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31-2 ケジメ
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「クリスタから手紙が届いているだろう?」
昨夜訪ねてきたダミアンに唐突に聞かれてペイトンは戸惑った。
確かにクリスタから手紙は届いていた。「どうしても二人で話したいことがある。明日、式の前に時間を作ってほしい」という内容だった。
この期に及んでどういうつもりなのか。胸糞悪くてすぐに捨てたし、ダミアンに伝える気もなかった。
クリスタがこういう女であることをダミアンは十分に理解している。
知った上でなお、誰がどんなに忠告しても別れないのだから、今更教えても意味がない。
手紙は無視を貫けばよいのだから、不快な気分にさせるだけ無意味だ、と。
だが、まさかダミアンが手紙の存在を知っているとは思わなかった。
面と向かって尋ねられ、隠そうとしたことが急に後ろ暗くなった。
「会ってやってくれないか」
「は?」
「結婚したらお前のことは忘れて俺を愛すると約束してくれたんだ。だから、最後にケジメをつけたいんだと思う」
内容まで把握していることに驚いた。同時に、それを許すのかという憤りで感情が泡立った。
百歩譲ってダミアンとの結婚の承諾をする前ならば理解できる。
挙式当日になって、他の男に逢瀬の誘いをするなど非常識にもほどがある。
「馬鹿にされすぎだろ。お前は、それで平気なのか」
「あぁ。クリスタがこれで心残りなく俺の元へ嫁いできてくれるなら構わない」
埋まらない考え方の相違だ。
ペイトンは面倒くさくなった。
もう散々忠告はしてきたし、無駄な時間に付き合わされてきた。
クリスタの言葉がどれほど信頼できるか疑わしいが「これで最後」というなら会ってやっていいか、と気持ちが傾いた。
思い返せば、クリスタは誘うような言動は繰り返していたが、明確な好意を告げてきたことはなかった。
こちらからアクションを起こすのを待っているのが伝わった。
靡くわけなどないのだが、ダミアンと付き合いながら、いつでもこちらに乗り換える準備ができているといった態度に嫌悪感が募った。
告白されない以上、はっきり断れないというもどかしさもずっとあった。
それらを全部含めて最後にしてくれるなら、この申し出を受け入れることは悪い話ではないのではないか。
要するに自分がはっきり拒絶すれば済むだけのことだ、と。
「わかった。お前がいいなら応じるよ」
「……そうか。有難う」
しかし、この安易な判断の後悔はすぐにやってきた。
「ペイトン! やっぱり来てくれたのね」
チャペルの控室に入ると、嬉々としたクリスタの表情に眉が寄った。
最後の別れを告げようとする人間の態度ではない。
事前の準備に、この式場には一度足を運んでいるため、控室の状況は知っている。
この部屋の先には化粧部屋があり、クリスタが拘り抜いたウェディングドレスが吊るされてある。
こんな中で何を告げようとしているのか。
「これからの私達のことを話しておきたかったの」
「これから?」
話が見えなくてペイトンは沈黙した。それをどう解釈したのかクリスタは揚々と続ける。
「私達、これからはこうして二人で会う時間をもちましょう」
「何を言っているんだ。お前、これからダミアンと結婚するんだぞ」
ダミアンと結婚しようがしまいがお断りだが「最後のケジメに」と聞いていた話と違いすぎて咄嗟に口をついてでた。
「私は貴方のためにダミアンと結婚してあげることにしたのよ」
クリスタの言い草にペイトンは露骨に顔をしかめた。
この結婚が破談になれば困窮するのはクリスタだ。上から目線で烏滸がましいにもほどがある。
