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7-1 ダレスシトロン服飾店
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「ドレスを?」
「はい、旦那様が奥様に夜会用のドレスを贈りたいとのことでして、ダレスシトロン服飾店のオーナーデザイナーに予約が取れました。急ですが、奥様には本日午後一時に店まで来訪して頂きたいのです」
ペイトンは「来週からは早朝出勤しなくてよくなる」と言っていた通り、今朝は一緒に朝食を取った。
といっても挨拶以外は殆ど無言で、チラッとだけ、
「今日は何をするんだ?」
「特に何も。何かすることありますか?」
「いや、好きなことをしていなさい」
という会話があった程度だ。その時には、ドレスの話なんて全くでなかった。
「どうして急にドレスなんて……」
素朴な疑問として尋ねると、
「昨夜、奥様を守って差し上げれなかったことを反省しておられましたから。奥様を大切にしていると世に知らしめる為ではないですかね」
「私、そんなことを言ったんじゃないんだけど」
「えぇ。分かっております。ですが旦那様のお気持ちですから遠慮なくお受けになればよろしいかと」
アデレードは困惑した。
ジェームスは昨日の会話の何を何処まで知っているんだろうか。
今後、夜会に出席した時のことを懸念して「女の喧嘩に口出しするな」みたいなことは言った。
食前酒だけでなくワインを二杯飲んでいて気が大きくなっていたことは認める。でも、自我はちゃんとあったし、正しい主張だったはず。
ドレスが欲しいなど一音たりとも発していない。
「誤解があるようなので、一旦お断りして、もう一度ちゃんと話し合った方がよいのじゃないかしら」
「いえ、構いません。それより奥様がお断りになる方があの方は傷つきますから」
傷つく? 初対面で暴言吐いておいて何を言っているんだ、とアデレードは思った。
アデレードはあの言動を根には持っていない。
全く根には持っていないが、最初に先制したのはお前なのだから、こっちも言いたいことははっきり言うぞ、という考えは常に意識の中にある。
しかし、同等以上の爵位の貴族の贈り物を無下に断ることは失礼にあたる、という貴族特有のマナーがある。
結局、アデレードはジェームスの説得と「暇だし行こうかな」くらいの軽いノリでダレスシトロン服飾店へ向かうことにした。
ジェームスが手配してくれた馬車に乗り、何処にあるのかわからぬまま現地に着いた。
ダレスシトロン服飾店と看板が上がっているが、商いを営んでいるようには見えない。
重厚な煉瓦造りの閑静な屋敷で人の出入りがまるでない。
看板が掛かっているので間違いはないだろうが、半信半疑で八段の階段を上り、厳ついライオンのドアノッカーに手を掛ける。振りが足りなかったせいで頼りない音がした。
が、扉番が内側に控えていたらしくすぐに扉が開いた。
黒い燕尾服。正装したドアマンが、
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」
と尋ねてくる。
アデレードは「バルモア」と言いかけて、改めて自分が「フォアード」であることを自覚した。
「アデレード・フォアードと申します。一時に予約を入れてあるはずです」
「失礼しました。フォアード小侯爵夫人、小侯爵は既にお着きです」
ドアマンが軽く手を挙げると女性従業員が案内にやってきた。
先導されるまま従う。
通された部屋はあまり広くない応接間で、テーブルを挟んだソファにペイトンと女性が向かい合って座っていた。
ジェームス曰く、ダレスシトロン服飾店はバリバラ王国では知らぬ人のいない有名店らしい。
そう思って見るせいか、窓に掛けられているカーテン一つとってもセンスがいい。
花瓶やキャンドルスタンドといった調度品も、必要な所に洒落た品をバシッと置いてある。
部屋は狭いが圧迫感のない配置だ。
「はい、旦那様が奥様に夜会用のドレスを贈りたいとのことでして、ダレスシトロン服飾店のオーナーデザイナーに予約が取れました。急ですが、奥様には本日午後一時に店まで来訪して頂きたいのです」
ペイトンは「来週からは早朝出勤しなくてよくなる」と言っていた通り、今朝は一緒に朝食を取った。
といっても挨拶以外は殆ど無言で、チラッとだけ、
「今日は何をするんだ?」
「特に何も。何かすることありますか?」
「いや、好きなことをしていなさい」
という会話があった程度だ。その時には、ドレスの話なんて全くでなかった。
「どうして急にドレスなんて……」
素朴な疑問として尋ねると、
「昨夜、奥様を守って差し上げれなかったことを反省しておられましたから。奥様を大切にしていると世に知らしめる為ではないですかね」
「私、そんなことを言ったんじゃないんだけど」
「えぇ。分かっております。ですが旦那様のお気持ちですから遠慮なくお受けになればよろしいかと」
アデレードは困惑した。
ジェームスは昨日の会話の何を何処まで知っているんだろうか。
今後、夜会に出席した時のことを懸念して「女の喧嘩に口出しするな」みたいなことは言った。
食前酒だけでなくワインを二杯飲んでいて気が大きくなっていたことは認める。でも、自我はちゃんとあったし、正しい主張だったはず。
ドレスが欲しいなど一音たりとも発していない。
「誤解があるようなので、一旦お断りして、もう一度ちゃんと話し合った方がよいのじゃないかしら」
「いえ、構いません。それより奥様がお断りになる方があの方は傷つきますから」
傷つく? 初対面で暴言吐いておいて何を言っているんだ、とアデレードは思った。
アデレードはあの言動を根には持っていない。
全く根には持っていないが、最初に先制したのはお前なのだから、こっちも言いたいことははっきり言うぞ、という考えは常に意識の中にある。
しかし、同等以上の爵位の貴族の贈り物を無下に断ることは失礼にあたる、という貴族特有のマナーがある。
結局、アデレードはジェームスの説得と「暇だし行こうかな」くらいの軽いノリでダレスシトロン服飾店へ向かうことにした。
ジェームスが手配してくれた馬車に乗り、何処にあるのかわからぬまま現地に着いた。
ダレスシトロン服飾店と看板が上がっているが、商いを営んでいるようには見えない。
重厚な煉瓦造りの閑静な屋敷で人の出入りがまるでない。
看板が掛かっているので間違いはないだろうが、半信半疑で八段の階段を上り、厳ついライオンのドアノッカーに手を掛ける。振りが足りなかったせいで頼りない音がした。
が、扉番が内側に控えていたらしくすぐに扉が開いた。
黒い燕尾服。正装したドアマンが、
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」
と尋ねてくる。
アデレードは「バルモア」と言いかけて、改めて自分が「フォアード」であることを自覚した。
「アデレード・フォアードと申します。一時に予約を入れてあるはずです」
「失礼しました。フォアード小侯爵夫人、小侯爵は既にお着きです」
ドアマンが軽く手を挙げると女性従業員が案内にやってきた。
先導されるまま従う。
通された部屋はあまり広くない応接間で、テーブルを挟んだソファにペイトンと女性が向かい合って座っていた。
ジェームス曰く、ダレスシトロン服飾店はバリバラ王国では知らぬ人のいない有名店らしい。
そう思って見るせいか、窓に掛けられているカーテン一つとってもセンスがいい。
花瓶やキャンドルスタンドといった調度品も、必要な所に洒落た品をバシッと置いてある。
部屋は狭いが圧迫感のない配置だ。
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