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37-2 守ってあげたい
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バルモア家に到着したのは予定時刻通りだった。
「ただいまー」
アデレードが学校帰りみたいに気安くダイニングへ入っていくと、着席していた全員が一斉に立ち上がった。
「やぁ、よく来てくれたね。アデレードの為に有難う」
父の挨拶に対して、
「え、いや、その、とんでもない。私の方こそ挨拶に伺うのが遅くなってしまい申し訳ありません。急な来訪にも関わらず宿の手配もして頂き恐縮です。改めまして、フォアード侯爵家のペイトンと申します。本日はお招きいただき有難うございます」
とペイトンが挙動不審気味に答えるので、アデレードは、自分がこの場を仕切らねば! と急に妙な使命感に駆られた。
「旦那様、父のエイダンと母のナタリア、姉夫妻でコリンズ侯爵家のエドワードとセシリア、兄夫婦のキースとディアナです」
それぞれ紹介に合わせて会釈を交わす。
屋敷での会食ではあるが全員きっちり正装をしているのでペイトンは歓迎されているとわかる。
「甥っ子達は?」
姉のセシリアには十三歳、兄のキースには六歳と四歳の息子がいる。
セシリアの息子のグレンとアデレードは五歳しか年が離れていないため、甥っ子というより弟という感覚に近い。
「うちの子は明日も朝から学校があるから、ディアナのところはもう寝る時間よ。皆会いたがっているわ。明後日うちでお茶会するの。予定がないなら顔見せにきなさいよ。もちろんペイトン様もご一緒に」
セシリアが最後はペイトンに向けて笑顔で答えた。
ディアナも、うんうん頷いている。
ディアナは元々セシリアの友人で、その縁でキースと結婚したため二人の仲はかなりいい。
予定があるかないか。卒業式に出席する以外何もない。
これは絶対参加のやつなのでは? とアデレードは隣のペイトンをちらっと見た。
「有難うございます。ご子息達にも是非お目にかかりたいので来訪させていただきます」
ペイトンは感じ良く返した。子供が好きなんて聞いたこともない。そんな会話自体したこともないが。というか、
(断れないわよね)
ただでさえペイトンはバルモア家の人間に強い負い目を感じている。
ここはやはり自分がペイトンを守らねば、とアデレードは思った。
「旦那様が用意してくれたお土産が沢山あるのよ。甥っ子達にもバリバラで流行りのボードゲームとかいろいろ。ダイニングに入りきらないから応接間に運んでもらっているわ」
とりあえずペイトンの株を上げようと試みたが、
「そんなことは先に言いなさい」
「え」
「入りきらないくらいって、貴女どんなに買って頂いたの。すみません、お気を遣わせたようで」
父に続き母が険しい表情でこちらを責めるので、アデレードは憮然となった。
「いや、そんな大したものでは……後ででも開封して頂ければ」
ペイトンが口を開くと、
「すまないね。では、食事が冷めるから後でゆっくり見せてもらうとしよう」
父が笑顔で返した。皆が席に着く。
全然納得いかないまま、ここで揉めるのもどうかと思いアデレードも従った。
「アディちゃんのドレス素敵ね。バリバラ産のシルク地じゃない?」
空気を変えるようディアナが発言する。
「そうなんです。旦那様が帰省のために二着も仕立ててくれたんですよ」
アデレードは、再びペイトンを立てねば! と答えるが、
「貴女、前にもドレスを仕立ててもらっていたわね」
またもや母が厳しい顔で尋ねてくる。
最初にドレスを三着作って貰った時、手紙に書いたことが脳裏に浮かんだ。
あの時は、実家からお礼の品が届いた。
「そうだけど、旦那様が作ってくれるって言うから……」
「そんな何着も、本当にすみません」
「いえ、大したことでは」
ペイトンはひたすら苦笑いしている。
嫁ぎ先で娘が大切にされていたら相手に感謝しても、その娘を怒ることなんてある? とアデレードは文句を言いたくなった。
それとも白い結婚だから相手の家に負担をかけるのは拙いということだろうか。
(無理やり結婚決めたものね……)
フォアード侯爵にアデレードから手紙をだして直談判した上での婚姻だった。