「私はローグ侯爵夫人としてこれからも貴方を助けるわ。フォアード商会にとって有益になるでしょう?」
「何を勘違いしているか知らないが、僕はお前に助けられたことなどない」
「結婚式の準備だって全部貴方の商会に依頼したじゃない。それに、これから先は共同で行える事業が沢山あると思うの。もっと早くこうしていたら、貴方は無駄な政略結婚なんてしなくてもよかったのに」
結婚したらローグ侯爵家の全てが自分のものになると思っているのか。
ここまで逆上せ上がらせたのはダミアンの罪だ、とペイトンは思った。
「ローグ家の当主にでもなったつもりか? 呆れるよ。大体、僕の結婚にお前は関係ない」
「あるわ! だって、貴方が私を選ばなかったのは、私が侯爵家の娘じゃないからでしょう? もし、私が侯爵家の娘なら私を選んでくれていたわ! 狡いじゃない」
「狡い?」
「そうよ。私の方がずっと先に貴方を好きだったじゃない! 不公平よ!」
先に好きだったからなんだというのか。こっちはお前を好きだったことなど一度もない。悲劇のヒロインぶった言動にペイトンの気持ちは凪いた。
「やめてくれ。それじゃあ、まるでお前が侯爵家の娘なら僕がお前と結婚していたみたいじゃないか。ありえない。出自など関係ない。結婚式の当日に他の男に言い寄るような非常識な女を僕が選ぶはずがない」
「そんなの嘘よ! 学生の頃から私だけはずっと傍においてくれていたわ。私だけは特別だった」
何をどうしたらこんな思考になるのか。気味が悪くて鳥肌がたった。
確かに学生時代は青臭く女性と関わることを徹底に拒絶していた。「仕事のために」と今のように愛想を振りまくことはしなかった。
だから、ダミアンの懇願に負けてクリスタと三人で出掛けたことは「唯一女性と関わっていた」という事実ではある。
しかし、「特別」と勘違いされても迷惑な話だ。こんな女は相手をしていても無駄。無視して立ち去ろうと思ったが、
「何故あんな家柄だけが取り柄の不細工な小娘に貴方を奪われなければならないの? 知っている? あの女は爵位を笠に着て好きな男に付き纏っていたのですって。厚顔無恥な笑い者で有名だったそうよ。その上、今度は貴方にまで! あっちがダメなら今度はこっちって、本当にずうずうしい」
聞き捨てならない暴言に、ペイトンの冷めた感情が一気に噴き上がった。
「僕の妻を侮辱するなと前にも言わなかったか? いいか、あの子のことをお前が語るな」
「どうして? 私の何がいけないのよ! 誰が見たって私の方がいい女じゃない!」
侮蔑の眼差しで見下ろしているのに動じることなく反論してくるのだから一層清々しい。
「とんだ自惚れだな。聞いているこっちが恥ずかしくなるよ。いいか、僕が今日ここへ来たのはダミアンに頼まれたからだ。あいつはお前が僕に手紙を送りつけてきたことを知っているぞ。知ったうえで、お前の願いを聞いてやって欲しいと頼みに来た。このままだと心残りになるから、最後にケジメをつけさせてやって欲しいと頭を下げたんだ。式の前日になってまで結婚相手にそんなことを言わせるお前を僕は心底軽蔑している。視界にいれるのも不愉快なくらいにな。これまでお前に気を持たせることをしたつもりは一切ないが、はっきり言及もしなかったことを後悔している。だが、ここまで言ったんだ。二度とそんな世迷言を喚き散らさないでくれ」
普段なら放置してとっとと部屋を出ていくところだが、アデレードを扱き下ろされてどうしても言ってやらなくては気がすまなかった。
「っ何よそれ。ひどい」
「ひどいのはどっちだ。今の言動は全てダミアンに伝える」
「あっそ。好きにすればいいわ。ダミアンは私の言うことを信じてくれるでしょうけど!」
勝ち誇ったようにクリスタが答えた。恐らくその通りだ。
不愉快極まるが、ダミアンの気持ちはこちらでは変えられないのだから仕方ない。
