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7.聖女は時にエルボーを放つ
しおりを挟む「私に教養が無かったようで、本当にすみません」
「ううん、そんな事無いわ。万人が自分を知っていると思っていた私の方こそ未熟だったの、ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ何も知らず……」
「いえいえ、私こそ……」
繰り返される謝罪合戦。このままじゃ一生終わらない。
しびれを切らしたのは私でも彼女でも無く、黒服の魔法使いだった。
「はいそこまで!」
その声にぴたりと私達の謝罪が止まる。
「フリード?」
不安そうにクロム様が覗き込む。本人は一切視線をあわせなかった。
「僕がお答えしましょう。クロム様に非は一切ありません!」
嫌な予感。
力強く宣言した彼は、厳しい眼差しで私を睨んだ。
「クロム・エルレリット様といえば、今時、幼年の子供でも知ってる名です」
それはそれは大層な有名人で。
でも知らないものは知らないので仕方がない。
「知らないというのであれば、その存在自体が怪しまれます。というわけで」
「?」
彼の手が真っ直ぐに私の額に伸びた。
いつでも魔法で殺せるという合図かもしれない。いや待て馬鹿。
「お前は一体何者だ?」
「そ、それは」
異世界転生した一般市民です。
そう言えてしまえば楽なのに。そんな事言っても理解して貰えない自信がある。こんな所で死にたくない。さあどうする?
「やめなさい、フリード。全ての人間が知っているという認識は私達のおごりです。分からなければ説明すればいい。そうでしょ?」
さすがクロム様。懐が深い。
「それはこの女が自分で調べればいい話です。それに僕にはコイツが」
「フリード?」
「う……」
よっぽど彼女には弱いらしい。彼はバツが悪そうに口をつぐんだ。
なんとか助かったか。
「改めまして、私の名前はクロム・エルレリットと申します。聖女として各地を旅をしている者です」
「これはわざわざご丁寧にどうも」
聖女か、何度聞いても一般市民とは無縁の人種だなぁ。
「クロム様が名乗ったんだからお前も名乗れよ」
それは確かに。
「えっと、更科……更科しずくと申します。職業は……一般市民です」
それ以外の情報については、正直今のところ分かってないんだよなあ。知っていたら教えて欲しいくらいで。
「サラシナシズク? 変わった名前だっ……ごふっ」
「まあ、可愛いお名前ですね」
「は、はあ」
今、クロム様、この人に向けてお腹にエルボーかましたよな。気のせいかな。いや、気のせいじゃないな。
「昔、読んだ書物に似たような響きの名前を見かけたことがあります。ええっと、なので……シズクさんって呼んでいい?」
「ああ、そうですね」
お腹を抱えて疼くまる彼をよそに、私はにこやかに会話を続けたのだった。
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