乗り気だったのは、フォアード侯爵と自分だけだ。
両親からしたら、ペイトンは犠牲者だったりするのか。
いろいろ考えたら、ペイトンの初手の発言は致し方ない気がする。
(いや、でも、あれはないか)
もし今この場で初対面の出来事を暴露したらどうなるのか。
ペイトンは一気にアウェーに追い込まれるのではないか。
「アデレードがそんな型のドレスを着るなんて珍しいわね。バリバラ国の流行りなの?」
アデレードがよからぬことを考えていると向かいに座るセシリアが言った。
このドレスは、アデレードが断り続けていたらペイトンが勝手にオーダーした。
アデレードが最初に作ってもらった三着のうち、一番気に入っていたメイズのドレスと同じ形。
新調してくれたのは二着ともこの型だ。
今着ているのは淡い紫でもう一つは桃色。
一流デザイナーが作成しているので全部全く印象は違うが系統ははっきりわかる。
バリバラで流行っているわけではない。
ノイスタインにいた頃は一度も選ばなかったデザインだが、ずっと着たかったデザインでもある。
それを知られたら何故ノイスタインではこれまで着なかったのか訝しく思われる。
それは困る。
どう返答すべきかアデレードが悩んでいると、
「彼女に似合うので私が選びました」
ペイトンが代わりに答えた。
意外だった。てっきりデザイナーのグラディスが選んだと思っていた。
それとも、ただのリップサービスだろうか。
愛され妻契約は続行中だ。
ポイント換算してくれるジェームスは不在なので自己申告になる。後でその辺を詰めねばならない。
「凄く素敵だわ。この子、いつも地味なドレスばかり着るから」
「本当によく似合っているね」
生温かい空気がダイニングに充満する。
夫婦仲が良いことを家族にアピールするのは心配をかけたくないからだが、必要以上に勘違いされると非常に困る。
しかし、フォアード侯爵が過度に期待して誤解していると感じた時、ペイトンが放置したことにやきもきしたが、実際自分の親が嬉しそうにしていると「これは契約の範囲内です!」とは言い出せなかった。
(親不孝しているものね……まだ、あと五月あるし心配させるよりいいかな)
ペイトンも同じ心境だったのかも、と今更ながらアデレードは思った。
「ただいまー」
アデレードが学校帰りみたいに気安くダイニングへ入っていくと、着席していた全員が一斉に立ち上がった。
「やぁ、よく来てくれたね。アデレードの為に有難う」
父の挨拶に対して、
「え、いや、その、とんでもない。私の方こそ挨拶に伺うのが遅くなってしまい申し訳ありません。急な来訪にも関わらず宿の手配もして頂き恐縮です。改めまして、フォアード侯爵家のペイトンと申します。本日はお招きいただき有難うございます」
とペイトンが挙動不審気味に答えるので、アデレードは、自分がこの場を仕切らねば! と急に妙な使命感に駆られた。
「旦那様、父のエイダンと母のナタリア、姉夫妻でコリンズ侯爵家のエドワードとセシリア、兄夫婦のキースとディアナです」
それぞれ紹介に合わせて会釈を交わす。
屋敷での会食ではあるが全員きっちり正装をしているのでペイトンは歓迎されているとわかる。
「甥っ子達は?」
姉のセシリアには十三歳、兄のキースには六歳と四歳の息子がいる。
セシリアの息子のグレンとアデレードは五歳しか年が離れていないため、甥っ子というより弟という感覚に近い。
「うちの子は明日も朝から学校があるから、ディアナのところはもう寝る時間よ。皆会いたがっているわ。明後日うちでお茶会するの。予定がないなら顔見せにきなさいよ。もちろんペイトン様もご一緒に」
セシリアが最後はペイトンに向けて笑顔で答えた。
ディアナも、うんうん頷いている。
ディアナは元々セシリアの友人で、その縁でキースと結婚したため二人の仲はかなりいい。
予定があるかないか。卒業式に出席する以外何もない。
これは絶対参加のやつなのでは? とアデレードは隣のペイトンをちらっと見た。
「有難うございます。ご子息達にも是非お目にかかりたいので来訪させていただきます」
ペイトンは感じ良く返した。子供が好きなんて聞いたこともない。そんな会話自体したこともないが。というか、
(断れないわよね)
ただでさえペイトンはバルモア家の人間に強い負い目を感じている。
