79 / 123
28-1 高位貴族の制裁
▼▼▼
園遊会から帰宅したペイトンに、自室に呼ばれたジェームスは、部屋に入るなり開口一番に、
「ホイエット伯爵家、パターソン子爵家、サリバン子爵家とは今後一切の取引は行わない」
という指令を受けた。
「園遊会で何かあったのですか?」
「大ありだ。彼女を侮辱したんだ。落とし前はきっちり払わせる」
ペイトンが口にした三家とは特に主要な取引はしていない。
だから、こちらの事業に差し障りはないが相手は違う。
フォアード侯爵家が付き合いをやめたとあれば、追従する家名が多くでてくる。お家断絶の危機とまではいかないが、今後いろんな不利益を被るだろう。
「いつもは奥様がご自身でやり返すのに、今日は違うのですね」
「王家主催の集まりで騒ぎにできないと言うんだ。だから、彼女にはこのことは言うなよ。気に病むから」
ジェームスは、流石はバルモア家の娘だと感心した。
加害者被害者如何に関わらず王家の催しで問題を起こすということはリスクが高い。
普段、茶会に参加した際には、嬉々として売られた喧嘩を買っているアデレードだが、弁えるべきところはきちんと押さえている。
それに比べて、諍いを仕掛けた相手はどんな教育を受けてきたのか呆れる。
「なるほど。承知しました」
ジェームスは三家を庇うつもりはないため、それ以上深く追求もしなかった。
貴族社会は甘くない。
フォアード家の妻を侮辱したなら相応の報いを受ける。
強いて同情するなら今回はペイトンが直接動いたこと。
アデレードが口頭で反撃するくらいは実は非常に可愛いもので、高位貴族を本気で怒らせたら、表面上はにっこり笑ってばっさり切られるのが普通だ。
わざわざ喧嘩を買うなどしない。笑顔で別れて二度と会わないようにするだけ。
ペイトンも侯爵家の嫡男としてそういった教育を受けてきた。
だが、普段ペイトンは自分の悪評を流されても放置していることが多い。
悪い評判がある方が女性が寄ってこなくて楽ぐらいに思っている。
過去に制裁を加えたのは、ある令嬢を孕ませたとでっちあげられた時と、男色の噂を広められた際くらいだ。
だから、親交のある三家の人間は、ペイトンが妻を侮辱したところでそれほど怒るとは考えなかったに違いない。
残念ながらアデレードに関して、ペイトンは通常とは全く異なるのだ。
(奥様のことはなんだかんだめちゃくちゃ大事にしているからな)
本人は件の契約を理由にしているが、ただの口実にすぎない。
早く素直になった方がよい。
アデレードとの結婚にははっきりとした期限があるのだから、いつまでそんな言い訳を通すつもりなのか心配になる。
アデレードが実家へ帰った後、慌てて追いかけるより、今行動した方が遥かにハードルが低い。
ただ、それを言ってもはねつけられるのは目に見えるし、むしろ余計に強情を張ることも予測できるのでジェームスは黙った。
「別に契約通りにしただけだ。妻を守るのは夫として当然のことだろう」
すると、察したようにペイトンが付け加えた。
長年の付き合いで相手の考えがわかるのはお互い様ということか。
ジェームスはやれやれと思った。
が、ペイトンの表情が驚くほど暗いことに眉を寄せた。
こういう場合、イラついて睨みつけられることがほとんどなのに、今はびっくりするほどこちらに意識が向いていない。
「他に何か問題でも?」
「別になにもない。もういい下がってくれ」
何もない顔ではないだろうに。
学校生活や事業運営のことで悩んでいる姿を見ることは幾度となくあったが、こんなに心許ない表情は子供の頃以来だ。
(奥様と喧嘩したわけではなさそうだが……)
だが、アデレード絡みの問題であることは間違いない。
本人が話したくないと言うのを無理やり聞き出すのもどうか。
ジェームスの経験上、恋愛において求められていない他人の意見ほど鬱陶しいものはない。
それに、ペイトンはこれまで女性の為に心を砕くことなどなかった。そういう経験も必要だろう、と、
「では、失礼します」
ジェームスは命じられるまま部屋を後にした。
園遊会から帰宅したペイトンに、自室に呼ばれたジェームスは、部屋に入るなり開口一番に、
「ホイエット伯爵家、パターソン子爵家、サリバン子爵家とは今後一切の取引は行わない」
という指令を受けた。
「園遊会で何かあったのですか?」
「大ありだ。彼女を侮辱したんだ。落とし前はきっちり払わせる」
ペイトンが口にした三家とは特に主要な取引はしていない。
だから、こちらの事業に差し障りはないが相手は違う。
フォアード侯爵家が付き合いをやめたとあれば、追従する家名が多くでてくる。お家断絶の危機とまではいかないが、今後いろんな不利益を被るだろう。
