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5-4 晩餐
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「そうそう、来週末なんだが観劇のチケットをもらってね。二人で行ってくるといい」
食事も終盤になった頃合いで、フォアード侯爵が胸ポケットからチケット差し出した。
タイトルを見て、
「え、勿忘草ですか?」
と声が漏れた。
「知っているのかい?」
「三、四年くらい前上演していたやつですよね。自国にいる時観ました」
「そうだ。続編が上演されるので前作の公演も復活したらしい」
「え! 続編がくるんですか?」
「あぁ、今シーズンの上演が終了したら次のシーズンは続編だと聞いたな」
悲恋物のストーリーで上演当初はかなり賛否両論があった作品だ。
浮気者の放蕩男に尽くして尽くして一途な恋心を捧げる令嬢の話だ。
ラストは改心した男が没落した令嬢を迎えに行くが、全てを失った自分では男の足枷になると令嬢は姿をくらませる。
男は絶対に令嬢を捜し出すと誓った所で幕は下りる。
その後は言及されていないため、復縁派か破局派に意見が分かれた。
「そうなんですね。まさかまた勿忘草の公演が観れるとは思いませんでした。チケット有難く頂きます。凄く嬉しいです」
「アデレードちゃんは観劇が好きなんだね。だったら続編のチケットも手配しておくよ」
フォアード侯爵が笑って言うが、なんだか催促したようで申し訳ない。
多分、人気公演になるから手配しづらい。シーズン後半の公演を狙えば自分で入手できるはずだ。
「いえ、それは、」
「続編のチケットは自分達で取るので無用です」
アデレードの言葉に被せてペイトンが言った。
え、とアデレードは驚いた。
チケットを取る、ということにではなくて「自分達で」と言ったことに対して。
つまりそれは続編も二人で観に行く意味ではないか。
この物語はラブロマンスでペイトンが絶対観ない内容だ。
本人が見に行く気なら止めはしないが、隣で文句を言われたらブチ切れてしまいそうで自分が怖い。
「人気公演だから早めに予約しないと売り切れかもしれんぞ」
アデレードを放置して話は進んでいく。
「僕にも伝手はありますから」
「そうか。妻の願いを叶えるのは夫の務めだからな」
フォアード侯爵は満足げだ。
もしかしてペイトンはわざと誤解させるような対応をしているのかもしれないな、とアデレードは思った。
最初からはねつけているより、努力していた上での破局の方が「やっぱり結婚には向いていない」と印象づく。
挙動不審な男だと侮っていたが意外に策士なのかもしれない。
「旦那様、有難うございます」
結局ペイトンが手配することになったので素直に礼を言う。
ペイトンは長身なので、座ってもアデレードが見上げる状態になる。
そんなアデレードの視線を感じでいるはずなのにペイトンは前を向いたまま、
「いや、別に……」
とぼそぼそ言った。
それから、楽しいのか、楽しくないのか、時間だけは経過していき、デザートが出てくる段階でまた、
「他にも頼みたい物があるなら頼んだらいい。デザートメニューを貰うから」
とペイトンが言い出した。
「もうお腹いっぱいなんでこのケーキだけで十分ですよ」
アデレードが返しても「遠慮することはない」としきりに言う。
(全然遠慮じゃないんだけど)
とアデレードが言い掛けた時、
「失礼します。ロベルタ伯爵様がご挨拶したいと仰っておられますが」
とウェイターが面通しを求める伝言を持ってきた。
完全個室ではないのでフロアの様子が見える。こちらを向いて立っている男性と女性が二人いる。
年齢からして両親と娘だろう。フォアード侯爵からは背中側になっていたが、
「そうか。通してくれ」
と振り返ることなく告げた。
食事も終盤になった頃合いで、フォアード侯爵が胸ポケットからチケット差し出した。
タイトルを見て、
「え、勿忘草ですか?」
と声が漏れた。
「知っているのかい?」
「三、四年くらい前上演していたやつですよね。自国にいる時観ました」
「そうだ。続編が上演されるので前作の公演も復活したらしい」
「え! 続編がくるんですか?」
「あぁ、今シーズンの上演が終了したら次のシーズンは続編だと聞いたな」
悲恋物のストーリーで上演当初はかなり賛否両論があった作品だ。
浮気者の放蕩男に尽くして尽くして一途な恋心を捧げる令嬢の話だ。
ラストは改心した男が没落した令嬢を迎えに行くが、全てを失った自分では男の足枷になると令嬢は姿をくらませる。
男は絶対に令嬢を捜し出すと誓った所で幕は下りる。
その後は言及されていないため、復縁派か破局派に意見が分かれた。
「そうなんですね。まさかまた勿忘草の公演が観れるとは思いませんでした。チケット有難く頂きます。凄く嬉しいです」
「アデレードちゃんは観劇が好きなんだね。だったら続編のチケットも手配しておくよ」
フォアード侯爵が笑って言うが、なんだか催促したようで申し訳ない。
多分、人気公演になるから手配しづらい。シーズン後半の公演を狙えば自分で入手できるはずだ。
「いえ、それは、」
「続編のチケットは自分達で取るので無用です」
アデレードの言葉に被せてペイトンが言った。
え、とアデレードは驚いた。
チケットを取る、ということにではなくて「自分達で」と言ったことに対して。
つまりそれは続編も二人で観に行く意味ではないか。
この物語はラブロマンスでペイトンが絶対観ない内容だ。
本人が見に行く気なら止めはしないが、隣で文句を言われたらブチ切れてしまいそうで自分が怖い。
「人気公演だから早めに予約しないと売り切れかもしれんぞ」
アデレードを放置して話は進んでいく。
「僕にも伝手はありますから」
「そうか。妻の願いを叶えるのは夫の務めだからな」
フォアード侯爵は満足げだ。
もしかしてペイトンはわざと誤解させるような対応をしているのかもしれないな、とアデレードは思った。
最初からはねつけているより、努力していた上での破局の方が「やっぱり結婚には向いていない」と印象づく。
挙動不審な男だと侮っていたが意外に策士なのかもしれない。
「旦那様、有難うございます」
結局ペイトンが手配することになったので素直に礼を言う。
ペイトンは長身なので、座ってもアデレードが見上げる状態になる。
そんなアデレードの視線を感じでいるはずなのにペイトンは前を向いたまま、
「いや、別に……」
とぼそぼそ言った。
それから、楽しいのか、楽しくないのか、時間だけは経過していき、デザートが出てくる段階でまた、
「他にも頼みたい物があるなら頼んだらいい。デザートメニューを貰うから」
とペイトンが言い出した。
「もうお腹いっぱいなんでこのケーキだけで十分ですよ」
アデレードが返しても「遠慮することはない」としきりに言う。
(全然遠慮じゃないんだけど)
とアデレードが言い掛けた時、
「失礼します。ロベルタ伯爵様がご挨拶したいと仰っておられますが」
とウェイターが面通しを求める伝言を持ってきた。
完全個室ではないのでフロアの様子が見える。こちらを向いて立っている男性と女性が二人いる。
年齢からして両親と娘だろう。フォアード侯爵からは背中側になっていたが、
「そうか。通してくれ」
と振り返ることなく告げた。
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