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3-2 契約一日目
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食堂で昨日と同じ位置に座ると、メイドが手際よく食事を運んでくる。
ここでもアデレードは感心した。
ロールパンにサラダ、スクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコン、オレンジジュース。
バルモア家の定番の朝食メニューが並ぶ。
(こんな風なら、あんな契約しなくても良かったわね)
ペイトンの女性嫌いの噂は事前に把握していて、陰湿な嫌がらせをされる懸念があった。
同時にやられたらやり返してやる気概もあった。
アデレードは元々気の弱い性格ではない。母国にいた時、同級生達に好き放題に嘲笑されていたのはアデレードが抗議するとレイモンドが怒るからだ。
「冗談も通じないのか」とか「彼女はそんな意味で言ったんじゃない」と他の令嬢達を庇うので、レイモンドに嫌われたくなくて反論しなくなった。
すると周囲は増長して、気づけば「あの女は馬鹿にしてもよい」という空気が出来上がっていた。
惨めだった。
もう二度と他人に舐められたくない。だから、ペイトンが問答無用に宣告した時、わざと真逆な答えを返した。
ペイトンの申し出通りにお互い干渉せず一年間暮らすことに同意して良かったのに、癪に障ったから変な契約を結んでしまった。
しかも、明らかにこちらが有利な内容だ。こんなに気を遣ってもてなされると罪悪感が芽生えてしまう。
(まぁ、罰則を簡単なものにすれば問題ないでしょ)
しかし、あくまで気楽に考えていた。
大袈裟に契約書まで作成してしまったが、平穏に結婚生活が送れれば問題ない。
政略結婚に関わらず嫁を虐げる家は結構あると聞く。
ましてや隣国で頼れる者もいない状況で、屋敷中の人間から嫌がらせをされたら堪ったものではない。
「愛され大切にされたい」とはイコール「母国にいた頃と同等の生活の保証」という意味だ。
それ以上のことは全く望んでいない。
(そういえば、妻の務めって何かあるのかしら?)
これは白い結婚だ。
屋敷の管理や事業のあれこれを任せても離婚後は、また元の業務体系に戻さねばならない。
だったら、初めから何もさせないというのはよくある話だ。
特にペイトンは女性を全く信用していないので、きっと関わらせないだろう。
こっちは楽で良いが、一年遊んで暮らすのは流石にどうか。
「失礼します。奥様、おはようございます」
食事を終え、とりとめないことを考えているとジェームスが入室してきた。
「おはよう。旦那様はもうお出掛けしたのですって?」
「申し訳ありません。急な仕事が入りまして。加点はしますので」
「え? いえ、仕事で出掛けたのに加点するのは厳しすぎるのではないかしら?」
アデレードは驚いて返した。
「そうですか? では、旦那様には注意だけしておきます」
注意って何を? とアデレードは思ったが、にっこり微笑むジェームスから、否を言わせぬ意志が見て取れたので反論はせず、
「ところで、何か私がすべきことはあるかしら?」
と尋ねた。
「はい、結婚祝いの品が届いておりますから礼状と内祝の品を選ばねばなりません。もちろん申しつけて頂ければ私が手配致しますが」
「ザ・妻の務め」みたいな回答が返ってきて意外だった。
てっきり何もないと言われるかと思っていた。
社交界での繋がりを円滑に気づくには、季節折々や祝い事には適宜に贈り物を送らねばならない。
母も小まめに礼状を認めていたことをアデレードは思い返した。
「他のことはよいけど字だけは美しく書けるように練習しなさい」と口を酸っぱく言われていた。
「いえ、私がやります。でも、勝手がわからないので教えて頂けるかしら?」
答えるとジェームスは目を細めた。
「では、午後から早速作業を始めましょう」
まだ九時前だ。
今すぐ始めてよいのだけれど? と思ったが、自分と違ってジェームスには色々予定があるのだろう、と考えて、
