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14.お金がいっぱい貯まりますように

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 白の衣装を身にまとった、天使のような少女が祈りを捧げている。決して一般市民には届かない領域。

 美しい。
 でも、少し退屈だった。

「飽きませんか、これ」
「失礼な奴だな」

 隣に立っていた男は、呆れ口調でそう言った。

「大体、普通この状況でしゃがむか?」
「だって足が疲れてきましたし」
「お前……」

 彼は不満ありげに言葉をつまらせた。
 今が祈りの場で無ければきっと魔法が炸裂しただろう。
 真剣な眼差しで少女を見守る彼を、私はぼんやりと見上げた。

「で、結局のところ私がこの場所に連れてこられた理由とは?」
 
 見る限り、クロム様の祈りは問題なく成功しているように思える。
 一般人である私の存在は、こうして思わずしゃがんで頬杖をついてしまうほどに不釣り合いなものだった。
 
「不要になったなら帰りますけど?」

 一応相手が言いにくい場合を考慮して、こちらから提案してみる。
 しかし彼は首を縦には振らなかった。

「見てれば分かるから、あと少しだけ待ってろ」
「……はいはーい」

 切り捨てられなかったことに心のどこかで安堵しつつ、私は大人しく彼女を待った。
 祈りはまだ続いている。
 彼女の周囲は、昼間なのにキラキラと光が輝いて、それが流れ星のように降り注いでいた。
 その光景はまるで、祈りを捧げる少女と名付けられた、洗練された一枚の絵画のようだった。

「私の故郷では、こういう時、願い事をすると叶うっていうジンクスがあるんですよ」
「やらなくていいからな?」
「分かりました」

 お金がいっぱい貯まりますように、っと。

 私の願いに共鳴するように、光はより一層輝きを増した。それだけでは無い。街中の家々から、人々の願いとでもいうように、光の粒が溢れ始めたのである。

「おお、すごい」

 彼女の頭上に一つまた一つと光が集まる。
 それは次第に大きな光の玉となっていった。

「これって最後どうなるんですか?」

 次第に退屈が興味へと置き換わる。
 光は既に人を一人飲み込むほどの大きさにまでなっていた。

「ねえ、フリードさ……」

 隣には誰もいなかった。
 さっきまでいた男の姿が影も形も存在しない。

 そして光の玉は、何故かこちらへ向かって来ていた。

「え、いや、これ危険じゃ……」
「心配するな」
「あ、その声はフリードさん。どうしたんです、私の背後にまわったりなんかして。ところでアレ、こっちに向かってきてませんか?」
「……」
「向かってきてますよねぇ!?」
「うるさい、おとなしくしてろ!」

 私は逃げようにも逃げられなかった。彼の手が、ガッチリ私の肩をホールドしているのだ。おのれ、背後にまわったのはその為か!

「人柱ってやつでしょこれ。やだ、怖い、無理、死ぬ!」
「違う! いいから空気読め。静かにしろ!」
「うわー根拠の無い変な儀式で死にたくない!!」

 カッ

 閃光弾でも浴びたかのように、視界は一瞬にして白く覆われた。

「あーあ、死んじゃった。私、死んじゃった」
「死ーんーでーなーいー」
「死んでないー……の? あ、あれ?」

 確かに痛いところはどこも無かった。
 意識も体も驚くほどにぴんぴんしている。

「フリード、成功しましたか?」
「ええ、こちらは問題ありません」
「……どういう事?」

 いつの間にか地鳴りは静かになっていた。
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