婚約破棄でも構わないけど、真面目馬鹿とは聞き捨てならないので祝福は本日をもちまして終了しました。

椿谷あずる

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9.飽きない日々


 次の日も、またその次の日もせっせと畑を開拓した。やり始めるとこれは奥が深い。土の硬さだったり、畑の配置だったり考え出したらきりがない。実に充実した日々だった。
 もちろん汚れについては気を付けている。ご家族を心配させないように、都度着替えは済ませていた。

「全く君は」

 時々グレイが顔を出した。私の姿を見ると呆れたようにため息をついて、スタスタと脇を通り過ぎていった。何故だろうと疑問に思ったけれど、たぶんそれは、私が両親に余計なことを言わないようにするためなんだと、勝手に理解することにした。

「毎日毎日飽きないな」
「飽きないですよ? やってみます?」
「やらないよ」

 私がくわを差し出すと、彼は丁重にそれを拒んだ。
 少しくらいやってみればいいのに。見ているだけじゃきっとつまらない。

「面倒なことは嫌いなんだよ」
「面倒ですか」
「そうさ」

 そう言って彼は面白くなさそうに、私がさっき耕したばかりの土に視線を落とした。

「今回のでよく分かった。何かを育てるというのは面倒だ。植物もまた然り。こんなに手間暇かけなきゃいけないものだなんて思わなかったよ」
「種を蒔けば勝手に育つと思ってた?」
「ふっ、そうだよ」

 何も知らなかったおぼっちゃまは自虐的に笑った。そして、静かに屈むと、ふかふかになった土をそっと指で撫でた。

「なんだって環境さえ与えれば勝手に育つなんてことはありません。植物もそうですし、私の立場だって……」
「……ああ。一応、心に留めておくよ」

 少し風が出てきた。
 風は私達の間を吹き抜け、庭の花たちを揺らした。空を見上げると、雲が重苦しく灰色に染まっていた。

「しばらく天気が崩れるらしい。別に僕には関係ないけど」
「それを私に伝えてくれたのは、心配してくれたからと受け取っても?」
「さあね」

 さあねって。これまでやり取りの流れだったら、そうだよって言って欲しいところだけど。理想を伝えたところで、彼はきっとそうしてはくれないだろう。なんとなくそんな気がした。

「さすがに嵐になっても君がここに来るとは思えないけど、念の為に言っておくよ。別に畑が荒れて駄目になってしまっても、もう僕は困らない。潔く見捨てていい」
「いいんですか、それで」
「ああ。悪天候にも関わらず君が外に出るなんて言ったら、いい加減うちの親が不審がるからね。それに十分理解した。畑から植物を育てるのは手間がかかる。それならば多少割高になっても外部から取り寄せた方がいい」
「……」
「そんな顔をしなくても、君が何かをやりたいというのはよく分かった。この嵐が過ぎ去ったら、新しく君が楽しめるものを用意するよ」
「例えば」
「婦人だけを集めたお茶会とか」

 いらない。
 そんなの絶対にいらない。

「遠慮します」
「どうして? 楽しいんじゃないかな」
「楽しくないです」
「……ふうん。じゃあ、この嵐で畑が駄目にならない事を祈るんだね」

 祈る、か。
 空からはゴロゴロと嫌な音が鳴り始めている。
 私は小走りに屋敷に向けて駆け出していた。
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