だが、ペイトンは金輪際、クリスタと関わりを断つと決めた。
顧客としての取引も不要。必要ならばダミアンもろとも切っていい。
もっと早く決断しておけば良かったとさえ思った。
一旦そう考えると、この場にいることも煩わしく感じてクリスタに背を向けた。
「ちょっと! 待ってよ! まだ話は終わってないわ。私を捨てるなら、貴方に襲われたって言うから!」
捨てる? 拾った覚えもないのに? と喚き散らすヒステリックなクリスタに振り向いてペイトンは笑った。
誰を脅しているのか、と心底可笑しかった。
拒絶するだけで止めてやるのは、友人の婚約者であり、実害のない範疇だったからだ。
ダミアンが甘やかしてたせいなのか、元々馬鹿なのか、男爵家の人間が侯爵家を恫喝してどうなるか想像もできないとは、とペイトンはクリスタを見下げた。
「今の妄言、取り消すなら今だぞ」
ペイトンが真顔に戻り落ち着き払って言うと、流石のクリスタも黙った。
ただ、謝罪はせず、頬を紅潮させ潤んだ瞳で見つめてくる。
許しの言葉を待っているのは読み取れた。
女性を泣かせて喜ぶ被虐趣味はないが、泣いているからと優しい言葉をかけない程度にはきっちり女性嫌いのペイトンは無言を通した。
とっとと謝れ、と冷めて思う。
痛いくらいの沈黙に、根比べのような時間が流れる。
クリスタの瞳からポロリ、ポロリ、と大粒の涙が溢れるが、こっちの感情は乾いていくばかりだった。
「もういい。金輪際、僕に関わるな」
痺れを切らしたペイトンが口を開いた瞬間、背後の扉がノックなく開いた。
入ってきた人物を見て、薄ら予期していた勘が当たったことに苦い感情が迫り上がった。
ダミアンが、クリスタからの手紙の内容を把握していたのと同様に「最後の別れ」に関しても知ろうとするだろうことを。
しかし、その後ろの人物の登場までは全く想像していなかった。
「なんで、君が……」
ペイトンは、アデレードの姿を確認して、茫然自失に立ち尽くした。
「クリスタから手紙が届いているだろう?」
昨夜訪ねてきたダミアンに唐突に聞かれてペイトンは戸惑った。
確かにクリスタから手紙は届いていた。「どうしても二人で話したいことがある。明日、式の前に時間を作ってほしい」という内容だった。
この期に及んでどういうつもりなのか。胸糞悪くてすぐに捨てたし、ダミアンに伝える気もなかった。
クリスタがこういう女であることをダミアンは十分に理解している。
知った上でなお、誰がどんなに忠告しても別れないのだから、今更教えても意味がない。
手紙は無視を貫けばよいのだから、不快な気分にさせるだけ無意味だ、と。
だが、まさかダミアンが手紙の存在を知っているとは思わなかった。
面と向かって尋ねられ、隠そうとしたことが急に後ろ暗くなった。
「会ってやってくれないか」
「は?」
「結婚したらお前のことは忘れて俺を愛すると約束してくれたんだ。だから、最後にケジメをつけたいんだと思う」
内容まで把握していることに驚いた。同時に、それを許すのかという憤りで感情が泡立った。
百歩譲ってダミアンとの結婚の承諾をする前ならば理解できる。
挙式当日になって、他の男に逢瀬の誘いをするなど非常識にもほどがある。
「馬鹿にされすぎだろ。お前は、それで平気なのか」
「あぁ。クリスタがこれで心残りなく俺の元へ嫁いできてくれるなら構わない」
埋まらない考え方の相違だ。
ペイトンは面倒くさくなった。
もう散々忠告はしてきたし、無駄な時間に付き合わされてきた。
クリスタの言葉がどれほど信頼できるか疑わしいが「これで最後」というなら会ってやっていいか、と気持ちが傾いた。
思い返せば、クリスタは誘うような言動は繰り返していたが、明確な好意を告げてきたことはなかった。
こちらからアクションを起こすのを待っているのが伝わった。
