災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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22.来訪者あらわる

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 焼きたてのパンケーキの香りが部屋に満ちる。
 リアンはパンケーキをぺろりと平らげて、空になったお皿をテーブルに置いた。

「満足したか?」
「うん、美味しかった。ゼルファス、本当になんでも出来るね……! 凄い。天才だ」
「いやいや、パンケーキ一つで大袈裟だな」

 そんなゼルファスの言葉は、彼の耳に届かない。

「薬師が駄目になった時は、パンケーキ屋だね」
「え、軽率に俺を失業させるのやめて」

 ゼルファスのつっこみをスルーして、リアンは満足そうに食べ終わった食器を流し場へと運んでいく。

「聞いてねえし……ま、いいか」

 その後ろ姿にゼルファスが小さく笑みを落とした──その時だった。

 ドンドンッ!!
 ドアを乱暴に叩く音が、森の家に似つかわしくないほど大きく響いた。

「……誰だ?」
「お客さんかな? 村の人とか?」
「ここ結構、森の奥だぞ? わざわざ村から来る場所じゃ……」

 ゼルファスが怪訝な表情を浮かべ、立ち上がった時だった。
 再び強いノックがドアを叩く。

「ゼルファスっ! いるのか? いるんなら開けてくれっ!!」

 必死に叫ぶ声。
 聞き覚えがある。村のネズミ退治を依頼した若い村人だ。
 これはただ事じゃないと、ゼルファスは急いでドアを開けた。

「お、おい……! どうした?」

 ドアを開けると、例の男が息を切らせて立っていた。顔色は青白く、腕からは血が滲んでいた。

「ゼルファス! よかった、家に……っ!」
「落ち着け。何があったんだよ?」
「村に、で、出た……! 魔物がっ……! しかも、見たことないやつで……! ネズミなんてものじゃ……ない! 今、皆で応戦してるけど……っ」

 男の説明を聞きながらも、ゼルファスは彼の怪我を確認する。
 一見大したこと無さそうに見えるが、魔力の反応からして腕が壊死しかけている。

「リアン、悪い。奥の棚、左から三番目にある赤い瓶取ってくれ」
「分かった」

 リアンは流れるような動きで薬瓶をゼルファスに手渡した。
 ゼルファスは中に入った液体を男の腕に満遍なく振りかける。素早く左手に魔力を集中させ、彼の右腕に当てた。
 腐食していた皮膚がじわりと色を取り戻し、男の表情も少しずつ落ち着いていく。

「……で、被害は?」
「畑は、めちゃくちゃに踏み荒らされて……! 家も何軒か壊された。怪我人も出て……! それと……」

 男は言いにくそうに視線を泳がせ、そして。

「たまたま近場に居合わせた、イマっていう男が戦ってるけど……かなり雲行きが怪しい。お前達のところに来たのもそのためだ。本当はそいつ的に、お前達に救援を求めるのは反対されていた……! どうせ何も出来ないからって」

 リアンの身体がびくりと固まった。
 ゼルファスの肩が、ほんの一瞬だけ強張る。

「でも……そんな事はないって、俺も村の奴らも……みんなそう思ってるからここまで来たんだ……!」

 リアンが息を飲んだ。
 ゼルファスがほんの数秒、沈黙する。
 けれど、その瞳の奥には揺れない決意が宿っていた。

「……そうか。分かった」
「ゼルファス」
「平気だ。俺ならたぶんなんとかなる」

 ゼルファスは淡々と答えつつ、ローブを羽織った。
 その横顔はいつもの悪態をつく時とは違う、冷静な魔導士の顔。
 リアンは拳を握りしめ、ゼルファスの後を追うように立ち上がった。

「そうじゃないよ、俺も行く」

 ゼルファスが振り返る。
 驚いたように、そしていつもの表情に戻って、目を細めた。

「……分かった」

 こうして、ふたりは村へ向かって走り出したのだった。
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