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5-3 晩餐
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レストランは旧国会議事堂を改築してできたらしい白亜の建物だった。
馬車から下り、ペイトンにエスコートされて中へ入る。
吹き抜けのフロアにテーブル席が三十ほど用意されている。
殆どの席が埋まっており、客層は明らかに貴族ばかりだった。
ペイトンがフォアード家の名を告げると支配人らしい男が飛んででてきて、フロアの奥の半個室のような席に案内された。
「やぁ、よく来てくれたね」
既に着席していたフォアード侯爵がにこにこと言った。
「本日はお招きいただき感謝します」
アデレードがカーテシーをすると、
「もう家族なのだからそんな堅苦しい挨拶はいらないよ」
と優しく笑う。
フォアード侯爵とアデレードの父は学生時代からの友人だ。
フォアード侯爵は貿易商を営む仕事柄、海外を飛び回っていて、隣国へ来訪する時はバルモア家へ滞在することもあった。
なので、アデレードとフォアード侯爵とは幼い頃から顔見知りでもある。
ペイトンなんかよりも余程話し易い相手だ。
フォアード侯爵の向かいにアデレードとペイトンが並んで座る。
「何か嫌いな物はあるかね?」
フォアード侯爵に尋ねられて首を振ると、
「遠慮することないぞ」
とペイトンが横から口を挟む。
「あ、はい。本当に大丈夫です」
「自分で好きな物を選んだ方がよいのじゃないか」
「いえ……」
こういう場では招待主がメニューを決めて頼むのが通常だ。
そんなことを言われても逆に困るのだが。
「困っているじゃないか」
フォアード侯爵が察して助け舟を出してくれる。
「嫌いな物を無理に食べさせたら可哀想だろ」
いやフォアード侯爵が正しいから、とアデレードは困惑した。
この男の思考はちょっと自分には手に負えない。
「旦那様、本当に私は好き嫌いないので」
「……そうか。嫌なら残せばいいから」
親切というより、なにがなんでも偏食者にしたいように思える。
そっちは父親相手だから好き放題言えるが、こっちからしたら義父なんだからな、と抗議したい気持ちが湧くが、苦笑いするだけにとどめた。
注文を終えるとすぐに食前酒が運ばれてくる。
白のスパークリングワイン。
酒は十五でデビュタントを済ませれば解禁になる。
アデレードは、弱くはないがすぐに顔に出るので進んでは飲まない。ただ、出された物は頂くことにしている。
アデレードがグラスを手に取ると、
「それは酒だぞ」
とペイトンが間髪入れずに言う。
「アルコールが入ってない物がよいのじゃないか」
「いえ、大丈夫です」
幾つだと思っているのか。
アデレードは、心配げに見てくるペイトンを若干鬱陶しく感じながらグラスに口をつけた。
「生活には少しは慣れたかな? 何か不自由なことはないかい?」
「はい、屋敷の方にもよくしてもらっています」
フォアード侯爵との卒のない会話が続いていくが、前菜が運ばれて来たタイミングで、
「君、顔が赤いぞ。大丈夫か。酔ったんじゃないか。水を飲みなさい」
とまたペイトンがいらぬ世話を焼きはじめた。
「顔に出やすいだけで大して酔ってはいないんで大丈夫です」
「いや、しかし、」
「大丈夫だってば!」
思わずボロッと溢してしまうが、義父の前で失言だった。
妻は夫に従って尽くすべき、という思想は貴族社会では根強く残っている。
人前で夫に反発すべきではない。が、
「愚息はアデレードちゃんが気になって仕方ないらしい」
とフォアード侯爵は満足げに笑った。
「下らないことを言わないでください」
ペイトンの抗議にも、
「五歳も年下の妻をもらって可愛く思わん男なんていないさ。普通のことだ」
とフォアード侯爵はにこやかに返す。
いや、本当に全然全くそういうのではなく愛され妻契約を結んでいるだけです、とアデレードは言おうと思ったが、ウェイターが皿を下げに来たのでタイミングを逃した。
ペイトンが代わりに言ってくれたらよいのに、とチラッと目配せしてみるがこっちを見る気配がない。
いらんことはとやかく絡んでくるくせに全く役に立たない男だと思う。
魚料理、肉料理が順次運ばれてくる間も、
「本当に二人が上手くいっているようで良かった」
とフォアード侯爵がひたすら嬉しそうなので、アデレードは騙しているような後ろ暗さを感じた。