靡くわけなどないのだが、ダミアンと付き合いながら、いつでもこちらに乗り換える準備ができているといった態度に嫌悪感が募った。
告白されない以上、はっきり断れないというもどかしさもずっとあった。
それらを全部含めて最後にしてくれるなら、この申し出を受け入れることは悪い話ではないのではないか。
要するに自分がはっきり拒絶すれば済むだけのことだ、と。
「わかった。お前がいいなら応じるよ」
「……そうか。有難う」
しかし、この安易な判断の後悔はすぐにやってきた。
「ペイトン! やっぱり来てくれたのね」
チャペルの控室に入ると、嬉々としたクリスタの表情に眉が寄った。
最後の別れを告げようとする人間の態度ではない。
事前の準備に、この式場には一度足を運んでいるため、控室の状況は知っている。
この部屋の先には化粧部屋があり、クリスタが拘り抜いたウェディングドレスが吊るされてある。
こんな中で何を告げようとしているのか。
「これからの私達のことを話しておきたかったの」
「これから?」
話が見えなくてペイトンは沈黙した。それをどう解釈したのかクリスタは揚々と続ける。
「私達、これからはこうして二人で会う時間をもちましょう」
「何を言っているんだ。お前、これからダミアンと結婚するんだぞ」
ダミアンと結婚しようがしまいがお断りだが「最後のケジメに」と聞いていた話と違いすぎて咄嗟に口をついてでた。
「私は貴方のためにダミアンと結婚してあげることにしたのよ」
クリスタの言い草にペイトンは露骨に顔をしかめた。
この結婚が破談になれば困窮するのはクリスタだ。上から目線で烏滸がましいにもほどがある。
「私はローグ侯爵夫人としてこれからも貴方を助けるわ。フォアード商会にとって有益になるでしょう?」
「何を勘違いしているか知らないが、僕はお前に助けられたことなどない」
「結婚式の準備だって全部貴方の商会に依頼したじゃない。それに、これから先は共同で行える事業が沢山あると思うの。もっと早くこうしていたら、貴方は無駄な政略結婚なんてしなくてもよかったのに」
結婚したらローグ侯爵家の全てが自分のものになると思っているのか。
ここまで逆上せ上がらせたのはダミアンの罪だ、とペイトンは思った。
「ローグ家の当主にでもなったつもりか? 呆れるよ。大体、僕の結婚にお前は関係ない」
「あるわ! だって、貴方が私を選ばなかったのは、私が侯爵家の娘じゃないからでしょう? もし、私が侯爵家の娘なら私を選んでくれていたわ! 狡いじゃない」
「狡い?」
「そうよ。私の方がずっと先に貴方を好きだったじゃない! 不公平よ!」
先に好きだったからなんだというのか。こっちはお前を好きだったことなど一度もない。悲劇のヒロインぶった言動にペイトンの気持ちは凪いた。
「やめてくれ。それじゃあ、まるでお前が侯爵家の娘なら僕がお前と結婚していたみたいじゃないか。ありえない。出自など関係ない。結婚式の当日に他の男に言い寄るような非常識な女を僕が選ぶはずがない」
「そんなの嘘よ! 学生の頃から私だけはずっと傍においてくれていたわ。私だけは特別だった」
何をどうしたらこんな思考になるのか。気味が悪くて鳥肌がたった。
確かに学生時代は青臭く女性と関わることを徹底に拒絶していた。「仕事のために」と今のように愛想を振りまくことはしなかった。
だから、ダミアンの懇願に負けてクリスタと三人で出掛けたことは「唯一女性と関わっていた」という事実ではある。
しかし、「特別」と勘違いされても迷惑な話だ。こんな女は相手をしていても無駄。無視して立ち去ろうと思ったが、
「何故あんな家柄だけが取り柄の不細工な小娘に貴方を奪われなければならないの? 知っている? あの女は爵位を笠に着て好きな男に付き纏っていたのですって。厚顔無恥な笑い者で有名だったそうよ。その上、今度は貴方にまで! あっちがダメなら今度はこっちって、本当にずうずうしい」
