託した想い

ねこまる

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託した想い 前編

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どこまでも続く川に人の想いが流れるようにいくつもの灯籠が流れて行く。
そんな幻想的な景色を背後に、赤い着物とサラットした長い黒髪の彼女はうっすらと寂しげに微笑んだ。
その手に持った赤い彼岸花が着物の色と相まってとても美しいと思ってしまった。

~~~~~~~~~


 残暑が残る中どこまでも暑さが続く道を僕は歩いていた。
今日は休日である。普段ならばこんな暑い日は部屋で静かに過ごしたいところなのだが、最悪な事にエアコンが壊れた。修理業者に電話したらここ最近立て込んでいるらしく夕方じゃないと来れないそうだ、皆さんのご家庭も大変らしい。

が……暑いものは暑い。この猛暑の中で半日とか死んでしまう。そう思い涼を求めに図書館に出掛けたのが、ついさっきの話。
「暑い……本当に暑い。」
 こうも暑いと言葉数が少なくなってしまう。とは言え一人で歩いているので独り言が多いのも気持ち悪いわけではあるのだが。
「たしかここの交差点を渡った先だったはず。」
 そんな他愛もない事を考えながら信号をまっていると隣の信号を誰かが渡ろうとしていた。
 信号と言うものは空白の時間がある。青信号が赤信号になったからと言って隣がすぐに青信号になるかと言えばそうではない。必ず4、5秒間の赤信号時間がある。その時間は事故が一番起こりやすいと言われている。そしてここにも誰だか知らないが信号が赤なのを気づいていなさそうで……
大丈夫なのか?

 見ると女の子が突っ込んできたトラックに衝突されそうになっていた。
「嘘だろおい!」
 目の前で人が轢かれるなんて絶対にいやだ。
そう思ったら身体が勝手に動いていた。全速力で走って今にも轢かれそうな女性を突き飛ばした。彼女は勢いでガードレールにぶつかり僕は受け身もなくトラックに跳ね飛ばされた。


 目が覚めると広い草原に居た。空は暗くそこには大きな月が光輝いていた。
 しかしその月の大きさがその場所を現実ではないと物語っているようだった。
少し歩くと目の前には大きな川が流れていた。川の向こう岸は暗闇で閉ざされており、対岸が全くわからなくなっていた。
「やっぱり三途の川なのかな……」
さっきまでは確かに現実世界にいた、あのトラックに轢かれるまでは……
 ふと横を見ると赤い橋が架かかっていた。大きくて立派なアーチ橋だ、そして橋の先には城ではないかと思わんばかりの大きな屋敷のような建物があった。まるで某宮崎さんのお湯やみたいだ。
渡って良いものかと少し考えたが、他に道も無いので建物なら誰かいるだろう程度の感覚で進むことにした。
 入り口はこれまた立派だった。大きな引き戸、それこそ温泉旅館等のような和風の立派な見た目だった。扉の前はとても静かでガラガラと音を立てて開けた玄関口には当然のように誰もおらず、両側に置いてある行灯の明かりがゆらゆら揺れるだけだった。
 勝手に上がるのも気が引けるしどうしたものかと悩んでいると奥の方で人影が見えた。
「あの、すみません。」
 その人影に気づいて貰えるよう声を掛けるとその人影はこっちに来て
「あっ………」
と少し驚いたような表情をしたあと
「はじめまして。ここはあの世とこの世の狭間の地点、ここからは私が案内致します。」
と言われた。
出てきたのは僕より同じ位か少し年上位の若い女性だった。
 赤い牡丹の着物を着ていて、顔は控えめに言っても美人に入るだろう。髪は背中まである長い黒髪、瞳は行灯の光を映しているのか朱色のように見える。頭には着物と同じく牡丹の髪飾りと狐面を着けていて、とても綺麗な人だった。
 ただ表情がなぜかとても固いような気がする。クール系の人なんだろうか。


 彼女の後ろについて建物を進むこと数分後、一つの部屋に通された。そこは部屋の中央に机が一つ置いてあり、そのとなりに姿見が置いてあるだけの殺風景な部屋だった。
「これからあなたの黄泉渡し時間をしらべますね。黄泉渡し時間と言うのは、あの世とこの世のであるこの世界にどれだけ留まって居られるかの時間です。分かりやすく言えば滞在時間ですね。」
「あーなるほどね、でもどうしようか。この部屋なにもないけど。」
「そこの姿見の前に立ってもらえますか?」
「分かった」
 言われた通りに鏡の前にたった。死んだ後に鏡の前に立つと不思議な気分になる。よく幽霊は足がない姿を書かれることが多いが、実際には足もあるし物にも触れる粉とが出来る。まるでまだ生きているかのようだった。
 そんなことを考えていると鏡に映った机の上にどこからともなく封筒が出てきた。
「はい、もういいですよ。これがあなたの黄泉渡し時間が書かれた封筒です。どうぞご自分でお確かめ下さい。」
 そう言って茶封筒を渡された。死後の世界でもこういうのはアナログなんだろうか。
そんなことを考えながら中の紙を読んだ。

「○月×日
トラックとの衝突により離魂
黄泉渡し時間・・・□□□□時間」

 あれ?何か文字化け?時間が書いてないぞ。
「すいません、時間が分からないんですけど、ミスとかですかね。」
「そんなことは……あぁ、なるほど。」
 彼女は困った様な顔をしていたが手紙を読むとすぐにもとに戻った。なんと言うか感情が少ないと言うか、何を考えているか読めない人だな。
「手紙の内容ですが、とても言いづらいのだけどあなたは死んでないようです。なのでどれ位の時間かはわかりませんがあなたは現世に帰る時期が必ず訪れます。なのでその時までゆっくりしていって下さい。」
「え?」
 彼女から衝撃の事実を聞かされた。僕は生きてるの、じゃあ何でここにいるの、あれ?
「そう言う反応になりますよね。ごめんなさい、話を省略しすぎてしましましたね。」
 そう言って彼女は僕の現状について、この場所について説明してくれた。
 ここは生死の境の世界で生前の人が死後の世界に行く前の休憩場らしい。
ここに来る人は基本的に寿命を全うに生きた人や、 病気や事件などの自分の意思とは関係なく死んでしまった人だそうだ。
 けれども僕みたいに交通事故等の一時的なショックでここに来る人がたまにいるらしい。

「では、部屋へ案内しますので、ゆっくりして行って下さいね。」
「ちょっとまって。お姉さんはここで働いてる人?」
「いいえ、私は……ここである目的の為にお手伝いをしているだけですよ。元々はあなたと同じ死人です。」
「じゃあ僕もお手伝いしていいかな。」
「あなたもですか?」
「いや、生きてるって分かったのは嬉しいんだけど特にやることもないし、いつ戻れるかも分からないんだったらここで働いた方がいいかなと思ってさ。」
「……まあ人手は多い方が良いですし、あなたがいいのならそうして頂こうかしら。」
「宜しくお願いします。」
「こちらも宜しくお願いします。」
 そう言う彼女の顔が少しだけ笑ったような気がした。
こうして狭間世界?の旅館仕事が始まった。

 次の日から旅館仕事が始まった。
 最初は掃除から教えてもらった、たかが掃除と思うことなかれ、何せこの大きな旅館の廊下や窓を掃除するとなればとても一苦労だ。
 他にも布団干しや風呂掃除、料理運び等々。 ちなみにここは食堂があるので客間一部屋づつ回ることは必要ないという話はどうでもいいか。
 でも彼女の教え方が上手で丁寧に教えてくれたお陰で何とかこなしていくことができた。


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