しかし、ペイトンがあまりに否定しないので、途中から自分の親の誤解は自分で解いてもらおうと、アデレードもにこにこすることに徹した。
馬車から下り、ペイトンにエスコートされて中へ入る。
吹き抜けのフロアにテーブル席が三十ほど用意されている。
殆どの席が埋まっており、客層は明らかに貴族ばかりだった。
ペイトンがフォアード家の名を告げると支配人らしい男が飛んででてきて、フロアの奥の半個室のような席に案内された。
「やぁ、よく来てくれたね」
既に着席していたフォアード侯爵がにこにこと言った。
「本日はお招きいただき感謝します」
アデレードがカーテシーをすると、
「もう家族なのだからそんな堅苦しい挨拶はいらないよ」
と優しく笑う。
フォアード侯爵とアデレードの父は学生時代からの友人だ。
フォアード侯爵は貿易商を営む仕事柄、海外を飛び回っていて、隣国へ来訪する時はバルモア家へ滞在することもあった。
なので、アデレードとフォアード侯爵とは幼い頃から顔見知りでもある。
ペイトンなんかよりも余程話し易い相手だ。
フォアード侯爵の向かいにアデレードとペイトンが並んで座る。
「何か嫌いな物はあるかね?」
フォアード侯爵に尋ねられて首を振ると、
「遠慮することないぞ」
とペイトンが横から口を挟む。
「あ、はい。本当に大丈夫です」
「自分で好きな物を選んだ方がよいのじゃないか」
「いえ……」
こういう場では招待主がメニューを決めて頼むのが通常だ。
そんなことを言われても逆に困るのだが。
「困っているじゃないか」
フォアード侯爵が察して助け舟を出してくれる。
「嫌いな物を無理に食べさせたら可哀想だろ」
いやフォアード侯爵が正しいから、とアデレードは困惑した。
この男の思考はちょっと自分には手に負えない。
「旦那様、本当に私は好き嫌いないので」
「……そうか。嫌なら残せばいいから」
親切というより、なにがなんでも偏食者にしたいように思える。
そっちは父親相手だから好き放題言えるが、こっちからしたら義父なんだからな、と抗議したい気持ちが湧くが、苦笑いするだけにとどめた。
注文を終えるとすぐに食前酒が運ばれてくる。
白のスパークリングワイン。
酒は十五でデビュタントを済ませれば解禁になる。
アデレードは、弱くはないがすぐに顔に出るので進んでは飲まない。ただ、出された物は頂くことにしている。
アデレードがグラスを手に取ると、
「それは酒だぞ」
とペイトンが間髪入れずに言う。
「アルコールが入ってない物がよいのじゃないか」
「いえ、大丈夫です」
幾つだと思っているのか。
アデレードは、心配げに見てくるペイトンを若干鬱陶しく感じながらグラスに口をつけた。
「生活には少しは慣れたかな? 何か不自由なことはないかい?」
「はい、屋敷の方にもよくしてもらっています」
フォアード侯爵との卒のない会話が続いていくが、前菜が運ばれて来たタイミングで、
「君、顔が赤いぞ。大丈夫か。酔ったんじゃないか。水を飲みなさい」
とまたペイトンがいらぬ世話を焼きはじめた。
「顔に出やすいだけで大して酔ってはいないんで大丈夫です」
「いや、しかし、」
「大丈夫だってば!」
思わずボロッと溢してしまうが、義父の前で失言だった。
妻は夫に従って尽くすべき、という思想は貴族社会では根強く残っている。
人前で夫に反発すべきではない。が、
「愚息はアデレードちゃんが気になって仕方ないらしい」
とフォアード侯爵は満足げに笑った。
「下らないことを言わないでください」
ペイトンの抗議にも、
「五歳も年下の妻をもらって可愛く思わん男なんていないさ。普通のことだ」
とフォアード侯爵はにこやかに返す。
いや、本当に全然全くそういうのではなく愛され妻契約を結んでいるだけです、とアデレードは言おうと思ったが、ウェイターが皿を下げに来たのでタイミングを逃した。
ペイトンが代わりに言ってくれたらよいのに、とチラッと目配せしてみるがこっちを見る気配がない。
いらんことはとやかく絡んでくるくせに全く役に立たない男だと思う。
魚料理、肉料理が順次運ばれてくる間も、
「本当に二人が上手くいっているようで良かった」
とフォアード侯爵がひたすら嬉しそうなので、アデレードは騙しているような後ろ暗さを感じた。
しかし、ペイトンがあまりに否定しないので、途中から自分の親の誤解は自分で解いてもらおうと、アデレードもにこにこすることに徹した。
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