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しおりを挟むばたばたと足音を立てながら無我夢中で廊下を走る。クレハちゃん達にあらかじめ屋敷内部の構造は教えて貰っていたけれど、頭の中で思い描くのと実際に動き回るのじゃ話は別だ。死ぬほど疲れる。
「もう……あの、ノノアさん……」
「……」
「何ですか、屋敷を壊すって?」
「……」
「ちょっと聞いてますか?」
「……」
「無視!?」
私が黙っていると、ルカちゃんが若干キレ気味に突っかかってきた。私は小さくため息をつく。
「だからさっき言った通りだよ。そのままの意味。屋敷を壊すの」
「屋敷を壊すって意味が分からないんですけど!? そんなことしたら崩れて全員下敷きになりますが!?」
「そうならないために、ルカちゃんにお願いしたのにー……」
彼にはクレハちゃんのご両親を連れて、先に地下から脱出させる役目をお願いしていた。それなのに、なんで今もまだ一緒に行動してるかっていうと……彼がいつまでたっても私から離れようとしなかったからである。
「嫌ですよ、そんなの! なんで僕がノノアさんを置いていかなきゃいけないんですか!?」
「私の方は大丈夫だって」
「そんな保証はどこにも無いですよね?」
「ま、そうだけど」
「ほらー!」
そんな訳で、クレハちゃんとご両親は地下通路から自力で脱出して貰うことになったのだった。ルカちゃんったら心配性。何故か自然と笑みが零れた。
「何笑ってるんですか!?」
「いや、ルカちゃんは優しいなあって」
「どこが!? 全然優しくないですよ!」
「はいはいそうだねー……っと、目的地に着いたみたい」
まだ不満がありそうなルカちゃんを無視し、私はある部屋の前で立ち止まった。
「ここですか」
軽く息切れをしている私に対し、汗もあまりかいてないルカちゃん。まだ全然走れそうだ。体力があって羨ましい。
「そ、ここ」
「で、この先には何が待っているんですか?」
「やだな、もちろん親玉だよ。悪の親玉」
ルカちゃんが固まった。
「え、あの……さっきは屋敷を破壊するって話をしてたんじゃ」
「うん、だからそのためには親玉を倒さないと」
私はにこやかな笑顔を浮かべたまま杖を構えた。その途端ルカちゃんが慌てて私の腕を掴んできた。
「逆でしょ、逆! いや、逆でも無いのかもしれないけど、でも親玉を倒したら屋敷は破壊しなくていいのでは!?」
「ま、流れで上手い事なんとかなるでしょ」
「ちょっと待って下さい!」
「大丈夫でしょー」
そう言いながら、私は扉をゆっくりと押した。
ぎいっという音を立てて扉が開くと、その先にはーー。
「これは……」
部屋全体に禍々しい魔力が充満していた。辺り一面には幾重もの魔法陣が浮かび上がっている。これはどう見ても素人目にどうこう出来る代物じゃない。すぐに私は杖を下ろした。
「あらー、これは無理だねー」
「だから言ったのに……って、危ないっ」
ルカちゃんは咄嗟に私を抱えてその場から飛び退いた。直後、私達が先ほどまでいた場所に大きな稲妻が落ちる。
「さすが魔物の親玉」
「感心してる場合ですか!? ああもうっ、これだからこの人は……」
彼に手を引かれ、私達は素早く物陰へと隠れたのだった。
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