愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら

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14-2 ダミアンとクリスタ

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 その為、ペイトンは、朝から本社ではなく家具を取扱う店舗へ足を運んだ。

 市街地から少し離れた立地にあるが所有する店舗で一番大きな店だ。

 展示された家具類を見て周り、店員にあれこれ注文をつけるクリスタを見ながら、ペイトンは先日のダレスシトロン服飾店でのことを思い出した。

 自分の欲しいドレスを言い出せなくてまごまごしていたアデレードを浮かべると可笑しみが込み上げる。

 アデレードが大人しく気弱な令嬢ならば納得できる話だが、初対面の第一声が「嫌です」だったのだ。

 こちらの発言も相当不躾だったが、内気な令嬢なら言い返せなかっただろう。

 つまり、アデレードは言いたいことははっきり言うタイプなのだ。

 なのに手に持ったドレスを「これがいい」と言えずにいることは、思い返せば、なんというか非常に可愛い。


(いや、まぁ、これはあれだ、この場合の可愛いは我儘を我慢している子供に対して感じるのと同じ意味だが)

 
 ペイトンは誰に対する弁明なのかよくわからない言い訳を考えながら、ただ、結婚したのがアデレードで良かったことだけは間違いないと感じていた。

 父親の友人で裕福な侯爵家の娘という情報だけで、後のことは一切確認せずに結婚を了承したから。

 今考えると浅慮すぎる。 同じ屋敷で生活しても、こっちがねつければ済む話だと安易に考えていた。

 相手がクリスタみたいに、どんなに拒絶しても言い寄ってくるタイプだったらどうなっていたか。

 ペイトンはクリスタを見る程、結婚したのがアデレードで良かったと心底安堵してしまう。

 同時に、白い結婚期間が満了して、アデレードとの婚姻を解消した後のことを考えると胸の中に暗雲が立ち込めた。

 後妻を娶ることを考えると寒気がする。自分はアデレードで良いのだ。


(白い結婚なんてせずに普通に結婚すればよかった)


 しかし、こっちは良くともアデレードはどう思っているのだろうか。

 夢と希望をもって嫁いできたと言っていたが、こちらが普通の婚姻を提案していたら了承したのだろうか。

 式も挙げていないし、指輪の交換もしていおらず、お披露目のパーティーも催していない。

 普通、女性はそういったことに憧れがあるのじゃないか。色んなことが悔やまれる。


(いや、まだ時間はあるからな)


 アデレードが嫁いできて二月足らず。不自由な生活はさせていないはずだ。

 残りの期間、この先も婚姻を継続させてよいと思わせる環境を整えて、契約満了の日に打診してみたらよいのではないか。


「ペイトン! 聞いてるの? ねぇ、この天蓋のカーテンの色どっちがいいと思う?」


 クリスタの声に、今大事なことを考えているんだから静かにしてくれ、と思った。が、ペイトンはすぐにハッと我に返り、


「え、あぁ、ダミアンはどちらが良いと思うんだ?」


 と返した。曲がりなりにもクリスタは客で、接客中だ。一体何を考えていたのか。


「俺はどちらでも、クリスタの好きな方で」


 ダミアンは全てにおいてこの回答だから、クリスタがこちらに意見を求めるのも若干頷ける。


「彼女もどちらでもよいから尋ねているんだろう。お前はどっちが良いんだよ」


「強いて言うなら緑かな」


「だったら緑でいいんじゃないか。どちらの色も品質は保証するよ」


 ペイトンが二人の間を取りなすように言うと、


「貴方がそう言うなら緑にするわ」


 とクリスタが答えた。万事がこんな調子で進んでいく。自分が間に入る必要性があるのか謎すぎる。仕事だと割り切って付き合うしかないが。

 早く決まれば予定を巻いて指輪選びに移行できたが、結局、新居の家具を決めるのに午前中いっぱい掛かった。


 
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