまった。出来れば思考にも入れたくなかったのに。
「お父様!」
あー出たよ。噂をすればなんとやら。
「僕、思うんですけど」
さてさて今回は何を言ってくれるのかな、このクソガキさまは。
0
あなたにおすすめの小説
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる