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14-3 ダミアンとクリスタ
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昼食の後、本店へ移動した。
応接室へ通すとクリスタが、家具を見るのに疲弊して引き出物を選ぶ体力がないと言い出した。
それで今日は指輪だけ選ぶことになった。依頼されていた最高ランクのダイヤモンドは取り寄せ済みで後はカットの仕様と土台選びを決定するのみ。原石が既に保管されていると伝えると、クリスタは早く見せて欲しいとせっつき始めた。
三人で応接室からでたが、ペイトンは受付にアデレードの姿を見つけて目を疑った。来るなんて聞いていないし、訪れたいなどとも言われたことがない。
「すまない。少し失礼する」
ペイトンは二人に断ると、慌ててアデレードの傍まで駆け寄る。
実家から郷土菓子が届いたから差し入れに来てくれたらしい。
何故よりによって今日なのか。ダミアンはともかく、アデレードをクリスタには近寄らせたくない。
ペイトンは、鈍い方ではあるが馬鹿ではない。
アデレードに責められたロベルタ伯爵の娘について言えば、元々自分とほぼ接点がないのに、アデレードに何かするとは思っていなかった。
だが、クリスタに関しては、自分に近寄ってくる令嬢達を勝手に牽制してきていることを知っている。
ペイトンは、それに対してこれまでクリスタを咎めることはしなかった。
自分で排除する必要がなくなるので、むしろ楽でいいくらいに考えていた。
だが、アデレードは別だ。
「なんだよペイトン、俺達には紹介してくれないのか? 隠すなんて水臭いな」
ダミアンが声を掛けてきた手前、紹介するわけにもいかなくなった。案の定、
「ペイトン、貴方、酷いわよ。式も挙げていないんでしょう? こんなに可愛らしい奥様を貰っておいて可哀想じゃないの。結婚式は女の夢よ」
などとクリスタが余計な発言をする。だが、注意するより、あまりに午前中に考えていた内容に一致しすぎて、
「君、式を挙げたかったのか? 君が挙げたいなら今からでも準備するが」
と、アデレードを試すような言葉が出てしまった。
白い結婚だというのに何の前置きもなしに意味不明すぎる。
アデレードが笑うので頭に血が上っていくのを感じた。
アデレードは、結婚式に興味はないとさらりと答えたが、結婚できて良かったとも言った。
その言葉を真に受けるほどめでたくはない。ただ、馬鹿みたいな発言をした羞恥心なのか焦燥か上手く思考が回らず、その後は上擦った発言をしていた気がする。
「ねぇ、早く指輪が見たいわ」
「あぁ、そうだな。では、アデレード夫人、失礼します」
アポイトメントを入れて来訪した顧客を断って、アデレードの相手をするわけにはいかない。ペイトンは、一緒に来ていたジェームスに後を任せて階下へ降りた。
結婚指輪だけのはずが、やはり引き出物を選ぶとクリスタが言い出し、その後、披露パーティでつける首飾りとイヤリングも購入する、と結局三時間掛かった。
途中、従業員が、
「奥様は、社長が忙しそうなので帰宅されました」
と言いにきた。
「怒っていたか?」
咄嗟に口を衝いてでた言葉に、従業員は、
「いえ、全然。忙しい時に来て逆に申し訳なさそうでした」
と笑いながら言った。ペイトンは、それがアデレードの本心かどうか測りかねて困った。仕事なのでしかたない、と言ってしまえばそれまでの話なのだが。
ダミアンとクリスタを店の前まで見送りに行くと、
「折角だから、三人で夕飯を食べにいきましょうよ。こんなに長時間私達の式の準備に付き合わせちゃったんだもの!」
さも名案と言った風にクリスタが言う。
「いや、僕は遠慮しておくよ。屋敷で妻が待っているのでね。君らも、二人で過ごした方が楽しいだろ」
とペイトンは答えた。
アデレードが来ていたことは知っていたくせに気にする素振りを見せない。わざと長引かせたのかもしれないな、とペイトンは思った。
流石にそこは仕事なので文句を言うのは筋違いだが、予定にない食事にまで付き合う義理はない。
「ペイトンから『妻が待っているから』なんて言葉を聞けるとはな。可愛らしい奥方だったものな」
ははっとダミアンは笑ったが、クリスタは、
「でも、ペイトンとは合わなそう。ちょっと地味すぎない? もっと貴方の美貌に見合った人がいると思うわ」
と誰のことを指しているのか、上目遣いに言った。
クリスタのこういった発言は今に始まったことではない。だが、
「僕の妻に失礼なことを言わないでくれないか」
ペイトンはいつになくイラッときて返した。
「ちょっと、どうしちゃったのよペイトン。いつもの貴方らしくないわよ」
ペイトンが反論するとは思わなかったクリスタは不満げ言う。
「これまでは妻がいなかったからな。でも、これからは違う。僕は彼女のことを大切にしているんだ。今後、貶める発言はしないでくれ」
「何よ。いやぁね。ちょっと若い奥さん貰ったからって。もういいわ。ダミアン帰りましょ」
クリスタは顔を赤くして言い放つと、店の向かいの馬車の停車場へ歩き始めた。
残ったダミアンは、
「すまない。お前が結婚したのが気に食わないんだ。式の準備は打ち合わせ通り手配してくれ」
と苦笑いで言った。
「お前、本当に結婚する気か?」
ペイトンが真剣な表情で尋ねると、
「あぁ、やっと結婚まで漕ぎ着けたんだ。お前には感謝しているよ」
とダミアンが嬉しげに笑うので、ペイトンはそれ以上は言わなかった。
ただ、足早に去っていくクリスタを追いかけるダミアンを見つめて思った。