聞き捨てならない暴言に、ペイトンの冷めた感情が一気に噴き上がった。
「僕の妻を侮辱するなと前にも言わなかったか? いいか、あの子のことをお前が語るな」
「どうして? 私の何がいけないのよ! 誰が見たって私の方がいい女じゃない!」
侮蔑の眼差しで見下ろしているのに動じることなく反論してくるのだから一層清々しい。
「とんだ自惚れだな。聞いているこっちが恥ずかしくなるよ。いいか、僕が今日ここへ来たのはダミアンに頼まれたからだ。あいつはお前が僕に手紙を送りつけてきたことを知っているぞ。知ったうえで、お前の願いを聞いてやって欲しいと頼みに来た。このままだと心残りになるから、最後にケジメをつけさせてやって欲しいと頭を下げたんだ。式の前日になってまで結婚相手にそんなことを言わせるお前を僕は心底軽蔑している。視界にいれるのも不愉快なくらいにな。これまでお前に気を持たせることをしたつもりは一切ないが、はっきり言及もしなかったことを後悔している。だが、ここまで言ったんだ。二度とそんな世迷言を喚き散らさないでくれ」
普段なら放置してとっとと部屋を出ていくところだが、アデレードを扱き下ろされてどうしても言ってやらなくては気がすまなかった。
「っ何よそれ。ひどい」
「ひどいのはどっちだ。今の言動は全てダミアンに伝える」
「あっそ。好きにすればいいわ。ダミアンは私の言うことを信じてくれるでしょうけど!」
勝ち誇ったようにクリスタが答えた。恐らくその通りだ。
不愉快極まるが、ダミアンの気持ちはこちらでは変えられないのだから仕方ない。
だが、ペイトンは金輪際、クリスタと関わりを断つと決めた。
顧客としての取引も不要。必要ならばダミアンもろとも切っていい。
もっと早く決断しておけば良かったとさえ思った。
一旦そう考えると、この場にいることも煩わしく感じてクリスタに背を向けた。
「ちょっと! 待ってよ! まだ話は終わってないわ。私を捨てるなら、貴方に襲われたって言うから!」
捨てる? 拾った覚えもないのに? と喚き散らすヒステリックなクリスタに振り向いてペイトンは笑った。
誰を脅しているのか、と心底可笑しかった。
拒絶するだけで止めてやるのは、友人の婚約者であり、実害のない範疇だったからだ。
ダミアンが甘やかしてたせいなのか、元々馬鹿なのか、男爵家の人間が侯爵家を恫喝してどうなるか想像もできないとは、とペイトンはクリスタを見下げた。
「今の妄言、取り消すなら今だぞ」
ペイトンが真顔に戻り落ち着き払って言うと、流石のクリスタも黙った。
ただ、謝罪はせず、頬を紅潮させ潤んだ瞳で見つめてくる。
許しの言葉を待っているのは読み取れた。
女性を泣かせて喜ぶ被虐趣味はないが、泣いているからと優しい言葉をかけない程度にはきっちり女性嫌いのペイトンは無言を通した。
とっとと謝れ、と冷めて思う。
痛いくらいの沈黙に、根比べのような時間が流れる。
クリスタの瞳からポロリ、ポロリ、と大粒の涙が溢れるが、こっちの感情は乾いていくばかりだった。
「もういい。金輪際、僕に関わるな」
痺れを切らしたペイトンが口を開いた瞬間、背後の扉がノックなく開いた。
入ってきた人物を見て、薄ら予期していた勘が当たったことに苦い感情が迫り上がった。
ダミアンが、クリスタからの手紙の内容を把握していたのと同様に「最後の別れ」に関しても知ろうとするだろうことを。
しかし、その後ろの人物の登場までは全く想像していなかった。
「なんで、君が……」
ペイトンは、アデレードの姿を確認して、茫然自失に立ち尽くした。
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