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45-2 この佳き日に
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「アデレード様、お久しぶりです。ご結婚おめでとうございます。先日の夜会、旦那様とご一緒でしたよね。素敵でしたわ」
「本当に。お似合いでした」
教室に入るとあまり会話をしたことのない令嬢達に囲まれて、アデレードは辟易した。
こんなに掌返しされることがあるのか、と乾いた感情が溢れてくる。
あの夜会は半年に一度の大規模な催しだったため、参加者は多い。
誰が何をどう見たか、は不明だが、これまでの不敬な態度を改めねば不味いことは周知されているようだ。
ペシッと撥ねつけるのは簡単だけれど、アデレードは適当に愛想笑いで流すことにした。
過去を蒸し返してこのハレの日に泥を塗ることはしたくない、と思った。
「皆様着席してください」
わざと集合時間ぎりぎりに到着したから、ほどなく教師がやってきた。
階段状に机と椅子が設置されている教室。
席は早い者順で、アデレードは大概前から三番目の右端に座る。
本日も空いていたその席へ腰掛けた。
「本日はご卒業、誠におめでとうございます。皆様がこの学び舎で過ごした年月は、ただ知識を得るための時間ではありませんでした。互いに学び合い、助け合い、そして時に衝突しながら共に歩んだ日々が、皆様の中に確かな礎を築いたと信じています。これからは、それぞれの立場で、己の信じる道を進まれることでしょう。どうか胸を張って歩んでください。皆様の未来が、気高く、誇らしいものでありますように心から祝福します」
教師の挨拶に黙って聞き入る。
何の感慨も湧かない。寧ろ、ひたすらに虚しさが募った。
私は何も学んでないですけれど、と訴えたらどうなるんだろうか。八つ当たりじみた馬鹿げた考えがよぎる。
(まぁ、勉強は真面目にしたかな)
七月休学して卒業できるのは、それまでの積み重ねがあったからだ。
最低限の必修単位はすでに取り終えていた。
レイモンドが勉強する傍で自分だけ遊ぶのも気が引けて、取れる単位はどんどん取った。
一緒に頑張りたかったから。
尤も、レベルが違いすぎて途中から「一緒に」などとは言えなくなったけれど。
(でも、卒業の目処が立っていなかったら、流石にバリバラへは行かなかったかも)
正直、出席日数が足りていれば卒業はできる。
高位貴族の令嬢の多くは、その出席条件を満たして卒業する。
アデレードが、七月を残した時点で卒業資格を満たしていたのはレイモンドに並びたい執着の産物だった。
結果として、それが真逆な方へ導いたのだから皮肉な話だ。
「では卒業記章をお渡しします。受け取った方から講堂へ向かう準備をしてください」
教師が一人ずつ記章を配って回る。
百十六期生とわかる数字と学校の紋章が刻まれている。
卒業の証として、社交の場や進路において確かな効力を持つものだ。
渡された記章を制服の胸元に留めた途端、アデレードの背筋は自然と伸びた。
思い出があるわけでもないこの教室に、もう戻ることはない事実が、不思議と胸をつんと衝いた。
「本当に。お似合いでした」
教室に入るとあまり会話をしたことのない令嬢達に囲まれて、アデレードは辟易した。
こんなに掌返しされることがあるのか、と乾いた感情が溢れてくる。
あの夜会は半年に一度の大規模な催しだったため、参加者は多い。
誰が何をどう見たか、は不明だが、これまでの不敬な態度を改めねば不味いことは周知されているようだ。
ペシッと撥ねつけるのは簡単だけれど、アデレードは適当に愛想笑いで流すことにした。
過去を蒸し返してこのハレの日に泥を塗ることはしたくない、と思った。
「皆様着席してください」
わざと集合時間ぎりぎりに到着したから、ほどなく教師がやってきた。
階段状に机と椅子が設置されている教室。
席は早い者順で、アデレードは大概前から三番目の右端に座る。
本日も空いていたその席へ腰掛けた。
「本日はご卒業、誠におめでとうございます。皆様がこの学び舎で過ごした年月は、ただ知識を得るための時間ではありませんでした。互いに学び合い、助け合い、そして時に衝突しながら共に歩んだ日々が、皆様の中に確かな礎を築いたと信じています。これからは、それぞれの立場で、己の信じる道を進まれることでしょう。どうか胸を張って歩んでください。皆様の未来が、気高く、誇らしいものでありますように心から祝福します」
教師の挨拶に黙って聞き入る。
何の感慨も湧かない。寧ろ、ひたすらに虚しさが募った。
私は何も学んでないですけれど、と訴えたらどうなるんだろうか。八つ当たりじみた馬鹿げた考えがよぎる。
(まぁ、勉強は真面目にしたかな)
七月休学して卒業できるのは、それまでの積み重ねがあったからだ。
最低限の必修単位はすでに取り終えていた。
レイモンドが勉強する傍で自分だけ遊ぶのも気が引けて、取れる単位はどんどん取った。
一緒に頑張りたかったから。
尤も、レベルが違いすぎて途中から「一緒に」などとは言えなくなったけれど。
(でも、卒業の目処が立っていなかったら、流石にバリバラへは行かなかったかも)
正直、出席日数が足りていれば卒業はできる。
高位貴族の令嬢の多くは、その出席条件を満たして卒業する。
アデレードが、七月を残した時点で卒業資格を満たしていたのはレイモンドに並びたい執着の産物だった。
結果として、それが真逆な方へ導いたのだから皮肉な話だ。
「では卒業記章をお渡しします。受け取った方から講堂へ向かう準備をしてください」
教師が一人ずつ記章を配って回る。
百十六期生とわかる数字と学校の紋章が刻まれている。
卒業の証として、社交の場や進路において確かな効力を持つものだ。
渡された記章を制服の胸元に留めた途端、アデレードの背筋は自然と伸びた。
思い出があるわけでもないこの教室に、もう戻ることはない事実が、不思議と胸をつんと衝いた。
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