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そんな歪な二人だったが、いよいよ卒業も間近に迫り結婚が現実味を帯びてきた。
流石にこんな関係は終幕させるべき、とマリーウェザーも思案するようになった。
そこへ飛んで火に入る夏の虫のご登場である。
「あのパメラって男爵令嬢、前の学校で王太子にちょっかい出して、ここに転入してきたらしいわよ。こんな変な時期におかしいと思ったのよね」
レオナが告げれば、マリーウェザーは笑った。
「わたくしと友達になってくださるそうよ」
「アンタの友達はわたしぐらいしか務まらないから」
「わたくし、嘘吐きって本当に大嫌い」
マリーウェザーの強い言葉にレオナは嫌な予感しかしなかった。
案の定、マリーウェザーはパメラをユリウスに引き合わせ、
「友達なの。優しくしてあげてね。親切にして差し上げて」
とお願いしたのである。
なんでも言うことを聞くと約束したユリウスが逆らうわけはない。
社交界でユリウスとダンスする意気揚々なパメラを見ながら、
「馬鹿ね。騙されて」
とレオナは呆れて言った。
「レオナ、そんなことを言わないでちょうだい」
「あの女、どんどんユリウス様に近づいて行くわよ。ほら、つまずいた振りして寄りかかっちゃって。ユリウス様も断らないでしょうしね。貴方がそうしろと言ったんだもの。言質がある。本当に、貴方って、」
「レオナ、悪く言わないで。わたくしはユリウス様とパメラ様を信じているわ。わたくしを裏切ったりしない。大丈夫よ」
「何を期待しているのよ。もう、いい加減にしなさいよ」
「わかった。これで最後にするわ」
そうして件のサロンでの修羅場である。
あの場を離れて馬車に乗り込んだ後の二人の会話は、語るに忍びない。
ユリウスの泣きの一手で、
「婚約破棄は絶対にしない! どうして? 全部言うこと聞いていたじゃないか。どうしたらいいんだよ? 絶対に結婚はする! してくれないなら死ぬしかない。もう生きていけない。ねぇ、マリーちゃん、さっきの変な女のことなんて誰も信じてないよ? マリーちゃんに瑕疵なんかないんだから!」
完全に駄々っ子であった。
次期公爵家の当主であり、学園では生徒会に入り、成績優秀、スポーツ万能、婚約者を冷遇することのみが唯一の難点であるユリウスの実際は、マリーウェザーの一挙手一投足に生きる死ぬの大騒ぎなのである。
普段はある程度の矜恃を残して振る舞うユリウスの我を忘れた取り乱しように、流石のマリーウェザーも胸が詰まった。
「もしかして、ユリウス様は、わたくしを好いていらっしゃるの?」
マリーウェザーの静かな声にユリウスが口籠る。
「昔はありえないとおっしゃってらしたけれど」
二人の視線が重なる。
しんとした馬車内に緊張が走る。
マリーウェザーはユリウスの端正な顔が不安に揺れているのに鼓動が鳴った。
マリーウェザーは自分が適当に選ばれた婚約者であることも、ユリウスの性格も知っている。
だから、手にあったものが抜け落ちて不安になっているだけ、悪態をつき続ければそのうち我慢ならずに離れていくだろう、と思ってきた。
そして、別にそれで構わなかった。
本当に婚約破棄することになったとしても。最初のうちは。
「あ、愛しているんだ。もう抑えきれない」
ユリウスが拳を握り締め意を決した声でぼそぼそと告げる。
笑ってしまう。お前でいい、ではなかったか。
「……人の気持ちは変化しますものね」
柔らかな声にユリウスはマリーウェザーの顔を覗き込む。
婚約者など誰でもよくて、誰でもいいから、マリーウェザーを選んだ。
そして、それは確かに変化した。
「どうしても、君がいい」
ユリウスの震える声にマリーウェザーは笑顔を隠し通すことができなかった。
流石にこんな関係は終幕させるべき、とマリーウェザーも思案するようになった。
そこへ飛んで火に入る夏の虫のご登場である。
「あのパメラって男爵令嬢、前の学校で王太子にちょっかい出して、ここに転入してきたらしいわよ。こんな変な時期におかしいと思ったのよね」
レオナが告げれば、マリーウェザーは笑った。
「わたくしと友達になってくださるそうよ」
「アンタの友達はわたしぐらいしか務まらないから」
「わたくし、嘘吐きって本当に大嫌い」
マリーウェザーの強い言葉にレオナは嫌な予感しかしなかった。
案の定、マリーウェザーはパメラをユリウスに引き合わせ、
「友達なの。優しくしてあげてね。親切にして差し上げて」
とお願いしたのである。
なんでも言うことを聞くと約束したユリウスが逆らうわけはない。
社交界でユリウスとダンスする意気揚々なパメラを見ながら、
「馬鹿ね。騙されて」
とレオナは呆れて言った。
「レオナ、そんなことを言わないでちょうだい」
「あの女、どんどんユリウス様に近づいて行くわよ。ほら、つまずいた振りして寄りかかっちゃって。ユリウス様も断らないでしょうしね。貴方がそうしろと言ったんだもの。言質がある。本当に、貴方って、」
「レオナ、悪く言わないで。わたくしはユリウス様とパメラ様を信じているわ。わたくしを裏切ったりしない。大丈夫よ」
「何を期待しているのよ。もう、いい加減にしなさいよ」
「わかった。これで最後にするわ」
そうして件のサロンでの修羅場である。
あの場を離れて馬車に乗り込んだ後の二人の会話は、語るに忍びない。
ユリウスの泣きの一手で、
「婚約破棄は絶対にしない! どうして? 全部言うこと聞いていたじゃないか。どうしたらいいんだよ? 絶対に結婚はする! してくれないなら死ぬしかない。もう生きていけない。ねぇ、マリーちゃん、さっきの変な女のことなんて誰も信じてないよ? マリーちゃんに瑕疵なんかないんだから!」
完全に駄々っ子であった。
次期公爵家の当主であり、学園では生徒会に入り、成績優秀、スポーツ万能、婚約者を冷遇することのみが唯一の難点であるユリウスの実際は、マリーウェザーの一挙手一投足に生きる死ぬの大騒ぎなのである。
普段はある程度の矜恃を残して振る舞うユリウスの我を忘れた取り乱しように、流石のマリーウェザーも胸が詰まった。
「もしかして、ユリウス様は、わたくしを好いていらっしゃるの?」
マリーウェザーの静かな声にユリウスが口籠る。
「昔はありえないとおっしゃってらしたけれど」
二人の視線が重なる。
しんとした馬車内に緊張が走る。
マリーウェザーはユリウスの端正な顔が不安に揺れているのに鼓動が鳴った。
マリーウェザーは自分が適当に選ばれた婚約者であることも、ユリウスの性格も知っている。
だから、手にあったものが抜け落ちて不安になっているだけ、悪態をつき続ければそのうち我慢ならずに離れていくだろう、と思ってきた。
そして、別にそれで構わなかった。
本当に婚約破棄することになったとしても。最初のうちは。
「あ、愛しているんだ。もう抑えきれない」
ユリウスが拳を握り締め意を決した声でぼそぼそと告げる。
笑ってしまう。お前でいい、ではなかったか。
「……人の気持ちは変化しますものね」
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