「えぇ、よろしく」
とアデレードは素直に返事した。
ここでもアデレードは感心した。
ロールパンにサラダ、スクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコン、オレンジジュース。
バルモア家の定番の朝食メニューが並ぶ。
(こんな風なら、あんな契約しなくても良かったわね)
ペイトンの女性嫌いの噂は事前に把握していて、陰湿な嫌がらせをされる懸念があった。
同時にやられたらやり返してやる気概もあった。
アデレードは元々気の弱い性格ではない。母国にいた時、同級生達に好き放題に嘲笑されていたのはアデレードが抗議するとレイモンドが怒るからだ。
「冗談も通じないのか」とか「彼女はそんな意味で言ったんじゃない」と他の令嬢達を庇うので、レイモンドに嫌われたくなくて反論しなくなった。
すると周囲は増長して、気づけば「あの女は馬鹿にしてもよい」という空気が出来上がっていた。
惨めだった。
もう二度と他人に舐められたくない。だから、ペイトンが問答無用に宣告した時、わざと真逆な答えを返した。
ペイトンの申し出通りにお互い干渉せず一年間暮らすことに同意して良かったのに、癪に障ったから変な契約を結んでしまった。
しかも、明らかにこちらが有利な内容だ。こんなに気を遣ってもてなされると罪悪感が芽生えてしまう。
(まぁ、罰則を簡単なものにすれば問題ないでしょ)
しかし、あくまで気楽に考えていた。
大袈裟に契約書まで作成してしまったが、平穏に結婚生活が送れれば問題ない。
政略結婚に関わらず嫁を虐げる家は結構あると聞く。
ましてや隣国で頼れる者もいない状況で、屋敷中の人間から嫌がらせをされたら堪ったものではない。
「愛され大切にされたい」とはイコール「母国にいた頃と同等の生活の保証」という意味だ。
それ以上のことは全く望んでいない。
(そういえば、妻の務めって何かあるのかしら?)
これは白い結婚だ。
屋敷の管理や事業のあれこれを任せても離婚後は、また元の業務体系に戻さねばならない。
だったら、初めから何もさせないというのはよくある話だ。
特にペイトンは女性を全く信用していないので、きっと関わらせないだろう。
こっちは楽で良いが、一年遊んで暮らすのは流石にどうか。
「失礼します。奥様、おはようございます」
食事を終え、とりとめないことを考えているとジェームスが入室してきた。
「おはよう。旦那様はもうお出掛けしたのですって?」
「申し訳ありません。急な仕事が入りまして。加点はしますので」
「え? いえ、仕事で出掛けたのに加点するのは厳しすぎるのではないかしら?」
アデレードは驚いて返した。
「そうですか? では、旦那様には注意だけしておきます」
注意って何を? とアデレードは思ったが、にっこり微笑むジェームスから、否を言わせぬ意志が見て取れたので反論はせず、
「ところで、何か私がすべきことはあるかしら?」
と尋ねた。
「はい、結婚祝いの品が届いておりますから礼状と内祝の品を選ばねばなりません。もちろん申しつけて頂ければ私が手配致しますが」
「ザ・妻の務め」みたいな回答が返ってきて意外だった。
てっきり何もないと言われるかと思っていた。
社交界での繋がりを円滑に気づくには、季節折々や祝い事には適宜に贈り物を送らねばならない。
母も小まめに礼状を認めていたことをアデレードは思い返した。
「他のことはよいけど字だけは美しく書けるように練習しなさい」と口を酸っぱく言われていた。
「いえ、私がやります。でも、勝手がわからないので教えて頂けるかしら?」
答えるとジェームスは目を細めた。
「では、午後から早速作業を始めましょう」
まだ九時前だ。
今すぐ始めてよいのだけれど? と思ったが、自分と違ってジェームスには色々予定があるのだろう、と考えて、
「えぇ、よろしく」
とアデレードは素直に返事した。
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