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21-1 月桂樹
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▼▼▼
「ロイヤルボックス席なんで凄いですね。有難うございます」
席に着くとアデレードが随分感心して謝辞を述べるのでペイトンは驚いた。
以前、勿忘草を鑑賞した座席がロイヤルボックス席だったので、当然今回も同じ席を取らねばならない、と躍起になっていた。
だが、アデレードの口振りから別に同じ席でなくても良かったのだと理解した。
確かに他にも良い席はあるし、別の席ならば夜公演のチケットでも入手できた。
ペイトンは、機転のきかない自分の野暮ったさに身悶えたくなった。
「月桂樹ってタイトルなんですね」
そんなペイトンをよそにアデレードは入り口で配布されたチラシに目を通している。なのでペイトンも動揺を隠して手元のチラシに視線を落とした。
勿忘草の続編という触れ込みで、タイトルとキャストは発表されている。が、内容は一切明かされていない。
続編と銘打つのだからラウラとダリルのその後が描かれるのだろうが、果たして復縁するのか否か。
冷遇されてもしつこく付き纏うラウラのプライドのなさに辟易したから、今作では是非とも毅然とダリルをはねつけてもらいたい、とペイトンは思っていた。
しかし、アデレードはどうだろうか。
ちらりと横目で隣席を見る。
鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌なことに安心する。見終わった後も、このままでいてもらいたい。つまりはアデレードががっかりしない結末であることが一番よい、とペイトンは思い直した。
「ラウラとダリルは前回と同じ役者ですね。別の男優の名前がキャスト欄の一番上に載っているのが気になります。グリオス・ケイオンって有名な役者ですけど、どういう役所なんでしょうか。人気役者だから単純に一番上に記載されているだけなのかな」
アデレードが熱心にチラシに視線を下げたまま言った。役者の名前まで覚えているとは観劇が好きなのか、単にこの演目に特別思い入れがあるのか。
ローズウェル劇場は老舗の大規模劇場で大体三月ごとに演目を変える。
しかし、街にある小規模劇場ではアマチュアの劇団が週替わりで様々な演目を公演している。
こんなに喜ぶなら毎週小劇場へ連れて行ってやるが……と考えていると、ふいにアデレードがこちらを向いたので目が合った。
「……旦那様は勿忘草は面白くなかったと仰ってましたよね。今日は連れてきてもらってすみません」
急にしおらしく言うのでペイトンは戸惑った。
おかしな点を加点してやろうと思っているのに、そう決めた途端、変な行動をとらなくなったので、こっちの内心を読んでいるのではないか、と馬鹿みたいな疑念を抱いてしまう。
そもそもアデレードは掴みどころがなさすぎる。自分の思う反応が返ってきたことがない。
「別に嫌々来たわけじゃない。僕も楽しみにしていたんだ」
ペイトンが返すと、
「それなら良かったです」
とアデレードは笑ったが、社交辞令に社交辞令を返したように思えてペイトンはやきもきした。以前、顧客の娘を劇場に連れてきて同様の会話をした記憶が蘇り、確かにそれは社交辞令だったから。
(いや、本当に嫌々来たわけではないんだが?)
誤解されたくない。しかし、しつこく食い下がるのはスマートじゃない気がする。
自分はアデレードを嫌悪したいのに、自分のことは嫌われたくない。矛盾した全くよくわからない感情。
とにかく何か言わなければと気持ちばかりが焦る。
しかし、開演のベルが鳴り、照明が落ちていくので結局何も言えなかった。
「ロイヤルボックス席なんで凄いですね。有難うございます」
席に着くとアデレードが随分感心して謝辞を述べるのでペイトンは驚いた。
以前、勿忘草を鑑賞した座席がロイヤルボックス席だったので、当然今回も同じ席を取らねばならない、と躍起になっていた。
だが、アデレードの口振りから別に同じ席でなくても良かったのだと理解した。
確かに他にも良い席はあるし、別の席ならば夜公演のチケットでも入手できた。
ペイトンは、機転のきかない自分の野暮ったさに身悶えたくなった。
「月桂樹ってタイトルなんですね」
そんなペイトンをよそにアデレードは入り口で配布されたチラシに目を通している。なのでペイトンも動揺を隠して手元のチラシに視線を落とした。
勿忘草の続編という触れ込みで、タイトルとキャストは発表されている。が、内容は一切明かされていない。
続編と銘打つのだからラウラとダリルのその後が描かれるのだろうが、果たして復縁するのか否か。
冷遇されてもしつこく付き纏うラウラのプライドのなさに辟易したから、今作では是非とも毅然とダリルをはねつけてもらいたい、とペイトンは思っていた。
しかし、アデレードはどうだろうか。
ちらりと横目で隣席を見る。
鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌なことに安心する。見終わった後も、このままでいてもらいたい。つまりはアデレードががっかりしない結末であることが一番よい、とペイトンは思い直した。
「ラウラとダリルは前回と同じ役者ですね。別の男優の名前がキャスト欄の一番上に載っているのが気になります。グリオス・ケイオンって有名な役者ですけど、どういう役所なんでしょうか。人気役者だから単純に一番上に記載されているだけなのかな」
アデレードが熱心にチラシに視線を下げたまま言った。役者の名前まで覚えているとは観劇が好きなのか、単にこの演目に特別思い入れがあるのか。
ローズウェル劇場は老舗の大規模劇場で大体三月ごとに演目を変える。
しかし、街にある小規模劇場ではアマチュアの劇団が週替わりで様々な演目を公演している。
こんなに喜ぶなら毎週小劇場へ連れて行ってやるが……と考えていると、ふいにアデレードがこちらを向いたので目が合った。
「……旦那様は勿忘草は面白くなかったと仰ってましたよね。今日は連れてきてもらってすみません」
急にしおらしく言うのでペイトンは戸惑った。
おかしな点を加点してやろうと思っているのに、そう決めた途端、変な行動をとらなくなったので、こっちの内心を読んでいるのではないか、と馬鹿みたいな疑念を抱いてしまう。
そもそもアデレードは掴みどころがなさすぎる。自分の思う反応が返ってきたことがない。
「別に嫌々来たわけじゃない。僕も楽しみにしていたんだ」
ペイトンが返すと、
「それなら良かったです」
とアデレードは笑ったが、社交辞令に社交辞令を返したように思えてペイトンはやきもきした。以前、顧客の娘を劇場に連れてきて同様の会話をした記憶が蘇り、確かにそれは社交辞令だったから。
(いや、本当に嫌々来たわけではないんだが?)
誤解されたくない。しかし、しつこく食い下がるのはスマートじゃない気がする。
自分はアデレードを嫌悪したいのに、自分のことは嫌われたくない。矛盾した全くよくわからない感情。
とにかく何か言わなければと気持ちばかりが焦る。
しかし、開演のベルが鳴り、照明が落ちていくので結局何も言えなかった。
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