ここはやはり自分がペイトンを守らねば、とアデレードは思った。
「旦那様が用意してくれたお土産が沢山あるのよ。甥っ子達にもバリバラで流行りのボードゲームとかいろいろ。ダイニングに入りきらないから応接間に運んでもらっているわ」
とりあえずペイトンの株を上げようと試みたが、
「そんなことは先に言いなさい」
「え」
「入りきらないくらいって、貴女どんなに買って頂いたの。すみません、お気を遣わせたようで」
父に続き母が険しい表情でこちらを責めるので、アデレードは憮然となった。
「いや、そんな大したものでは……後ででも開封して頂ければ」
ペイトンが口を開くと、
「すまないね。では、食事が冷めるから後でゆっくり見せてもらうとしよう」
父が笑顔で返した。皆が席に着く。
全然納得いかないまま、ここで揉めるのもどうかと思いアデレードも従った。
「アディちゃんのドレス素敵ね。バリバラ産のシルク地じゃない?」
空気を変えるようディアナが発言する。
「そうなんです。旦那様が帰省のために二着も仕立ててくれたんですよ」
アデレードは、再びペイトンを立てねば! と答えるが、
「貴女、前にもドレスを仕立ててもらっていたわね」
またもや母が厳しい顔で尋ねてくる。
最初にドレスを三着作って貰った時、手紙に書いたことが脳裏に浮かんだ。
あの時は、実家からお礼の品が届いた。
「そうだけど、旦那様が作ってくれるって言うから……」
「そんな何着も、本当にすみません」
「いえ、大したことでは」
ペイトンはひたすら苦笑いしている。
嫁ぎ先で娘が大切にされていたら相手に感謝しても、その娘を怒ることなんてある? とアデレードは文句を言いたくなった。
それとも白い結婚だから相手の家に負担をかけるのは拙いということだろうか。
(無理やり結婚決めたものね……)
フォアード侯爵にアデレードから手紙をだして直談判した上での婚姻だった。
乗り気だったのは、フォアード侯爵と自分だけだ。
両親からしたら、ペイトンは犠牲者だったりするのか。
いろいろ考えたら、ペイトンの初手の発言は致し方ない気がする。
(いや、でも、あれはないか)
もし今この場で初対面の出来事を暴露したらどうなるのか。
ペイトンは一気にアウェーに追い込まれるのではないか。
「アデレードがそんな型のドレスを着るなんて珍しいわね。バリバラ国の流行りなの?」
アデレードがよからぬことを考えていると向かいに座るセシリアが言った。
このドレスは、アデレードが断り続けていたらペイトンが勝手にオーダーした。
アデレードが最初に作ってもらった三着のうち、一番気に入っていたメイズのドレスと同じ形。
新調してくれたのは二着ともこの型だ。
今着ているのは淡い紫でもう一つは桃色。
一流デザイナーが作成しているので全部全く印象は違うが系統ははっきりわかる。
バリバラで流行っているわけではない。
ノイスタインにいた頃は一度も選ばなかったデザインだが、ずっと着たかったデザインでもある。
それを知られたら何故ノイスタインではこれまで着なかったのか訝しく思われる。
それは困る。
どう返答すべきかアデレードが悩んでいると、
「彼女に似合うので私が選びました」
ペイトンが代わりに答えた。
意外だった。てっきりデザイナーのグラディスが選んだと思っていた。
それとも、ただのリップサービスだろうか。
愛され妻契約は続行中だ。
ポイント換算してくれるジェームスは不在なので自己申告になる。後でその辺を詰めねばならない。
「凄く素敵だわ。この子、いつも地味なドレスばかり着るから」
「本当によく似合っているね」
生温かい空気がダイニングに充満する。
夫婦仲が良いことを家族にアピールするのは心配をかけたくないからだが、必要以上に勘違いされると非常に困る。
しかし、フォアード侯爵が過度に期待して誤解していると感じた時、ペイトンが放置したことにやきもきしたが、実際自分の親が嬉しそうにしていると「これは契約の範囲内です!」とは言い出せなかった。
(親不孝しているものね……まだ、あと五月あるし心配させるよりいいかな)
ペイトンも同じ心境だったのかも、と今更ながらアデレードは思った。
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