(恋か……)
自分が理解することは一生ないな、と。
応接室へ通すとクリスタが、家具を見るのに疲弊して引き出物を選ぶ体力がないと言い出した。
それで今日は指輪だけ選ぶことになった。依頼されていた最高ランクのダイヤモンドは取り寄せ済みで後はカットの仕様と土台選びを決定するのみ。原石が既に保管されていると伝えると、クリスタは早く見せて欲しいとせっつき始めた。
三人で応接室からでたが、ペイトンは受付にアデレードの姿を見つけて目を疑った。来るなんて聞いていないし、訪れたいなどとも言われたことがない。
「すまない。少し失礼する」
ペイトンは二人に断ると、慌ててアデレードの傍まで駆け寄る。
実家から郷土菓子が届いたから差し入れに来てくれたらしい。
何故よりによって今日なのか。ダミアンはともかく、アデレードをクリスタには近寄らせたくない。
ペイトンは、鈍い方ではあるが馬鹿ではない。
アデレードに責められたロベルタ伯爵の娘について言えば、元々自分とほぼ接点がないのに、アデレードに何かするとは思っていなかった。
だが、クリスタに関しては、自分に近寄ってくる令嬢達を勝手に牽制してきていることを知っている。
ペイトンは、それに対してこれまでクリスタを咎めることはしなかった。
自分で排除する必要がなくなるので、むしろ楽でいいくらいに考えていた。
だが、アデレードは別だ。
「なんだよペイトン、俺達には紹介してくれないのか? 隠すなんて水臭いな」
ダミアンが声を掛けてきた手前、紹介するわけにもいかなくなった。案の定、
「ペイトン、貴方、酷いわよ。式も挙げていないんでしょう? こんなに可愛らしい奥様を貰っておいて可哀想じゃないの。結婚式は女の夢よ」
などとクリスタが余計な発言をする。だが、注意するより、あまりに午前中に考えていた内容に一致しすぎて、
「君、式を挙げたかったのか? 君が挙げたいなら今からでも準備するが」
と、アデレードを試すような言葉が出てしまった。
白い結婚だというのに何の前置きもなしに意味不明すぎる。
アデレードが笑うので頭に血が上っていくのを感じた。
アデレードは、結婚式に興味はないとさらりと答えたが、結婚できて良かったとも言った。
その言葉を真に受けるほどめでたくはない。ただ、馬鹿みたいな発言をした羞恥心なのか焦燥か上手く思考が回らず、その後は上擦った発言をしていた気がする。
「ねぇ、早く指輪が見たいわ」
「あぁ、そうだな。では、アデレード夫人、失礼します」
アポイトメントを入れて来訪した顧客を断って、アデレードの相手をするわけにはいかない。ペイトンは、一緒に来ていたジェームスに後を任せて階下へ降りた。
結婚指輪だけのはずが、やはり引き出物を選ぶとクリスタが言い出し、その後、披露パーティでつける首飾りとイヤリングも購入する、と結局三時間掛かった。
途中、従業員が、
「奥様は、社長が忙しそうなので帰宅されました」
と言いにきた。
「怒っていたか?」
咄嗟に口を衝いてでた言葉に、従業員は、
「いえ、全然。忙しい時に来て逆に申し訳なさそうでした」
と笑いながら言った。ペイトンは、それがアデレードの本心かどうか測りかねて困った。仕事なのでしかたない、と言ってしまえばそれまでの話なのだが。
ダミアンとクリスタを店の前まで見送りに行くと、
「折角だから、三人で夕飯を食べにいきましょうよ。こんなに長時間私達の式の準備に付き合わせちゃったんだもの!」
さも名案と言った風にクリスタが言う。
「いや、僕は遠慮しておくよ。屋敷で妻が待っているのでね。君らも、二人で過ごした方が楽しいだろ」
とペイトンは答えた。
アデレードが来ていたことは知っていたくせに気にする素振りを見せない。わざと長引かせたのかもしれないな、とペイトンは思った。
流石にそこは仕事なので文句を言うのは筋違いだが、予定にない食事にまで付き合う義理はない。
「ペイトンから『妻が待っているから』なんて言葉を聞けるとはな。可愛らしい奥方だったものな」
ははっとダミアンは笑ったが、クリスタは、
「でも、ペイトンとは合わなそう。ちょっと地味すぎない? もっと貴方の美貌に見合った人がいると思うわ」
と誰のことを指しているのか、上目遣いに言った。
クリスタのこういった発言は今に始まったことではない。だが、
「僕の妻に失礼なことを言わないでくれないか」
ペイトンはいつになくイラッときて返した。
「ちょっと、どうしちゃったのよペイトン。いつもの貴方らしくないわよ」
ペイトンが反論するとは思わなかったクリスタは不満げ言う。
「これまでは妻がいなかったからな。でも、これからは違う。僕は彼女のことを大切にしているんだ。今後、貶める発言はしないでくれ」
「何よ。いやぁね。ちょっと若い奥さん貰ったからって。もういいわ。ダミアン帰りましょ」
クリスタは顔を赤くして言い放つと、店の向かいの馬車の停車場へ歩き始めた。
残ったダミアンは、
「すまない。お前が結婚したのが気に食わないんだ。式の準備は打ち合わせ通り手配してくれ」
と苦笑いで言った。
「お前、本当に結婚する気か?」
ペイトンが真剣な表情で尋ねると、
「あぁ、やっと結婚まで漕ぎ着けたんだ。お前には感謝しているよ」
とダミアンが嬉しげに笑うので、ペイトンはそれ以上は言わなかった。
ただ、足早に去っていくクリスタを追いかけるダミアンを見つめて思った。
(恋か……)
自分が理解することは一生ないな、と。
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