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58.柿ピーもツンデレも7:3くらいがいい
しおりを挟む一次審査も終わり、無事通過を告げられた。今は休憩時間。休憩って言っても控室は相変わらずピリピリした空気で居心地が悪いし、それなら廊下で突っ立ってた方が居心地がいいんだよな。
そう思って廊下に出たものの、そこでは新たな地獄が待ち受けていた。
「騙すような真似をして、大っっっ変申し訳ございませんでした!」
廊下に響き渡る声。通り過ぎる紳士淑女が二度見して過ぎ去っていく。でもこのくらいで驚いてもらって申し訳ないが、こんな格好じゃなかったら土下座までしていたことだろう。
「そうやって俺の反応を見て馬鹿にしてたわけか」
「めめめ、滅相もございません!!」
予想通り機嫌悪っ。
そりゃそうだよね。私に対してあんな対応しちゃったんだもんね。
「私はただ、審査の前にレイズ様にこの格好を馬鹿にされてメンタルぶち壊されたくなかったというか、なんというか……」
「は?」
「ひいっ、ごめんなさい」
やべえ、何言っても怒る。たぶん今なら箸が転がっただけでもキレるでしょこの人。
「まーまーまー、レイズ落ち着こう?」
「ベルさん……」
「考えてみなよ。レイズは騙す騙さないの前に、彼女がルセリナちゃんだなんて疑いもしなかったじゃないか。もし君達が主従の関係じゃなきゃ普通に認め……わわっ、ちょっ、と何、するの、ルセリ、ナちゃん。肩をそ、んなに揺さ、ぶっ」
空気を読むんだベルさん。今はそんなことを言う場面じゃないんだよ。
「な、なに、なん……なの」
「やめましょう、もうこれ以上はやめましょう」
「ど、どういう事?」
「……!」
「首を横に振るだけじゃわからないよ」
何故分からないんだ。
いいか、よーく考えろ。普段から散々この私を馬鹿にしてきたレイズ様が、着飾っただけの私を疑うこと無く別人だと思い、更にはお世辞とはいえ、迂闊にも褒めたたえてしまったんだぞ。
レイズ様のことだ、羞恥と屈辱とプライドが均衡して、感情がとんでもないことになってるだろうよ。たぶんこのイライラも結構きわどい感情の上に成り立ってると私は思うね!
「ベルさん、いいんです。もうこれ以上、語るのはやめましょう」
「えっ、えっ?」
私も過去に似たようなことがあったからよく分かる。
こういう時の最適解は相手の怒りを素直に受け入れること。
「本当に本当にすみませんでした!」
「……」
頼む、怒りを鎮めてくれ。
「……」
どうだ?
「……まあ、いい」
よかったー!
「ありがとうございます!」
「ただ」
う。まだ何かあるのか。
「俺は相手が誰であっても、いいものはいいって認めるからな。そこを勘違いされていたのは、死ぬほど腹が立つ。お前と一緒にするなよ」
「へいへい」
でも、私だっていいものはいいって認めますからね。……たぶん。
「あはは、じゃあレイズはルセリナちゃんを認めるんだ」
「ちょ!?」
ベルさんはこれ以上何も言わないで!
「……」
そしてレイズ様はまさかの無言かい!
ここは認めてハッピーエンドでしょうに。ま、いいけどね。
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