「いつもは奥様がご自身でやり返すのに、今日は違うのですね」
「王家主催の集まりで騒ぎにできないと言うんだ。だから、彼女にはこのことは言うなよ。気に病むから」
ジェームスは、流石はバルモア家の娘だと感心した。
加害者被害者如何に関わらず王家の催しで問題を起こすということはリスクが高い。
普段、茶会に参加した際には、嬉々として売られた喧嘩を買っているアデレードだが、弁えるべきところはきちんと押さえている。
それに比べて、諍いを仕掛けた相手はどんな教育を受けてきたのか呆れる。
「なるほど。承知しました」
ジェームスは三家を庇うつもりはないため、それ以上深く追求もしなかった。
貴族社会は甘くない。
フォアード家の妻を侮辱したなら相応の報いを受ける。
強いて同情するなら今回はペイトンが直接動いたこと。
アデレードが口頭で反撃するくらいは実は非常に可愛いもので、高位貴族を本気で怒らせたら、表面上はにっこり笑ってばっさり切られるのが普通だ。
わざわざ喧嘩を買うなどしない。笑顔で別れて二度と会わないようにするだけ。
ペイトンも侯爵家の嫡男としてそういった教育を受けてきた。
だが、普段ペイトンは自分の悪評を流されても放置していることが多い。
悪い評判がある方が女性が寄ってこなくて楽ぐらいに思っている。
過去に制裁を加えたのは、ある令嬢を孕ませたとでっちあげられた時と、男色の噂を広められた際くらいだ。
だから、親交のある三家の人間は、ペイトンが妻を侮辱したところでそれほど怒るとは考えなかったに違いない。
残念ながらアデレードに関して、ペイトンは通常とは全く異なるのだ。
(奥様のことはなんだかんだめちゃくちゃ大事にしているからな)
本人は件の契約を理由にしているが、ただの口実にすぎない。
早く素直になった方がよい。
アデレードとの結婚にははっきりとした期限があるのだから、いつまでそんな言い訳を通すつもりなのか心配になる。
アデレードが実家へ帰った後、慌てて追いかけるより、今行動した方が遥かにハードルが低い。
ただ、それを言ってもはねつけられるのは目に見えるし、むしろ余計に強情を張ることも予測できるのでジェームスは黙った。
「別に契約通りにしただけだ。妻を守るのは夫として当然のことだろう」
すると、察したようにペイトンが付け加えた。
長年の付き合いで相手の考えがわかるのはお互い様ということか。
ジェームスはやれやれと思った。
が、ペイトンの表情が驚くほど暗いことに眉を寄せた。
こういう場合、イラついて睨みつけられることがほとんどなのに、今はびっくりするほどこちらに意識が向いていない。
「他に何か問題でも?」
「別になにもない。もういい下がってくれ」
何もない顔ではないだろうに。
学校生活や事業運営のことで悩んでいる姿を見ることは幾度となくあったが、こんなに心許ない表情は子供の頃以来だ。
(奥様と喧嘩したわけではなさそうだが……)
だが、アデレード絡みの問題であることは間違いない。
本人が話したくないと言うのを無理やり聞き出すのもどうか。
ジェームスの経験上、恋愛において求められていない他人の意見ほど鬱陶しいものはない。
それに、ペイトンはこれまで女性の為に心を砕くことなどなかった。そういう経験も必要だろう、と、
「では、失礼します」
ジェームスは命じられるまま部屋を後にした。
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました
木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。
自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。
ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。
そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。
他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。
しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。
彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。
ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。
※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。